拝啓 大切な人へ

コサキ

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わたしの彼

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「私の大切な人は、マンションの屋上から飛び降りて、死にました。」




 頭蓋骨陷没故脳症飛散、両肩脱臼、肋骨が臓器に刺さり内部多量出血、片腕は肘より先が断裂し、両足は変形。見るに堪えない姿のまま、夜が明けるまで生温いアスファルトに横たわっていたそうです。その報せが届いた日の記憶はありません。目を開けると、真っ
白な天井とカーテンが視界を埋め尽くしていました。三日眠っていたと母から聞きました。夢も見ることができませんでした。
 いっそのこと、目覚めたくなかった。
 私は、目覚めてしまった。

 あまり感情を表に出さない人です。穏やかでお淑やかで。決して暗い性格ではありません。不器用なところはありましたが、心の優しい人です。周りからの信頼も厚く、学年関係なく可愛がられていたと思います。女性との関わりは本人が避けていたようで、私の影響ではなかったと思います。シャイ、といいますか。人見知りは激しかったので、異性となると抵抗があったのかもしれません。だからこそ、私に心を許した瞬間は、大変嬉しかったのを覚えています。
 他の人とは違う。初めて他人を知りたいと思えた。友人と話しているだけで胸が苦しくなった。新たな感情に気付くことができた。特別な存在だ。
 これらは、彼自身から聞いたことです。彼から思いを告げてくれたのです。
 そっか。もう、そんなに経つんだ…

 今でも思い出します。誰もいない教室に二人。彼が数学、私は英語。お互いの苦手な教科を解き合っていました。橙の空は漆黒を帯びはじめ、靡くカーテンが冷たくなった。
 その日は消しゴムを忘れていたので、朝のホームルームが終わると彼にもう一つ持っていないかって借りていたんです。返すのが遅れてごめんね。今日一日ありがとう。そう言って再び机に向き直しました。
 彼は黙ったまま、消しゴムを筆箱に仕舞うことなく立ち上がり、気付けば私の机の前に立っていました。

「僕は、自分の気持ちに、気付いていいのかな。」

 無意識に涙が溢れたのは、あの時が初めてでした。
帰り道、顔を伏せながら初めて手を繋ぎました。日の暮れた帰路はすっかり冷えていたので、彼の体温を感じることができました。あたたかくて、愛しい。恋しくなるような、離れたくない、放したくない温もりでした。
 でも、あんなに冷たくなってしまった。



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