無課金で魔王になったので静かに暮らします

カレス

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第1話 プロローグ

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しがない一会社員のアキオ(IT下請エンジニア 27歳)にはたったひとつの生きがいがあった。
帰宅後にコンビニ飯を食らいながら自分だけの特別な世界に入ること。
それはPCゲーム VRORPG (Virtual Reality Online Role Playing Game)の TAKIDAN ONLINE (タキダン オンライン)だった。

内容は魔族の支配下にある世界(TAKIDAN タキダン大陸;中世ティストの異世界)で様々な職について暮らしを送ることができるという仮想空間ゲームであった。
大きな特徴は魔族との戦いに勝利してある程度のポイントを貯めれば、魔族の最高権力者である大魔王から勇者として認められ、TAKIDAN 大陸の中に自分だけの土地(自由地区)を拝領、維持することが出来たという点であった。
しかし制約としてプレーヤーは大魔王と直接戦うことはできず、常にその配下の魔族としか交戦することができなかった。

しかもいくら魔族を討伐してもこの世界が大魔王支配下であるという前提条件は絶対に覆されない仕様であった。
その様な設定上の制約があるにも関わらず TAKIDAN ONLINE は大流行した。
それは単純に自由度がとても高いゲームだからという訳ではなく、「大魔王から拝領される土地(自由地区)」にプレーヤーにとっては大変大きな魅力があったからだ。

そこでは、自分で製作したオブジェクト(武具、衣装、キャラクター、建築物その他)、採取した希少植物や鉱物、狩猟で得た魔物の魔石等々に自由に価格を付けて販売することが許され、さらには得られた異世界の通貨(単位はDAN;ダンと呼ばれ、1DANは1円として換算)は現実世界の電子通貨や物理通貨にわずかな手数料(3%)で交換可能でもあった。

ゲームの前提としては「魔族に支配された世界」という抑圧的で暗い空気を感じるものの、もし自分の作ったオブジェクト、例えば美しい美少女キャラクターが大ヒットしてそのうち運営の目に留まり公式キャラの一つにでも採用されたら、使用料も含めて莫大な利益が転がり込むというビックチャンスがあった。(実際にそういった事例が数件あったようだ)

しかもこの自由地区は魔族や魔物からの侵攻対象からは外される為、安心して商売をしたいプレーヤーには人気が高かった。
ただし、定期的に行われる魔族との防衛戦に三連敗すると自由地区は大魔王に返上しなくてはいけない。

ちなみにプレーヤーは討伐した魔族数やレベル度合に応じてそこそこの広さの自由地区を入手できたが、魔族の中でも大魔王直下の事実上ラスボスと言われる魔王ルビア(大魔王の娘)に一度でも勝利すれば TAKIDANの中に独立した特別自治区(自由地区以上の特権が与えられた区域)を持つことも可能であった。

その特別自治区では土地や建物を造成して一般プレーヤーに不動産販売やリースを行ったり、交易港を開設して利権を得たり、独自イベントで集客したりなど様々な収益特権があった。

さらに自由地区のように防衛戦に勝利する必要もなく土地は永続的に使用可能であった。
(しかし三年前にゲームがサービスを開始して以来、その魔王ルビアがやたらくそ強すぎて誰も勝つことができない状態がずっと続いており、プレーヤーは攻略方法を試行錯誤していた)

そんな様々な魅力を持つ TAKIDAN に引き寄せられたのはプレイヤーだけに留まらず、企業や官公庁までが様々な目的を持って押し寄せ当初は大盛況を極めていた…のだが。

そもそもPCのスペックそのものに「プレーヤーの強さ」が左右されるという物理的な制約、ゲーム自体の持つ様々なバグの多さ、戦闘に関するゲームバランスの致命的な悪さ(特に魔王ルビア強すぎ問題)、更には現実通貨も絡む仮想空間内市場における詐欺の横行と社会問題化によって、当初は異常な盛り上がりを見せたTAKIDAN ONLINEは、今や見る影もなく広大なマップ(現実世界に換算すると北海道に匹敵する広さ)に廃墟と荒野、そしてNPCの魔物が跋扈する暗黒大陸と化していた。

そんな経緯で参加プレーヤーは一頃に比べ激減したものの、その自由度の高さに魅力を感じるプレーヤーたちによって何とかゲームとして持ち堪えているのが現状だった。
そしてアキオも働いた収入の殆どを注ぎ込むほど TAKIDAN ONLINE に今でもどっぷりと浸かっていた。
なぜなら TAKIDAN ONLINE は、大事な彼女や家族もなく(両親は高校生の頃に事故で他界)これといった将来の夢もないまま、ただ働き詰めの毎日を送って過ごしてきた彼のつまらなさすぎる日々に福音を与えたからである。

アキオは当初、自作ハイスペックPCの能力を計る為にこのゲームをやり始めた。
その時、使う当てのない金で運試しに有償ガチャを回し続けた結果、課金が10万円を超えたところで当時最強スペックのUR武器を入手。
調子に乗ってその武器をさらに課金で限界まで強化しまくり、自分に装備した上で実戦に出てみたところ…
まだ初心者で戦闘経験値が殆どないに等しいにも関わらず、他のプレーヤー達が苦戦する高位クラスの敵魔族武装集団をあっという間に彼一人で屠ってしまったのだ。

「何だこのゲーム? PCと装備に金さえ注ぎ込んだら簡単に勝てんのかよ」

PC環境の良し悪しもそうだが、それよりも多額の課金さえすれば簡単に勝てるという構造自体がそのゲームを閉鎖的にしてしまう要因の一つではあるし、全体のゲームバランスだってどんどん悪くなっていく。
しかしアキオにとってこれは金さえかければ結果がしっかり出るという何とも単純明解な仕組みにしか映らなかった。
幸いにも彼は仕事がIT関係で自作PC作りなども好きだったことが幸いし、その収入の殆どをPC環境改善と課金に注ぎ込む様になっていった。

「いやぁ これまじ快感だわ!!」

アキオは初めて我を忘れて熱中できていることに感動した。
また仕事以外で何も気を使ったり心配するものが無いということも幸いしていた。
そうだ。彼女や家族もいない彼は将来自分がどうなるかなんて事より今この瞬間を楽しむことだけに没頭したかったのだから。

まもなくして彼はその異常とも言える執念と超マニアックすぎる自作PC作りのノウハウを駆使しまくって怪物のようなパソコンを賃貸の一室に建造するに至っていた。

ぱっと見は殆どスパコンかと思えるほどの巨大な筐体、部屋中に血管のように張り巡らせた水冷パイプ、傍には停電時でも12時間の稼働電力を供給する冷蔵庫の様な巨大無停電装置。
そして20Gbps 近くを軽く叩き出す複数の高速ネット回線。
(そのうち賃貸の床が抜けそうだが)

PCの中身はどこから入手してきたのかわからない軍事用特化CPU、超高速画像処理が可能なグラフィックボードに限界までメモリを搭載。
全ての構成パーツはカスタムされた最強(出所が怪しいものが多い)かつ冗長性(耐障害性)を持たせた並列二重構成。
はっきり言って維持費もやばいし性能もやりすぎではあるが、TAKIDAN ONLINE をプレイする上でそのパワーの恩恵はそりゃもう計りし得ないものではあった。

こうしてアキオにとって TAKIDAN ONLINE は生きる意味そのものとなり、この怪物パソコン環境はまさにそこで生きるための重要な装備、命そのものになっていたのである。
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