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カタイ コオリノ オンナキシ
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あれから1週間ほどたったある日、王都が取り戻した平穏はたった一人の行動によってもう一度手放すことになった
「いい加減にしろ!何度言えば分かる!
お前も王女殿下も悪い夢や幻術を見せられていたんだ!そんな人間は存在しない!」
「だからケーはいるつってんのに幻想もクソもあるか!
わからねぇのはオメェだろうがこの石アタマ!」
「ならなぜその者を無理矢理にでも連れて来ない!
この場に居ないのが何よりも証拠だろ!呑んだくれの言うことなど信用に値するか!」
「いなけりゃ今頃王女さんもろとも死んでんだよ!」
「副隊長!乱暴はダメです!」
「落ち着いてください!」
「止めるんだザック!」
「離せゴラァ!」
「ガハッ」「グハッ!?」「ゲヴォッ…!」
「かえせ!」
「『絶対氷盾』」
フィーラとザックの間に現れた厚い氷壁がザックとの大事なものを引き離す
「おい!このっ!」
ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!
「こんな物は私が処分する」
「おいやめろ!返せって!」
第四中隊長フィーラ・アーデルハイトの固有スキル『絶対氷盾』
一定時間、任意のサイズの絶対に壊れない氷の盾を設置する。
サイズ大きくなるほど使用可能時間は減少し、低確率で相手の武器や身体に対するバインド効果を持つ。
「カムロ!!」
「どうした」
「フィーラのバカどこ行きやがった!!」
「ああ、さっきすれ違ったぞ。
急いでたが何かあったのか?」
「アイツがケーのカードと俺の仲間のヤツぶった斬ろうとしてんだよ!」
「なに!?」
「おい、おめぇも仲間のヤツ持ってんだろ 貸せ!」
騎士団本部のとある部屋に身を隠したフィーラ・アーデルハイト、その手に乱暴に握りられたカードを汚いものを見る目で見つめていた
(こんな紙切れに呪われてしまったというのか…見損なったぞザック…カムロ…アベル…殿下…)
(私がその苦しみから解放いたす!)
カードを地面に叩きつけ、剣を抜き、振り上げる。
(しかし…もしこんなモノが本物だった場合どうする…ザックの話が本当ならこの紙切れの持ち主ケーは英雄…そんな青年の唯一の接点を断ち切ってもいいのだろうか…
そうか!ザックはこの紙切れで会話していたな。ならば教えていただこう。貴様が何者なのか)
「ケーとやら、聞こえるならば返事をしろ!」
シーーーーン…
「決まりだ。」
スーーーーーーッ フゥーー…
「…ハッ!!」
切っ先が届きかけた瞬間、緑色の紙切れが細長い光源となり、それが不気味な絵柄にあった刀剣であることが判断できた頃には、風雷丸の力で背後の壁に叩きつけられた
「ぁがぁあっ…!」
「な…に…」
ビュォォォォォ…バリバリバリィッ
「! あん時のバリバリの風…こっちか!」
「こんなとこにいやがったか…」
「…イ オ~イ 大丈夫か?」
「ざ…く…」
「よっ 大風浴びてちったぁは頭冷えたか?」
「だ…まれ…」
ハ~
「バカ真面目がザマァねぁなぁ
この剣見て、こんなザマにあってもまだ嘘だの幻想だの言うか?」
「…バケモノがいると言うのだけは認めてやる…」
「まだ何か疑ってんのかよ」
「そんなバケモノは王国に入れるべきではない…!存在が危険すぎる。
この剣も危険なことに変わりはない。…処分すべきだ…!」
「いい加減にしろよ!アイツがクズならどのみち死んでるつってんのがまだわかんねぇのかよ!」
「うるさい!お前の戯言を折らないからこのような事態に…!」
「へっ!言い訳ならもう手遅れだな。ケーのやつすぐに王都おうとに来るってよ。
クロがとばしゃ、もうそろそろ着くぜ。ほら上見ろよ」
「なんだと!?
何故そんなこと言わなかった!」
「おめぇがこんなことすっから来ることになったんだろ」
「そんな勝手許されるわけないだろ!今すぐ追い返せ!」
「バ~カ!
おめぇのためにクソバタついてる中わざわざ来てくれんだからおめぇの目で確かめりゃいいだろ。」
「王都中がまたパニックになるだろ!」
「なら、おめぇが門に行ってケーと話しゃいいんじゃねぇか?
その間にオレぁ王女さんにこの事ぜーんぶ包み隠さずにごほーこくしてきてやんよ。カムロも知ってっからオメェに弁解の余地ねぇぞ」
「くぅっ…」
ザックさん、カムロさんからの知らせを受け、ドラゴルド、ネロ、ヴァイスと共に切り札を取り返すべく超特急で王都に飛び、街門ギリギリに降り立った。
「みんな」
「「「『変化』」」」
「よし、行こう」
カムロさんに聞いてた通り、騎士さんが大勢待ち構えて厳戒態勢。
だがそんなものは関係ない。敵意はないが、気にせず進む
「止まれ!!」
一応止まるか。
「貴様何者だ」
「ケースケ・カミヤです。召喚士のケーで伝わってるはずです。
王女様の落とし物を届けるついでに、騎士団に用があって参りました。
大至急 エリーゼ王女様、各中隊長、ザック副隊長に取り次いでください。」
「その必要はない。貴殿にはここでお引き取り頂く。」
「何故です?フィーラ第四中隊長」
「!」
「カムロさんとアベルさんがつけている物とほぼ同じバッチをつけた女性の中隊長だと聞いているのですが…人違いですか?
おかしいですね…。
あなたは、疑いに決めつけを重ね、王女様や同僚のことを侮辱し、他人様のものを奪い、破壊を試み、剣の具現化とその他エトセトラに見事に吹き飛ばされた挙句に、この一連の原因をザックさんに押し付け、たった今できもしない隠蔽を試みているフィーラ・アーデルハイトさんではないと?」
「ほう?王都訪問するには随分とご挨拶だとは思わないか?」
「王都に対する挨拶はまだ一言も口にしてませんが、事実ですよね。」
「あ、そうか。
ドラゴン族の事を野蛮だの、所詮は魔物だの、隙あらば討伐してくれるだの、こちらが聞こえないのをいいことに憎まれ口を吠え回すようなフィーラ・アーデルハイトには丁寧すぎましたね。」
「何だと?」
「その反応は図星ととらえておきますね。
では改めて、
どうも、正体不明な青年です。
探す手間が省けて助かりますよ大マヌケ隊長殿。
さっさと王女様やカムロさんに「ケーがきた」って伝えてきてくれませんか?」
「貴様ぁ…っ!
黙って聞いてれば好き勝手言ってくれる!そんな事実はない!」
「違うならどこがどう違うのか言ってどうぞ?
あなたの言動はあなたの部下や同僚が1番ご存じなはずです。王家の立ち会いで全員が否定できると言うことでいいんですよね」
「もう既に貴様の紙切れはザックに返還した!それでいいだろ!」
「「返還した」ではなく最初から奪っていい物ではないでしょう。
あなた達が転移してからの出来事を信じる信じないは自由ですし、信じられる方がおかしな話です、疑われていることに抗議する気はありません。が、嘘をつくのは身のためにはなりませんよ。」
「何が言いたい」
右手の人差し指がこの女のポケットを指すように手を向け、大きくパチンと指を鳴らす。
右の懐…向こうから見て左の懐の付近が薄緑の光を放ち、ひとりでに飛び出し、コチラにフワリフワリと寄ってくる
「ザックさんの証、どうしてまだ持ってるんですか?「返還した」とおっしゃいましたよね」
「これは…貴様に叩き返すために預かっているだけだ。やましいことなどない!」
「嘘をついた事を認めると?」
「黙れ!私は騙されんぞ。
貴様は悪魔だ、この国に立ち入る資格はない!」
「話になりませんね。もういいです」
「ようやく帰る気になったか。ほら、帰り道は後ろだぞ」
「『王女様…はい。では』」
「『エリーゼ・ヴィクトリア王女様 この地に現れたまえ!』」
カードが光の粒となって舞い、クリーム色の眩い魔法陣を形成する。
陣がゆっくりと後退すると徐々に見覚えのある美女が姿形を表す。
「殿下!?」
「話はカムロ達から聞きました。フィーラ、理由を詳しく聞きましょうか?」
「殿下はこの男に騙されているのです!
こんな紙切れごときに惑わされて…冷静で聡明な王女様はどこに行ってしまわれたのですか!?」
「…貴方の言い分は分かりました。
しかし、貴方の言い訳には一片も根拠がありません。勘違いをするにも程があります」
「勘違い…いいでしょう。私が、ここでこの男のバケモノの皮を剥いで証明してみせます」
そういうと剣を抜き、自分のことを真正面から睨みつける。
「やめなさいっ!」
「王女さま、離れていてもらえますか」
「ケーさん!?」
「この分からず屋に何を言っても効果はありません。ならするべき事はひとつ。」
ポサッ
肩に白い布が当たる。手袋?
「拾え 貴様に、決闘を申し込む」
ドックン…ドックン…ドックン…ドックン…ドックン…ドックン…
決闘……バトル…決闘!
「そうこなくっちゃ…」
「ドラゴルド、ネロ、ヴァイス」
「構わんじゃモン。我らの命もお主に預けるじゃモン」
「クソみてぇな負け方だけはすんなよ」
「手札に来れば遠慮なく呼ぶでありまスル!」
「ありがとな」
石畳の色が少しついた布切れを拾って丸め、相手の顔面に投げつける。
「俺の力 見せてやるよ。」
「生まれて来た罪をあの世で永遠に償うがいい…」
「急げって!ほーらおもしれーとこ見逃したじゃねぇか」
「そっちじゃないだろ!止めるぞ!」
「彼と戦っても勝ち目はない!やめるんだフィーラ!」
「2人と止めなさい!!これは命令です!!皆さんも止めなさい!」
「この勝負に口を挟むでない!」
門の方からもう一人やって来た。
きらびやかな赤いマントに身を包んだこの方、どう考えても。
『「「「「「陛下!!」」」」」』
「お父様…」
「これは良くも悪くもこの国を大きく左右する歴史的一戦だ。
止めることは許されまい!」
「…分かりました…」
「その決闘、正式にヴィクトリア王家が立ち会おう!!両者とも存分に力を振るうが良い!」
「はっ!」
「…どうも」
「いざ、勝負!」
「『決闘 スタート』!!」
手札は…
さっき王女様を召喚した分の魔力消費が痛いなぁ…
「『ポイズンスライム』レベル3
『アメジススネーク』
『小天使ミニー』レベル2で、来い!」
「召喚士…か」
「行け!」
2体のモンスター達は目の前の敵を打ち破るべく地を這い、跳ね、飛ぶ。
スパッ ザンッ
下向きに構えられたその剣は一歳無駄のない動きで1体1体真っ二つにしていく。
「『各モンスターの効果発動』」
小天使ミニーの攻撃時効果、アメジススネークの破壊時効果で一枚ずつドロー
ポイズンスライムの破壊時効果。一定の割合のダメージを与える。
「くっ……小汚い真似を!」
「『獣の視力』発動」
アベルさんのスキルカードの効果でありとあらゆる危険が可視化され、全てがスローで動き出す。
「ハア!ハッ!ハァッ!ハッ!ァアアア!!」
右に跳ぶ→くの字に身体を反らす→しゃがむ→左に跳ねる→何とか起き上がって…
「『ドロー』『鋼の聖剣』!!」
受け止める!!
金属同士がぶつかり擦れ合う音と感覚が腕越しに響く。
重い 強い 固い
グッ!と刃がこちらに寄って…手が痛い!
「ァァァァァァ!」
「『鋼の聖剣、戦闘時効果』!!」
発動時の装備者と鋼の聖剣を合計したステータスに大幅に加算する。
俺のステータスは相手の3分の1いくかどうか、そこに鋼の聖剣を足してさらに加算したらだいたい互角。
グググググゥッ……!
(なんなんだこの力の上がりようは!?
まだこの男の手に札はある、この至近距離で使われるのはマズイ!)
「フッ!」
距離を取られることで互いに落ち着きを取り戻す。
向こうは毒でダメージで息が荒い。
決めるなら剣が下がった今しかない!
「このぉぉぉおおお!!」
「ぜ、『絶対氷盾』!」
右バットスイングのままで斬り込むも、刃の大部分が出現した自販機大の氷塊に呑まれ、ビクともしなくなる。
「『氷刃』!!」
「おわっ!?」
反応して体を無理矢理捻るも、氷から直接打ち込まれた攻撃が左腕をかすめ、手に持っていたカードを落としてしまう。
「痛っ!…つぅ…」
「魔聖剣とヴァイスのカード…!
なぜ使わんのじゃモン!?」
「魔力コスト足りねぇんだよ」
「そんな…!』
「踏ん張って出すんじゃモン!」
「通用すんのは糞する時だけな」
フラ…ヨロ…
「貴様のっ…手元に…札はない…勝負…あった…な…大人しく…首を差し出せ」
「確かに詰んだ…かもな」
「言いたい…ことは…それだけか?」
氷越しにカムロさん達が視界に入る。
せっかく出会えたのに…悔しいなぁ…
ん?
「あるじゃん。
俺の…いや、俺たちの切り札」
「負け惜しみを…!」
互いに命の覚悟を決める。
「『風雷丸!』」
カチャ…
「お?」
カチャカチャカチャカチャカチャ……!
「ちょちょっ…おい!」
「ハァッ!!」
ブォンッ!!
ピシッ…ピシピシピシッ…
独特の模様があしらわれた鞘が砕け散り、妖しく陽の光を反射するその刀身からは、その場にいる誰しもが唾も喉を通らなくなるほどのオーラを放つ。
持ち主を刈り獲らんと振り下ろされた剣に静かに最期の時を刻み込んでいた。
パキィィィ…
カクッ…カクカクッ…
ガクッ…!
折れた剣先にごくわずかに残された勢いが、別れた柄を握る手に血を流させる。
その血も痛みももはや気にならず、まぶたに精いっぱい力を込めることしかできない様子
「降参のつもりですか」
「それ以外…に何が…あ…る」
「決闘に負けたということはどういうことか分かってますよね」
「フッ…言い…残すことなど…ない…。殺せ…」
「やだ」
『「「「「「「!!!!?」」」」」」』
ざわつく周囲の声を他所にゆっくりと、落としてしまったカードを拾い敗者の前でその中の一枚をかざす。
「な…にを…?」
「『ヒーリング・エリア 発動』」
自分達を中心に半径数メートルが優しく光る。
ジンジンと痛む腕の裂傷は消え、目の前の青白い顔色も元々であろう乳白色の肌色を取り戻した。
「少し形が違いますが、これが真相です。」
「なぜ…なぜ殺さない!?」
「力を見せるとは言いましたが、殺すとは一言も言ってません。
それに、貴方が心の底から騎士を誇りに思っているなら勝負が決まったあとに相手の背中を襲うようなことはしないでしょう?」
「…」
「王様、王女様、よろしいでしょうか」
「なんだ」「は、はい!」
「ご覧のとおり、決闘の勝敗はつき、得体の知れない存在の力がどのようなものか目の当たりにされたことでしょう。
この方は先走った行動に出てしまったようですが、それは王国の将来を心配し、さまざまな要因が重なってしまったのもあり、周りが見えなくなってしまったことによる行動です。
もちろん、先日の一連の出来事も、記憶がほとんどないと自称する正体不明な人間も、明確な文明を持ったドラゴン一族の存在すらも、聞いた話から全部が全部信じろという方が無理がある話です。
一方で、この国では隣国との件の対応に追われ、ドラゴン一族と自分も邪神化の件の後始末に追われていた影響で、互いに詳細の把握ができていないという現実もあります。
王様、ここまでの認識に相違はありますか?」
「全くもってその通りだ。続けて頂けるか。」
「ありがとうございます。
今回の決闘が起きた原因の、そのまた原因をずーっと辿れば
・外交問題
・空白の時間の邪神化問題
・自分が何者か問題
の3点が重なったことにあるのは、お分かりになられていることでしょう。
外交問題についての経緯、真偽は王様、王女様、騎士団の皆さんがご存じでしょうから、一旦置いておきます。
自分が何者なのか問題も、自分でもわかっていないことが多いですし、邪神化問題の前後についても不明な点が多いはずです。
そこでどうでしょう、今回の騒動の落とし前も含め、フィーラ中隊長を筆頭にそちらの信頼がおける方々を調査団として派遣し、ことの詳細をしっかり把握、共有すると言うのは。」
「それは願ってもない提案ではあるが…しかし…」
「彼女の処分にしては軽すぎではないでしょうか?」
「もちろん、今回の騒動についてこちら側に問題がないと言えば嘘にはなります。
これ以降もこの刀はザックさんに預けようと思っていますが、2度も3度も破棄に踏み切られてはたまったものではありません。
とはいえ、彼女は、“バカみたいに真面目”で、'"氷の塊のような硬いアタマ"をした彼女の騎士道を全うしたからこその結果であり、決してよこしまな気持ちのある人間ではないと言うことはザックさんからお聞きして、分かっています。」
「お前どれだけ愚痴こぼしたんだ…」
「1日3回も話してねぇよ」
「愚痴は毎日2回で充分多いんだよ」
「それを踏まえ、騎士としての謹慎の代わりに彼女を里に連れ帰り、無理矢理にでも彼女に現実を理解してもらったほうがヴィクトリア王国とドラゴン族との良好な関係を築けますし、少なくとも自分の身の潔白は証明できると思います。
ドラゴン族との交流については真相がハッキリしたあとでいいかなと。
な、ドラゴルド」
「ウム。我らも争いは望まんじゃモン。
大賢者フレアが里を創ったように、不要な争いを生まないで済む方法があるのであればそれに乗るじゃモン」
「とのことです。」
「はじめから決闘は予期していたのか?」
「遅かれ早かれ自分の力をお見せしなければならない瞬間がくるとは思ってました。
流石に…カードを破壊しようとするとは思わなかったですが、きっかけはどうあれ今しかないと思いまして、決闘ないし模擬戦になるようにわざと挑発・誘導させてもらいました。
お騒がせしてしまい本当にすみませんでした」
「ケーさん…」
「フム…」
「お父様…」
「エリーゼ、心配はいらんよ。」
「ケースケ殿といったか
其方や竜一族が負うような責任は一切ないと断言しよう。
むしろ感謝以外に言葉はない。
この国を、そして我が娘エリーゼを守っていただいたことを王として、また父として心から感謝する。
其方が許せると言うのであれば喜んで、遣いを派遣すると確約しよう。」
ドラゴルドの方を見ると、何も言わずに頷き、それ以上の意思表示はしてこなかった。
王女様やカムロさん達を見ても笑顔で頷いたり、親指を立てて見せたり、胃の辺りををさすってたり。
この騒動の後とは思えない温かい表情だった。
「ありがとうございます。」
「フィーラさん
いろいろ失礼な事を言ってしまってすみませんでした」
「…なぜ許す?私は貴様を殺す気だったんだぞ」
「ザックさんと犬猿の仲で口喧嘩ばかりしているのは知ってます。
「カムロ2人分の石アタマ」
「氷みてぇに冷てえオンナ」
「真面目すぎるバカ」
「守りだけ天才」
の4パターンを繰り返し聞いてます。
ですが、ザックさんの口から「アイツはダメだ」みたいな文句は一度も出てません。
それだけの話です」
「…だから許すというのか…?」
「自分はザックさんを信じてて、ザックさんはフィーラさんを信じているんで、自分は信じた人が信じるフィーラさんのことを信じてみようと思います。
あとはあなたがどうするかです。」
「…後悔するかもしれないぞ」
「今は後悔なんて考えている余裕はありませんし、その時はこちらも総力で迎え打つまでです。」
今の彼女に殺意は感じられない。
「ひとまず…」
信じてくれと言うのは違う気がした。
だからすこし言葉を変えて、手と一緒に渡してみる。
「正々堂々と疑ってくれますね?今日から」
「フン…上等だ!」
力強く握られた決意の手は、後に彼女達を強くし、異形の中隊として一目置かれることになるがそれは先のまた先の話。
「いい加減にしろ!何度言えば分かる!
お前も王女殿下も悪い夢や幻術を見せられていたんだ!そんな人間は存在しない!」
「だからケーはいるつってんのに幻想もクソもあるか!
わからねぇのはオメェだろうがこの石アタマ!」
「ならなぜその者を無理矢理にでも連れて来ない!
この場に居ないのが何よりも証拠だろ!呑んだくれの言うことなど信用に値するか!」
「いなけりゃ今頃王女さんもろとも死んでんだよ!」
「副隊長!乱暴はダメです!」
「落ち着いてください!」
「止めるんだザック!」
「離せゴラァ!」
「ガハッ」「グハッ!?」「ゲヴォッ…!」
「かえせ!」
「『絶対氷盾』」
フィーラとザックの間に現れた厚い氷壁がザックとの大事なものを引き離す
「おい!このっ!」
ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!
「こんな物は私が処分する」
「おいやめろ!返せって!」
第四中隊長フィーラ・アーデルハイトの固有スキル『絶対氷盾』
一定時間、任意のサイズの絶対に壊れない氷の盾を設置する。
サイズ大きくなるほど使用可能時間は減少し、低確率で相手の武器や身体に対するバインド効果を持つ。
「カムロ!!」
「どうした」
「フィーラのバカどこ行きやがった!!」
「ああ、さっきすれ違ったぞ。
急いでたが何かあったのか?」
「アイツがケーのカードと俺の仲間のヤツぶった斬ろうとしてんだよ!」
「なに!?」
「おい、おめぇも仲間のヤツ持ってんだろ 貸せ!」
騎士団本部のとある部屋に身を隠したフィーラ・アーデルハイト、その手に乱暴に握りられたカードを汚いものを見る目で見つめていた
(こんな紙切れに呪われてしまったというのか…見損なったぞザック…カムロ…アベル…殿下…)
(私がその苦しみから解放いたす!)
カードを地面に叩きつけ、剣を抜き、振り上げる。
(しかし…もしこんなモノが本物だった場合どうする…ザックの話が本当ならこの紙切れの持ち主ケーは英雄…そんな青年の唯一の接点を断ち切ってもいいのだろうか…
そうか!ザックはこの紙切れで会話していたな。ならば教えていただこう。貴様が何者なのか)
「ケーとやら、聞こえるならば返事をしろ!」
シーーーーン…
「決まりだ。」
スーーーーーーッ フゥーー…
「…ハッ!!」
切っ先が届きかけた瞬間、緑色の紙切れが細長い光源となり、それが不気味な絵柄にあった刀剣であることが判断できた頃には、風雷丸の力で背後の壁に叩きつけられた
「ぁがぁあっ…!」
「な…に…」
ビュォォォォォ…バリバリバリィッ
「! あん時のバリバリの風…こっちか!」
「こんなとこにいやがったか…」
「…イ オ~イ 大丈夫か?」
「ざ…く…」
「よっ 大風浴びてちったぁは頭冷えたか?」
「だ…まれ…」
ハ~
「バカ真面目がザマァねぁなぁ
この剣見て、こんなザマにあってもまだ嘘だの幻想だの言うか?」
「…バケモノがいると言うのだけは認めてやる…」
「まだ何か疑ってんのかよ」
「そんなバケモノは王国に入れるべきではない…!存在が危険すぎる。
この剣も危険なことに変わりはない。…処分すべきだ…!」
「いい加減にしろよ!アイツがクズならどのみち死んでるつってんのがまだわかんねぇのかよ!」
「うるさい!お前の戯言を折らないからこのような事態に…!」
「へっ!言い訳ならもう手遅れだな。ケーのやつすぐに王都おうとに来るってよ。
クロがとばしゃ、もうそろそろ着くぜ。ほら上見ろよ」
「なんだと!?
何故そんなこと言わなかった!」
「おめぇがこんなことすっから来ることになったんだろ」
「そんな勝手許されるわけないだろ!今すぐ追い返せ!」
「バ~カ!
おめぇのためにクソバタついてる中わざわざ来てくれんだからおめぇの目で確かめりゃいいだろ。」
「王都中がまたパニックになるだろ!」
「なら、おめぇが門に行ってケーと話しゃいいんじゃねぇか?
その間にオレぁ王女さんにこの事ぜーんぶ包み隠さずにごほーこくしてきてやんよ。カムロも知ってっからオメェに弁解の余地ねぇぞ」
「くぅっ…」
ザックさん、カムロさんからの知らせを受け、ドラゴルド、ネロ、ヴァイスと共に切り札を取り返すべく超特急で王都に飛び、街門ギリギリに降り立った。
「みんな」
「「「『変化』」」」
「よし、行こう」
カムロさんに聞いてた通り、騎士さんが大勢待ち構えて厳戒態勢。
だがそんなものは関係ない。敵意はないが、気にせず進む
「止まれ!!」
一応止まるか。
「貴様何者だ」
「ケースケ・カミヤです。召喚士のケーで伝わってるはずです。
王女様の落とし物を届けるついでに、騎士団に用があって参りました。
大至急 エリーゼ王女様、各中隊長、ザック副隊長に取り次いでください。」
「その必要はない。貴殿にはここでお引き取り頂く。」
「何故です?フィーラ第四中隊長」
「!」
「カムロさんとアベルさんがつけている物とほぼ同じバッチをつけた女性の中隊長だと聞いているのですが…人違いですか?
おかしいですね…。
あなたは、疑いに決めつけを重ね、王女様や同僚のことを侮辱し、他人様のものを奪い、破壊を試み、剣の具現化とその他エトセトラに見事に吹き飛ばされた挙句に、この一連の原因をザックさんに押し付け、たった今できもしない隠蔽を試みているフィーラ・アーデルハイトさんではないと?」
「ほう?王都訪問するには随分とご挨拶だとは思わないか?」
「王都に対する挨拶はまだ一言も口にしてませんが、事実ですよね。」
「あ、そうか。
ドラゴン族の事を野蛮だの、所詮は魔物だの、隙あらば討伐してくれるだの、こちらが聞こえないのをいいことに憎まれ口を吠え回すようなフィーラ・アーデルハイトには丁寧すぎましたね。」
「何だと?」
「その反応は図星ととらえておきますね。
では改めて、
どうも、正体不明な青年です。
探す手間が省けて助かりますよ大マヌケ隊長殿。
さっさと王女様やカムロさんに「ケーがきた」って伝えてきてくれませんか?」
「貴様ぁ…っ!
黙って聞いてれば好き勝手言ってくれる!そんな事実はない!」
「違うならどこがどう違うのか言ってどうぞ?
あなたの言動はあなたの部下や同僚が1番ご存じなはずです。王家の立ち会いで全員が否定できると言うことでいいんですよね」
「もう既に貴様の紙切れはザックに返還した!それでいいだろ!」
「「返還した」ではなく最初から奪っていい物ではないでしょう。
あなた達が転移してからの出来事を信じる信じないは自由ですし、信じられる方がおかしな話です、疑われていることに抗議する気はありません。が、嘘をつくのは身のためにはなりませんよ。」
「何が言いたい」
右手の人差し指がこの女のポケットを指すように手を向け、大きくパチンと指を鳴らす。
右の懐…向こうから見て左の懐の付近が薄緑の光を放ち、ひとりでに飛び出し、コチラにフワリフワリと寄ってくる
「ザックさんの証、どうしてまだ持ってるんですか?「返還した」とおっしゃいましたよね」
「これは…貴様に叩き返すために預かっているだけだ。やましいことなどない!」
「嘘をついた事を認めると?」
「黙れ!私は騙されんぞ。
貴様は悪魔だ、この国に立ち入る資格はない!」
「話になりませんね。もういいです」
「ようやく帰る気になったか。ほら、帰り道は後ろだぞ」
「『王女様…はい。では』」
「『エリーゼ・ヴィクトリア王女様 この地に現れたまえ!』」
カードが光の粒となって舞い、クリーム色の眩い魔法陣を形成する。
陣がゆっくりと後退すると徐々に見覚えのある美女が姿形を表す。
「殿下!?」
「話はカムロ達から聞きました。フィーラ、理由を詳しく聞きましょうか?」
「殿下はこの男に騙されているのです!
こんな紙切れごときに惑わされて…冷静で聡明な王女様はどこに行ってしまわれたのですか!?」
「…貴方の言い分は分かりました。
しかし、貴方の言い訳には一片も根拠がありません。勘違いをするにも程があります」
「勘違い…いいでしょう。私が、ここでこの男のバケモノの皮を剥いで証明してみせます」
そういうと剣を抜き、自分のことを真正面から睨みつける。
「やめなさいっ!」
「王女さま、離れていてもらえますか」
「ケーさん!?」
「この分からず屋に何を言っても効果はありません。ならするべき事はひとつ。」
ポサッ
肩に白い布が当たる。手袋?
「拾え 貴様に、決闘を申し込む」
ドックン…ドックン…ドックン…ドックン…ドックン…ドックン…
決闘……バトル…決闘!
「そうこなくっちゃ…」
「ドラゴルド、ネロ、ヴァイス」
「構わんじゃモン。我らの命もお主に預けるじゃモン」
「クソみてぇな負け方だけはすんなよ」
「手札に来れば遠慮なく呼ぶでありまスル!」
「ありがとな」
石畳の色が少しついた布切れを拾って丸め、相手の顔面に投げつける。
「俺の力 見せてやるよ。」
「生まれて来た罪をあの世で永遠に償うがいい…」
「急げって!ほーらおもしれーとこ見逃したじゃねぇか」
「そっちじゃないだろ!止めるぞ!」
「彼と戦っても勝ち目はない!やめるんだフィーラ!」
「2人と止めなさい!!これは命令です!!皆さんも止めなさい!」
「この勝負に口を挟むでない!」
門の方からもう一人やって来た。
きらびやかな赤いマントに身を包んだこの方、どう考えても。
『「「「「「陛下!!」」」」」』
「お父様…」
「これは良くも悪くもこの国を大きく左右する歴史的一戦だ。
止めることは許されまい!」
「…分かりました…」
「その決闘、正式にヴィクトリア王家が立ち会おう!!両者とも存分に力を振るうが良い!」
「はっ!」
「…どうも」
「いざ、勝負!」
「『決闘 スタート』!!」
手札は…
さっき王女様を召喚した分の魔力消費が痛いなぁ…
「『ポイズンスライム』レベル3
『アメジススネーク』
『小天使ミニー』レベル2で、来い!」
「召喚士…か」
「行け!」
2体のモンスター達は目の前の敵を打ち破るべく地を這い、跳ね、飛ぶ。
スパッ ザンッ
下向きに構えられたその剣は一歳無駄のない動きで1体1体真っ二つにしていく。
「『各モンスターの効果発動』」
小天使ミニーの攻撃時効果、アメジススネークの破壊時効果で一枚ずつドロー
ポイズンスライムの破壊時効果。一定の割合のダメージを与える。
「くっ……小汚い真似を!」
「『獣の視力』発動」
アベルさんのスキルカードの効果でありとあらゆる危険が可視化され、全てがスローで動き出す。
「ハア!ハッ!ハァッ!ハッ!ァアアア!!」
右に跳ぶ→くの字に身体を反らす→しゃがむ→左に跳ねる→何とか起き上がって…
「『ドロー』『鋼の聖剣』!!」
受け止める!!
金属同士がぶつかり擦れ合う音と感覚が腕越しに響く。
重い 強い 固い
グッ!と刃がこちらに寄って…手が痛い!
「ァァァァァァ!」
「『鋼の聖剣、戦闘時効果』!!」
発動時の装備者と鋼の聖剣を合計したステータスに大幅に加算する。
俺のステータスは相手の3分の1いくかどうか、そこに鋼の聖剣を足してさらに加算したらだいたい互角。
グググググゥッ……!
(なんなんだこの力の上がりようは!?
まだこの男の手に札はある、この至近距離で使われるのはマズイ!)
「フッ!」
距離を取られることで互いに落ち着きを取り戻す。
向こうは毒でダメージで息が荒い。
決めるなら剣が下がった今しかない!
「このぉぉぉおおお!!」
「ぜ、『絶対氷盾』!」
右バットスイングのままで斬り込むも、刃の大部分が出現した自販機大の氷塊に呑まれ、ビクともしなくなる。
「『氷刃』!!」
「おわっ!?」
反応して体を無理矢理捻るも、氷から直接打ち込まれた攻撃が左腕をかすめ、手に持っていたカードを落としてしまう。
「痛っ!…つぅ…」
「魔聖剣とヴァイスのカード…!
なぜ使わんのじゃモン!?」
「魔力コスト足りねぇんだよ」
「そんな…!』
「踏ん張って出すんじゃモン!」
「通用すんのは糞する時だけな」
フラ…ヨロ…
「貴様のっ…手元に…札はない…勝負…あった…な…大人しく…首を差し出せ」
「確かに詰んだ…かもな」
「言いたい…ことは…それだけか?」
氷越しにカムロさん達が視界に入る。
せっかく出会えたのに…悔しいなぁ…
ん?
「あるじゃん。
俺の…いや、俺たちの切り札」
「負け惜しみを…!」
互いに命の覚悟を決める。
「『風雷丸!』」
カチャ…
「お?」
カチャカチャカチャカチャカチャ……!
「ちょちょっ…おい!」
「ハァッ!!」
ブォンッ!!
ピシッ…ピシピシピシッ…
独特の模様があしらわれた鞘が砕け散り、妖しく陽の光を反射するその刀身からは、その場にいる誰しもが唾も喉を通らなくなるほどのオーラを放つ。
持ち主を刈り獲らんと振り下ろされた剣に静かに最期の時を刻み込んでいた。
パキィィィ…
カクッ…カクカクッ…
ガクッ…!
折れた剣先にごくわずかに残された勢いが、別れた柄を握る手に血を流させる。
その血も痛みももはや気にならず、まぶたに精いっぱい力を込めることしかできない様子
「降参のつもりですか」
「それ以外…に何が…あ…る」
「決闘に負けたということはどういうことか分かってますよね」
「フッ…言い…残すことなど…ない…。殺せ…」
「やだ」
『「「「「「「!!!!?」」」」」」』
ざわつく周囲の声を他所にゆっくりと、落としてしまったカードを拾い敗者の前でその中の一枚をかざす。
「な…にを…?」
「『ヒーリング・エリア 発動』」
自分達を中心に半径数メートルが優しく光る。
ジンジンと痛む腕の裂傷は消え、目の前の青白い顔色も元々であろう乳白色の肌色を取り戻した。
「少し形が違いますが、これが真相です。」
「なぜ…なぜ殺さない!?」
「力を見せるとは言いましたが、殺すとは一言も言ってません。
それに、貴方が心の底から騎士を誇りに思っているなら勝負が決まったあとに相手の背中を襲うようなことはしないでしょう?」
「…」
「王様、王女様、よろしいでしょうか」
「なんだ」「は、はい!」
「ご覧のとおり、決闘の勝敗はつき、得体の知れない存在の力がどのようなものか目の当たりにされたことでしょう。
この方は先走った行動に出てしまったようですが、それは王国の将来を心配し、さまざまな要因が重なってしまったのもあり、周りが見えなくなってしまったことによる行動です。
もちろん、先日の一連の出来事も、記憶がほとんどないと自称する正体不明な人間も、明確な文明を持ったドラゴン一族の存在すらも、聞いた話から全部が全部信じろという方が無理がある話です。
一方で、この国では隣国との件の対応に追われ、ドラゴン一族と自分も邪神化の件の後始末に追われていた影響で、互いに詳細の把握ができていないという現実もあります。
王様、ここまでの認識に相違はありますか?」
「全くもってその通りだ。続けて頂けるか。」
「ありがとうございます。
今回の決闘が起きた原因の、そのまた原因をずーっと辿れば
・外交問題
・空白の時間の邪神化問題
・自分が何者か問題
の3点が重なったことにあるのは、お分かりになられていることでしょう。
外交問題についての経緯、真偽は王様、王女様、騎士団の皆さんがご存じでしょうから、一旦置いておきます。
自分が何者なのか問題も、自分でもわかっていないことが多いですし、邪神化問題の前後についても不明な点が多いはずです。
そこでどうでしょう、今回の騒動の落とし前も含め、フィーラ中隊長を筆頭にそちらの信頼がおける方々を調査団として派遣し、ことの詳細をしっかり把握、共有すると言うのは。」
「それは願ってもない提案ではあるが…しかし…」
「彼女の処分にしては軽すぎではないでしょうか?」
「もちろん、今回の騒動についてこちら側に問題がないと言えば嘘にはなります。
これ以降もこの刀はザックさんに預けようと思っていますが、2度も3度も破棄に踏み切られてはたまったものではありません。
とはいえ、彼女は、“バカみたいに真面目”で、'"氷の塊のような硬いアタマ"をした彼女の騎士道を全うしたからこその結果であり、決してよこしまな気持ちのある人間ではないと言うことはザックさんからお聞きして、分かっています。」
「お前どれだけ愚痴こぼしたんだ…」
「1日3回も話してねぇよ」
「愚痴は毎日2回で充分多いんだよ」
「それを踏まえ、騎士としての謹慎の代わりに彼女を里に連れ帰り、無理矢理にでも彼女に現実を理解してもらったほうがヴィクトリア王国とドラゴン族との良好な関係を築けますし、少なくとも自分の身の潔白は証明できると思います。
ドラゴン族との交流については真相がハッキリしたあとでいいかなと。
な、ドラゴルド」
「ウム。我らも争いは望まんじゃモン。
大賢者フレアが里を創ったように、不要な争いを生まないで済む方法があるのであればそれに乗るじゃモン」
「とのことです。」
「はじめから決闘は予期していたのか?」
「遅かれ早かれ自分の力をお見せしなければならない瞬間がくるとは思ってました。
流石に…カードを破壊しようとするとは思わなかったですが、きっかけはどうあれ今しかないと思いまして、決闘ないし模擬戦になるようにわざと挑発・誘導させてもらいました。
お騒がせしてしまい本当にすみませんでした」
「ケーさん…」
「フム…」
「お父様…」
「エリーゼ、心配はいらんよ。」
「ケースケ殿といったか
其方や竜一族が負うような責任は一切ないと断言しよう。
むしろ感謝以外に言葉はない。
この国を、そして我が娘エリーゼを守っていただいたことを王として、また父として心から感謝する。
其方が許せると言うのであれば喜んで、遣いを派遣すると確約しよう。」
ドラゴルドの方を見ると、何も言わずに頷き、それ以上の意思表示はしてこなかった。
王女様やカムロさん達を見ても笑顔で頷いたり、親指を立てて見せたり、胃の辺りををさすってたり。
この騒動の後とは思えない温かい表情だった。
「ありがとうございます。」
「フィーラさん
いろいろ失礼な事を言ってしまってすみませんでした」
「…なぜ許す?私は貴様を殺す気だったんだぞ」
「ザックさんと犬猿の仲で口喧嘩ばかりしているのは知ってます。
「カムロ2人分の石アタマ」
「氷みてぇに冷てえオンナ」
「真面目すぎるバカ」
「守りだけ天才」
の4パターンを繰り返し聞いてます。
ですが、ザックさんの口から「アイツはダメだ」みたいな文句は一度も出てません。
それだけの話です」
「…だから許すというのか…?」
「自分はザックさんを信じてて、ザックさんはフィーラさんを信じているんで、自分は信じた人が信じるフィーラさんのことを信じてみようと思います。
あとはあなたがどうするかです。」
「…後悔するかもしれないぞ」
「今は後悔なんて考えている余裕はありませんし、その時はこちらも総力で迎え打つまでです。」
今の彼女に殺意は感じられない。
「ひとまず…」
信じてくれと言うのは違う気がした。
だからすこし言葉を変えて、手と一緒に渡してみる。
「正々堂々と疑ってくれますね?今日から」
「フン…上等だ!」
力強く握られた決意の手は、後に彼女達を強くし、異形の中隊として一目置かれることになるがそれは先のまた先の話。
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