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幻惑の花園
転移石の眩い光が収まると、ひよりたちは10層のエントランスフロアに到着した。
「みんな、おいで」
ひよりが呟くと、100名の影の軍団が音もなく現れる。
その中心には、静かに闘志を燃やすフウとライが控えていた。
「みんな、準備はいい? 一人の欠員も出さないように気をつけよう。……よし、行こうか」
10層から12層は、鉄の武器であるツインタクティカルトンファーと魔銃であるショットガンをこれでもかとドヤ顔をしながら活躍した鉄のおかげ(?)で、すんなり攻略できた。
………
12層の階段を下り、重厚な石の扉を開いた瞬間、ひよりたちの視界を覆ったのは暴力的なまでの「色彩」だった。
そこは、天井から巨大な食肉植物が血管のようにのたうち回り、地面には踏む場所もないほどに極彩色の花々が咲き乱れる、異様な温室空間だった。
「ひよりん、気をつけて。空気が淀んでる。普通じゃないよ」
透の警告通り、通路の両脇からは、人の頭ほどもある大きな蕾が鎌首をもたげ、音もなくこちらを窺っている。
ひよりたちが歩を進めると、一斉にその蕾が開き、中から鋭い棘を飛ばしてきた。
「鉄、お願い!」
「任せてくださいっす! ボスは俺が守る!」
鉄がツイン・タクティカル・トンファーをクロスさせ、飛来する棘を火花と共に弾き飛ばす。
本体である蕾は涼が瞬時に反応し、愛刀で一刀両断に伏せた。
通路の奥からは、蔦と花弁を全身に纏った『妖花兵(アルラウネ)』の群れが、泥を啜るような音を立てて這い寄ってくる。
それらは言葉を解さず、ただ獲物を捕食せんとする本能だけで、長く鋭い鞭のような蔓を振るい始めた。
「フウくん、露払いをお願い。影のみんなも、囲まれないように動いて」
ひよりの指示に従い、フウが縦横無尽に動き回り、敵陣を切り裂く。
それに続く100名の影の軍団が機能的に広がり、敵の波を確実に押し返していく。
しかし、進めば進むほど、空気は甘く、不気味な芳香に満たされていった。
「……霧が出てきたね。ひよりん、これ、ただの霧じゃない。精神を侵食する毒素が含まれてる」
透がタブレットを操作しながら険しい表情を浮かべる。視界はいつの間にか、薄桃色の濃い霧に包まれていた。
やがて通路の突き当たり、一際巨大な天蓋の下に、それは鎮座していた。
【捕食花妃(マニック・ヴィーナス)】
女性の形を模した花の化身。
だがそこに知性はなく、あるのはただ、見る者を誘惑し、捕食するための擬態。
花妃は言葉を介さぬ代わりに、震えるような高い音を空気に響かせ、さらに濃密な桃色の霧を部屋中に充満させた。
「……あ」
ひよりの視界が急速に歪む。
気がつくと、ひよりは神楽坂の自宅リビングで、鉄や涼、透たちと囲む平和な食卓に座っていた。
ダンジョンも、血の匂いも、ボスとしての重圧もない。
透が笑い、鉄が今日あったことを楽しそうに話している。
「もう、戦わなくていいんだよ」という甘い囁きが、脳の奥に直接響く。
(……ああ、そうか。俺、もう帰ってきたんだ……)
力が抜け、視界が滲む。このまま目を閉じれば、どれほど楽だろうか。
だが、その安寧の影から、妃那の透き通った声が聞こえた気がした。
『ひよりさん、気をつけて』
カウンター越しに触れた、あの小さくて温かい手の感触。そして、背後で自分を信じて戦っている家族たちの気配。
「……ありがとう、妃那さん」
次の瞬間、ひよりの全身から凄まじい「覇気」が放たれた。
レベル61の暴力的なまでの魔素の奔流。
物理的な衝撃波となった覇気が、部屋を埋め尽くしていた桃色の霧を、一瞬で消し飛ばした。
「ギィィィィッ!!」
、獲物を逃した花妃が不気味な絶叫を上げ、またもや霧を出す。
だがひよりの瞳には、既に迷いはなかった。
「フウくん、暴風で周囲の霧を散らし続けて! 涼、鉄、一気に距離を詰めるよ!」
「応! 俺の初陣、こんな花野郎に邪魔させないっすよ!」
フウが、最大出力の暴風を放つ。
吹き荒れる竜巻が霧を強引に吹き飛ばし、視界をクリアに保つ。
その隙を突き、涼の鋭い抜刀で触手を断ち切り、鉄のトンファーが次々とへし折っていった。
逃げ場を失い、身を震わせる花妃。ひよりは腰に差した愛刀、【名刀:鬼灯【焔】】の柄に指をかけた。
ボスとしての重み、105名の命。それら全てを刃に乗せる。
「……仕上げだよ。【散華ノ太刀】」
抜刀と共に、激しい紅蓮の炎が温室を焼き尽くす。
【焔】が放つ火属性の波動と、防御を無視する必殺の刃が、花妃の核へと正確に突き刺さった。
華のような鮮血が舞い踊る中、ボスの断末魔が天蓋まで響き、そして静かに消えた。
巨大な化身は一瞬で崩れ、膨大な魔素の粒子へと還っていく。
静寂が戻った温室。
ひよりはゆっくりと刀を鞘に収め、荒い息をつく直参たちの顔を覗き込んだ。
「……みんな、大丈夫? 怪我はない?」
ひよりは一人一人の目を見つめ、いつもの、神楽坂の陽だまりのような優しい微笑みを浮かべた。
レベル61、直参5名、幹部10名、構成員90名。
誰一人欠けることなく、未知の13層を完封してみせたのだ。
「ボス……! 俺、一生ボスについていくっすよ! 夢の中でまで俺を助けてくれたんですよ!」
鉄が興奮気味に鼻を啜りながら、トンファーをガチンと打ち鳴らした。
ひよりは「そんなことあったんだ」と照れくさそうに笑いながら、その金髪を撫でた。
「さあ、地上に帰ろう。妃那さんが心配してるし、さっさと行こう!」
ひより組の足跡が、また一つ、神楽坂の歴史に深く刻まれた日になった。
「みんな、おいで」
ひよりが呟くと、100名の影の軍団が音もなく現れる。
その中心には、静かに闘志を燃やすフウとライが控えていた。
「みんな、準備はいい? 一人の欠員も出さないように気をつけよう。……よし、行こうか」
10層から12層は、鉄の武器であるツインタクティカルトンファーと魔銃であるショットガンをこれでもかとドヤ顔をしながら活躍した鉄のおかげ(?)で、すんなり攻略できた。
………
12層の階段を下り、重厚な石の扉を開いた瞬間、ひよりたちの視界を覆ったのは暴力的なまでの「色彩」だった。
そこは、天井から巨大な食肉植物が血管のようにのたうち回り、地面には踏む場所もないほどに極彩色の花々が咲き乱れる、異様な温室空間だった。
「ひよりん、気をつけて。空気が淀んでる。普通じゃないよ」
透の警告通り、通路の両脇からは、人の頭ほどもある大きな蕾が鎌首をもたげ、音もなくこちらを窺っている。
ひよりたちが歩を進めると、一斉にその蕾が開き、中から鋭い棘を飛ばしてきた。
「鉄、お願い!」
「任せてくださいっす! ボスは俺が守る!」
鉄がツイン・タクティカル・トンファーをクロスさせ、飛来する棘を火花と共に弾き飛ばす。
本体である蕾は涼が瞬時に反応し、愛刀で一刀両断に伏せた。
通路の奥からは、蔦と花弁を全身に纏った『妖花兵(アルラウネ)』の群れが、泥を啜るような音を立てて這い寄ってくる。
それらは言葉を解さず、ただ獲物を捕食せんとする本能だけで、長く鋭い鞭のような蔓を振るい始めた。
「フウくん、露払いをお願い。影のみんなも、囲まれないように動いて」
ひよりの指示に従い、フウが縦横無尽に動き回り、敵陣を切り裂く。
それに続く100名の影の軍団が機能的に広がり、敵の波を確実に押し返していく。
しかし、進めば進むほど、空気は甘く、不気味な芳香に満たされていった。
「……霧が出てきたね。ひよりん、これ、ただの霧じゃない。精神を侵食する毒素が含まれてる」
透がタブレットを操作しながら険しい表情を浮かべる。視界はいつの間にか、薄桃色の濃い霧に包まれていた。
やがて通路の突き当たり、一際巨大な天蓋の下に、それは鎮座していた。
【捕食花妃(マニック・ヴィーナス)】
女性の形を模した花の化身。
だがそこに知性はなく、あるのはただ、見る者を誘惑し、捕食するための擬態。
花妃は言葉を介さぬ代わりに、震えるような高い音を空気に響かせ、さらに濃密な桃色の霧を部屋中に充満させた。
「……あ」
ひよりの視界が急速に歪む。
気がつくと、ひよりは神楽坂の自宅リビングで、鉄や涼、透たちと囲む平和な食卓に座っていた。
ダンジョンも、血の匂いも、ボスとしての重圧もない。
透が笑い、鉄が今日あったことを楽しそうに話している。
「もう、戦わなくていいんだよ」という甘い囁きが、脳の奥に直接響く。
(……ああ、そうか。俺、もう帰ってきたんだ……)
力が抜け、視界が滲む。このまま目を閉じれば、どれほど楽だろうか。
だが、その安寧の影から、妃那の透き通った声が聞こえた気がした。
『ひよりさん、気をつけて』
カウンター越しに触れた、あの小さくて温かい手の感触。そして、背後で自分を信じて戦っている家族たちの気配。
「……ありがとう、妃那さん」
次の瞬間、ひよりの全身から凄まじい「覇気」が放たれた。
レベル61の暴力的なまでの魔素の奔流。
物理的な衝撃波となった覇気が、部屋を埋め尽くしていた桃色の霧を、一瞬で消し飛ばした。
「ギィィィィッ!!」
、獲物を逃した花妃が不気味な絶叫を上げ、またもや霧を出す。
だがひよりの瞳には、既に迷いはなかった。
「フウくん、暴風で周囲の霧を散らし続けて! 涼、鉄、一気に距離を詰めるよ!」
「応! 俺の初陣、こんな花野郎に邪魔させないっすよ!」
フウが、最大出力の暴風を放つ。
吹き荒れる竜巻が霧を強引に吹き飛ばし、視界をクリアに保つ。
その隙を突き、涼の鋭い抜刀で触手を断ち切り、鉄のトンファーが次々とへし折っていった。
逃げ場を失い、身を震わせる花妃。ひよりは腰に差した愛刀、【名刀:鬼灯【焔】】の柄に指をかけた。
ボスとしての重み、105名の命。それら全てを刃に乗せる。
「……仕上げだよ。【散華ノ太刀】」
抜刀と共に、激しい紅蓮の炎が温室を焼き尽くす。
【焔】が放つ火属性の波動と、防御を無視する必殺の刃が、花妃の核へと正確に突き刺さった。
華のような鮮血が舞い踊る中、ボスの断末魔が天蓋まで響き、そして静かに消えた。
巨大な化身は一瞬で崩れ、膨大な魔素の粒子へと還っていく。
静寂が戻った温室。
ひよりはゆっくりと刀を鞘に収め、荒い息をつく直参たちの顔を覗き込んだ。
「……みんな、大丈夫? 怪我はない?」
ひよりは一人一人の目を見つめ、いつもの、神楽坂の陽だまりのような優しい微笑みを浮かべた。
レベル61、直参5名、幹部10名、構成員90名。
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鉄が興奮気味に鼻を啜りながら、トンファーをガチンと打ち鳴らした。
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