推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん

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旅立ち編

第五話 襲撃

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 ルーナ城から少し離れた地にある焼け焦げた野原、城が所持している魔道兵器の火力によって、魔物ごと焦土と化した姿としてその力の恐ろしさを物語っている。
 そんな場所で負傷した悪魔達が次々と起き上がり、城への反撃の準備をしていた。

「どういう事だ…上級並の攻撃魔法がどうしてこんなに…。」
「おい、セーレ様がいない!まさか単独で突っ込んだのか!?」
「私達も行くぞ!作戦通りルーナ城に突撃しろ!」

 翼を広げ、一人また一人と悪魔達は城に向かって飛び上がった。
 アルノアが撃った大砲は、悪魔達を倒すことは出来なかったが、手負いの状態にさせることが出来たのだろう、悪魔達は最初のような覇気が無くなっていた。

「おい!なんだあれは!?」
「まずい!すぐに城中に伝えろ!南東より多数の悪魔族がこちらに向かってきてる!」

 城の外壁通路で見張っていた衛兵達が、空を飛んでこちらに向かってくる悪魔達に気づき、城中の衛兵達に知らせに向かった。

「警戒態勢!南東より帝国軍が襲来!兵は急ぎ砲台がある外壁に向かえ!住人達は避難所に退避!繰り返す…」
「この放送はなんだ!帝国軍だって!?」

 警戒アナウンスが城や街に流れ始め、一気に世界が慌ただしくなった。アルノア達もその情報を聞き、早すぎる敵の襲来に驚いていた。

「原作通りだ!こんなに早く来るのか。」

 ついにこの時が来てしまったと緊張感が漂うクロム、どれだけ考えても結局ルーナ城を最短でクリアする方法が思いつかなかった。だがせめて正規ルートの悲惨な結末だけは避けられる、セーレの封印魔法の発動をなんとしても防がなければ…

「アルノア、レズリィ、コハクがギルド集会所で待ってる、合流して街の住人の避難をサポートするぞ!」
「わかった!」

二人の姿が走って見えなくなった頃合いを見て、俺はため息を吐きながら戦いへの嫌気を呟いた。

「戦いたくないなぁ…次の相手は今までの魔物と違って遠距離の魔法とか使ってくるだろ…でも俺が城で待機していても怪しまれるだけだし…くそっ!もうここまで来たら腹をくくるしかないだろ!」

俺は両手で顔を叩き、自分自身に気合いを注入した。先ほどのやる気のない表情から一変、戦いに向かう覚悟の表情へと移り変わった。

「衛兵!女王に伝えてくれ、城に敵が入らないようバリアを貼ってくれと。狙いは侵略じゃない、あの城の中にある魔法の情報だ!」
「わかりました!すぐに伝えます!」

 保険は入れといた、後はセーレをいち早く見つけ出さないと!そう考えながら俺は、先に行ったアルノア達を追いかけた。
 一方その頃、集会所付近では大勢の悪魔族が暴れていた。衛兵達も魔法で応戦するが、魔法のぶつかり合いで建物の被害が拡大していた。

「さっさと降参しなよ、お前らの守ろうとしてる奴らが惨めに死にさらされたくないのならな!」

 衛兵の注目をこちらに向けるため、悪魔達は建物や逃げ遅れた住人達を攻撃し続けた。

 ドガァァン!
「うわぁぁぁ!」

 逃げる住人の叫び声が街中をこだまする、そんな中叫び声を掻き切るような素早さで悪魔達に迫る影が一人現れた。

「ウィンドクロー!」

 目にも留まらぬ速さで悪魔に近づき、ズバッと体の肉をえぐり斬った。

「ぐぁぁぁ!テメェ!」

 自分の身を守るための防具を装備せず、いつもの普段着で現れた少女…いや、獣というべきだろう。頭には髪の色と同色の狼のような耳が生えており、悪魔をひっかいた手には技の影響で指が緑色のオーラを発している。遺跡での怪我から万全な状態へと回復したコハクが戦場に姿を現した。

「獣人の分際で俺達悪魔と渡り合うだなんておこがましいんだよ!」

 悪魔は魔法陣を展開し氷結魔法で作った氷の矢をコハクに向けて無数に浴びせたが、彼女の俊敏な動きに一本も当たらない。

「くそっ!当たらねぇ!なんだこいつ速すぎだろ!」

 撃ってくる氷達を難なく回避しながらコハクは悪魔に近づく、それを危険視したのか悪魔は後ろに飛び上がるも、コハクの飛び出す速さの方が勝っていた。

「ラビットスティング!」

 強靭な脚力で飛び上がり、上空へと逃げようと離れた悪魔に重い蹴りをくらわせた。悪魔は言葉も出ない苦しみを表し、塵となって消えていった。

 ビュュン!
「あっ…待て!」

 一体倒して息をつこうとした直後に、悪魔達が左右に分かれて飛んで行くのを見た彼女は追いかけようと体を動かした。

「コハクーー!」

 つい最近聞き覚えのある声がして、足を止めて振り返った。その先には向こうからこちらに走ってくる三人がいた、勇者パーティーの人達だ。

「コハク!状況はどうだ?」
「外から現れた悪魔が南北に分かれて暴れています!」
「なら二手に分かれよう、北は私とレズリィが行く。」
「よし、なら俺達は入口に近い南からだ!行くぞ!」
「はい!」

 アルノアとレズリィは北の中心街に、クロムとコハクは南の正門に向かい走った。

 中心街には武器屋や特殊な店が数多く並んでおり、住人が住む家よりも少し頑丈に作られている。だがその反面、建物の間には人が入れるスペースはあまり無く、物も置かれていることから通り抜ける事は難しい。よって住人達は大通りから逃げる事しか出来ない。

 ズドン!ズドン!

 大通りを逃げ惑う住人に向かって悪魔達は魔法を撃ち込んでいく。衛兵達も被害を抑えるために防御魔法を展開するが、防御に精一杯で悪魔達の猛攻は止まらない。

「アハハハハ!雑魚がどんなに集まろうとも私達には敵わないんだよ!」
「暴れまくるぜ!人間共、私の魔法に耐えてみろ!」

 複数の悪魔達の手から魔法陣が展開された、その異様な光景に衛兵も住人も死を感じさせる絶望を与えるのは十分すぎるほどだった。

「死ねぇ!」
 ズバッ!ズバッ!
「ぐぁぁぁぁぁ!」

 悪魔達の余裕の叫声と同時に後ろから氷の矢が二人の悪魔を貫いた。

「なにっ!氷だと!?」

 突然の攻撃に悪魔達は後ろを振り向くと、アルノアとレズリィ、その後ろには複数の衛兵達を連れていた。

「勇者パーティーの方々!それに増援まで来てくれたのか!」
「助かった、あなた達がいれば心強い!」

「うおおお!」と叫ぶ衛兵達、助かった事に安堵し腕を上げて歓喜していた。

「レズリィ、負傷した衛兵と住人を回復しろ!こいつらは私がやる!」
「わかりました!」

 レズリィはすぐ近くにいた衛兵に駆け寄り回復魔法をかけた。

「治癒《ヒール》!」
「すまない…しくじってしまった。だが私の事より住民を先に治してくれ、彼らの方が私達より痛い思いをしているはずだ。」

 そういう彼だが、着ていた鎧には胸部が割れて焦げ臭い匂いが漂っていた。住民を守るために最前線で戦うその覚悟に、レズリィは辛い気持ちを隠しきれず苦い顔を見せた。

「凍れ!氷結《ブリザド》!」
 パキィィィン!
「このっ!たかが氷で…」

 こちらでは悪魔達とアルノアの魔法の撃ち合いが白熱していた。飛んでいる相手に魔法を撃ち込んでも避けられると知ったアルノアは、氷結魔法で相手の翼を凍らせ地面に落とした。

「今だ!魔法を撃ち込め!」
 ズダダダダダ!
「ぐぁぁぁぁ!」

 衛兵達の手から魔法陣が展開され、落ちた悪魔に魔弾を浴びせた。魔法の炸裂音と悪魔の断末魔が共鳴し、苦痛に悶えながらその体は塵となって消えた。

「くそ野郎が!全員燃えカスになっちまえ!」

 それを見ていた他の悪魔達は仇討ちのごとく、一斉に魔法をアルノア達に撃ち込んだ。

「魔法使いを前線に立たせるな!盾兵、戦線を維持しろ!」

 後ろにいた衛兵達の中から、人の丈ほどある大きな盾を背負った二人が飛び出し、アルノアの前に立った。

「デコイガード!」
 ガジャン!

 盾を地面に刺し、迫る攻撃を防ぐ壁のようになった。
 するとその盾は光を放ち、悪魔達が撃ってきた魔法を全て吸い込み消滅した。

「防がれた!?もっとだ!もっと撃ち込め!」

 何発撃っても結果は変わらなかった。撃った魔法は悉く盾に吸い込まれ消滅した。

「なんだこの盾は、撃っても撃ってもあれに吸い込まれる!?」
「数で押し込め!ただの人間の防御だ、すぐに力尽きる!」

 魔法は無駄だと確信し、自身が持つ武器を手に取って衛兵達に接近した。
 バッ!
 突如、布が風になびくような音がし、陽の光を遮るよう飛行している悪魔達の上にアルノアが横切った。

「おい!私は仲間はずれか?」
「なっ!いつの間にお前!」

 飛行している悪魔に少しでも接近するため、衛兵が盾で攻撃を防いでいる間に隣の建物を上っていた。地上に降り立った彼らにとって空を制した彼女を見れば、人と同じく恐怖心が湧き立ってくるだろう。

「新しく覚えた魔法があるんだ、その身で味わってみろ!」

 アルノアの両手から魔法陣が展開され、二つの火球が射出された。悪魔達はこの魔法を知っているのだろう、青ざめた顔をしてその場から逃げようと必死に体を動かそうとしたが…

「爆破魔法、炎爆《ブラスト》!」

 火球が大きく膨れ炸裂した、まるで花火のように大きい尺玉の中から無数の小さい火花が炸裂する形で、悪魔達の体に無数の火の雨が着弾した。

「今だ!全員で畳み掛けろ!火球《ファイア》!」

 アルノアの爆破魔法で牽制された一瞬を突き、衛兵達の集中放火で悪魔達を一気に鎮めた。声を発することもなく悪魔達は塵となって消えていった。

 一方でコハク達がいる正門前では、魔導兵器から逃れた悪魔達が壁を越えて侵入していた。
 その場には、疾風のように突き進む一人の影が行き交う衛兵や悪魔の注目を浴びていた。

「こいつ!なんで当たらない!体中に目でもついているのか?」

 一人の悪魔がその影…もといコハクに挑んでいた、何発という魔法を浴びせるが相手の立体的に動く回避行動でその行動が無駄になっていた。
「はぁ…はぁ…」と息を切らす悪魔、魔法の連続詠唱による疲弊で生まれた間を突き、コハクは一瞬で悪魔の懐に近づいた。

「ソニッククロー!」

 コハクのスピードから繰り出される引っ掻き攻撃、剣で振り下ろすのと同じく、体を抉るように斬り捨てた。

「ガハッ!はっ…速すぎだろ…」

 ダメージにより落下する悪魔は、体勢を立て直そうと顔を上げた直後目を見開いた。彼の目に映ったのは、すかさず攻撃を繰り出そうとしているクロムの姿だった。

「ダブルスラッシュ!」

 コハクのように十字状に斬った直後に後ろを向かずに走り去った、斬った奴の生死を確認している暇はない、彼の目の前にはまだまだ大勢の悪魔が蔓延っていたからだ。

 バキュゥゥゥ!
「うわっ!」

 突如として空中を飛んでいたコハクの横から電撃魔法が貫いた。コハクは身を捩らせ回避したがバランスがとれず、近くの木箱に落ちてしまった。

「ふん!大人しく死にやがれ!炎爆《ブラスト》!」

 すかさず悪魔がコハクに向けて爆破魔法を放つが、それに追いつくようにクロムはコハクの前を遮った。

「氷結《ブリザド》!」

 クロムの前に氷で出来た壁が作られる。アルノアが遺跡で氷のバリアを生み出したのを見て、氷を自由な形状に作り出せると知った俺は、バリアをイメージしながら土壇場で作り上げた。

「コハク、動けるか?」
「大丈夫です、大した傷ではありません。それよりクロムさん!民家が!」
「爆破魔法か…これ以上使われるのはまずい、速攻で行くぞ!」
「はいっ!」

 爆破魔法が切れたその瞬間、氷のバリアを解除し撃ってきた悪魔へ攻め入った。

「ソニッククロー!」

 先手を切ったのはコハクだった、すごい速さで跳躍し悪魔の懐に近づいたが、前に突進してくるのをわかっていたかのように横に回避した。

「速いだけの子犬が!空中では身動き出来ないだろ!」

 空中では身動きがとれず落下するだけのコハクに、すかさず一撃を喰らわせようと手を上げた瞬間…

 バキュゥゥゥ!
「ぐぁぁぁぁぁ!」

 地面を背にした彼の後ろから電撃魔法が貫いた。何が?今どこから?と頭を巡る中、顔をゆっくり地面の方に向けるとこちらに手を伸ばしたクロムの姿があった。

「てっ…テメェぇぇぇ!」

 回避する事を見越して的確に攻撃しろ、レズリィに言われた事が教訓となりクロムは心の中で感謝した。

「コハク!今だ!」

 瞬間コハクは、感電し硬直した悪魔の体を掴みクロムに目掛けて落とすようドロップキックを繰り出した。

「ラビットスティング・ダブルクラッシュ!」

 コハクの渾身の力を込めた一撃は、悪魔の体を凹ませ激しく地面に叩きつけた。

「ダブルスラッシュ!」

 俺は叩きつけられた悪魔を追撃するよう剣技を振りかざしたが…

「当たるかよそんな鈍い攻撃…!氷結《ブリザド》!」

 俺の剣は悪魔には届かず目の前の氷の壁に妨げられた。

「どんな気分だ勇者?お前が考え出した技をパクられる気分はよぉ!そのまま氷漬けにしてやるぜ!」
「ぐぅ…!」

 氷の壁から出る冷気が剣に纏わり凍りついた、次に柄、手、腕の順にみるみるうちに凍っていく。
 だがクロムは何もしなかった、凍りつく体を魔法で溶かしたり、剣が凍った瞬間に手放す事は出来たはずだが、彼はずっと悪魔の目だけを見ていた。それが悪魔に違和感を感じさせた

「なんだこいつは?氷漬けになってるのに動転もしなければ反撃もしてこない…何か待ってる…まさか!」

 瞬間悪魔の背後から背筋が凍る殺気を感じた。

「ソニッククロー!」

 悪魔は咄嗟に違和感のする背後へ顔を振り向いたが、もう遅かった、コハクの技が先に悪魔にヒットし、その場に崩れ落ちた。
 餌…こいつは俺を確実に殺すために自分を誘い出した。そう思い始めたら胸の奥から不快な憎悪が湧き出てきた。
 こんな人間に負けたという屈辱を。

「くそっ!こんな雑魚共に俺が…」

 捨て台詞を吐くように悪魔は起き上がろうとしながらこちらを睨みつけてきた。

「あの人、まだ息があります。」
「待てコハク、息があるうちに聞きたい事がある、倒すのはその後だ。」

 戦闘を継続しようとするコハクを止め、クロムは悪魔に近づき敵の情報の探りを入れた。

「おい、お前らの幹部はどこにいる?」
「誰が教えるか!お前みたいな雑魚に!」
「立場を考えろよ、こんな雑魚に負けたお前はそれ以下だろ?」
「ふん!いい気になってるのも今のうちにだ、お前じゃセーレ様には届かない。ただの襲撃だと思ってんだろ?ここから面白くなるっていうのにお前らの絶望する顔が見れなくて残念だよ!」
 
 自分が負けようともトドメを刺された二人の上に立とうと見栄を張り、馬鹿にした口調で高笑いした。

「もういいですクロムさん!私が…!」

 クロムはトドメを刺そうとするコハクの肩を掴んで止めた。コハクがなぜ止めるのかと質問を投げかけようとした時、悪魔の体は徐々に塵となって消えていった。最後まで二人を笑い続けて…

「その先は知ってる、絶望するのは別の話だ…。」

 何も情報は得られなかったが、やはりストーリーと同じ内容だ。もうそろそろ無双の時間は終わりを告げる、だったら一体でも多く悪魔を討伐しなければいけない。

「行こうコハク、まだあっちで悪魔達が暴れている。」

 街の中心部が最も悪魔の数が多い、今からでも加勢できるよう全力で急ぐ二人だが…

「うわぁぁ!誰か!誰か助けてくれー!」

 建物の先から聞こえる住人の助けを求める声、内容からしてかなり危険な状況だ。

「コハク!先に行って住人の安否を!」
「任せてください!」

 そう言うと、建物の壁や街灯を伝いながら移動し、あっという間に建物の向こう側に辿り着いた。

「ソニッククロー!」

 着いた早々コハクの技名が聞こえた。やはり悪魔が人を襲っていたのだろう。俺も加勢するために、人が入れる建物の隙間を見つけ、急いでコハクの元に向かった。

「コハクー!」

 彼女の名を叫ぶが、向こうは俺の声に反応しない。悪魔はそこにはおらず、彼女は助けを求めていたであろう住人の胸ぐらを掴んで睨みつけていた。

「お前…なんでここに?ぐっ…!」
「あなたの体から私達と同じ匂いがします、それもただの匂いじゃない…血の匂い…。」

 コハクの目つきが魔物に向けるそれと同じだった。その目からは怒りや葛藤などさまざまな感情を感じ取った。
 掴まれている相手も、ひどい汗を額から流しながら目が泳いでいた。
 明らかにこの状況は、殺す側と殺される側の場面だ。

「コハク!どうしたんだ?」

 異様な光景に居ても立っても居られなくなり、急いでコハクの元に走って向かった。
 俺が来ると捕まれている相手は懇願と怒りが混じった表情でコハクに指をさし叱ってきた。

「お前こいつの飼い主か?さっさとこの凶暴な馬鹿犬を離してくれ!」
「あなたまさか…私達を売り飛ばそうとしている奴隷商人じゃないんてすか!?だったら…!」
「ひぃぃぃ…!」

 俺はコハクが手を上げて攻撃しようというところで腕を掴み静止させた。
 私達を売り飛ばす商人…この言葉である程度の内容は理解できた。
 ルーナ城攻略後のイベント任務『囚われた獣人族』だ。

 ルーナ城の街の裏では、囚われた人間や魔物を奴隷として売り飛ばす商人がいる。衛兵達も女王もこの闇取引の事は把握している、だが根絶しようとは考えていない。
 金になるから、それが答えだ。
 魔導兵器の設備費、この国の輸入輸出にかかる費用など一般人からは見えない場所でその闇取引で稼いだ金が使われる。
 その利益を止めないよう衛兵達は奴隷商人達を捕まえようとしない、逆に奴隷を解放しようと奮闘している人が捕まってしまう、理不尽すぎる所業だろう。
 だが俺は…その真相を知っている。

「やめろコハク、今は堪えろ。」
「ですがこの人は…」
「奴隷商人だろ?さっきので理解した。」
「なっ、何を言いがかりを…」

 急に正体を突きつけられ焦りの表情が見える。そしてこの人がその商人だと分かる証拠を手に取り、彼の前に突きつけた。

「じゃあ聞くけど、一般市民がこんなに牢屋の鍵を持ってるけど何に使うつもりだ?」
「なっ…しまっ…!」
「あなたやっぱり!私達の仲間をどうしたんですか!?」

 奴隷商人だと分かったコハクは怒りの表情を見せて彼に尋問する。仲間のために怒るのは当然のことだ、だが…

「コハク…今は時間がない、こいつは放っておいて今は悪魔達を掃討するのが先だ。」
「でも…!」
「今俺達はこいつを捕まえる力も権限もない、下手な事をしたら捕まるぞ。」
「うっ…でも…」

 握った拳が震えている…
 だから俺は…

「まぁ…お前の気持ちはよくわかる。」

 ドガァァ!
 一言発した後に俺は商人の顔を勢いよく殴った。綺麗に拳が入ったのか商人はその場で伸びて倒れてしまった。

「くっ…クロムさん!?」
「捕まえる力はなくても、殴れる権限くらい誰でもあるだろ。人を売り飛ばした金で国を良くするために使おう?善良な住人を奴隷にして手に入れた金で暮らしてるお前らは、ただの狂人だよ。」

 握った拳から力を抜き、急いで商人を建物の中に運び入れた。せめてもの慈悲だ、こんな状況で外に放置するほど性根は腐っていない。
 すると、コハクが駆け寄り俺に向かって今の気持ちを叫んだ。

「クロムさん!どうしてあの時止めたんですか?私達の仲間を奴隷にしてる人なら、私だって殴る権利は…!」
「お前はこの国で顔が知られてる、ここの住人がそれをやれば捕まるが、よそ者が知らずにやったのなら話はまた違ってくる。」

 俺はコハクの肩に手を置き、希望があるような言葉で励ました。

「大丈夫、これが終わったらすぐに助け出しに行こう!この建物は頑丈にできてる、今捕まってる人達にとってもここほど安全な場所はない。」
「クロムさんがそう言うなら…わかりました、これが終わったらすぐ行きましょう!」

 コハクもいつもの調子に戻り、二人は悪魔達を掃討するために中心街へと走り始めた。
 ルーナ城は未だ魔法の炸裂音と建物が崩落する音が遠くから聞こえる。
 セーレの封印魔法、獣人族の安否、訪れる幾つもの絶望が徐々に不安という形をなして俺の背にのしかかる。
 負けるかよ、こんなところで…と俺は胸の中で呟き、コハクと共に次の戦場に向かった。


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