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chapter.001《邂逅》
#015_物質を再現した現象②
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「既存の術式の改善を図る際、まず確認しなければならないのはなんだと思う?」
ティーの最初の問いに、リースが考える素振りを見せる。
「……アルゴリズムの見直し? 今回の場合、強度の向上にエネルギーを回したいから、余計なエネルギーを使うような燃費の悪い構築になってないかを見直す」
リースの回答に、ティーは首を横に振る。
「まず最初に行うべきは、要件定義の見直しよ。その術式が、要件に沿った効果を発揮するか、要件に沿った運用ができているか。あと、新たに加わった要件はなにか、とかね。どれだけ優れた術式を構築できていても、要件に沿わなければ意味がない」
あ、そもそも手入れ不要な剣を作るのに、準物質を使わなければいけないってことはないのか。具体的な方法はともかくとして、鉄の剣に劣化しない術式を付加する、とかでもいいわけだし。
ティーの言った内容を、リースが具体的な言葉にしていく。
「今回の要件は『メンテナンス不要な剣を作ること』。術者は『一般的な魔術能力を持つ平民階級』」
「低い魔術能力でも実用に耐え得る効果が望める術式が必要ということね。私の見立てでは、その要件を達成するために準物質を使うというのは、おおよそ正しいように思えるわ」
ティーが珍しく正否を口にした。この議論は余計であると判断したのか。
「それじゃあ……そうね、ミキヒトもいることだし、先に術式の解析から始めましょうか」
それはありがたい。術式の詳しい構成や効果がわからないと、使いどころや運用なんてわかるわけないからな。
ぶわっと空中に、黄色の光線で術式が展開された。陣形ではなく、楕円筒の立体だ。
「これは、その柄の内部に刻印されている術式」
俺は刀身を《納刀》し、ティーに渡す。
「さっきリースが言っていたけれど、この柄は内部が空洞になっていて、そこに術式が刻み込まれている。刻印型の術式が魔術具の一般的な形式なのは、いまの時代でもそうみたいね」
楕円筒だった術式が、それぞれ術式単位に分解される。こうして見ると、小さな柄なのに、刻印されている術式素はかなりの数ありそうだ。
「さて、まずはこの術式。種別は《基本術式》、タグは《抜刀》。準物質で刀身を形成する術式単位ね」
黄色の光で描かれていた術式単位、そのうち一つが青色に変わる。
「ミキヒト、この術式単位で実行されている現象がどんなものか、わかる?」
……見た感じ、電磁気学系の術式素が含まれているのはわかる。不可視化術式を構築する際に目にしたものだ。
だが、その効果までは理解できない。知識が足りない。
「ぜんぜんわからん」
正直に答えると、リースが代返してくれる。
「簡単に言うと、『電子が作る電磁場を計算して、それを指定した形の表面に並べる』術式」
「指定した形の表面? なんで表面だけ?」
「中身を詰めるメリットより、デメリットのほうが大きいから」
リースの説明はこうだった。
この術式は、原子中の電子が作る電磁場の変化(以下、準原子という)を再現し、それを指定した形の表面に配置する。
この柄の場合、指定した形というのは、刀身の形状だ。
そして、実際に準原子が配置されるのは、その表面だけ。つまり、この刀身の内部までは電磁場は再現されていない。外側から見ただけではわからないが、ちょうど剣の鞘のように、中身が空洞になっているのだという。
どうして中身まで、準原子を配置しないのか。
それを考えるために、まず、通常の物質と準物質の違いを考える。
①構成要素
通常の物質は、原子によって構成されている。
これに対して準物質は、準原子によって構成される。この準原子が通常の電子と大きく異なる点は、準原子は電子が形成する電磁場を再現しているだけで、実際に形あるモノではないということだ。実体のない現象、それが準原子ひいては準物質の正体である。
②結合
通常の物質の場合、結合の種類はいくつかあるが、現在の要件が『メンテナンス不要な剣を作ること』であることと、説明のしやすさという観点から、ここでは金属の結合について説明する。
金属の場合、その結合の多くは『金属結合』によって、原子同士の結合を得ている。
金属結合とは、陽イオンと自由電子から成る結合形態の一つだ。電子を一個以上手放した陽イオンが規則正しく並び、手放した電子を不足を補うように、陽イオン間を自由電子が飛び回る。この陽イオンと自由電子のあいだに働くクーロン力が、原子(陽イオン)同士がばらばらにならないように繋ぎ留める楔の役割を果たしている。
これに対して準物質の場合、準原子同士は結合していない。
準物質の生成術式では、準原子を生成する術式単位を一つだけ記述し、それを何度もループして呼び出し、指定した位置へと配置しているらしい。
魔術式で物質や現象の位置を指定する場合、その位置に閾値を設けない限り、配置された物質や現象はその位置から動くことはない。また、外部からの力により位置がずれたり形が変化した場合、もとの位置や形に戻ろうとする復元力が発生する。この魔術的な復元力は、魔術の基本的な作用の一つだ。
この魔術的復元力のおかげで、準原子同士は結合する必要がないのである。金属結合のようにクーロン力によって繋ぎ留めなくても、魔術的復元力が準原子が移動・変形しないように楔の役割を果たしているからだ。
この②を踏まえたうえで、物質の破壊現象を考えていく。
③破壊現象
通常の物質の場合、破壊現象というのは結合の断裂のことである。外部からの力が結合力を上回ることにより、原子同士の結合が切断され、物質の形状が変化する。剣で言えば、折れたり曲がったりすることだ。
これを防ぐために有効な方策として挙げられるのは負荷の分散。一点にかかる負荷を広く分散することにより、結合を断裂させられないくらいまでに力の大きさを弱める。これによって結合の断裂を防ぐのだ。
ほかにも結合力の強化や負荷の緩和などの対策も挙げられる。リースによれば、これらの術式の構築は比較的簡単にできるらしい。
ただし、これらの術式で対策をする場合、物質をそのまま刀身として使うことが前提となる。今回の要件である『メンテナンス不要』という点については、物質は準物質に劣るため、これらの術式は見送るとのこと。
次は準物質の破壊現象について考える。
準物質の場合、破壊現象というのは、準原子の弱体化、つまり電磁場の変化の弱体化のことである。
ついさっきリースが見せてくれたように、強度の低い準物質は電磁場の変化が弱いため、接触現象に必要な反発力が再現できず、物質をすり抜ける。折れたり曲がったりしない以上、これが準物質における破壊現象であると定義できる。
この電磁場の変化の弱体化を防ぐための方策として挙げられるのが、エネルギー効率の最適化だ。
魔術で扱えるエネルギー量は、術式を起動する術者の魔術能力に依存する。術式の中で無駄なエネルギーを消費するような現象を起こしていたら、それだけ起こしたい現象に回せるエネルギーが減ってしまう。逆に言えば、無駄なエネルギーを削減したり、優先度の低い現象では省エネしたりすればよいのだ。そうすれば電磁場の変化にエネルギーを充てられるようになる。
つまり、電磁場の変化にエネルギーを回すことこそが、準物質の強度向上につながるのである。
「どうして刀身の中身を空洞にしてるかっていう話だったけど、それが理由。たしかに、中身が詰まってたほうが表面にかかった負荷は分散される。そういった意味では、物質も準物質も中身を詰めたほうが強度は上がると思う。けど、準物質の場合、中身を詰めるってことは、その中身分の準物質を作るためにエネルギーを使うことになるから、表面に回せるエネルギーが減る」
「だから中身を空にして、表面にエネルギー全振りして強度をあげてるってわけか」
中身が空洞って強度が下がるのでは? と思ってたけど、なるほど理に適っている。
「じゃあ、これから考えるべきは、どうやってエネルギーの効率化を図るかってとこか」
「それは……違うと思う」
リースはティーに視線を向ける。
ティーは「さすが、わかってるわね」と言わんばかりに頷いた。
「ティーのさっきの問い、覚えてる?」
「えっと、たしか……」
『既存の術式の改善を図る際、まず確認しなければならないのはなんだと思う?』
「……だったと思う」
「そう。それに対して私はこう答えた」
『……アルゴリズムの見直し? 今回の場合、強度の向上にエネルギーを回したいから、余計なエネルギーを使うような燃費の悪い構築になってないかを見直す』
……あ、そうか。
リースの答えたアルゴリズムの見直し。これは術式内での実動作を見直してエネルギーを無駄に使っているところを改善するという、要するにエネルギーの効率化のことだ。
けれど、ティーはこれを否定してる。
『まず最初に行うべきは、要件定義の見直しよ。その術式が、要件に沿った効果を発揮するか、要件に沿った運用ができているか。どれだけ優れた術式を構築できていても、要件にそぐわなければ意味がない』
この助言から察するに、まず考えるべきは、術式の中身じゃなくて外側。
術式の記述内容……現象を起こすプロセスじゃなく、現象そのものや現象を利用する方向性を見直すべきと言っているんだ。
今回の要件は『メンテナンス不要な武器を作ること』。
これに対応してリースが考えたのが『準物質の生成術式』。
「じゃあ、準物質生成術式を使うこと自体を見直すべきってこと?」
「それはない。だってさっきティーは、準物質を使うことに関して『おおよそ正しいように思う』とも口にしてたから」
「そうだった。それじゃあ準物質自体じゃなくて、その使い方を見直すべきか」
「そうだね。いまは、刀身を作ることだけに準物質を使用してる。形状は見ての通り両刃の直剣で、刀身の中身は空洞になってる」
「柄はジュラルミン製だっけ。刀身と同じように内部が空洞になってて、その内側に術式を刻印してる。起動するときは音声入力で《基本術式:パラメータ》で入力。同じく《拡張術式》っていうのもある。……これはあんまり関係ないか」
「かもね。あとは……」
「…………」
「…………これくらい?」
意見が途切れてしまった。思ってたより手がかりが少ないな。
「助言を一つ」とティーが言った。「いま貴方たちが並べ立てたのは、その魔術具に関することだけよ」
「……なるほど」
理解したのか、リースが頷く。
「準物質を生成して剣とする魔術具。そこに刻まれている術式、その仕組み。ここまでが既出の意見。いったん準物質から離れて考えよう」
「……だとすれば、残りはもっと準物質以外、たとえば剣そのものにフォーカスを当てて考えてみるか」
「わかった。……剣そのものの仕組み、物質の場合の材質、メンテナンス方法、製造方法」
リースが言葉を並べていく。深い考えがあるわけじゃなく、ひとまず思いつくものを出していってるだけって感じだ。
「実際に使われるときの状況、斬る対象、破損したときに斬ったもの、破損した箇所、破損したときの使い方」
「破損する箇所、それ」
ピンときた言葉を拾う。
「さっき説明してくれた、物質と準物質の違い。②結合と③破壊現象。これの詳細をもう一回訊いてもいい?」
「わかった」とリースが再び説明してくれる。
②結合。
通常の金属の結合は金属結合。陽イオンが自由電子を共有する形で保持しており、陽イオンと自由電子間にはたらくクーロン力によって結合状態を保っている。
準物質の場合、個々の準原子同士は結合していない。準原子の移動に対し、魔術的な位置を保持する力……魔術的復元力がはたらいており、これによって準原子の位置がずれることを防いでいる。
③破壊現象
通常の物質の場合、原子同士の結合が切れることが破壊現象だ。これを防ぐには、負荷の分散・緩和や結合力の強化が有効である。
準物質の場合、電磁場の変化が足りず、物質がすり抜けてしまうことが破壊現象と定義される。これを防ぐには、電磁場の変化に費やすエネルギーを増やすことが必要となる。
「要件は『メンテナンス不要な剣を作ること』だよね?」
俺の再確認にリースは頷く。
「で、これに対しての対策として考えられるのは、準物質以外では、負荷の分散とかが考えられる」
「分散すれば、各箇所にかかる力の大きさが小さくなって、負荷が結合力を上回る可能性が低くなるから」
「でも負荷の分散、これ自体は準物質にも有効な手立てだよね。かかる負荷が分散されれば、各箇所での準原子の維持が少ないエネルギーでよくなる」
「うん。でも、分散するためには刀身の中身を準物質で埋めないといけない。準物質を作るにはエネルギーを使う」
「それ『分散するためには刀身の中身を準物質で埋めないといけない』っていうの。これ、準物質である必要ある? 普通の物質で中身を埋めるってだめ? 物質を生成するわけじゃなくてさ、もともと中身の物質を用意しといて、それの周りに準物質を生成する、みたいな」
「! なるほど」
ざっくりした説明だったが、理解できたか。
「刀身表面だけを準物質にして、刀身の中身を物質にする。そうすれば、表面にかかる負荷を中身に分散できるから、表面の準物質を維持するだけのエネルギーを少なくできる。で、中身は普通の物質だから、維持するのにエネルギーはかからない」
「そうそう。イメージ的には、準物質の中身を物質で埋めるっていうより、物質の刀身を準物質でコーティングするって感じかな。つまり破損する刀身の表面だけを準物質にしておいて、それ以外は普通の剣、みたいな。あ、でも物質を使うから、メンテナンス不要ではない……」
「いや、それはいい。そもそも『メンテナンス不要』っていうのが度を越した要件だから。物質刀身の切れ味を気にしなくていいなら、それでもう充分」
要件定義した本人であるリースがそういうなら、それでいいだろう。
あとは……、
俺はティーに向き合った。
「破損する物質刀身を準物質でコーティングする。これが魔術能力の低いユーザーでも『メンテナンス不要な剣を作る』ための最適解……で、どうですか」
望む返事をくれるとは限らないが、答え合わせのつもりで、ティーに訊ねる。
彼女は紅茶をすすり、一息ついて、もったいぶるようにして答える。
「思っていたより早く答えが出たわね」
「ってことは……」
「それが最適かどうかはともかくとして、それは私の想定していた通りの解よ」
ご褒美のつもりなのか、俺とリースの座っていたところに、イチゴのショートケーキが現れた。
立ちっぱなし、剣も出しっぱなしで議論してた俺とリースは、席についてご相伴に預かることにする。
「いやよかったよかった。ここまで考えといて『違うわ』なんて言われてたら普通にへこんでたわ」
「言っておくけれど、これはあくまで私の意見であって、ほかにもっと方法はあるかもしれないわ。精霊は人間より優れているけれど、すべてを知る者ではないから」
「謙遜……?」
「違うわ。あくまで精霊も、この世界の法則の内側で生まれた生命体であるということ。人々が崇める神様ような、全知全能の存在ではないの」
なんか話が大きくなってきた?
「まぁ、それでも人間よりは永く生き、多くを知覚 できるから、この世界の真理にもっとも近いところにいる知性体であると言えるわ。目の前で起こっている現象くらいなら、いつでも解析してあげる」
「……つまるところ、魔術に関してはなんでも教えてくれるってことでOK?」
「なんでもではないわ。自分たちで考えられる範囲については、自分たちで考えること」
優しいわりに甘やかしてはくれないんだよな、この人は。
ともかく、この『メンテナンス不要な剣を作ろうプロジェクト』はひと段落ついた。
あとは試作を残すのみ。このあとすぐにぱぱっとやってしまうのだろうか?
それを訊こうとリースを見ると、彼女はすこし浮かない顔をしていた。
「どうしたの、リース?」
「んん……。『物質を準物質でコーティングする』なんて、考えてみれば簡単なことなのに、なんで思いつかなかったんだろう……って思って」
がしがしと頭を掻くリースに、ティーが問う。
「この要件に関して、貴方が迷走していた原因はどこにあると思う?」
「……物質と準物質、発想が二極化してたところかな。準物質を使うって決めてからは、物質を使うって選択肢は頭から抜けてた」
「そうね。一度でもどちらを使うかという選択肢を立てて考えてしまうと、どちらも使うという発想は出にくくなる」
考えが迷走するときの典型だったりするよな、これ。
「物事を極端化して考えるのは、悪いことではないわ」とティー。「そちらのほうが思考を単純化できるし、全体の見通しは立てやすくなる。けれど、それで導くべき最適解が極端で単純なものになるという保証はどこにもないの。物事を極端化・単純化するのは、あくまで思考をしやすくするためであり、それによって答えが単純になるわけではない」
「……物質を使う場合・準物質を使う場合ってふうに極端なパターンで考えるのはいいけど、物質を使うか・準物質を使うかっていう極端な選択肢にしちゃうとまずいってわけ」
「そうね。極端なパターンで考えて、双方の利点を両取りする。これができれば、最適に近い解を導くことができるようになるわ。逆を言えば、リースは極端な選択肢を立てて、それに囚われてしまったから、解を導くことができなかった。今回、貴方が迷走から抜け出すことができたのは、ミキヒトという新たな意見があったからでしょうね」
お、なんか褒められてる?
「別に、ミキヒトが優れた考えを持っていたわけではないわ」
「あげといて落とすの……」
「他人の言葉を交わす。その内容の是非にかかわらず、これは問題解決のための大きな助けとなる」
ティーがアドバイスを授ける。
「他者と討論する利点は、他人の意見を受け入れるために、視野が広がって思考が柔軟になるところ。それと、他人にわかりやすく伝えるために、自分の意見を見直すことにもなるところよ。自他の意見を省みることになるから、新しい発想を取り入れられることはもちろん、自分の考えの気づいていなかった改善点が見えたり、互いの意見が絡み合ったりして、新たな着想を得ることにつながる」
「他者との議論、か」
リースは感慨深そうに言葉にする。
「……思えば、だれかとこうやって、魔術について話ができるのは、初めてかもしれない」
「この村には、貴方以外に地下室のことを知る人はいないの?」
「いない」
リースのその返答に、俺の思考が一瞬、止まった。
「地下室どころか、まともに魔術やってる人もいないよ、この村は」
「では、この村にある術式は、すべて貴方が?」
「だいたいね。もとからあった術式もあるにはあるけど、基本的になにかしらの改良はしてる」
「なるほど。どうりでここら一帯の地域に比べて、この村の術式の精度が高いわけね」
「本当? それはちょっと嬉しい」
リースもたいしたことは言ってないような顔で話を続けてる。
ティーもなにも聞かなかったかのように紅茶を啜ってる。
俺が気にしすぎなだけなのだろうか。
「どうしたの、ミキヒト。甘いの苦手?」
「え? あっ、いや」
俺の顔を覗き込むリースと目があって、俺は思わず身体ごと引いた。
彼女の瞳が、じっとこちらを見つめてる。
静かな青色の瞳だ。その色は深い海のような静寂を写していて、とても少女が帯びる雰囲気とは思えない、大人びた印象を受ける。
顔立ちそのものは、まだ幼い。
だが、その表情には、いまは俺を気遣う色しかなかった。
さきほどの自分の発言など、まるで気にもしていないのだ。
……言った当人がこうである以上、俺も不用意に踏み込むのはやめたほうがいいか。
いずれは訊くことになるだろう。けど、それはこっちから訊きにいくのではなく、向こうから話そうと歩み寄ってきたときに、受け入れればいい。
「大丈夫、大丈夫」
俺はフォークでケーキを切り分け、口に運ぶ。
咀嚼して飲み込んだあと、気分を切り替えるために、話を切り出した。
「このあとってどうするの? もうさっき言ってた剣を作っちゃう感じ?」
「いえ、その前に」
とティーが口を挟む。
「まだやるべきことがあるんじゃない?」
……え、まだ終わりじゃない? もう答え出たよね?
「要件確認が終わったあとは?」
リースが答える。
「アルゴリズムの見直し。エネルギーの効率化はまだやってない」
「ああ、それまだ……」
俺は力の抜けた声が出てしまった。
ティーの最初の問いに、リースが考える素振りを見せる。
「……アルゴリズムの見直し? 今回の場合、強度の向上にエネルギーを回したいから、余計なエネルギーを使うような燃費の悪い構築になってないかを見直す」
リースの回答に、ティーは首を横に振る。
「まず最初に行うべきは、要件定義の見直しよ。その術式が、要件に沿った効果を発揮するか、要件に沿った運用ができているか。あと、新たに加わった要件はなにか、とかね。どれだけ優れた術式を構築できていても、要件に沿わなければ意味がない」
あ、そもそも手入れ不要な剣を作るのに、準物質を使わなければいけないってことはないのか。具体的な方法はともかくとして、鉄の剣に劣化しない術式を付加する、とかでもいいわけだし。
ティーの言った内容を、リースが具体的な言葉にしていく。
「今回の要件は『メンテナンス不要な剣を作ること』。術者は『一般的な魔術能力を持つ平民階級』」
「低い魔術能力でも実用に耐え得る効果が望める術式が必要ということね。私の見立てでは、その要件を達成するために準物質を使うというのは、おおよそ正しいように思えるわ」
ティーが珍しく正否を口にした。この議論は余計であると判断したのか。
「それじゃあ……そうね、ミキヒトもいることだし、先に術式の解析から始めましょうか」
それはありがたい。術式の詳しい構成や効果がわからないと、使いどころや運用なんてわかるわけないからな。
ぶわっと空中に、黄色の光線で術式が展開された。陣形ではなく、楕円筒の立体だ。
「これは、その柄の内部に刻印されている術式」
俺は刀身を《納刀》し、ティーに渡す。
「さっきリースが言っていたけれど、この柄は内部が空洞になっていて、そこに術式が刻み込まれている。刻印型の術式が魔術具の一般的な形式なのは、いまの時代でもそうみたいね」
楕円筒だった術式が、それぞれ術式単位に分解される。こうして見ると、小さな柄なのに、刻印されている術式素はかなりの数ありそうだ。
「さて、まずはこの術式。種別は《基本術式》、タグは《抜刀》。準物質で刀身を形成する術式単位ね」
黄色の光で描かれていた術式単位、そのうち一つが青色に変わる。
「ミキヒト、この術式単位で実行されている現象がどんなものか、わかる?」
……見た感じ、電磁気学系の術式素が含まれているのはわかる。不可視化術式を構築する際に目にしたものだ。
だが、その効果までは理解できない。知識が足りない。
「ぜんぜんわからん」
正直に答えると、リースが代返してくれる。
「簡単に言うと、『電子が作る電磁場を計算して、それを指定した形の表面に並べる』術式」
「指定した形の表面? なんで表面だけ?」
「中身を詰めるメリットより、デメリットのほうが大きいから」
リースの説明はこうだった。
この術式は、原子中の電子が作る電磁場の変化(以下、準原子という)を再現し、それを指定した形の表面に配置する。
この柄の場合、指定した形というのは、刀身の形状だ。
そして、実際に準原子が配置されるのは、その表面だけ。つまり、この刀身の内部までは電磁場は再現されていない。外側から見ただけではわからないが、ちょうど剣の鞘のように、中身が空洞になっているのだという。
どうして中身まで、準原子を配置しないのか。
それを考えるために、まず、通常の物質と準物質の違いを考える。
①構成要素
通常の物質は、原子によって構成されている。
これに対して準物質は、準原子によって構成される。この準原子が通常の電子と大きく異なる点は、準原子は電子が形成する電磁場を再現しているだけで、実際に形あるモノではないということだ。実体のない現象、それが準原子ひいては準物質の正体である。
②結合
通常の物質の場合、結合の種類はいくつかあるが、現在の要件が『メンテナンス不要な剣を作ること』であることと、説明のしやすさという観点から、ここでは金属の結合について説明する。
金属の場合、その結合の多くは『金属結合』によって、原子同士の結合を得ている。
金属結合とは、陽イオンと自由電子から成る結合形態の一つだ。電子を一個以上手放した陽イオンが規則正しく並び、手放した電子を不足を補うように、陽イオン間を自由電子が飛び回る。この陽イオンと自由電子のあいだに働くクーロン力が、原子(陽イオン)同士がばらばらにならないように繋ぎ留める楔の役割を果たしている。
これに対して準物質の場合、準原子同士は結合していない。
準物質の生成術式では、準原子を生成する術式単位を一つだけ記述し、それを何度もループして呼び出し、指定した位置へと配置しているらしい。
魔術式で物質や現象の位置を指定する場合、その位置に閾値を設けない限り、配置された物質や現象はその位置から動くことはない。また、外部からの力により位置がずれたり形が変化した場合、もとの位置や形に戻ろうとする復元力が発生する。この魔術的な復元力は、魔術の基本的な作用の一つだ。
この魔術的復元力のおかげで、準原子同士は結合する必要がないのである。金属結合のようにクーロン力によって繋ぎ留めなくても、魔術的復元力が準原子が移動・変形しないように楔の役割を果たしているからだ。
この②を踏まえたうえで、物質の破壊現象を考えていく。
③破壊現象
通常の物質の場合、破壊現象というのは結合の断裂のことである。外部からの力が結合力を上回ることにより、原子同士の結合が切断され、物質の形状が変化する。剣で言えば、折れたり曲がったりすることだ。
これを防ぐために有効な方策として挙げられるのは負荷の分散。一点にかかる負荷を広く分散することにより、結合を断裂させられないくらいまでに力の大きさを弱める。これによって結合の断裂を防ぐのだ。
ほかにも結合力の強化や負荷の緩和などの対策も挙げられる。リースによれば、これらの術式の構築は比較的簡単にできるらしい。
ただし、これらの術式で対策をする場合、物質をそのまま刀身として使うことが前提となる。今回の要件である『メンテナンス不要』という点については、物質は準物質に劣るため、これらの術式は見送るとのこと。
次は準物質の破壊現象について考える。
準物質の場合、破壊現象というのは、準原子の弱体化、つまり電磁場の変化の弱体化のことである。
ついさっきリースが見せてくれたように、強度の低い準物質は電磁場の変化が弱いため、接触現象に必要な反発力が再現できず、物質をすり抜ける。折れたり曲がったりしない以上、これが準物質における破壊現象であると定義できる。
この電磁場の変化の弱体化を防ぐための方策として挙げられるのが、エネルギー効率の最適化だ。
魔術で扱えるエネルギー量は、術式を起動する術者の魔術能力に依存する。術式の中で無駄なエネルギーを消費するような現象を起こしていたら、それだけ起こしたい現象に回せるエネルギーが減ってしまう。逆に言えば、無駄なエネルギーを削減したり、優先度の低い現象では省エネしたりすればよいのだ。そうすれば電磁場の変化にエネルギーを充てられるようになる。
つまり、電磁場の変化にエネルギーを回すことこそが、準物質の強度向上につながるのである。
「どうして刀身の中身を空洞にしてるかっていう話だったけど、それが理由。たしかに、中身が詰まってたほうが表面にかかった負荷は分散される。そういった意味では、物質も準物質も中身を詰めたほうが強度は上がると思う。けど、準物質の場合、中身を詰めるってことは、その中身分の準物質を作るためにエネルギーを使うことになるから、表面に回せるエネルギーが減る」
「だから中身を空にして、表面にエネルギー全振りして強度をあげてるってわけか」
中身が空洞って強度が下がるのでは? と思ってたけど、なるほど理に適っている。
「じゃあ、これから考えるべきは、どうやってエネルギーの効率化を図るかってとこか」
「それは……違うと思う」
リースはティーに視線を向ける。
ティーは「さすが、わかってるわね」と言わんばかりに頷いた。
「ティーのさっきの問い、覚えてる?」
「えっと、たしか……」
『既存の術式の改善を図る際、まず確認しなければならないのはなんだと思う?』
「……だったと思う」
「そう。それに対して私はこう答えた」
『……アルゴリズムの見直し? 今回の場合、強度の向上にエネルギーを回したいから、余計なエネルギーを使うような燃費の悪い構築になってないかを見直す』
……あ、そうか。
リースの答えたアルゴリズムの見直し。これは術式内での実動作を見直してエネルギーを無駄に使っているところを改善するという、要するにエネルギーの効率化のことだ。
けれど、ティーはこれを否定してる。
『まず最初に行うべきは、要件定義の見直しよ。その術式が、要件に沿った効果を発揮するか、要件に沿った運用ができているか。どれだけ優れた術式を構築できていても、要件にそぐわなければ意味がない』
この助言から察するに、まず考えるべきは、術式の中身じゃなくて外側。
術式の記述内容……現象を起こすプロセスじゃなく、現象そのものや現象を利用する方向性を見直すべきと言っているんだ。
今回の要件は『メンテナンス不要な武器を作ること』。
これに対応してリースが考えたのが『準物質の生成術式』。
「じゃあ、準物質生成術式を使うこと自体を見直すべきってこと?」
「それはない。だってさっきティーは、準物質を使うことに関して『おおよそ正しいように思う』とも口にしてたから」
「そうだった。それじゃあ準物質自体じゃなくて、その使い方を見直すべきか」
「そうだね。いまは、刀身を作ることだけに準物質を使用してる。形状は見ての通り両刃の直剣で、刀身の中身は空洞になってる」
「柄はジュラルミン製だっけ。刀身と同じように内部が空洞になってて、その内側に術式を刻印してる。起動するときは音声入力で《基本術式:パラメータ》で入力。同じく《拡張術式》っていうのもある。……これはあんまり関係ないか」
「かもね。あとは……」
「…………」
「…………これくらい?」
意見が途切れてしまった。思ってたより手がかりが少ないな。
「助言を一つ」とティーが言った。「いま貴方たちが並べ立てたのは、その魔術具に関することだけよ」
「……なるほど」
理解したのか、リースが頷く。
「準物質を生成して剣とする魔術具。そこに刻まれている術式、その仕組み。ここまでが既出の意見。いったん準物質から離れて考えよう」
「……だとすれば、残りはもっと準物質以外、たとえば剣そのものにフォーカスを当てて考えてみるか」
「わかった。……剣そのものの仕組み、物質の場合の材質、メンテナンス方法、製造方法」
リースが言葉を並べていく。深い考えがあるわけじゃなく、ひとまず思いつくものを出していってるだけって感じだ。
「実際に使われるときの状況、斬る対象、破損したときに斬ったもの、破損した箇所、破損したときの使い方」
「破損する箇所、それ」
ピンときた言葉を拾う。
「さっき説明してくれた、物質と準物質の違い。②結合と③破壊現象。これの詳細をもう一回訊いてもいい?」
「わかった」とリースが再び説明してくれる。
②結合。
通常の金属の結合は金属結合。陽イオンが自由電子を共有する形で保持しており、陽イオンと自由電子間にはたらくクーロン力によって結合状態を保っている。
準物質の場合、個々の準原子同士は結合していない。準原子の移動に対し、魔術的な位置を保持する力……魔術的復元力がはたらいており、これによって準原子の位置がずれることを防いでいる。
③破壊現象
通常の物質の場合、原子同士の結合が切れることが破壊現象だ。これを防ぐには、負荷の分散・緩和や結合力の強化が有効である。
準物質の場合、電磁場の変化が足りず、物質がすり抜けてしまうことが破壊現象と定義される。これを防ぐには、電磁場の変化に費やすエネルギーを増やすことが必要となる。
「要件は『メンテナンス不要な剣を作ること』だよね?」
俺の再確認にリースは頷く。
「で、これに対しての対策として考えられるのは、準物質以外では、負荷の分散とかが考えられる」
「分散すれば、各箇所にかかる力の大きさが小さくなって、負荷が結合力を上回る可能性が低くなるから」
「でも負荷の分散、これ自体は準物質にも有効な手立てだよね。かかる負荷が分散されれば、各箇所での準原子の維持が少ないエネルギーでよくなる」
「うん。でも、分散するためには刀身の中身を準物質で埋めないといけない。準物質を作るにはエネルギーを使う」
「それ『分散するためには刀身の中身を準物質で埋めないといけない』っていうの。これ、準物質である必要ある? 普通の物質で中身を埋めるってだめ? 物質を生成するわけじゃなくてさ、もともと中身の物質を用意しといて、それの周りに準物質を生成する、みたいな」
「! なるほど」
ざっくりした説明だったが、理解できたか。
「刀身表面だけを準物質にして、刀身の中身を物質にする。そうすれば、表面にかかる負荷を中身に分散できるから、表面の準物質を維持するだけのエネルギーを少なくできる。で、中身は普通の物質だから、維持するのにエネルギーはかからない」
「そうそう。イメージ的には、準物質の中身を物質で埋めるっていうより、物質の刀身を準物質でコーティングするって感じかな。つまり破損する刀身の表面だけを準物質にしておいて、それ以外は普通の剣、みたいな。あ、でも物質を使うから、メンテナンス不要ではない……」
「いや、それはいい。そもそも『メンテナンス不要』っていうのが度を越した要件だから。物質刀身の切れ味を気にしなくていいなら、それでもう充分」
要件定義した本人であるリースがそういうなら、それでいいだろう。
あとは……、
俺はティーに向き合った。
「破損する物質刀身を準物質でコーティングする。これが魔術能力の低いユーザーでも『メンテナンス不要な剣を作る』ための最適解……で、どうですか」
望む返事をくれるとは限らないが、答え合わせのつもりで、ティーに訊ねる。
彼女は紅茶をすすり、一息ついて、もったいぶるようにして答える。
「思っていたより早く答えが出たわね」
「ってことは……」
「それが最適かどうかはともかくとして、それは私の想定していた通りの解よ」
ご褒美のつもりなのか、俺とリースの座っていたところに、イチゴのショートケーキが現れた。
立ちっぱなし、剣も出しっぱなしで議論してた俺とリースは、席についてご相伴に預かることにする。
「いやよかったよかった。ここまで考えといて『違うわ』なんて言われてたら普通にへこんでたわ」
「言っておくけれど、これはあくまで私の意見であって、ほかにもっと方法はあるかもしれないわ。精霊は人間より優れているけれど、すべてを知る者ではないから」
「謙遜……?」
「違うわ。あくまで精霊も、この世界の法則の内側で生まれた生命体であるということ。人々が崇める神様ような、全知全能の存在ではないの」
なんか話が大きくなってきた?
「まぁ、それでも人間よりは永く生き、多くを知覚 できるから、この世界の真理にもっとも近いところにいる知性体であると言えるわ。目の前で起こっている現象くらいなら、いつでも解析してあげる」
「……つまるところ、魔術に関してはなんでも教えてくれるってことでOK?」
「なんでもではないわ。自分たちで考えられる範囲については、自分たちで考えること」
優しいわりに甘やかしてはくれないんだよな、この人は。
ともかく、この『メンテナンス不要な剣を作ろうプロジェクト』はひと段落ついた。
あとは試作を残すのみ。このあとすぐにぱぱっとやってしまうのだろうか?
それを訊こうとリースを見ると、彼女はすこし浮かない顔をしていた。
「どうしたの、リース?」
「んん……。『物質を準物質でコーティングする』なんて、考えてみれば簡単なことなのに、なんで思いつかなかったんだろう……って思って」
がしがしと頭を掻くリースに、ティーが問う。
「この要件に関して、貴方が迷走していた原因はどこにあると思う?」
「……物質と準物質、発想が二極化してたところかな。準物質を使うって決めてからは、物質を使うって選択肢は頭から抜けてた」
「そうね。一度でもどちらを使うかという選択肢を立てて考えてしまうと、どちらも使うという発想は出にくくなる」
考えが迷走するときの典型だったりするよな、これ。
「物事を極端化して考えるのは、悪いことではないわ」とティー。「そちらのほうが思考を単純化できるし、全体の見通しは立てやすくなる。けれど、それで導くべき最適解が極端で単純なものになるという保証はどこにもないの。物事を極端化・単純化するのは、あくまで思考をしやすくするためであり、それによって答えが単純になるわけではない」
「……物質を使う場合・準物質を使う場合ってふうに極端なパターンで考えるのはいいけど、物質を使うか・準物質を使うかっていう極端な選択肢にしちゃうとまずいってわけ」
「そうね。極端なパターンで考えて、双方の利点を両取りする。これができれば、最適に近い解を導くことができるようになるわ。逆を言えば、リースは極端な選択肢を立てて、それに囚われてしまったから、解を導くことができなかった。今回、貴方が迷走から抜け出すことができたのは、ミキヒトという新たな意見があったからでしょうね」
お、なんか褒められてる?
「別に、ミキヒトが優れた考えを持っていたわけではないわ」
「あげといて落とすの……」
「他人の言葉を交わす。その内容の是非にかかわらず、これは問題解決のための大きな助けとなる」
ティーがアドバイスを授ける。
「他者と討論する利点は、他人の意見を受け入れるために、視野が広がって思考が柔軟になるところ。それと、他人にわかりやすく伝えるために、自分の意見を見直すことにもなるところよ。自他の意見を省みることになるから、新しい発想を取り入れられることはもちろん、自分の考えの気づいていなかった改善点が見えたり、互いの意見が絡み合ったりして、新たな着想を得ることにつながる」
「他者との議論、か」
リースは感慨深そうに言葉にする。
「……思えば、だれかとこうやって、魔術について話ができるのは、初めてかもしれない」
「この村には、貴方以外に地下室のことを知る人はいないの?」
「いない」
リースのその返答に、俺の思考が一瞬、止まった。
「地下室どころか、まともに魔術やってる人もいないよ、この村は」
「では、この村にある術式は、すべて貴方が?」
「だいたいね。もとからあった術式もあるにはあるけど、基本的になにかしらの改良はしてる」
「なるほど。どうりでここら一帯の地域に比べて、この村の術式の精度が高いわけね」
「本当? それはちょっと嬉しい」
リースもたいしたことは言ってないような顔で話を続けてる。
ティーもなにも聞かなかったかのように紅茶を啜ってる。
俺が気にしすぎなだけなのだろうか。
「どうしたの、ミキヒト。甘いの苦手?」
「え? あっ、いや」
俺の顔を覗き込むリースと目があって、俺は思わず身体ごと引いた。
彼女の瞳が、じっとこちらを見つめてる。
静かな青色の瞳だ。その色は深い海のような静寂を写していて、とても少女が帯びる雰囲気とは思えない、大人びた印象を受ける。
顔立ちそのものは、まだ幼い。
だが、その表情には、いまは俺を気遣う色しかなかった。
さきほどの自分の発言など、まるで気にもしていないのだ。
……言った当人がこうである以上、俺も不用意に踏み込むのはやめたほうがいいか。
いずれは訊くことになるだろう。けど、それはこっちから訊きにいくのではなく、向こうから話そうと歩み寄ってきたときに、受け入れればいい。
「大丈夫、大丈夫」
俺はフォークでケーキを切り分け、口に運ぶ。
咀嚼して飲み込んだあと、気分を切り替えるために、話を切り出した。
「このあとってどうするの? もうさっき言ってた剣を作っちゃう感じ?」
「いえ、その前に」
とティーが口を挟む。
「まだやるべきことがあるんじゃない?」
……え、まだ終わりじゃない? もう答え出たよね?
「要件確認が終わったあとは?」
リースが答える。
「アルゴリズムの見直し。エネルギーの効率化はまだやってない」
「ああ、それまだ……」
俺は力の抜けた声が出てしまった。
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