すぐれた観察者

森園ことり

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6 見えるもの

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 しばらくして山下家は引っ越した。

 老人介護施設の前の一軒家は今、空き家になっている。

 ミサコは今も毎日、窓際に椅子を置いて向かい側の家を眺めている。



 ある日、ショウゴが洗ったシーツを抱えて彼女の部屋を訪れると、「見て」とミサコが嬉しそうに窓の外を指差した。

 シーツをベッドの上に置いてから、ショウゴはミサコの傍らに立って窓の外を見た。


「山下さんの奥さんが子供たちを見せてくれてるの」

 笑顔で手を振るミサコの視線の先で、花が終わったジャスミンの長い蔓がゆらゆら揺れている。

 ショウゴにも、赤ん坊を抱いた女とその傍らに立っている小さな男の子の姿が見えた。

 彼らから目をそらしたショウゴは、ミサコの背中にそっと手をそえた。


「下に行って、みんなとゲームでもしませんか」


 彼女は彼を見上げると、にこやかに頷いた。

 そして二人は手を伸ばして一緒に窓を静かに閉めた。


(了)
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