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わたしの彼③
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父は、私の異変に気付きました。傷はできてしまっても、私の体は自分で守ると行為を拒むことが増えてしまったからです。お陰で消えかかっていた癇癪達は血色を明らかにし、終いには片目を黒く染めました。
怒りに任せた彼が私の家に押しかけようとしたこともありました。必死で止めました。怖くて眠れなかった夜を忘れられません。家にも帰らず、近所の公園で夜を明かした日。傍にいたのは彼でした。朝露で濡れたブランコを共に漕ぎました。水滴の舞うスカートと一緒に抱きしめてくれました。見えなくなった右目にそっと触れました。確かに涙は流れていました。でも、見えませんでした。
彼がどんな顔をしているのかを。
数日後、彼は学校を休みました。何も聞いていない私は不安になりました。授業中にも関わらず、メールを送りました。待つことなく返信はきました。
"母さんの体調が悪くて、看病をしている。"
安心した自分が馬鹿でした。学校にも連絡を入れないほど、彼は無責任ではありませんでした。私がよく理解しているはずなのに、何も疑わなかった。
あの時、もっと早く異変に気付いていれば、彼を止められたかもしれません。
放課後、お見舞いに果物でも届けようと彼の家へ向かいました。比較的足取りは軽く、林檎でも剥こうかと、台所を借りていいか確認しなければ、と考えていました。しかし、顔を出したのは、「いらっしゃい。」と満面の笑みで迎えてくれたお母さんでした。何が起こっているのか分かりませんでした。体調を崩していると聞いていたので、姿を見た時は頭を整理するのに時間が掛かりました。彼のことを尋ねると、お母さんは答えました。
「まだ学校から帰っていない。」
その場に落とした袋をそのままに、私は自宅へ走りました。お母さんの呼び止める声なんて、全く聞こえませんでした。息をすることも忘れ、走り続けました。無意識に、涙が溢れていました。
自宅にもかかわらず、あんなにドアを開けるのに躊躇したことはありません。一歩踏み入れるといつもの家の香りがしました。玄関には無造作に脱がれた靴。彼の心境を物語っているようでした。
一度、ただいまと言いましたが、返事は無し。代わりに耳に入ったのは、誰かの呻くような吐息。息を飲みました。呼吸を忘れたのか、できなかったのか。してはならなかったのか。一歩、また一歩と、居間と玄関を繋ぐ廊下を進みました。耳の奥まで脈音が響きました。苦しい胸を服の上から掴み、更に奥へと進みました。
「お父さん、」いつからか呼ぶのを止めてしまったそれを発すると、背後から気配を感じました。「居ないの?」私の背後にはキッチンがありました。ゆっくりと身を攀じると、そこには、彼が立っていました。
右手には、刃先の赤くなった果物ナイフ。
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怒りに任せた彼が私の家に押しかけようとしたこともありました。必死で止めました。怖くて眠れなかった夜を忘れられません。家にも帰らず、近所の公園で夜を明かした日。傍にいたのは彼でした。朝露で濡れたブランコを共に漕ぎました。水滴の舞うスカートと一緒に抱きしめてくれました。見えなくなった右目にそっと触れました。確かに涙は流れていました。でも、見えませんでした。
彼がどんな顔をしているのかを。
数日後、彼は学校を休みました。何も聞いていない私は不安になりました。授業中にも関わらず、メールを送りました。待つことなく返信はきました。
"母さんの体調が悪くて、看病をしている。"
安心した自分が馬鹿でした。学校にも連絡を入れないほど、彼は無責任ではありませんでした。私がよく理解しているはずなのに、何も疑わなかった。
あの時、もっと早く異変に気付いていれば、彼を止められたかもしれません。
放課後、お見舞いに果物でも届けようと彼の家へ向かいました。比較的足取りは軽く、林檎でも剥こうかと、台所を借りていいか確認しなければ、と考えていました。しかし、顔を出したのは、「いらっしゃい。」と満面の笑みで迎えてくれたお母さんでした。何が起こっているのか分かりませんでした。体調を崩していると聞いていたので、姿を見た時は頭を整理するのに時間が掛かりました。彼のことを尋ねると、お母さんは答えました。
「まだ学校から帰っていない。」
その場に落とした袋をそのままに、私は自宅へ走りました。お母さんの呼び止める声なんて、全く聞こえませんでした。息をすることも忘れ、走り続けました。無意識に、涙が溢れていました。
自宅にもかかわらず、あんなにドアを開けるのに躊躇したことはありません。一歩踏み入れるといつもの家の香りがしました。玄関には無造作に脱がれた靴。彼の心境を物語っているようでした。
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「お父さん、」いつからか呼ぶのを止めてしまったそれを発すると、背後から気配を感じました。「居ないの?」私の背後にはキッチンがありました。ゆっくりと身を攀じると、そこには、彼が立っていました。
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