悪役令嬢が最弱(モブ)勇者を育ててみたらレベル99の最強に育った

タチバナ

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#43 休息

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 花村祥子が、なんだって?
 港駅町トルファに到着するまでの間は平和なものだった。魔物は出たけど。

(そういえばすっかり忘れてたな)
 知らないはずのパンディオのことを知っていた花村祥子。わたしを“悪役令嬢”と呼び、まるで自身が静暁の魔女本人であるかのようにふるまっていた花村祥子。
 攻略対象であるはずの化身たちが全員デフォルトで花村祥子サイドに属していた理由。もろもろから考えた結果、わたしは「花村祥子を介して化身たちを使い宝玉を集めていたのではないか」という仮説をたてた。
 なぜ本来別々に存在していたはずの世界が交差したのか。静暁の魔女=花村祥子を追いかけていけば明らかになるんだろうか。そしてこの絡まった世界をあるべき形に戻すことができるんだろうか。

(そのとき「ジアンナ・ゲイル」はどうなるんだろう)

 やっぱりシナリオ通りに殺されてしまうのかなあ。言うて一回死んでるんだけど……。
「『来たな、静暁の魔女』」
 トルファに到着して早々勇者と思しき複数のパーティとバトルすることになってしまった。来たなってことは待ってたのかな? 

(でも、早馬に追い越されなかったよね)
 ルウイを倒したことを報告したとき、マッチョのお兄さんたちはとても信じられないといった様子で確認次第周辺に知らせると言っていた。トルファまでは一本道で、王都の勇者たちはわたしたちに託して息絶えてしまったから仲間が知らせたとも考えがたい。目的地だって言ってないしね。
 ではなぜ彼らはわたしたちがここに来ることを知っていたのか。わたしはコセムくんに言った。

「できれば生け捕りにしたいよね」
「ええ、もちろん。聞きたいことが山ほどありますからね」

 コセムくんが快諾し、わたしは集まってきた野次馬の皆さんにキープアウトを告げる。襲ってきた勇者一行は洞窟の勇者一行のように装備が立派で、こんな状況じゃなかったら写真の一枚も撮りたいくらいだ。装飾とか細かくて差し色もおしゃれで、ほんとにかっこいいんだよ~。
(みんな顔がいいし――ん?)

 不意に何かひらめきのようなものが脳裏をよぎっていったけどその正体を得ることはできなかった。わたしはアレクくんと連携してコセムくんをフォローするように戦う。『ゴスペル』は問題なく効いてるしパワー負けもしていない。
 元化身のルウイを倒したんだもん。そうそう負けることはないはずだ。だけどこっちを殺すつもりで来ている相手を、どうやってそれも生きたまま安全にとらえればいいんだろうか。

「任せて」

 アレクくんが言った。
「できそうな気がするんだ」
 そうして唱えたのは数字ボーナスで習得した二つ目の魔法だ。太陽光を思わせる白い光がシャワーのようにそそいで、各パーティから次々と黒い影のようなものが抜けていく。
 まもなく、彼らの目にハイライトが戻った。

「あれ……?」
「私たち、たしか王都の魔物を倒しに行くはずだったわよね……?」

 誰もが状況を理解できないというように戸惑っている。どうやら自分の意思でわたしたちを襲ったわけではないようだ。
「突然、頭の中で声が聞こえたんだ。静暁の魔女を殺せって」
 勇者の一人が言う。

 いくつか戦闘に巻き込まれて建物が壊れてしまったけど、死者を出さずに済んだことにわたしは胸をなでおろした。魔法攻撃というと全体攻撃やとにかく範囲が広いイメージがあるけど、コセムくんはそのあたりの加減が本当に上手だった。山でも一度も火事を起こさなかったし。

「あなたが静暁の魔女なの?」

 アレクくんが怪我人を魔法で治癒する間、パーティのお姉さんがわたしに向かってたずねた。そういえば人相書きに似てるなと誰かがつぶやいて、再び場に殺伐とした空気が流れる。
「そうすると俺は静暁の魔女を守っていることになりますね」

 コセムくんだった。パチンと例によって指を鳴らすと、彼の頭上に太陽でも召喚したんですか? っていうくらい巨大な火炎の球体が登場する。もっとも本物の太陽なら登場と同時にわたしたちは骨も残さず消えてるだろうけど。
 コセムくんは意味もなく自身の力を示威するような人じゃない。先手必勝。たぶんわざと実力差を示すことで相手の気勢や戦意をけずり、冷静になるよう促すつもりなのだろう。

「俺はいたって正気のつもりですが、何しろ彼女はかように魅力的で俺はすっかり身も心もとらわれていますからね、裏切り者とでも腑抜けとでもお好きに。かわりにあなた方は名誉の死と墓碑に刻まれ、後世その名をたたえられることでしょう」
「……俺も」

 駄目押しするようなコセムくんに並ぶようにしてアレクくんが剣をかまえた。それぞれに花のエフェクトが散ってアレクくんの剣のフォルムが再び変化する。文字の浮彫で刻まれた青みのある両刃、その根もとを抱くようにして鍔(ガード)の部分に妖精を思わせる像の装飾がある。長く伸びたグリップの先端には刀身と同じ色の鉱石がはめこまれ、実用性よりも芸術性を感じさせるデザインだ。

(?????????)
 アレクくんの剣の変化=アレクくんの心の変化、というのがわたしの見解だけど、今ってそういう場面だったかな? とは思ったけどいいところなので黙ってますね。
 わかったよと勇者サイドから声が聞こえた。

「おまえたちのようなめんどくせえパーティとやりあう気はねえ」
「味方同士で削りあってもしょうがないしな。これも魔女の罠かもしれねえ」

 各勇者一行たちがそれぞれに納得したように去っていった。わたしたちに興味をもったらしい一行に誘われて、店で一緒に食事をする。メインはもちろん情報交換だ。
 笑って、騒いで、久しぶりに楽しい食事だった。その夜、わたしたちは遅くまで飲んで食べて、宿屋でぐっすりと眠った。




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