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シンボル
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お休み2日目にして最終日、私達【渡り鳥】は朝食を取りながら、朝からもめていた。
「だから!【ダンゴ】の制作が優先でしょ!アレがあれば遠出だって歩かなくていいんですよ」
「どうせ今日で完成せんじゃろうに。それより、せっかくの休みなんじゃから1日くらい付き合ってくれてもいいじゃろ!?」
「だーかーらーっ!買い物だったらマロフィノと行ってきてくださいって」
「フィッ!?」
「なんじゃ!タタラのケチ!ど阿呆!」
「どーせケチでアホですよーだ」
こんな子供のような言い争いを飽きもせずに十数分続けていると、見かねたミケさんが声をかけてきた。
「昨日、リアスさんは5時から傘を持ってずっとタタラさんを待ってたニャよ。少しくらいお買い物付き合ってあげてもいいんじゃないかニャ?」
「なっ!そっそれはアレじゃ、えっと……服屋を見るついでにじゃな……」
だったら昨日買って来いよ!とは言えず、しぶしぶ。
「わかりました。ただし昼飯食ったら【クラフト】に行きますからね」
「本当か!それでもいいぞ!そうと決まったらお出かけじゃ!行くぞマロフィノ!」
「フィン!」
朝食のパンとサラダを一瞬で平らげ、リアスは席を立ってマロフィノを引き連れ店の外へそそくさと歩いていった。つーかまだ私食べてませんけど。
「置いて行くぞタタラ!早くせぬか」
やれやれ、付いてきて欲しいのか、1人で行きたいのかまったくわからない。
♦︎
ウキウキで歩くリアスの後ろについてギルドの近くまで歩いて来た。
「この辺り服屋とかありましたっけ?」
「ふふふ、今日の目的は服ではない」
えー、さっき服欲しいみたいなこと言ってたじゃん。
「あった!アレじゃ!アレ!」
リアスが指さしたアレを見ると、看板に【シンボル】と書かれている。
「なんすか?アレ?」
「アレはオリジナルのシンボルマークを制作、登録してくれる場所じゃ」
「はぁ……でっ?」
「まだわからぬか?阿呆じゃのうタタラは。あそこで【渡り鳥】のマークを作って登録して妾達のシンボルとして掲げるんじゃ!」
おお!それは面白そうだ、オリジナルのシンボルがあったら装備とか【ダンゴ】とかに刻印してもいいかも。まぁ阿呆のフレーズはだいぶ余計ですけど。
少しテンションが上がった私はマロフィノを抱きかかえリアスと肩を並べ【シンボル】に入店した。
「おはようございますぅ……」
高級ブティック(行ったことは無い)のように洗練された店内と受付のヒゲの男性に、場違いなところに入り混んでしまったのではと不安なる。
「いらっしゃいませ。制作ですか?登録ですか?」
「制作と登録じゃ」
「かしこまりました。登録はイザベルギルド登録の冒険者、さらにパーティーメンバーにAランク以上が所属していることが条件になりますが、よろしいでしょうか?」
「このタタラがAランクじゃ」
さっすが、リアス。この雰囲気でも堂々としてんなぁ、と感心していると。
「それではタタラ様、証明符を確認しますのでご提示をお願いします」
「えっ、あっ……証明符……証明符……」
アイテムボックスから金の証明符を取り出して手渡そうとすると。
「そちらはBランクの証明符でございます」
「えっ、あっ……すみません……」
この雰囲気に馴染めず思わず謝ってしまったが、そういえば昨日ランクアップは告げられたが証明符もらって無いや。
「昨日、内示があったばかりじゃが、この場合どうすればよいのじゃ?」
リアスがいなければとっくに心折れてヘコヘコと退散しているとこだ。ああ、なんか変な汗かいてきた。
「そういうことであれば、こちらで確認を取らせていただきます」
「うむ、それでは先に制作を頼む。サンプルがあればそれも用意してくれ」
「かしこまりました。ご案内いたします、こちらへどうぞ」
「あっ犬、大丈夫っすかね?」
「パーティーリーダーなんじゃ良いに決まっておるじゃろう」
すごい、こういう時のリアスって本当頼りになる。あと背が30cm高くて、胸がもう少し大きかったら惚れたかもしれないな、などと考えながら店員に案内され奥の8畳ほどの個室に入る。
部屋には豪華な装飾の施された大きなテーブルと6脚の椅子、紙やペン、辞書のように分厚いカタログのような物が何冊か置かれ、やや緊張しながらリアスと向かい合って座り、戸惑いながら隣の椅子にマロフィノを降ろした。
「ご説明させていただきます。備え付けの物はご自由にご使用ください、そしてカラーサンプルはこちら、あちらにあるのが図形のサンプルと制作例でございます。アドバイザーをお付けいたしましょうか?」
「いらん、ひとまず自分達で考える」
「かしこまりました。ドリンクをお持ちいたしますが」
「りんごジュース」
「ホットコーヒーブラックと、コイツに水を」
「かしこまりました」
店員さんが静かに退席すると私達はサンプルをテーブルの上に広げ、ひと通り目を通す。
「なんでシンボル屋さんってこんなに豪勢なんすか?」
「前の世界では無かったのか?」
「無いっす……たぶん」
「そうか、この世界では【紋章】は重要なものじゃから、シンボルを取り扱う店は必然的に格式高くなっておるんじゃ」
この世界で【紋章】は世界共通の紋章専門機関に徹底管理され、取得するための条件の厳しさから、【紋章】を持っているということだけで特別な待遇を受けることができるらしい。
例えば、高級ホテルやレストランなどの多くはシンボルを持っている人限定にしているらしく、さらに一部店舗では普段出さないような商品を……ってなんか、クーポンみたいな雰囲気が出てきたので、割愛。
つーか、野盗に襲われてずらくなるとか言ってるけど本当かよ?
気を取り直して。
私達平民がシンボルを取得するための条件はいくつかあるのだが、冒険者がコレを得る為の条件がランクA以上、なおかつ登録費1500万ピックを支払うこと……って!?
「1500万!!?誰が!?いつ払うんすか!?」
「そうわめくな、こないだの報酬があるじゃろう、とりあえずツケておくんじゃ」
「……まぁ、いいっす、それならいったん俺が払っておきますから」
「おぬし1500万も持っておるのか!!?」
「まぁなんとか……つーか、ツケは無理でしょう」
「そうかのう、出来ると思うけどのう」
1500万はかなりの痛手だが、せっかく条件を満たしたのだから作ってみたいと思ってしまうのはゲーマーの性である。
サンプルを眺めていると、あることに気づく。
「なんか思ってたよりシンプルな物が多いっすね」
「それはですね、王族や貴族などが使用するシンボルと、冒険者などの一般の使用するシンボルを分けるためそれぞれデザインに制限が設けられているためです。こちらドリンクです」
いつのまにか戻った店員さんがドリンクを置きながら答えてくれた。
私がイメージしていた複雑なパターンの模様がいくつも使われたようなシンボルは王族、貴族用。ロゴマークのようなシンプルなシンボルは一般用という感じらしい。
頭を下げ、退室する店員さんを見送りながら、リアスに視線を移すと……。
「うっ……うさぎ?」
「どうじゃ?可愛いじゃろ?」
いや、確かに上手だけれども。俺達仮にも【渡り鳥】ですからね!
「フィン!」
「なんだ?マロフィ……ノォォォ!!」
マロフィノは両前足にインクをつけてテーブルに大量の肉球スタンプを押印しまくっていた。何か拭くの!早く拭かないと!マロフィノを急いで抱きかかえ、これ以上被害が広がらないように……って。
「おおい!?俺の服に押すんじゃない!!」
「フィン。フィン。フィン」
「何を騒いでおるんじゃ、コレで拭け」
リアスが差し出した布巾でマロフィノの足とテーブルを拭きマロフィノからインクを遠ざけ、自分のイメージを描き出す。
丸を描いて……その中に……いや、丸の一部を繋げないでそこに向かって……。
紙を何枚か犠牲にしながら、イメージ通りのシンボル案を描きあげた。
「出来た!見てくださいコレ」
「お!なかなか」
「フィン!」
「というより、妾のウサギより良いんじゃ!」
惑星をイメージした円の一部を繋げないで未踏の地を表現、その円の中を欠けた部分を目指し羽ばたく3羽の鳥のシルエット。自分で言うのも何だが、冒険者らしい良いシンボル案だと思う。
「どうですかね?」
「フィン!フィンフィン!」
「コレにしよう!と言うか、コレしかないんじゃ!」
「良かった。店員さん呼んできま
「素晴らしいデザインでございます。登録カラーはいかがいたしますか?」
「うお!?えっ?あっ?色?」
呼びに行こうと思ったら、いつのまにか立っていた店員さんに驚き、椅子から落ちそうになった。ノックぐらいしろよと思ったが、私が無中で気がつかなかっただけなのかなぁ。
「登録カラーとはなんじゃ?これから先ずっと決めた色しか使えないのか?」
「いえ、登記上必要なだけで、例えば装備品などへの刻印は自由なお色で構いません。ただし、旗を作る場合は登録カラーをお使いください」
「まぁ、旗なんて作らないだろうし、ここはインスピレーションってことで、せーので言ってみます?」
「良いのう!ほれ、マロはこのサンプルから好きな色を選ぶんじゃ」
「フィン!」
「じゃあいきますよ、せーの」
『青!』
分かってやったのか、マロフィノが差した色も青。
「それでは、全員一致ということで」
「渡り鳥の【紋章】!完成じゃ!!」
「タタラ様のAランクの確認が取れておりましたので、こちらの登録用紙に記入をお願いします」
一般用紋章申請と書かれた用紙の記入を終え、店員に質問を投げかける。
「ここの用途の欄に冒険者とか家紋とか商用とかありますがどんな違いがあるんですか?」
「デザインの制限は一般用で共通でございますが、冒険者様用ですとデザインいただいたシンボルの下に一本のラインを入れさせた物が正式な登録シンボルとなります」
なるほど、そのラインがあるか無いかで冒険者かどうか判断がつくわけか。シンボルを持てる冒険者はAランク以上なわけだし、確かに野盗なんかには敬遠されるわな。
「今回の登録費用1489万9800ピックになります……タタラ様、現金はご準備しておりますでしょうか?」
どっからどう見ても手ぶらな私に店員さんは若干不安そうに費用を請求する。私はほらねといった感じでリアスを睨みながらメニューウインドウを開きお金を取り出す。
「失礼いたしました。収納魔法でございましたか、さすがでございます」
「いえ、たいしたことでは……ご確認ください」
現金を数え終えた店員さんから、今日中に登録が終わるので明日以降もう一度来店するように言われ、シンボル屋さんを後にした。
「いやー、なんか凄い体験しちゃったっすね」
「そうじゃのう、タタラはあれじゃネーミングはイマイチじゃがデザインはなかなか良いセンスじゃったぞ」
「前半よけいです」
「真実を言ったまでじゃ」
「フィン!」
「あっそ」
時刻は午後1時、腹ペコの渡り鳥がどこかで昼食をと考え始めた時。
「タタラ君」
振り返るとそこには、青い髪のイケメンが立っていた。
「イーグルさん!こんにちは」
「ちょうどいいところにいたね。君に頼みというより、まぁ強制なんだけど」
「なっなんですか?」
さっきまでの清々しい気分が一転。なんだか不穏な空気になってきた。
「昼食は?」
「まだ……ですけど」
「じゃあ、済ませたらギルドに来てくれ。ああ、昼食は軽めにしておいたほうが良いと思うよ」
「どうしてです?」
爽やかな表情のイーグルさんの目が猛禽類のごとく鋭く光る。
「僕と戦ってもらうからさ」
「へっ?」
イーグルさんはそのまま何も言わずにギルドの方へ去っていった。
いったい何が起こったのだろう、もしかしてこの前の宴会で何か失態を犯してイーグルさんを怒らせたのか?
そんなコトをグルグルと考えながら取った昼食はイーグルさんの忠告通りかなり軽めで済んだ。
「だから!【ダンゴ】の制作が優先でしょ!アレがあれば遠出だって歩かなくていいんですよ」
「どうせ今日で完成せんじゃろうに。それより、せっかくの休みなんじゃから1日くらい付き合ってくれてもいいじゃろ!?」
「だーかーらーっ!買い物だったらマロフィノと行ってきてくださいって」
「フィッ!?」
「なんじゃ!タタラのケチ!ど阿呆!」
「どーせケチでアホですよーだ」
こんな子供のような言い争いを飽きもせずに十数分続けていると、見かねたミケさんが声をかけてきた。
「昨日、リアスさんは5時から傘を持ってずっとタタラさんを待ってたニャよ。少しくらいお買い物付き合ってあげてもいいんじゃないかニャ?」
「なっ!そっそれはアレじゃ、えっと……服屋を見るついでにじゃな……」
だったら昨日買って来いよ!とは言えず、しぶしぶ。
「わかりました。ただし昼飯食ったら【クラフト】に行きますからね」
「本当か!それでもいいぞ!そうと決まったらお出かけじゃ!行くぞマロフィノ!」
「フィン!」
朝食のパンとサラダを一瞬で平らげ、リアスは席を立ってマロフィノを引き連れ店の外へそそくさと歩いていった。つーかまだ私食べてませんけど。
「置いて行くぞタタラ!早くせぬか」
やれやれ、付いてきて欲しいのか、1人で行きたいのかまったくわからない。
♦︎
ウキウキで歩くリアスの後ろについてギルドの近くまで歩いて来た。
「この辺り服屋とかありましたっけ?」
「ふふふ、今日の目的は服ではない」
えー、さっき服欲しいみたいなこと言ってたじゃん。
「あった!アレじゃ!アレ!」
リアスが指さしたアレを見ると、看板に【シンボル】と書かれている。
「なんすか?アレ?」
「アレはオリジナルのシンボルマークを制作、登録してくれる場所じゃ」
「はぁ……でっ?」
「まだわからぬか?阿呆じゃのうタタラは。あそこで【渡り鳥】のマークを作って登録して妾達のシンボルとして掲げるんじゃ!」
おお!それは面白そうだ、オリジナルのシンボルがあったら装備とか【ダンゴ】とかに刻印してもいいかも。まぁ阿呆のフレーズはだいぶ余計ですけど。
少しテンションが上がった私はマロフィノを抱きかかえリアスと肩を並べ【シンボル】に入店した。
「おはようございますぅ……」
高級ブティック(行ったことは無い)のように洗練された店内と受付のヒゲの男性に、場違いなところに入り混んでしまったのではと不安なる。
「いらっしゃいませ。制作ですか?登録ですか?」
「制作と登録じゃ」
「かしこまりました。登録はイザベルギルド登録の冒険者、さらにパーティーメンバーにAランク以上が所属していることが条件になりますが、よろしいでしょうか?」
「このタタラがAランクじゃ」
さっすが、リアス。この雰囲気でも堂々としてんなぁ、と感心していると。
「それではタタラ様、証明符を確認しますのでご提示をお願いします」
「えっ、あっ……証明符……証明符……」
アイテムボックスから金の証明符を取り出して手渡そうとすると。
「そちらはBランクの証明符でございます」
「えっ、あっ……すみません……」
この雰囲気に馴染めず思わず謝ってしまったが、そういえば昨日ランクアップは告げられたが証明符もらって無いや。
「昨日、内示があったばかりじゃが、この場合どうすればよいのじゃ?」
リアスがいなければとっくに心折れてヘコヘコと退散しているとこだ。ああ、なんか変な汗かいてきた。
「そういうことであれば、こちらで確認を取らせていただきます」
「うむ、それでは先に制作を頼む。サンプルがあればそれも用意してくれ」
「かしこまりました。ご案内いたします、こちらへどうぞ」
「あっ犬、大丈夫っすかね?」
「パーティーリーダーなんじゃ良いに決まっておるじゃろう」
すごい、こういう時のリアスって本当頼りになる。あと背が30cm高くて、胸がもう少し大きかったら惚れたかもしれないな、などと考えながら店員に案内され奥の8畳ほどの個室に入る。
部屋には豪華な装飾の施された大きなテーブルと6脚の椅子、紙やペン、辞書のように分厚いカタログのような物が何冊か置かれ、やや緊張しながらリアスと向かい合って座り、戸惑いながら隣の椅子にマロフィノを降ろした。
「ご説明させていただきます。備え付けの物はご自由にご使用ください、そしてカラーサンプルはこちら、あちらにあるのが図形のサンプルと制作例でございます。アドバイザーをお付けいたしましょうか?」
「いらん、ひとまず自分達で考える」
「かしこまりました。ドリンクをお持ちいたしますが」
「りんごジュース」
「ホットコーヒーブラックと、コイツに水を」
「かしこまりました」
店員さんが静かに退席すると私達はサンプルをテーブルの上に広げ、ひと通り目を通す。
「なんでシンボル屋さんってこんなに豪勢なんすか?」
「前の世界では無かったのか?」
「無いっす……たぶん」
「そうか、この世界では【紋章】は重要なものじゃから、シンボルを取り扱う店は必然的に格式高くなっておるんじゃ」
この世界で【紋章】は世界共通の紋章専門機関に徹底管理され、取得するための条件の厳しさから、【紋章】を持っているということだけで特別な待遇を受けることができるらしい。
例えば、高級ホテルやレストランなどの多くはシンボルを持っている人限定にしているらしく、さらに一部店舗では普段出さないような商品を……ってなんか、クーポンみたいな雰囲気が出てきたので、割愛。
つーか、野盗に襲われてずらくなるとか言ってるけど本当かよ?
気を取り直して。
私達平民がシンボルを取得するための条件はいくつかあるのだが、冒険者がコレを得る為の条件がランクA以上、なおかつ登録費1500万ピックを支払うこと……って!?
「1500万!!?誰が!?いつ払うんすか!?」
「そうわめくな、こないだの報酬があるじゃろう、とりあえずツケておくんじゃ」
「……まぁ、いいっす、それならいったん俺が払っておきますから」
「おぬし1500万も持っておるのか!!?」
「まぁなんとか……つーか、ツケは無理でしょう」
「そうかのう、出来ると思うけどのう」
1500万はかなりの痛手だが、せっかく条件を満たしたのだから作ってみたいと思ってしまうのはゲーマーの性である。
サンプルを眺めていると、あることに気づく。
「なんか思ってたよりシンプルな物が多いっすね」
「それはですね、王族や貴族などが使用するシンボルと、冒険者などの一般の使用するシンボルを分けるためそれぞれデザインに制限が設けられているためです。こちらドリンクです」
いつのまにか戻った店員さんがドリンクを置きながら答えてくれた。
私がイメージしていた複雑なパターンの模様がいくつも使われたようなシンボルは王族、貴族用。ロゴマークのようなシンプルなシンボルは一般用という感じらしい。
頭を下げ、退室する店員さんを見送りながら、リアスに視線を移すと……。
「うっ……うさぎ?」
「どうじゃ?可愛いじゃろ?」
いや、確かに上手だけれども。俺達仮にも【渡り鳥】ですからね!
「フィン!」
「なんだ?マロフィ……ノォォォ!!」
マロフィノは両前足にインクをつけてテーブルに大量の肉球スタンプを押印しまくっていた。何か拭くの!早く拭かないと!マロフィノを急いで抱きかかえ、これ以上被害が広がらないように……って。
「おおい!?俺の服に押すんじゃない!!」
「フィン。フィン。フィン」
「何を騒いでおるんじゃ、コレで拭け」
リアスが差し出した布巾でマロフィノの足とテーブルを拭きマロフィノからインクを遠ざけ、自分のイメージを描き出す。
丸を描いて……その中に……いや、丸の一部を繋げないでそこに向かって……。
紙を何枚か犠牲にしながら、イメージ通りのシンボル案を描きあげた。
「出来た!見てくださいコレ」
「お!なかなか」
「フィン!」
「というより、妾のウサギより良いんじゃ!」
惑星をイメージした円の一部を繋げないで未踏の地を表現、その円の中を欠けた部分を目指し羽ばたく3羽の鳥のシルエット。自分で言うのも何だが、冒険者らしい良いシンボル案だと思う。
「どうですかね?」
「フィン!フィンフィン!」
「コレにしよう!と言うか、コレしかないんじゃ!」
「良かった。店員さん呼んできま
「素晴らしいデザインでございます。登録カラーはいかがいたしますか?」
「うお!?えっ?あっ?色?」
呼びに行こうと思ったら、いつのまにか立っていた店員さんに驚き、椅子から落ちそうになった。ノックぐらいしろよと思ったが、私が無中で気がつかなかっただけなのかなぁ。
「登録カラーとはなんじゃ?これから先ずっと決めた色しか使えないのか?」
「いえ、登記上必要なだけで、例えば装備品などへの刻印は自由なお色で構いません。ただし、旗を作る場合は登録カラーをお使いください」
「まぁ、旗なんて作らないだろうし、ここはインスピレーションってことで、せーので言ってみます?」
「良いのう!ほれ、マロはこのサンプルから好きな色を選ぶんじゃ」
「フィン!」
「じゃあいきますよ、せーの」
『青!』
分かってやったのか、マロフィノが差した色も青。
「それでは、全員一致ということで」
「渡り鳥の【紋章】!完成じゃ!!」
「タタラ様のAランクの確認が取れておりましたので、こちらの登録用紙に記入をお願いします」
一般用紋章申請と書かれた用紙の記入を終え、店員に質問を投げかける。
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「デザインの制限は一般用で共通でございますが、冒険者様用ですとデザインいただいたシンボルの下に一本のラインを入れさせた物が正式な登録シンボルとなります」
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「前半よけいです」
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「フィン!」
「あっそ」
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「イーグルさん!こんにちは」
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「なっなんですか?」
さっきまでの清々しい気分が一転。なんだか不穏な空気になってきた。
「昼食は?」
「まだ……ですけど」
「じゃあ、済ませたらギルドに来てくれ。ああ、昼食は軽めにしておいたほうが良いと思うよ」
「どうしてです?」
爽やかな表情のイーグルさんの目が猛禽類のごとく鋭く光る。
「僕と戦ってもらうからさ」
「へっ?」
イーグルさんはそのまま何も言わずにギルドの方へ去っていった。
いったい何が起こったのだろう、もしかしてこの前の宴会で何か失態を犯してイーグルさんを怒らせたのか?
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