【悲報】現代ダンジョン時代、俺の職業がLv.1チンピラ【詰み】

道雪ちゃん

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三上家の団欒、そして新たな一歩

ダンジョンの喧騒を離れ、ひよりは世田谷区内にある自宅へと帰宅した。

玄関の扉を開けた瞬間、鼻をくすぐったのは醤油と出汁の香ばしい匂い。それと同時に、ドタドタと元気な足音が廊下に響き渡る。

「あ、ひよちゃんお帰り! 12層突破おめでとう! 公式ホームページ見たよ!」

飛び出してきたのは、中学2年生の妹、小春だ。

陸上部仕込みの素早い動きでひよりの目の前に着地すると、スマホの画面を突きつけてくる。

そこには、さっきまでひよりがいた世田谷支所のリーダーボードの画像が踊っていた。

「ただいま、小春。……あはは、もう見たの? 耳が早いなあ」 

「当たり前でしょ! 私、ひよちゃんの家族なんだからね! もう、今日部活中も気になってしょうがなかったんだから!」

鼻息を荒くする妹の頭を、ひよりは苦笑いしながら優しく撫でた。

外では「軍団の長」の彼も、ここではただの「優しい兄」だ。

リビングに入ると、キッチンでは母の華世(かよ)が鼻歌交じりに鍋を振っており、ソファでは父の慶一郎が経済新聞を広げていた。

「お帰りなさい、ひより。探索お疲れ様」

華世が振り返ってふわりと微笑む。

ひよりが席に着くと、慶一郎は新聞を少し下げ、眼をひよりに向けた。

「……ひより、会社で聞いたんだがな、世田谷の12層といえばトップの不動剣陣ですら手を焼いた場所だと聞いている。怪我はないか?」 

「うん、父さん。仲間たちが優秀だからね。掠り傷一つ負わなかったよ」 

「そうか。……ならよかった」

慶一郎はそう短く答えると、再び新聞に目を落とした。

厳格な顔を崩さないが、その耳が少しだけ赤くなっているのをひよりは見逃さなかった。彼なりの安堵のサインだ。

やがて食卓には、華世特製の肉じゃがと焼き魚という夕食が並んだ。

家族水入らずの穏やかな時間。だが、ひよりには今日、どうしても伝えておかなければならないことがあった。

「……あのさ。父さん、母さん、小春」

ひよりが箸を置くと、家族の視線が一斉に集まる。

「俺、神楽坂の近くに、探索者の拠点を作ろうと思ってるんだ。仲間も増えたし、組織として本格的に活動するために、そこに引っ越そうかと考えてて」

静寂が食卓を包んだ。最初に口を開いたのは、やはり小春だった。

「えーっ! ひよちゃんいなくなっちゃうの!? 寂しいよ! 私、誰に部活後のマッサージ頼めばいいの! ひよちゃんの手、柔らかくて気持ちいいのに!」 

「あはは、ごめんね小春。でも、週末にはちゃんと帰ってくるし、マッサージもその時にしてあげるから」

「拠点……。つまり、家を出るということか?」 

慶一郎の問いは重かった。ひよりは真っ直ぐに父を見つめ、頷く。

「一人暮らしっていうか、パーティの透や、涼……それに俺を慕って集まってくれた配下のみんなと一緒に住めるような、ギルドハウスみたいなものを作りたいんだ。組織の管理も、そこで一括してやりたいしね」

「あらあら、ひよりがもう自立だなんて。……でも、拠点は大事よね。お友達の凛さんも遊びに行けるような、清潔で素敵なお家にしなさいね。あ、そうだわ。引っ越し祝いに、私が去年漬けた梅干しを持っていって!」 

華世のふわふわとした全肯定の応援に場が少し和む。

だが、慶一郎はまだ、納得しきれないような、あるいは何かを堪えているような複雑な表情を浮かべていた。

「……ひより。お前が『男』として、一人の探索者として責任を持って活動したいと言うなら、俺は止めん。……だが、世間ではまだ、お前のことを『チンピラ』だの何だのと心ない言葉で呼ぶ連中もいると聞く。そんな泥臭い場所で、お前一人が矢面に立ち、悪意に晒されるのは……父親として、見ていられん」

慶一郎の声は僅かに震えていた。

彼にとってひよりは、どれだけ強くなろうとも、守らねばならない可愛い息子なのだ。

「父さん、大丈夫だよ」 

ひよりは椅子を立ち、慶一郎の横に移動すると、その大きな手をそっと両手で包み込んだ。

「俺のジョブは、もう『チンピラ』じゃないんだ。今は『幹部構成員』。俺を信じてくれる仲間はたくさんいるし、透や涼を合わせればもっといるんだよ。俺を馬鹿にする連中なんて、もう気にならない。彼らの無知を笑えるくらい、俺はもう強くなったから」

ひよりは、あえて「美少女」と間違われるような微笑みではなく、不敵で、しかし頼もしい「男」の笑みを浮かべてみせた。

「俺には、帰ってくるこの場所と、新しく守らなきゃいけない場所がある。だから、負けないよ。父さんたちの息子なんだから」

その凛とした表情に、慶一郎は一瞬息を呑んだ。

目の前にいる息子は、組織を統率し、荒れ狂うダンジョンの荒波を乗り越えてきた「軍団の長」としての風格が、確かに備わっていた。

「……わかった。三上家の男として、精進しろ。……だが、どうしても辛くなったら、いつでもこの家に戻ってこい。母さんと小春が心配するから、連絡だけは欠かすな。いいな」

「うん! ありがとう、父さん!」

「やったぁ! 私もその拠点に泊まりに行っていい!?」 

「あはは、小春が来るなら賑やかになりそうだね。歓迎するよ」

「楽しみねぇ。じゃあ、明日は色々と準備が始まる前に、みんなで美味しいものを食べに行きましょう!パパ、奮発してくださいね?」 

「……ああ、わかった。予約を入れておこう」

慶一郎は不器用な手つきでひよりの肩を一度だけ強く叩き、照れ隠しのように残りの味噌汁を飲み干した。

窓の外では、夏の夜風が静かに吹き抜けている。 

世田谷のアンチたちがどれだけ騒ごうとも、佐藤という主任がどれだけ悪意をばら撒こうとも。 

ここには、ひよりを「ひより」として愛する家族がいる。

その絆という名の最強のバフを背負い、三上ひよりは、新たな拠点を手に入れる。
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