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1章
第2話 蒐集家
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「まさかこんなところで『蒐集家』とお会いできるとは思っていませんでした! いつか巡り合えたらなぁ、とは思っていましたが……。凄い偶然! 運命的ですね! 旅立った初日に出会えるとは! あ! ちなみに私のことは「乃蒼」と、下の名前で呼んで下さい! 苗字で呼ばれるのがどうも……くすぐったいので!」
正座しながらも、テンションが上がり早口でまくしたてる乃蒼。
俺は胡座をかいて岸壁に寄りかかる。冷ややかな視線を送り「じゃあ俺も下の名前でいい」とそっけなく応える。
『絵師』。字の如く、絵を描く者。
たしかにいつか相棒となる絵師が必要になると考えていた。しかし、それはあくまで二次元種との戦いに利用する為。
この女は「利用」の価値があるだろうか?ともあれ、二次元種に追われている現状、コイツを利用するしかないが……。
熟考し、一人頷く。
「そうそう! 『蒐集家』といえば!」
乃蒼の顔が急に視界を占拠した。息が顔にかかるくらいまで距離を詰められていた。
俺は仰け反って距離をとるが、追撃するように乃蒼が近寄る。
「『蒐集家』でしたら、『あれ』を持ってるんですよね!? 私、名前しか聞いたことがないのですが……差し支えなければ、見せてくださいよ!」
「あぁ、もう、分かった! 分かったから、もう少し離れろ……。さっきからなんだなんだ。テンション高いなお前……」
手を突き出して距離をとるように示すと、乃蒼はすぐに従った。しかしワクワクしているのか身体が揺れている。
「すみません! なにぶん村の外に出るのは初めてなので色々と楽しくって! 見るもの全部に熱中しちゃいます! 紫苑さんはクールですね! 外の世界にいると、冷めちゃいます?」
「あぁ、冷める冷める。ついさっきも背筋が凍る思いをしたところだ。お前もそのうち興が冷めるぞ……」
ブツブツ言いながら、俺はポケットの中の物を取り出した。
取り出したのは、一双の白い手袋。ゴムのようでいて、きめの細かい絹のような質感。特徴的なのが、手首の辺りをぐるっと囲むリング状の装置。その装置にはランプとスイッチが一つ付いている。
これが二次元種に対応するための武器である。名を――
「『ディグ』! ……でしたっけ?」
「あぁ、そうだよ。『DIG』。正式名は「Dimension Interference Gloves(次元干渉手袋)」だ」
俺はDIGと呼ぶ手袋を軽く振ってみせる。
「凄い! これが本物のDIGですか! 紫苑さん、本当に『蒐集家』さんだったんですね!」
「なんだよ、疑ってたのか?」
俺があからさまに怪訝そうに言うと、手と顔を振って乃蒼は必至に否定する。
「いえ! とんでもない! ただ、本当にいるんだなぁって! 私、『蒐集家』を見たことがないもので! DIGだって初めて見ました!」
新しいおもちゃを見る子供のような目で乃蒼がDIGを見つめる。さあ今すぐそれを使って下さい! と、その目は訴えかけていた。
しかし俺は「そうか」と軽くあしらい、DIGを再びポケットに戻す。乃蒼はガーンという効果音が聞こえてきそうなショック顔を晒し、俺にすがりついてきた。
「使うところ見せてくれないんですか?」
「あのなぁ、見世物じゃないんだぞ。それとも偽物だとでも思ってるのか? とにかく、これはれっきとした対二次元種用の兵器だ。然るべき時にしか使わん」
やたら距離の近い乃蒼をつき離そうとするが中々離れない。未練たらしく乃蒼は続ける。
「えー……実は私、そもそも『蒐集家』が何者で、どうやって闘うかも知らないんですよね。なので、自己紹介のついでということで……今が然るべき時なのでは!?」
「「ついで」で披露するようなもんじゃないんだよ! まだ敵に追われてる時にそんな呑気なこと言って――」
完全に油断していた。呑気していたのは俺の方だった。
乃蒼と騒ぐ中で視界の端の草むらが揺れたのを数秒遅れて気が付いた。そしてそれの気配に気づいた時、既にそれは声を発していた。
「ご主人様?」
毎朝その声で目を覚ましたいくらいとろけるような甘い声色。しかし、その声を聞いた瞬間、俺は戦慄した。
DIGを使うようせがんでいた乃蒼も動きを止め、顔から血の気が引き始めた。
俺達の前方約十メートル先。痩せた木の間に生える、背の高い草むら。その中に、メイド服の少女が立っていた。顔にはやはり先ほど追いかけていた時と同じ笑みを浮かべている。
「しまった……なにが「然るべき時」だ。数秒前の俺を叱りたいぜ」
俺がそう漏らすと、乃蒼が歯をカタカタ鳴らしながら言う。
「な、なな、なんでここにいるのがバレたんでしょうか!? 紫苑さんが騒ぎ過ぎたから!?」
「騒いでたのはお前も同じだろうが……!」
などと責任の所在を追及している暇はない。メイドはじりじりと俺達に詰め寄っている。追い詰めた獲物を、今度は逃がさないよう慎重に追い立てているようだ。
俺はすぐさま立ち上がり後退しようとするが、後ろに広がるのは崖の壁。直線的に後退はできない。左右のどちらかに走る事になるが、この距離ならばどちらに逃げても捕まってしまう。
俺は歯を食いしばり、目の前の恐怖に身体が震えはじめる。
しかし、とある事に気が付いた。敵が一人しかいないのだ。
メイドを視界の端に捉えながら周囲を確認する。どうやら、他に誰もいない様子。敵は今、目の前のメイド一人だけ。
恐らく、奴らは見失った俺を探すために手分けして捜索し始めたのだ。そう確信すると乾いた唇を一舐め。1体だけならなんとかなるかもしれない。俺はゆっくりとポケットへと手を伸ばす。
「DIGを使うところ見たいんだよな?」
「え? い、今はいいですよ……空気読めない人ですね」
明らかに動揺を隠せない乃蒼が上ずった声。それに負けず劣らず、俺の声も少し震えていた。
「遠慮すんな、あいつをぶっ倒すついでに見せてやるつってんだよ……!」
俺はポケットからDIGを取り出すと、すぐさま両手に装着。そして腰に下げたバインダーの留め金を外し、開いた。
一連の動作が一瞬で行われた直後。メイドは俺達に向かって駆け始めた。
メイドは腰に手をやると、どこからともなく掃除用具のはたきを取り出し、更にスピードを上げた。
「ご主人様ぁ!」
しかし、俺も素早く対応。左手でバインダーのページを捲り、右手で乃蒼を横に押し飛ばした。
「わぁ!」と小さな悲鳴を上げて転がっていく乃蒼を横目にバインダーのとあるページで手を止める。
俺が開いたのはクレヨンで描かれた一本の『剣』のページ。銀色の両刃に同じく銀色の鍔、そして茶色の柄。クレヨンで描かれた剣は輪郭がボヤけて少々不格好だが、紛れも無く一本の剣だ。
俺はその剣が描かれた紙に右手を突っ込んだ。
ズズズという砂の中に手を入れたような、あるいは電子の乱れる雑音のような音と共に、右手は絵の中へと潜り込んでいく。そして、伸ばした手の先に、『何か』を感じる。その『何か』を確かに掴み取り、引き抜く。
再び雑音を鳴らしながら、それは紙の中から現れた。
絵から現れたのは『剣』。クレヨンで描かれていた通り少々歪でポップな見た目の銀色の剣だ。剣が描かれていた紙は白紙へと変わっている。
素早くバインダーを腰のベルトに戻す。
その間に、メイドは大きく跳躍し、俺の頭部めがけてはたきを振り降ろし始めていた。無駄のない機械的な動作だ。
剣の切っ先を下に構えた俺は――。
「おらぁっ!」
一歩踏み込み、はたきを振り払うように下から斬り上げる。メイドの振り下ろすはたきと剣がかち合った瞬間、鈍く低い衝突音が鳴り、重い衝撃が骨の髄まで響き渡った。
メイドと俺は互いに後方へ飛ばされる。
「ごしゅっ……じんさまぁ!」
「痛っ……! 重てぇな……! くそっ」
俺は崖の壁に背が当たったが、壁を支えに体勢を立て直す。メイドも同じく立ち直していた。
緊張と衝撃で自分でも分かるくらい顔は苦しく歪んだが、メイドの顔は全く変わらない。相変わらず仮面のように変わらない笑みを浮かべている。
そんな不気味な敵に、今度は俺から飛びかかった。後手で勝てる程、二次元種はヤワじゃない。勝つなら、こちらから攻めねば。
「いくぞぉ!」
体重をかけた重い上段からの振り。先ほどとは攻守が逆になり、今度はメイドがその斬撃をはたきで受け止める。再び重く鈍い衝撃音が鳴り響く。
しかし、今度は互いに吹き飛ばなかった。俺の渾身の一撃を、メイドが受け切ったのだ。
「ご主人、様ぁ!」
メイドが笑みを浮かべながらそう言ってはたきを押し込む。このまま、俺を弾き飛ばすつもりらしい。
そこまで頭で分かっていながら、俺の口元には不敵な笑みが浮かんだ。
「悪いけど、お前の安い掃除用具より、この剣の方が『画力』が高ぇんだよぉ!」
メイドは「意味が分からない」といった様子で首を傾げた直後。ピシッという亀裂音がはたきから鳴る。そしてあっという間に亀裂は広がり、はたきがへし折れてしまった。
「ご、ご主じ――」
「っらぁっ!」
はたきの破片をまき散らしながら、俺はそのまま剣を振り下ろす。メイドの脳天に刃がめり込んだ。
岩を叩くような重い感覚を感じながら、剣を振り抜く。そして、メイドは膝から地面に崩れ落ちた。血は出てないが、頭には剣の跡がくっきり残っている。
「ご、ごしゅじん……」
朦朧としているが、メイドはまだ意識があるらしく、呻き声を上げる。
「やっぱ頑丈だなぁ……こいつ!」
俺は少し震えた声でそう言い、腰につけたバインダーを取り出す。そして、中から白紙を一枚取り出す。白紙の表面を軽く撫でると、まるで水面のように紙が波打った。
「それじゃあな、メイド――」
言いながら俺は紙をメイドの頭に押さえつける。
すると「ご、ごしゅ……」と未だ呻くメイドの頭が紙の中へと吸い込まれる。
砂嵐のような雑音と共に、紙はメイドを取り込んでいき、頭が取り込まれると次は肩、胸、腰――そして最後に足が紙の中へと吸い込まれていく。
ほんの数秒足らずで、メイドの全身がその場から消え去ってしまった。手元にある一枚の紙を確認すると、俺は深いため息を溢して言う。
「蒐集完了……」
手に持っている紙には、フリフリのゴスロリメイド服をきた少女が描かれている。
そして、茂みに身を隠している乃蒼に向かって言った。
「さっき、「『蒐集家』が何者で、どうやって闘うかも知らない」って言ったよな。
DIGを使い、絵に描かれたモノを具現化し、二次元種と闘う。そして、倒した二次元種を紙に封じる。「絵を集める者」として名付けられたのが、俺達『蒐集家』だ」
キメたつもりだったが、俺の声はやはり少し震えていた。
正座しながらも、テンションが上がり早口でまくしたてる乃蒼。
俺は胡座をかいて岸壁に寄りかかる。冷ややかな視線を送り「じゃあ俺も下の名前でいい」とそっけなく応える。
『絵師』。字の如く、絵を描く者。
たしかにいつか相棒となる絵師が必要になると考えていた。しかし、それはあくまで二次元種との戦いに利用する為。
この女は「利用」の価値があるだろうか?ともあれ、二次元種に追われている現状、コイツを利用するしかないが……。
熟考し、一人頷く。
「そうそう! 『蒐集家』といえば!」
乃蒼の顔が急に視界を占拠した。息が顔にかかるくらいまで距離を詰められていた。
俺は仰け反って距離をとるが、追撃するように乃蒼が近寄る。
「『蒐集家』でしたら、『あれ』を持ってるんですよね!? 私、名前しか聞いたことがないのですが……差し支えなければ、見せてくださいよ!」
「あぁ、もう、分かった! 分かったから、もう少し離れろ……。さっきからなんだなんだ。テンション高いなお前……」
手を突き出して距離をとるように示すと、乃蒼はすぐに従った。しかしワクワクしているのか身体が揺れている。
「すみません! なにぶん村の外に出るのは初めてなので色々と楽しくって! 見るもの全部に熱中しちゃいます! 紫苑さんはクールですね! 外の世界にいると、冷めちゃいます?」
「あぁ、冷める冷める。ついさっきも背筋が凍る思いをしたところだ。お前もそのうち興が冷めるぞ……」
ブツブツ言いながら、俺はポケットの中の物を取り出した。
取り出したのは、一双の白い手袋。ゴムのようでいて、きめの細かい絹のような質感。特徴的なのが、手首の辺りをぐるっと囲むリング状の装置。その装置にはランプとスイッチが一つ付いている。
これが二次元種に対応するための武器である。名を――
「『ディグ』! ……でしたっけ?」
「あぁ、そうだよ。『DIG』。正式名は「Dimension Interference Gloves(次元干渉手袋)」だ」
俺はDIGと呼ぶ手袋を軽く振ってみせる。
「凄い! これが本物のDIGですか! 紫苑さん、本当に『蒐集家』さんだったんですね!」
「なんだよ、疑ってたのか?」
俺があからさまに怪訝そうに言うと、手と顔を振って乃蒼は必至に否定する。
「いえ! とんでもない! ただ、本当にいるんだなぁって! 私、『蒐集家』を見たことがないもので! DIGだって初めて見ました!」
新しいおもちゃを見る子供のような目で乃蒼がDIGを見つめる。さあ今すぐそれを使って下さい! と、その目は訴えかけていた。
しかし俺は「そうか」と軽くあしらい、DIGを再びポケットに戻す。乃蒼はガーンという効果音が聞こえてきそうなショック顔を晒し、俺にすがりついてきた。
「使うところ見せてくれないんですか?」
「あのなぁ、見世物じゃないんだぞ。それとも偽物だとでも思ってるのか? とにかく、これはれっきとした対二次元種用の兵器だ。然るべき時にしか使わん」
やたら距離の近い乃蒼をつき離そうとするが中々離れない。未練たらしく乃蒼は続ける。
「えー……実は私、そもそも『蒐集家』が何者で、どうやって闘うかも知らないんですよね。なので、自己紹介のついでということで……今が然るべき時なのでは!?」
「「ついで」で披露するようなもんじゃないんだよ! まだ敵に追われてる時にそんな呑気なこと言って――」
完全に油断していた。呑気していたのは俺の方だった。
乃蒼と騒ぐ中で視界の端の草むらが揺れたのを数秒遅れて気が付いた。そしてそれの気配に気づいた時、既にそれは声を発していた。
「ご主人様?」
毎朝その声で目を覚ましたいくらいとろけるような甘い声色。しかし、その声を聞いた瞬間、俺は戦慄した。
DIGを使うようせがんでいた乃蒼も動きを止め、顔から血の気が引き始めた。
俺達の前方約十メートル先。痩せた木の間に生える、背の高い草むら。その中に、メイド服の少女が立っていた。顔にはやはり先ほど追いかけていた時と同じ笑みを浮かべている。
「しまった……なにが「然るべき時」だ。数秒前の俺を叱りたいぜ」
俺がそう漏らすと、乃蒼が歯をカタカタ鳴らしながら言う。
「な、なな、なんでここにいるのがバレたんでしょうか!? 紫苑さんが騒ぎ過ぎたから!?」
「騒いでたのはお前も同じだろうが……!」
などと責任の所在を追及している暇はない。メイドはじりじりと俺達に詰め寄っている。追い詰めた獲物を、今度は逃がさないよう慎重に追い立てているようだ。
俺はすぐさま立ち上がり後退しようとするが、後ろに広がるのは崖の壁。直線的に後退はできない。左右のどちらかに走る事になるが、この距離ならばどちらに逃げても捕まってしまう。
俺は歯を食いしばり、目の前の恐怖に身体が震えはじめる。
しかし、とある事に気が付いた。敵が一人しかいないのだ。
メイドを視界の端に捉えながら周囲を確認する。どうやら、他に誰もいない様子。敵は今、目の前のメイド一人だけ。
恐らく、奴らは見失った俺を探すために手分けして捜索し始めたのだ。そう確信すると乾いた唇を一舐め。1体だけならなんとかなるかもしれない。俺はゆっくりとポケットへと手を伸ばす。
「DIGを使うところ見たいんだよな?」
「え? い、今はいいですよ……空気読めない人ですね」
明らかに動揺を隠せない乃蒼が上ずった声。それに負けず劣らず、俺の声も少し震えていた。
「遠慮すんな、あいつをぶっ倒すついでに見せてやるつってんだよ……!」
俺はポケットからDIGを取り出すと、すぐさま両手に装着。そして腰に下げたバインダーの留め金を外し、開いた。
一連の動作が一瞬で行われた直後。メイドは俺達に向かって駆け始めた。
メイドは腰に手をやると、どこからともなく掃除用具のはたきを取り出し、更にスピードを上げた。
「ご主人様ぁ!」
しかし、俺も素早く対応。左手でバインダーのページを捲り、右手で乃蒼を横に押し飛ばした。
「わぁ!」と小さな悲鳴を上げて転がっていく乃蒼を横目にバインダーのとあるページで手を止める。
俺が開いたのはクレヨンで描かれた一本の『剣』のページ。銀色の両刃に同じく銀色の鍔、そして茶色の柄。クレヨンで描かれた剣は輪郭がボヤけて少々不格好だが、紛れも無く一本の剣だ。
俺はその剣が描かれた紙に右手を突っ込んだ。
ズズズという砂の中に手を入れたような、あるいは電子の乱れる雑音のような音と共に、右手は絵の中へと潜り込んでいく。そして、伸ばした手の先に、『何か』を感じる。その『何か』を確かに掴み取り、引き抜く。
再び雑音を鳴らしながら、それは紙の中から現れた。
絵から現れたのは『剣』。クレヨンで描かれていた通り少々歪でポップな見た目の銀色の剣だ。剣が描かれていた紙は白紙へと変わっている。
素早くバインダーを腰のベルトに戻す。
その間に、メイドは大きく跳躍し、俺の頭部めがけてはたきを振り降ろし始めていた。無駄のない機械的な動作だ。
剣の切っ先を下に構えた俺は――。
「おらぁっ!」
一歩踏み込み、はたきを振り払うように下から斬り上げる。メイドの振り下ろすはたきと剣がかち合った瞬間、鈍く低い衝突音が鳴り、重い衝撃が骨の髄まで響き渡った。
メイドと俺は互いに後方へ飛ばされる。
「ごしゅっ……じんさまぁ!」
「痛っ……! 重てぇな……! くそっ」
俺は崖の壁に背が当たったが、壁を支えに体勢を立て直す。メイドも同じく立ち直していた。
緊張と衝撃で自分でも分かるくらい顔は苦しく歪んだが、メイドの顔は全く変わらない。相変わらず仮面のように変わらない笑みを浮かべている。
そんな不気味な敵に、今度は俺から飛びかかった。後手で勝てる程、二次元種はヤワじゃない。勝つなら、こちらから攻めねば。
「いくぞぉ!」
体重をかけた重い上段からの振り。先ほどとは攻守が逆になり、今度はメイドがその斬撃をはたきで受け止める。再び重く鈍い衝撃音が鳴り響く。
しかし、今度は互いに吹き飛ばなかった。俺の渾身の一撃を、メイドが受け切ったのだ。
「ご主人、様ぁ!」
メイドが笑みを浮かべながらそう言ってはたきを押し込む。このまま、俺を弾き飛ばすつもりらしい。
そこまで頭で分かっていながら、俺の口元には不敵な笑みが浮かんだ。
「悪いけど、お前の安い掃除用具より、この剣の方が『画力』が高ぇんだよぉ!」
メイドは「意味が分からない」といった様子で首を傾げた直後。ピシッという亀裂音がはたきから鳴る。そしてあっという間に亀裂は広がり、はたきがへし折れてしまった。
「ご、ご主じ――」
「っらぁっ!」
はたきの破片をまき散らしながら、俺はそのまま剣を振り下ろす。メイドの脳天に刃がめり込んだ。
岩を叩くような重い感覚を感じながら、剣を振り抜く。そして、メイドは膝から地面に崩れ落ちた。血は出てないが、頭には剣の跡がくっきり残っている。
「ご、ごしゅじん……」
朦朧としているが、メイドはまだ意識があるらしく、呻き声を上げる。
「やっぱ頑丈だなぁ……こいつ!」
俺は少し震えた声でそう言い、腰につけたバインダーを取り出す。そして、中から白紙を一枚取り出す。白紙の表面を軽く撫でると、まるで水面のように紙が波打った。
「それじゃあな、メイド――」
言いながら俺は紙をメイドの頭に押さえつける。
すると「ご、ごしゅ……」と未だ呻くメイドの頭が紙の中へと吸い込まれる。
砂嵐のような雑音と共に、紙はメイドを取り込んでいき、頭が取り込まれると次は肩、胸、腰――そして最後に足が紙の中へと吸い込まれていく。
ほんの数秒足らずで、メイドの全身がその場から消え去ってしまった。手元にある一枚の紙を確認すると、俺は深いため息を溢して言う。
「蒐集完了……」
手に持っている紙には、フリフリのゴスロリメイド服をきた少女が描かれている。
そして、茂みに身を隠している乃蒼に向かって言った。
「さっき、「『蒐集家』が何者で、どうやって闘うかも知らない」って言ったよな。
DIGを使い、絵に描かれたモノを具現化し、二次元種と闘う。そして、倒した二次元種を紙に封じる。「絵を集める者」として名付けられたのが、俺達『蒐集家』だ」
キメたつもりだったが、俺の声はやはり少し震えていた。
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