悪役令嬢が最弱(モブ)勇者を育ててみたらレベル99の最強に育った

タチバナ

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#25 たまに時間差で来ることがある

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 こんにちは、給料日です。
「はい、おつかれさま。助かったよ。また機会があったらぜひ来てね」
「ありがとうございます」
 わーい、やっとお金が手に入ったよー! 宿代と食事代天引きされるし短期だからそんなに額があるわけじゃないけど、帰りにさっそくラアルさまの帽子と服を手に入れた。これでやっと普通の格好ができる。

(あれから変なちょっかいを受けることもなくなったし)

 うきうきとわたしは考える。
 白昼堂々、コセムくんが盛大に懲らしめてくれたからなのか、おかげで気持ちよく短期労働契約を完走できました。されど、人づてに情報が伝わるということは、当然アレクくんの耳にも入るわけで。

「習熟適性が四つ……?」
「うん、そう言ってたよ」
「……」

 何かを言おうとするように一度だけ口を開いて、けれど結局アレクくんはうつむいてしまう。宵の口ということもあって、あちこちから香ってくる焼き物や香辛料のにおいが空腹にしみるようだった。アレクくんの横顔を見、わたしはふと思いだす。
(そういえばアレクくんの友だちの話って聞いたことなかったな)
 村を出て二年一人で旅をしていると言っていた。そのときちょっとあれ? とは思ったんだよね。ほら、ゲームとかだとだいたいパーティ組むじゃんね。コセムくんも勇者と行動してるって言ってたし。

(コセムくんのこと、知ってるのかな?)

 詮索はよくないと思いつつも、じっと物思いにふけるような彼についわたしは考えてしまう。ふと自分がアレクくん自身のことについてほとんど知らないことに気づいた。
(お互いに避けてたからなあ)
 わたしは自分の、こと悪役令嬢であることを彼に知られたくなかったし、アレクくんも必要以上に自分のことについて話そうとはしなかった。

 ――俺は弱いけど……勇者としてはゴミで、どうしようもなくちっぽけで、使えないのかもしれないけど。きみの盾くらいには、なれるよ

 五番聖都でも思ったけど、アレクくんてちょっと自己評価低いとこあるよね。すごい治癒魔法を使えるんだからもっとそれを誇ればいいのにと思う。やさしいところとか物を大事にするところとか、話も上手だし料理だって上手だ。身長もあるし、目立たないだけで実は結構整った顔だちをしている。

(それだ!)

 勢いわたしは手を鳴らした。渋るアレクくんをなんとか説き伏せて先に宿に戻ってもらうと、目指すお店に向かう。
 素材屋という、武器・防具専門のお店だ。冒険者たちが持ち込んだ素材を買い、その素材で強力な武器や防具を作る。テイラーと呼ばれているようだ。

(ずっとお世話になってるんだし、この機会にプレゼントしてもいいよね)

 通りに面しているお店のなかはランタンで照らされて、所狭しと品物が置かれている。イドの町では一人でずっと爆笑してる剣とか目玉がぎょろぎょろしてるリボンとかがあって怖くなって出ちゃったんだけど、ここは普通の品物が多いようだった。熱心に短剣を物色している冒険者らしきお客さんの後ろを通り、わたしは小物コーナーに向かう。

「うれしいなあ、一般のお客さんってめったに来てくれないんだよねー。こわがっちゃって」

 さっそく金額の桁にびっくりしてたら、お店の人に話しかけられた。
「毎日同じ素材が入ってくるとは限らないからどうしても時価になっちゃうんだよねー」
 曰く、テイラーの仕入れは完全に冒険者任せで、その日に持ち込まれた素材がすべてなのだそうだ。だから店頭に並ぶ商品も日替わりになるし、価格も安定しない。
 何かお探しですか? と問われ、わたしは答えた。

「えっと、邪魔にならない程度の装身具的な」

 あと価格がお手頃だとうれしいです。
 とは言わないでおく。それでも察してくれたようで、お店の人がくすっと笑った。たぶんそういうお客さんが多いんだろう。
「それなら、フィブラとかどう?」
「フィブラ?」
「マントの留め具って言ったらわかるかなー。素材の余りで作ってあんの。なるべく余りがでないようにするのもテイラーとしての腕なんだけどねー」
 そういえばおかみさんのお店でも「まかない」と称して食材の余りでごはんを作ってもらったななどとわたしは思いだす。ぐう、とおなかが鳴った。

「たとえばこれ。法賢の血っていう、ようは魔力の塊なんだけど、それを埋め込んであるから一回だけ誰でも魔法が使えます」
 お店の人が一つ一つ手に取って説明してくれた。土台パーツは主に金属や鉱石、木材などで、たまに骨や皮でも作るそうだ。デザインはシンプルなものが多くて、わたしはアレクくんを思い浮かべながら商品を見ていく。そのうちに一つが目に留まった。
「それはね、一度だけ持ち主の身代わりになってくれる効果があるよ。もしお守り替わりに贈るなら一番おすすめ。今なら特別におまけしちゃうよー」 
「じゃあこれ、ください」

 わたしが選んだのは銀の土台パーツにこまかな細工装飾が入った一番シンプルなフィブラだった。ほかにも綺麗な石がちりばめられたものや羽がついたもの、ロココな感じのデザインなんかもあったけれど、シンプルな方がアレクくんに似合うような気がしたのだ。
 お店を出、ほくほくと帰途につく。なんだかんだでテイラーに長居してしまったので、道行く人はまばらだった。アレクくんたち心配してるかなと思いながら歩いていたときだった。突然横から腕を引かれ、わたしは見覚えのある赤い髪の男と対面する。

「アウス」
「悪いな、これで全部だ」

 ド、と胸を打たれたような衝撃があって。
 気づくとわたしは暗い路地裏に倒れていた。ぼやけていく視界に、じわじわと広がっていく赤い血だまりが見える。それから、アレクくんのために買ったフィブラが。
 やがてわたしの意識はフェイドアウトしていったのだった。
 ――BAD END――

 ▽オートセーブ地点からスキップしますか?





(ちょっと待てええええええいッ!)
 あああぁーーーー油断したーーーーーッッ!





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