王家の宝物庫

三枝七星(KM)

文字の大きさ
上 下
2 / 6

ファイアアゲートの火竜盾

しおりを挟む
 火竜盾とは、とある活火山に潜む火竜を退治するに当たって求められた装備品の名称である。元はそんな名前の装備品などありもしないのだ。
 だが、王国領のある活火山で火竜が目覚め、人里を荒らすようになったので、それを撃退ないしは討伐するための装備が必要になったのである。
 数多の騎士や職人、魔術師たちが頭を悩ませた。耐火素材を盾の表面に貼り合わせる。耐火の術式を書き込む。耐火効果の魔法を掛ける。しかし、火竜が吐く炎はあまりにも強力だったため、十分とは言えなかった。あと一歩のところで力負けしてしまう。あと一歩、何か強化できないだろうか、と。

 そのとき、一人の宝石商が思いついた。火に似た宝石を埋め込めば対抗できないだろうか、と。
 身を守る言い伝えの石は既にはめ込んでいた。しかしこれでもわずかに足りなかったのだ。

 その宝石商は、自分の在庫の中で最も美しいファイアゲートを持ち出してきた。燃え上がって、メノウの中で時を止めてしまった炎を見ているかのようで、光を当てる角度によっては時間が動き出し、燃え上がっているような。そんな、美しい石。
 それを盾にはめ込むと、魔術の素養を持つ者たちは皆言った。
 今にも盾が火を噴きそうだ、と。

 耐火試験には合格した。否、これまでの盾も、皆耐火試験は通っているのだ。結局のところ、人知を超えた火竜の力にはあらがえるかは、実際に受けてみないとわからないのだ。

 結論から言えば、その盾は火竜の吐く炎に耐えきった。はめ込まれたアゲートの力なのだろうか。竜の炎を直前で打ち消したのだ。
 それを見た火竜は人類を強者と見なし、火山周辺のみを縄張りとするようになったと言う。

 宝石商は失った良品の代わりに、多額の報酬を得た。彼の家はその後、魔術の研究に宝石を提供するようになった。

 時代が下ると、その盾は「火竜の加護を得た耐火盾」と言われるようになる。物語とはそんなものである。
しおりを挟む

処理中です...