悪役令嬢が最弱(モブ)勇者を育ててみたらレベル99の最強に育った

タチバナ

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#41 忘れた頃に来るアレ

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 ここまで遭遇してきた魔物から収集した素材をテイラーで換金し、髪型と一緒に服装もリニューアルしてみました。こんな旅だからスカートはなるべくはかないようにしてるんだけど、山奥の村でもらった服がスカートだったのでこちらは着替え用に回すことにした。
「外にはどんな魔物が徘徊してるかわからないからな。もし長旅をするつもりなら、ここで装備を見直していくといいよ。先の襲撃でめずらしい素材がたくさん入ってきたんだ」
 所持金に余裕ができたのとテイラーのおじさんのすすめでアレクくんたちも一部装備を買い替えた。テイラーのおじさんがアレクくんの襟もとを見、言う。

「こりゃあ……。ほかを勧めるのは野暮ってやつだな。にいちゃん、大事にしなよ」

 フィブラのことを言っているようだ。アレクくんが照れ照れとうなずいているのを見、わたしは困ってしまう。
 大事にしてくれるのはもちろんうれしい。うれしいけど、ほかにいいのがあるなら普通につけかえてほしいです。
 とも言うことができないまま店を出る。アレクくんはプレートアーマーと靴、それから腕につける篭手を、コセムくんは耐魔法効果の高い服と付加効果のあるナイフを買った。

「コセムくんは、杖は使わないんだね」

 なんとなく魔法使い=杖のイメージがあったんだけど、そういえばコセムくんて基本指パッチンだよね。詠唱もしないし。
「呪文はそれ自体が力を持っているわけではないんですよ。どういう方法であればより集中を高め己の意図した通りの結果に近づけることができるかという話なので、設計図を口にする方が発現させやすいからという方が、いわゆる詠唱をおこなうのだと思います」
 気を悪くした風もなく、コセムくんが教えてくれる。それから杖についても。

「杖は魔力の増幅装置になり、より効果を高めることができます。俺も本当は持っていた方がいいんでしょうね。わかりやすいですし」

 何か思い出すエピソードがあったのか、コセムくんがそこで肩をすくめた。
「俺は正直、あまりこの力に頼りたくないんです。リルケさまにも言われましたしね。そこでナイフを習ったのですが、根が横着なものですから、すぐに楽をしてしまって」
「楽じゃないと思うけど。使えるんだから使えばいいじゃないか」
 アレクくんだった。手元の地図から視線をコセムくんに移して言う。

「おまえはなんだから、わざわざ別の手段なんか覚えなくたって」
「二年も時間があったなら一度くらい見直す機会があってもよさそうなものだが、よほどその短小で蒙昧もうまいな物差しが気に入っていると見える。おまえはやはりその程度の男だ。勇者の名を捨てさっさと村へ帰れ」
「あああ、あの!」

 待って待って確かに地雷踏んだのはアレクくんだけど、もとはといえば話を振ったのわたしだしそんなに一度に言ったらアレクくん泣いちゃうからあああああ。 文字通り凍りついた空気から逃げるように、わたしは地図を指さした。
「第二番聖都へ行くには第三番聖都のあるリガオウルを抜けなきゃいけないんだよね。今ってどのへんなの?」
「……ウフタ・サボエイジ中部の」
 アレクくんの眼がコセムくんから地図へ、それからハイライトを復帰させてわたしへと至る。現在を咀嚼してゆっくりと再起動するような間だった。
 ハラハラひやひやするわたしを裏切るように、しっかりした声が続ける。

「だいぶ西の方だね。王都方面に行くことになるけど、俺は船を使った方がいいと思う」
「この町やこれまでの町がそうだったように魔物の攻撃を受けているかもしれないが、船の着く港駅町は同時に冒険者たちの出入りも多い。そこに賭けてみよう」

 コセムくんはもういつもの彼だったけど、なんとなくわたしはコセムくんに話しかけた。
「最初に会ったとき、コセムくんはリルケさまの依頼で来たって言ってたよね。第二番聖都って、どんなところなの?」
 距離にして徒歩一日半、港駅町トルファを目指して歩く。わたしはコセムくんに、ユグノくんが一緒にいるならと、ラアルさまたちのすでに第二番聖都に到着している可能性を挙げた。

「ラアルさまが――えっと、あのときわたしと一緒にいた銀の髪の綺麗な聖女のような天使のことなんだけど、甘いものが好きでね。おいしいスイーツのお店がたくさんあったらいいなあと思って」
「ありますよ」

 コセムくんがやわらかく笑んで、すらすらとお店の名前、それからメニューをそらんじて見せる。ちなみに本人が希望して行っているわけではないそうだ。
「リルケさまが甘いものに目がないんです。それでよくおつかいに行っていたので、自然と詳しくなったというか」
「なるほど」

 ラアルさまと話が合いそうだねって喉まで出かかったけど、やめた。現実にこうして第二番聖都に向かってるわけだけども、第五聖人、第四聖人がすでに失われている今、第二聖人であるリルケさまの生存はあやしい。話題にしないだけでコセムくんもその可能性は当然考えているはずだった。
 おつかいを任せられるほど親しい間柄だからこそいたずらに話を膨らませない方がいいのかなと考えてのことだったんだけど、かえって余計なお世話だったかもしれない。

 元は小麦畑だったらしい丘陵地帯は文字通り焦土と化し、川は干上がったり流れがねじまがったりしている。建物は見つけてもほとんど壊れて中には魔物がいた。
 王都に近づくにつれて魔物が大きく、そして硬くなっていく。『インパクト』や最近習得した『二爪』でパワー負けすることが多々あった。とりわけ気になるのが火を使う魔物が多く占めていることだ。そういえば静暁の魔女が爆誕したとき、化身さまたちが魔物になってたよね。あれはいったいどこに行ってしまったんだろう。
 などと考えていると通行止めにあった。いずれも経験値の高そうなマッチョなお兄さんたちで、曰く、魔物が王都を占拠しているのだという。通りがかる人間を片っ端から襲っているとのこと、これ以上被害を出さないため王都へ通じる道を有志で手分けをして注意喚起してるのだそうだ。

「王都じゃなくてトルファの方に行きたいんだけど」

「それなら大きく南に迂回していった方がいい。この様子じゃ船が動いてるかどうかも怪しいがな。ともかくも、ここは絶対に通すなと言われている」
 お兄さんが頑固そうに首を横に振る。
「勇者さまたちがすぐに取り返してくれるさ。どうしてもというのならそれが終わるのを待つんだな」
「勇者さま?」
「ああ。先日もこの近くの町を救ったばかりだ。まあ、オレたちもそのとき一緒に戦ってたんだけどな」

 どうしようか。わたしは後ろの二人を振り返る。まさか力づくで通るわけにもいかないし、さりとてここから迂回コースに行くのもちょっと面倒臭い。
 すると、なぜか選択肢が表示される。

 ▽王都へ行ってみよう
 ▽しかたない。あきらめて南へ迂回しよう
 ▽二人の意見を聞いてみよう

 なんだこれ? とわたしは首をかしげた。選択肢にされるまでもなく二人の意見を聞きたいので、三番目を選択する。
 そして全滅したのだった。




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