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アウェイ感
「透……昨夜はお楽しみでしたね……?」
「変な言い方しないでくれる!? 普通にイタリアン食べてただけだから!」
翌朝。世田谷ダンジョンの広場で待ち合わせた透は、開口一番にニヤニヤしながらそう言ってきた。
ひよりは顔を赤くしながらも、それを適当にいなす。
「なぁ、ひよりん。毎回こうして待ち合わせするのもいいけど、そろそろ拠点は持たないのかい? 私たち、もう学生の放課後活動ってレベルじゃないだろ」
「まあ、稼ぎもあるしそれもいいんだけどさ。なんだかんだ踏ん切りがつかなくて」
「お互い実家も世田谷だしね。でも、個人的には神楽坂に拠点を持ちたいと思ってるよ」
透の提案に、ひよりは「なんで?」と首を傾げた。
「まず、経験値効率的にライバルがいない。メンテナンス用のショップも近い。それに、さらに上を目指すならいずれ新宿ダンジョンも避けては通れないだろう? それなら神楽坂がベストなんだ。……あとはまぁ、単純に私があの街と探索者たちを気に入ったんだよ」
「……その気持ちは、わかるよ」
「それに、ひよりんにとっては妃那嬢と近くなるのが一番のメリットかな?」
「また透は!」
そんな風にじゃれ合いながら、二人は世田谷ギルドの重厚な扉を潜った。
引退以来の世田谷帰還となる透にとっては、少しばかり感慨深い光景のはずだった。
受付には、妃那の姉である那奈の姿が見えた。
「三上くん! 聞いたよ! 昨日は妹がありがとうございました。あの子、帰ってきてからずっと上機嫌で通話してきたんだよ」
「いえいえ! こちらこそ、楽しかったので。……また、ご一緒したいです」
「あら、じゃあ私とはいつ行ってくれるのかな?」
那奈のからかうような視線に「あはは……」とひよりが困っていると、周囲の空気がじわじわと刺々しいものに変わっていくのが分かった。
「……おい、三上だぞ」
「神楽坂で12層を攻略したとかいうデマ流してる奴だろ?」
「ジョブもわけ分かんないし、スキルも物騒だって噂だぜ。……後ろのイケメンは誰だ? また新しいチンピラか?」
ひよりが進むたびに、心ない陰口が飛ぶ。
神楽坂での英雄扱いに比べたら、ここはあまりに「アウェイ」だった。
「ひよりん、わかってはいたが、ここがホームなのにだいぶ舐められてるね」
透が苦笑いしながら、耳打ちする。
「次に来る時、サプライズしようか。……きっと、面白いことになるよ」
「なになに! サプライズで喜ばせるのはいいことだよね! 次はそれをしよう!」
ひよりは「みんなを驚かせて喜ばせよう」と純粋に目を輝かせたが、透の口元には、冷酷なまでに鋭い笑みが浮かんでいた。
たとえ自分の職業が何であれ、自分のボスがコケにされている。
冷静な透の内心は、静かな怒りで燃え上がっていた。
受付の西川さんも心配そうな顔をしていた。
「大丈夫ですよ西川さん、じゃあ行ってきます!」
「気をつけてね、三上くん! 無事に戻るんだよ!」
妹の妃那と同じ、温かいエールを背中に受けて、ひよりはゲートへと歩き出す。
.........
「……三上さん!」
呼び止められて振り返ると、そこには『アフターグロウ』の遥たちが立っていた。
「遥さん。あ……」
「あれからなかなかお会いできなくて……。あの方は、お元気ですか?」
遥の視線に込められた熱量に、ひよりはすべてを察した。
「あ、ちょっと待ってて! ――涼、直接お礼は言えてなかったよね。行こう」
ひよりが人気のない場所へ移動し、影から涼を呼び出す。
実体化した涼を伴って、ひよりは再び遥の前へ立った。
「その節は……素敵なものをいただき、ありがとうございました」
涼が静かに一礼すると、遥は顔を上気させ、ぶんぶんと首を振った。
「そんな、こちらが命を助けていただいたんですから! ……あの、気に入って、くれましたか?」
「はい。とても気に入っております」
「……涼さん。私、ずっと、お会いしたかったです」
「……それは……申し訳ありません」
「謝らないでください! またゆっくりお話ししたいです。……だめ、ですか?」
涼にぐいぐいと迫る遥を見て、ひよりは隣の涼に優しく声をかけた。
「涼、どうしたい? 俺のことはいいから、涼のしたいことをして」
「……。はい、ボス。……遥さん、またお会いしたいので、よろしくお願いします」
「ぜひ! お願いします!」
遥は涼の手を握りしめ、少女のように喜んだ。
「副官もやるじゃん」
透が茶化すと、ひよりは真剣な顔で返した。
「遥さんはいいんだよ。あの時、彼女は体を張って命を守ったんだ。茶化せないよ。……応援してやろう」
.........
世田谷ダンジョン、深部。
ひより、涼、透、フウ、ライ。そして、55名の構成員たち。
総勢60名という、かつてない規模の軍団が闇の中に整列していた。
「前と同じで、俺、透、涼、フウ&ライの4チームに分かれる。探索より攻略重視。9層のフロアで集合だ。……じゃあ、行こう」
ひよりの号令とともに、55名の黒スーツの影たちが、一斉に散開する。 世田谷の住民たちが、まだ「落ちこぼれの天使」と嘲笑っている間に――。
圧倒的な「暴力の軍団」による、世田谷蹂躙が始まった。
「変な言い方しないでくれる!? 普通にイタリアン食べてただけだから!」
翌朝。世田谷ダンジョンの広場で待ち合わせた透は、開口一番にニヤニヤしながらそう言ってきた。
ひよりは顔を赤くしながらも、それを適当にいなす。
「なぁ、ひよりん。毎回こうして待ち合わせするのもいいけど、そろそろ拠点は持たないのかい? 私たち、もう学生の放課後活動ってレベルじゃないだろ」
「まあ、稼ぎもあるしそれもいいんだけどさ。なんだかんだ踏ん切りがつかなくて」
「お互い実家も世田谷だしね。でも、個人的には神楽坂に拠点を持ちたいと思ってるよ」
透の提案に、ひよりは「なんで?」と首を傾げた。
「まず、経験値効率的にライバルがいない。メンテナンス用のショップも近い。それに、さらに上を目指すならいずれ新宿ダンジョンも避けては通れないだろう? それなら神楽坂がベストなんだ。……あとはまぁ、単純に私があの街と探索者たちを気に入ったんだよ」
「……その気持ちは、わかるよ」
「それに、ひよりんにとっては妃那嬢と近くなるのが一番のメリットかな?」
「また透は!」
そんな風にじゃれ合いながら、二人は世田谷ギルドの重厚な扉を潜った。
引退以来の世田谷帰還となる透にとっては、少しばかり感慨深い光景のはずだった。
受付には、妃那の姉である那奈の姿が見えた。
「三上くん! 聞いたよ! 昨日は妹がありがとうございました。あの子、帰ってきてからずっと上機嫌で通話してきたんだよ」
「いえいえ! こちらこそ、楽しかったので。……また、ご一緒したいです」
「あら、じゃあ私とはいつ行ってくれるのかな?」
那奈のからかうような視線に「あはは……」とひよりが困っていると、周囲の空気がじわじわと刺々しいものに変わっていくのが分かった。
「……おい、三上だぞ」
「神楽坂で12層を攻略したとかいうデマ流してる奴だろ?」
「ジョブもわけ分かんないし、スキルも物騒だって噂だぜ。……後ろのイケメンは誰だ? また新しいチンピラか?」
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神楽坂での英雄扱いに比べたら、ここはあまりに「アウェイ」だった。
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透が苦笑いしながら、耳打ちする。
「次に来る時、サプライズしようか。……きっと、面白いことになるよ」
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ひよりは「みんなを驚かせて喜ばせよう」と純粋に目を輝かせたが、透の口元には、冷酷なまでに鋭い笑みが浮かんでいた。
たとえ自分の職業が何であれ、自分のボスがコケにされている。
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「大丈夫ですよ西川さん、じゃあ行ってきます!」
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.........
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呼び止められて振り返ると、そこには『アフターグロウ』の遥たちが立っていた。
「遥さん。あ……」
「あれからなかなかお会いできなくて……。あの方は、お元気ですか?」
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「あ、ちょっと待ってて! ――涼、直接お礼は言えてなかったよね。行こう」
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実体化した涼を伴って、ひよりは再び遥の前へ立った。
「その節は……素敵なものをいただき、ありがとうございました」
涼が静かに一礼すると、遥は顔を上気させ、ぶんぶんと首を振った。
「そんな、こちらが命を助けていただいたんですから! ……あの、気に入って、くれましたか?」
「はい。とても気に入っております」
「……涼さん。私、ずっと、お会いしたかったです」
「……それは……申し訳ありません」
「謝らないでください! またゆっくりお話ししたいです。……だめ、ですか?」
涼にぐいぐいと迫る遥を見て、ひよりは隣の涼に優しく声をかけた。
「涼、どうしたい? 俺のことはいいから、涼のしたいことをして」
「……。はい、ボス。……遥さん、またお会いしたいので、よろしくお願いします」
「ぜひ! お願いします!」
遥は涼の手を握りしめ、少女のように喜んだ。
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透が茶化すと、ひよりは真剣な顔で返した。
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.........
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