悪役令嬢が最弱（モブ）勇者を育ててみたらレベル９９の最強に育った

＃８ 死亡ルート回避不可なら不可って最初から注意書きつけといてください

「ごめん、勇者くん」
　二桁カラットのネックレスを勇者くんに握らせ、わたしはサッと立ち上がる。聖なる獣の化身がわたしを殺しに来た。この状況下できちんと頭の動いた自分を、わたしは褒めた。

（『勇者くんをまきこむわけにはいかない』）

　攻略本上の話をするなら、「ジアンナ」が死ぬのはルート最後であり、こんなふうに主人公サイドが積極的にジアンナを除こうと動くエピソードはないはずだった。彼らはあくまでも「害される」立場であり、だからこそ「ジアンナ」＝悪の破滅は勧善懲悪として成立し、プレーヤーにとっての快感になりうる。
　はずなんだけど、その「ジアンナ」が逃げちゃったからかなあ。捕獲しにくるのもわかるんだけど、このひと「殺しにきた」って言ったよね。ここで「ジアンナ」を殺しちゃうと世界を救うのに花村祥子を使わなきゃいけなくなると思うんだけどいいのかな？

「逃げても、無駄だよ！」

　真昼間の往来だというのに、ルウイは関係なく火の球を放ち、わたしを追いかけてくる。何がいやらしいかというと、ときどきわざと狙いを外して建物の壁や窓を攻撃することだった。こうすることで、被害者の心理としては「あいつ（＝わたし）のせいでこんなことになった」という方向へ動き、わたしをかくまおうとする人がいなくなる。
　かよわい美少女相手だというのに、なんてやつだ。
「わぁっ！？」
　そばの建物に火球が直撃してレンガが崩れ落ちてきた。とっさによけたものの足もとがよろめいてしまい、わたしはその場に尻餅をつく。そこへ、次の火球が襲いかかってきた。

（しまった！）

　思うも、身を守れるものがない。推して思うに、胴のど真ん中に風穴が空く軌道だった。どうあがいても穴をあけたいらしい。やだやだそんな性癖危険人物以外の何物でもないじゃない。むしろなんで野放しにしちゃってんの？
（お遊びはおしまいだってやつかあああああ！？）

　なにそれ悪役が主人公にいうようなやつ。悪役はこっちのはずなのになんで「ジアンナ」が言われちゃってんの！？
　ああ、まさか全ルート死亡回避する以前に死ぬことになるなんて！
　むしろ回避しようとしたからなのか！？　そうなのかー！？
　わたしは死を覚悟した。