Magic_and_Sorcery~生活魔法すら使えなかった俺が精霊に魔術を教わって真の勇者となるまで~

篠日記

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chapter.001《邂逅》

#013_魔術時代の衰退

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 薬の複製はすぐに終了した。
 丸薬を複製したときのように一個一個やるのかと思いきや、薬の入った木箱ごとがっつり複製させられたので、複製作業それ自体にはあまり時間はかからなかったのだ。

 むしろ時間を要したのは、味や色を確認するための作業と、あとは今月の納品分とか言われて複製させられた数百瓶の整理か。さすがに量が多かった。

「……これだけ複製しておいて、発熱はいっさいなし?」
「ないね。ただ、腰が痛い……」

 倉庫で瓶を箱に入れる作業、ずっと中腰だったからな。背伸びをすると腰がばきばきと音を立てる。

「もう一息。がんばろう」
「まだあんのか……」

 もはやただの労働力の様相を呈してきたが、まぁがんばるしかないだろうな。女の子一人にやらせる分量じゃない。

 一つの木箱に複数種類の瓶を、納品する数だけ入れていく。納品数はリースが木札に書いてくれている。
 木札を見て、瓶を詰めて、木札を見て……と繰り返すだけはかなり暇なので、リースが話を振ってきた。

「ミキヒト、召喚術式って覚えてる?」
「覚えてない。ていうか見た覚えないんだよな」

 そう答えて、俺はふと疑問に思う。

「……あれ? 召喚術式って、魔術だよな?」
「ええ、そうよ」

 そう答えたのはティー。作業中の俺たちのうしろで、優雅にティータイムと洒落込んでいる。本当にお茶が好きなんですね……。

「でも、召喚術式を使ったのって、貴族なんだよな?」

 俺たちが召喚されたそのとき、俺たちを取り囲んでいたローブの術師たちは、貴族だったはずだ。そう説明を受けたのをおぼろげながら覚えている。

 けど、魂の複雑性が一定レベルを超えてるとかで、貴族は魔術を使えないんじゃなかったか。

「たしかにそうだけれど……実は、さらにある一定の水準を超えた魂は、魔術が使えるようになるの」
「んん? 魂の精度が低すぎると魔術は使えて、逆に高すぎても魔術は使えるってこと?」
「そうね。精霊わたしたち基準で言わせてもらえば、中途半端な精度の魂には魔術が扱えないようにしてある、と言ったほうがしっくりくるわ」

「……なるほど」とリースが頷いた。「複数人で起動した術式は、その効果が増幅される傾向にある。あれはやっぱり魂の精度が上がっていたってことなのか。魂の精度が高すぎても魔術が使えるってことには驚いたけど……」

 なにやらリースが感心しているが、俺にはなんのことだかいまいち理解できてない。
 と言うかそれ以前に、

「……それ、俺は中途半端以下ってこと?」
「そうね」

 なんか悲しい……。

「で、ミキヒトは召喚術式を見てないんだ?」とリース。
「ああ、うん。見てないです。ごめんね、もしかして興味あった?」
「かなりね。ご先祖様も興味があったみたいだけど、術式の実物が手に入らなかったみたいなんだよね」
「えっ、そうなのか。勇者だったんだよね? 魔王を倒した英雄なら、国に頼めばそれくらい手に入りそうなもんだけど」
「断られた、って記述があった。召喚術式を渡すってことは、新たな勇者が召喚される可能性があるってこと。その新しく召喚された勇者が、自国の味方になるとは限らない」
「あっ、そういう……」

 その可能性はあるだろうな。
 当然ながら、召喚されたばかりの召喚者はどの国の味方でもない。なんなら人類の味方であるかすら怪しい。昨今の異世界モノでは魔王側につく召喚者だって珍しくないし、それを真似する召喚者がいてもおかしくないだろう。

 俺たちがクレマリオ王国に与していたのだって、彼らが最低限の生活を保証してくれたからだ。クラスのまとめ役が魔王に滅ぼされそうな人類にいたく同情し、剣を取ることを決意したという理由もあるにはあるが……。

 もし衣食住の保証がなかったら、たとえば先人の召喚者に召喚されていたとしたら、その先人を信用して国に仕えない可能性だってじゅうぶんにある。

 もっと言えば、術式を教えた召喚者がそれ術式を他国に情報漏洩リークしたり、盗まれたりする可能性だってあるかもしれない。

「考えれば考えるほど、術式を教えるリスクが高すぎるな」
「私が王国側なら、召喚術式なんて国家機密にする。でも気になる……」
「作業の手、止まってますよリースさん」

 薬瓶の箱詰め作業を再開するリースだったが、その表情はすこし不満げだった。もちろん作業にではなく、召喚術式が手に入らないことにだ。
 リースの表情はわかりにくいと思っていたが、実はかなり感情豊かな子みたいである。

「実物を持ってきましょうか?」

 曇る表情のリースに、ティーがそう提案する。

「召喚術式を知ってるの?」
「王城の宝物庫に飾ってあるわ」

 と言ってティーは姿を消し、すぐに戻ってきた。

「これね」

 差し出したのは、むこうの世界のルーズリーフだ。
 そこには召喚術式が記述されている……はずなのだが、

「……細かすぎて見えない」

 ルーズリーフのサイズいっぱいに記述された魔術陣だが、術式が複雑すぎて、もはやただの黒丸だった。一つ一つの術式素が細かすぎるのだ。虫眼鏡でも見えなさそうなくらい細かい。
 そもそも円陣も一つではなく、中央の大きな陣を取り囲むように、大小さまざまな円陣が配置されている。

「これを見えるくらい拡大するには、この紙じゃ足りないわ」
「どのくらいなら足りる?」
「直径10mなら、ひとまずにはできるわ。それでも小さいけれど」
「10mでも足りんのか……。……いちおう訊いとくけど、召喚術式を人間にあげたのって、ティーじゃないんだよな?」
「いいえ、違うわ。人間たちが自力で組み上げたか、私以前の精霊が授けたか、ね」
「こんな複雑な術式、人間だけで構築できたとは考えにくい。現代よりかつての魔術文明のほうが栄えてたらしいけど、異世界への干渉なんてこと、自力でできたとは思えない」

 たしかにね。いくらかつての魔術師が優れていたとしても、異世界への干渉なんて超自然的な事象、人間だけで実現し得るとはわけがない。

 ……ん? かつての魔術文明が優れていた?
 その言葉に、引っかかった。

 そういえば、かつての魔術は現代魔術よりかなり優れていたのではなかったか。
 だが、なぜか魔術は廃れてしまった。ティーの眠っていた地下図書室が荒れていたし、国家機密レベルの魔術書は朽ち果て、旧王城のだれもが魔術を使わなくなっていた。

 メイド長に至っては「魔術が衰退した」と明言すらしていた。
 そのことについてメイド長に質問した覚えがあるけど、突然死の話が出てきたうやむやになったのではなかったか。

 俺と同じことを思ったのか、ティーがリースに尋ねる。

「リース、貴方、現代の魔術が廃れた理由を知らないかしら?」
「…………まぁ」

 すこしの沈黙のあと、リースはなぜかティーから視線を逸らしつつ、語ってくれる。

「……魔術が廃れたのは、魔術師が一ヶ所に集約されたあと、その数が激減したのが原因だっていう文献を読んだことがある」

 魔術師が一ヶ所に集約されたあと、その数が激減……?

「どうしてそんなことが起こったの?」
「それは、ある精霊が、人間に新たな魔術の境地を見せてくれると言ったのが発端らしい」
「新たな魔術の境地?」
「さっきも話したよね? 以前、人間は魔法が使えなかった。いまでも平民は使えないけど、当時は貴族とかも魔法が使えなくて、だから魔法種族国との戦争で負け続きだった」

 そういやしたね、そんな話。

「だから、人間は精霊に頼み込んだらしい。自分たち人間に力を授けてほしいと」

 …………。

「すると精霊は、その願いを叶えてくれると言ったらしい。具体的には、より強い術式を作るための手助けをするという形で」

 ………………。

「その精霊から教えを請うために、当時の人間国家は協定を結んで『人間種族国家による魔術連合』を創立した。そこに各国、国中の魔術師たちが集約された。年齢問わず、性別問わず、実力すら問わずにね」

 ……………………。

「当然、魔術連合は協定のもと、人間各国の管理下に置かれることになった。もちろん管理するのは国の上層部……つまり貴族たちになる。一ヶ所に集約された魔術師たちは魔術研究に没頭し、貴族がそれを管理し……結果、市井から魔術師が消えた」

 街から魔術師がいなくなったから、魔術が衰退したってこと……?

「い、いや、でも待って」

 俺は強引に口を挟む。

「魔術連合を作ったのに魔術が衰退するなんてことある? いくら管理してたのが貴族だからって、研究成果をすべて隠匿するなんてこと、しないと思うんだけど……」
「それは、その、研究の成果……一番大きな研究成果が『人間を魔法種族にする魔術式の構築』が成功したことだったみたいで、魔術師たちが軒並み魔法種族になって、その結果、魔術師たちは魔法が使えることと引き換えに、魔術が使えなくなって……」
「……魔術師が、魔術の研究をできなくなった」
「研究者が研究できなくなったら、その分野が停滞するのは当然のこと」
「…………いやでも、現行の研究者がいなくなったとしても、新たに研究を始める人もいるんじゃない?」
「研究者の多くは、だれか別の研究者を師事してるのが普通。だれの師事も受けずにイチから研究を始めて、そのうえで成果を出せる人は、ほとんどいない。指導者の有無はかなり重要」
「………………それでもさ、それってもう数百年前の出来事なんだし、すこしは現代にも魔術師がいると思うんだけど」
「現代にも魔術師はいるにはいる。魔術都市と称される街もある。けど、かつての魔術文明は数千年の歴史があると言われてる。たかだか数百年程度で追いつけるとは思えない」

 ……………………反論の手立てを失った。
 魔術技術が衰退した原因は、人間に魔法種族となるための手立てを授けた精霊にある。
 それはつまり、

「……すべて、私のせいというわけね」
「そうなりますね……」
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