Magic_and_Sorcery~生活魔法すら使えなかった俺が精霊に魔術を教わって真の勇者となるまで~

篠日記

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chapter.001《邂逅》

#002_魔術図書室

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「さて、と」

 自室にて朝食を終え、俺は自分の持ち物の整理をしていた。
 これが意外に多いのだ。制服など身につけていたものだけでなく、鞄や教科書、体操着まである。

 俺たちの召喚は、なぜか教室まるごとだった。人間だけでなく、その周囲の物体までまるごと削り取るように召喚されたのだ。
 正確には、円柱状だった。教室の中央を基点とし、そこから部屋の四隅を含むように円を描く。その範囲に含まれるものすべてが、まるで切り取られるようにこの世界に連れてこられた。なので、すこしだけ廊下や隣の教室の物体まで巻き込まれていた。隣のクラスが移動教室でなかったら、何人かは巻き添え召喚を食らっていたかもしれない。

 とにかく、俺のクラスは教室まるごと召喚されたわけで、こっちの世界に持ってこられた私物はかなりの量になっていた。なにせ、ロッカーに入れっぱなしだった全教科分の教科書が手元にあるわけだ。
 これ、要らないよな? あ、いや、物理と化学は役に立つか? それ以外は使用人に言って捨ててもらおう。

 筆記具や鞄は使えるだろう。体育ジャージは寝衣に使っている。こう言っちゃ悪いが、服などの布類に関しては、もとの世界のほうが圧倒的に質がいい。
 財布も財布として使えるだろう、まだこっちの世界の通貨を見たことないけど。現金やポイントカードは……使えないのはわかっているが、なんか捨てづらいな。持っとくか……。

 スマホもまだ充電はある。充電器もだ。もちろん圏外でゲームもできないし、こっちの世界には電源もない、モバイルバッテリーも空になったから充電もできない。かといって、これらも捨てるのには抵抗がある。

 腕時計もまだ動いているが、これもなんか捨てづらい。測ってみたら、この世界の一日は25時間ちょっとくらいだったからこの時計は正確な時間を表せてない。けど、この世界はまだ陽の傾き具合で時間を見ているから、時間は狂っていても異世界のカラクリという価値くらいはあるかもしれない。
 ちなみに、こっちの世界の一年の長さはもとの世界とほぼ同じで、月も十二に分かれていた。四季がある緯度のようで、各季節ごとに第一月から第三月までと決まっている。現在は春季の第二月……もとの世界で言うと四月くらいだろう。もといた世界は秋口だったから、半年ほどはずれてることになる。ずれてて問題があるわけじゃないけど。

 ひとまず使うかもしれないものは鞄にまとめておき、いらないものは部屋の隅に置いておこう。
 ……というか、部屋も部屋でどうにかならないものか。
 俺たち召喚者に割り当てられたのは、スイートもかくやというほどの豪華な部屋だ。天蓋つきのベッドに、触れるのすら恐ろしくなるほど美しい調度品、なんか高いそうな絵画など……美術館で寝泊まりしているようで、落ち着かない。

 部屋を変えてもらえないかな……。図書室からも遠いし。メイドさんに頼んでみよう。


 ***


 あまりにも暇を持て余したので、俺はもう図書室へ行くことにした。
 指導役からの許可はもう下りている。今朝、朝食を持ってきてくれた使用人から聞いたのだ。

 その使用人に書いてもらった城内の地図を見ながら、魔術図書室へと辿り着いた。が、まだ掃除中であった。

「申し訳ございません。まだ清掃が終わっておらず……」
「あ、いや、大丈夫ですよ。様子を見にきただけなので」

 謝罪するメイド長と見習いたちを制止しつつ、俺はぐるりと室内を見渡す。
 想像よりかなり広い部屋だった。学校の図書室なんて比ではない。俺の住んでいた街の市立図書館より大きいのではないだろうか。

 そんな面積をせっせと掃除してくれている使用人を見やる。
 彼らは初等魔法……生活魔法を駆使して掃除していた。埃を舞わせず吸着したり、絨毯を敷いたまま水魔法で洗濯・風魔法で乾燥させたり……。
 こうして見ると、改めて魔法というファンタジーな存在に感動してしまう。

 ……と同時に、ひどく自分に失望してしまいそうになる。
 俺ができるのは、せいぜいこの程度……いや、これ以下なのだ。魔法を倒すために召喚されたのに、掃除洗濯にすら使えない魔法能力しか持ってない。俺の存在価値とは……。

 そんなことを考えていると、見習い使用人の一人がすべての清掃を終了した旨を報告してきた。メイド長が細かく確認し、合格を出す。

「たいへん長らくお待たせいたしました。我々はこれで失礼いたします。またなにか御用があれば……」
「あっ、この図書室近くに空部屋ってありませんか? いまの部屋からここは遠すぎて……」
「……お客様用ではありませんが、来賓の方がお連れになった使用人の控室なら部屋なら空いております。そちらでよければご用意できますが」
「じゃあ、そこでお願いします」
「かしこまりました。移動の準備ができ次第、お声をかけさせていただきます」
「はい。お願いします」

 一礼して、使用人たちは退室していった。

「……さて」

 これで俺は魔術の勉強を始められるようになったわけだ。
 だが、そもそも魔術とはなんなのかの知識すら俺にはない。入門書的なのがあればいいんだが。ひとまず見て回ろうか。

 この図書室は縦に長い作りになっていた。読書スペースは入り口前と部屋奥に、長机と椅子が並べてある。それ以外は巨大な本棚が規則正しく立っているだけだ。

 蔵書はどれもこれも古いものばかりだ。装丁にも統一感はない。紙質はどうだろう。どれか手に取ってみるか……。
 なんとなく、一番奥の壁側の棚、その一段目の左端をみる。こういうのは一番端から読んでいくのがベターだろう。

 本棚は二メートル以上。そばに立ててあった木製の階段梯子に登って、目的の本へと手を伸ばす。
 ……なかなか取り出せなかった。ぎちぎちに詰め込まれているようだ。

 本棚を押さえつけ、力任せに引っ張り出そうとする。
 ぐっ、ぐっ、とすこしずつ力を込めて、あともうちょい、というところで、強めに引っ張る。

 すると、すっぽ抜けるように本が飛び出した。

「えっ」

 その勢いで、梯子がうしろに倒れ、

「うッ」

 ゴッ、と背中を強打。
 それに加え、バギッとなにかが割れるような音がした。

 痛みに悶えつつ、俺は背中を打った床を見る。
 絨毯がへこんでいた。いや、へこむっていうか、なんか絨毯下のなにかを叩き割った感じ……?
 音的には木の板みたいな感じだったが、城は石積みでできていたはずだ。この図書室も例外ではない。しかし床に触れてみると、ギィ、と気が軋む音がした。

 絨毯をめくろうとしてみるが、本棚が乗っていて動かせない。
 どうにかならないか? 絨毯をちょっと強めに引っ張ってみる……と、ビィィ! と破けてしまった。またやっちまった……。
 でも、そのおかげで下が見えるようになった。
 やはり木の板のようだ。そしてその下には空間がある模様。

 絨毯をなるべく丁寧に破く。いや、丁寧でも破った時点でアウトなんだろうけどさ。
 破り去って、割れた板を取り除くと……、

 階段があった。
 隠し部屋? いや、そこまで大仰なものじゃないのか? 塞いでいたのが木の板で、そこに絨毯がかぶさっていただけだ。どっちかというと、忘れ去れられた地下室、みたいな。

 石積みの階段には、かなり埃が溜まっている。何十年も出入りがなかったようだ。

 ……入ってみてもいいだろうか。
 すこし、わくわくしてる。

 恐る恐る、足を踏み入れる。
 ふわりと埃が舞った。俺は魔法で風を起こす。埃が舞わないように床に押しつけるためだ。同時に、光魔法でピンポン球サイズの光球を発生させ、行く先を照らす。

 階段は、学校の階段のように折り返しているタイプのものだった。壁には燭台がついているが、肝心の蝋燭がない。
 小さな踊り場を曲がり、また階段で下がる。

 さらに二度、踊り場を折り返したその先、ひび割れた木製の扉があった。取手は金属だが、錆びついている。
 壊さないように静かに開け、部屋に光球を先行させる。

 魔法の光が照らし出したのは……また、図書室だ。
 ピンポンサイズの光球では照らし切れないくらいに広い空間のようだ。少なくとも、横の広さに関しては上の図書室よりこちらのほうが広いだろう。

 風魔法で顔まわりを保護しつつ、くたびれた蜘蛛の巣を払いながら進んでいく。
 一部、本棚が倒れたりしていた。本もひどい状態だ。色褪せるというよりは、もはや風化していると言ったほうがいい。風魔法がすこし触れただけで、ぱらぱらと崩れ去ってしまった。

「…………?」

 部屋の奥には、やはり壊れたものしかないが、椅子と机の読書スペースがあった。

 そして、そのさらに奥の壁。
 そこには、まるで本棚を押し退けて現れたかのような、荘厳な雰囲気の扉があった。
 両開き式の木製で、大樹のような存在感を漂わせている。

 その表面には宗教画のような彫刻が施されていた。宙を舞う少女? に多くの人々が跪く絵だ。少女は人々に手を差し伸べ、人々はなにかを受け取っている……という構図か。

 ここには、なにが……?
 好奇心と、すこしの恐怖心。

 近づいて、ドアノブに手をかける、
 扉が、ひとりでに動いた。

「ッ!?」

 慌てて手を引っ込める。俺は触れていないはずだ。
 なのに、扉は奥に開いていく。

 俺の頭上の光球が部屋を照らす。
 そこには、

「んんっ……」

 少女が、いた。
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