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chapter.001《邂逅》
#032_結末は
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「ん……」
瞼を開くと、光が見えた。
ぼうっとしている。
目は覚めたが、意識は醒め切ってない。
俺は……、
「ーーーーッッ!?」
敵は!?
飛び起きて臨戦態勢に入る。魂源領域を広げ、拳を握り……気づく。
見慣れない部屋だった。
棚、ベッド、テーブルに椅子。いずれもシンプルだが高価そうな調度品。
リースの家じゃない。旧王城でもない。
俺が着ているのも、魔術鎧装でもコンプレッションウェアでもなく、寝衣に使っていた学校ジャージだ。
いったいなにが……?
「大丈夫、敵はいないわ」
開け放たれた大窓、バルコニーから聞き覚えのある声がした。
吹き込んだ風が芳ばしい茶葉の香りを運んでくる。
彼女は繊細な指でティーカップを持ち、口元で傾けた。
陽光に透けて煌めく絹のような白髪。
俺を捉えて離さない、ルビーのように紅く妖しい瞳。
俺は、俺がつけた彼女の名を呼んだ。
「ティー……」
「おはよう、ミキヒト」
彼女の座るテーブル、その対面にティーカップが現れた。まるで俺の着席を促すように。
誘導に従って俺は素直に座り、しかし紅茶を手にはしない。
バルコニーから見渡せるのは、中世のような街並み。
賑やかな喧騒が聴こえてくるが、いまの俺には優先して考えるべきことがあった。
俺はなにを話すべき、なにを訊くべきなんだろう。
彼女はきっと知ってるはずだ、ことの顛末を。
リースは、村のみんなは無事なのか。
ここはどこで、俺はどうしてここにいるのか。
あの魔物は何者で、どうしてリリン村を狙ったのか。
訊くべきことはたくさんある。
だけど、真っ先に口を衝いて出た言葉は、それだった。
「……俺は、負けたの?」
勝敗が決した瞬間を、覚えてない。
緑の肌をした鬼面の敵手。
文字通りの命を賭した戦い。
気が狂うほどの酷痛。
そして、この身を焦がした熱狂。
全部、覚えてる。
けれど、敵を殺した、あるいは殺された瞬間だけは、どうしても思い出せない。
終わりの記憶がないまま、気がついたら、俺はここで眠っていた。
あの戦いは、いったいどんな結末を迎えたのか。
俺と魔物、いったいどちらの勝利で終わったのか。
その答えが、なぜか、自分でも理解できないけど、どうしても、どうしても知りたかった。
緊張に唾を飲む俺を焦らすように、彼女は紅茶を一口含み、飲み下し、告げる。
「貴方は、勝ったわ。あの魔物は死に、そして貴方は生きていた」
「……そっか」
胸の奥に感情が沸き立つ。
これは安堵……いや、違う。
心臓がドクドクと高鳴っている。
「……そっかぁ」
これは、歓喜だ。
俺は、勝った。
勝った、勝ったんだ、あの魔物に。
紛れもなく強敵だった。
魔術鎧装でも敵わないほどの肉体強度に、戦闘センスだって負けてた。リースの仕込んだ上限解放を使ってようやく互角だった。
そんな強敵に、俺は勝利した。
死ななかったことが嬉しいんじゃない。生き残ったって結果もたいしたことじゃない。
命を賭して、限界に挑んで、そして勝ったこと。
それが、たまらなく嬉しいんだ。
興奮冷めやらぬ様子の俺に、ティーはふっと微笑んだ。
「楽しかった?」
「え、いや、その……」
図星を突くような質問に、俺は言葉を詰まらせてしまう。
だが俺が返答する前に、ティーは続ける。
「もっと、戦いたいと思う?」
矢継ぎ早な質問攻め。
いつもは一つ一つ順を追って話し、こちらの言葉を待ってくれる彼女にしては珍しい。
……ただ、いつもの問答と違うのは、いま質問しているのがティーだってことだ。
俺が疑問を持って、その答えをティーに訊いているのではない。
ティーが知りたいと思ったことを、俺に訊いているんだ。
彼女がどうしてそんなことを知りたがっているのか、俺には知る由もない。
だけど、彼女はいつだって俺の疑問に応えてくれた。
だから、俺にも彼女の問いに応える誠意は必要だろう。
「……戦いは、その、なんだろう。すごく痛くて、泣きそうになったし、死ぬかと思った」
割り切れないままの答えを、俺は口にする。
勝てて嬉しいのは本当だ。
けど、あの戦いは、いままで経験したことないほど辛い記憶として俺の中に刻まれている。
痛み、苦しみを味わって。
圧倒され、勝てるわけないと、絶望して。
俺が不甲斐ないせいで、大切な人が死にかけた。
せっかく異世界に来たのに、スローライフとも、無双とも程遠い泥臭い殺し合い。
抱いていた願望とは遥かに異なる地獄。
「だけど……」
そんな地獄の中で、確かに、確かに感じたあの熱狂が。
いまだ俺の内で燃えている。
脈打つ昂りと、全身を巡る紅い熱が、もう一度と俺を駆り立てる。
「……うん、俺は、また、機会があるなら、戦うと、思う」
「ほら、言ったじゃろう」
突如、頭上から声がかかった。
見上げると、欄干の上、少女が……いや、幼女が立っている。
黒の長髪に黒のゴスロリ。小さな身体に偉そうな腕組み。
そしてあどけない顔立ちを俺に向け、不敵に笑う。
「此奴はもう魅せられてしまった。闘争という名の快楽にな」
「そのようね。まぁ、私としてはどちらでもいいわ」
「釣れないのう」
「言ったでしょう、私はただ、彼の選択を尊重するだけ」
「じゃが、此奴は選択した、わしの望む道をな」
いや、だれ? 当たり前のようにティーと会話しているが……。
だがこの感じ。この突如として姿を現し、有無を言わせぬ流れを作るこの感じ、覚えがある。
「……精霊?」
「おっ、よくわかったの」
とっ、と少女は行儀悪くもティーテーブルに降り立ち、俺を見下ろす。
「わしは大魔王じゃ! よろしくな、ミキヒト」
瞼を開くと、光が見えた。
ぼうっとしている。
目は覚めたが、意識は醒め切ってない。
俺は……、
「ーーーーッッ!?」
敵は!?
飛び起きて臨戦態勢に入る。魂源領域を広げ、拳を握り……気づく。
見慣れない部屋だった。
棚、ベッド、テーブルに椅子。いずれもシンプルだが高価そうな調度品。
リースの家じゃない。旧王城でもない。
俺が着ているのも、魔術鎧装でもコンプレッションウェアでもなく、寝衣に使っていた学校ジャージだ。
いったいなにが……?
「大丈夫、敵はいないわ」
開け放たれた大窓、バルコニーから聞き覚えのある声がした。
吹き込んだ風が芳ばしい茶葉の香りを運んでくる。
彼女は繊細な指でティーカップを持ち、口元で傾けた。
陽光に透けて煌めく絹のような白髪。
俺を捉えて離さない、ルビーのように紅く妖しい瞳。
俺は、俺がつけた彼女の名を呼んだ。
「ティー……」
「おはよう、ミキヒト」
彼女の座るテーブル、その対面にティーカップが現れた。まるで俺の着席を促すように。
誘導に従って俺は素直に座り、しかし紅茶を手にはしない。
バルコニーから見渡せるのは、中世のような街並み。
賑やかな喧騒が聴こえてくるが、いまの俺には優先して考えるべきことがあった。
俺はなにを話すべき、なにを訊くべきなんだろう。
彼女はきっと知ってるはずだ、ことの顛末を。
リースは、村のみんなは無事なのか。
ここはどこで、俺はどうしてここにいるのか。
あの魔物は何者で、どうしてリリン村を狙ったのか。
訊くべきことはたくさんある。
だけど、真っ先に口を衝いて出た言葉は、それだった。
「……俺は、負けたの?」
勝敗が決した瞬間を、覚えてない。
緑の肌をした鬼面の敵手。
文字通りの命を賭した戦い。
気が狂うほどの酷痛。
そして、この身を焦がした熱狂。
全部、覚えてる。
けれど、敵を殺した、あるいは殺された瞬間だけは、どうしても思い出せない。
終わりの記憶がないまま、気がついたら、俺はここで眠っていた。
あの戦いは、いったいどんな結末を迎えたのか。
俺と魔物、いったいどちらの勝利で終わったのか。
その答えが、なぜか、自分でも理解できないけど、どうしても、どうしても知りたかった。
緊張に唾を飲む俺を焦らすように、彼女は紅茶を一口含み、飲み下し、告げる。
「貴方は、勝ったわ。あの魔物は死に、そして貴方は生きていた」
「……そっか」
胸の奥に感情が沸き立つ。
これは安堵……いや、違う。
心臓がドクドクと高鳴っている。
「……そっかぁ」
これは、歓喜だ。
俺は、勝った。
勝った、勝ったんだ、あの魔物に。
紛れもなく強敵だった。
魔術鎧装でも敵わないほどの肉体強度に、戦闘センスだって負けてた。リースの仕込んだ上限解放を使ってようやく互角だった。
そんな強敵に、俺は勝利した。
死ななかったことが嬉しいんじゃない。生き残ったって結果もたいしたことじゃない。
命を賭して、限界に挑んで、そして勝ったこと。
それが、たまらなく嬉しいんだ。
興奮冷めやらぬ様子の俺に、ティーはふっと微笑んだ。
「楽しかった?」
「え、いや、その……」
図星を突くような質問に、俺は言葉を詰まらせてしまう。
だが俺が返答する前に、ティーは続ける。
「もっと、戦いたいと思う?」
矢継ぎ早な質問攻め。
いつもは一つ一つ順を追って話し、こちらの言葉を待ってくれる彼女にしては珍しい。
……ただ、いつもの問答と違うのは、いま質問しているのがティーだってことだ。
俺が疑問を持って、その答えをティーに訊いているのではない。
ティーが知りたいと思ったことを、俺に訊いているんだ。
彼女がどうしてそんなことを知りたがっているのか、俺には知る由もない。
だけど、彼女はいつだって俺の疑問に応えてくれた。
だから、俺にも彼女の問いに応える誠意は必要だろう。
「……戦いは、その、なんだろう。すごく痛くて、泣きそうになったし、死ぬかと思った」
割り切れないままの答えを、俺は口にする。
勝てて嬉しいのは本当だ。
けど、あの戦いは、いままで経験したことないほど辛い記憶として俺の中に刻まれている。
痛み、苦しみを味わって。
圧倒され、勝てるわけないと、絶望して。
俺が不甲斐ないせいで、大切な人が死にかけた。
せっかく異世界に来たのに、スローライフとも、無双とも程遠い泥臭い殺し合い。
抱いていた願望とは遥かに異なる地獄。
「だけど……」
そんな地獄の中で、確かに、確かに感じたあの熱狂が。
いまだ俺の内で燃えている。
脈打つ昂りと、全身を巡る紅い熱が、もう一度と俺を駆り立てる。
「……うん、俺は、また、機会があるなら、戦うと、思う」
「ほら、言ったじゃろう」
突如、頭上から声がかかった。
見上げると、欄干の上、少女が……いや、幼女が立っている。
黒の長髪に黒のゴスロリ。小さな身体に偉そうな腕組み。
そしてあどけない顔立ちを俺に向け、不敵に笑う。
「此奴はもう魅せられてしまった。闘争という名の快楽にな」
「そのようね。まぁ、私としてはどちらでもいいわ」
「釣れないのう」
「言ったでしょう、私はただ、彼の選択を尊重するだけ」
「じゃが、此奴は選択した、わしの望む道をな」
いや、だれ? 当たり前のようにティーと会話しているが……。
だがこの感じ。この突如として姿を現し、有無を言わせぬ流れを作るこの感じ、覚えがある。
「……精霊?」
「おっ、よくわかったの」
とっ、と少女は行儀悪くもティーテーブルに降り立ち、俺を見下ろす。
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