地獄に変わった世界の中で

否石

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ドームの出現

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 至って平凡ないつも通りの朝。

 俺はいつものように高校に登校し、欠伸を一つ教室に入った。

 自分の席に視線を向ければその席に座る少女が写った。

 黒髪ボブの少し小さめな身長で、活発そうな雰囲気を醸し出している俺がよく知るクラスメイト。

 あ、もういるじゃん。珍しい。


「おはよう」


「あ、おはよー」


 鞄を机の上におき、俺はその少女ーー松田蓮火に挨拶する。

 松田は声を弾ませて返事をした。


 ニヤリと松田は俺に笑顔を向ける


「ねえ、今日の宿題やった?」

「あーそりゃねえ」

「やり、ちょっと見せて!」

「えーーー」

 俺にねだるような目を向ける松田に、宿題くらい自分でやれと俺はを白い目を向ける。

 しかし駄々をこねるように足をばたつかせる松田。

「写すために急いで学校きたんだよー。これじゃ無駄になっちゃうじゃん!」


「勝手に無駄にしてたら?」


「えー」

 松田はブウブウと文句を垂れているが、さてどうしようか。

 すると、

「高校生にもなってそれはどうなのよ」

「ん? 楓じゃん、おは」

「おはよ」

 ちらりと声がした方を見ればそこにいたのは木下楓だ。

 このクラスの委員長であり、名ばかりではなくきちんとクラスを統率するタイプ。

 キラリと光る眼鏡と艶やかな長髪がトレードマークの女の子だ。

 友人の一人である。

「勇気くんもおはよ」

「おはよ」

 木下と俺達は挨拶を交わし、話は先程の宿題を写すかどうかに戻る。

「ねえ、宿題はー?」

「まじて見せんの?」

「だって昨日部活終わりに疲れて寝落ちしちゃってできなかったんだよー、気づいたら朝。良いじゃん、今日だけだから!」

 手をパンと叩いて頭を下げる松田。
 その様子を見て俺はしばし悩むも了承を決める。

 まあ、どうせ大した内容じゃないし。

 こういうのは持ちつ持たれつってことで。


「しかたないなあ」


「やった」


 はにかむように笑顔を浮かべる松田

 木下は呆れたように松田を見ていた。
 俺は松田にノートを差し出し、

「はい」

「ありがとー」

「ありがとー」

「ん?」

 割って入るような声を耳にして動きを止める。
 声の主を見れば差し出した松田に差し出したノートを横から受け取る大柄の坊主の男がいた。

 友達の一人、土屋大地だ。

 野球部の彼は今日も朝練の後だったのだろう。

 シーブリーズの匂いが漂っていた。

「ちょっとあたしのノート返してよ!」

「いや俺のだけどね? てか大地お前も忘れたのかよ」

「うい、普通に忘れてたわ。ノート見て思い出したぜ。サンキューな」

「勝手に借りんな」



 聞く耳を持たずへへへと笑ってノートを持ってく大地に松田も席を立ってノートを取り返しに追いかけた。

 残された俺と木下は呆れたように彼らを見送る

「いいの?二人も写したら先生も気づくかもしれないわよ」

「確かになー。けど片方にしか見せないのもあれだし……。木下が松田に見せてくれる?」

「無理ね。推薦って一年生からの素行も見られるらしいのよね」

「え? 今から進路考えてんの? さすが委員長」

「委員長やめて」


 今は俺たちは高校一年の五月。

 普通の高校生は親睦を深めるための遠足も五月に終え、そろそろ始まる夏休みに思いを馳せるだけってのが普通だと思うけど木下はもう進路の事を考えて行動してるらしい。

 行く大学さえ決まってない俺とは雲泥の差だね。

 さすが委員長。

 意識と行動がガチ委員長。

「ねぇ机狭い!」

「俺の机だろ?」

「わたしが借りたノートじゃん!」

 教室に響き渡るような声を上げて宿題を写す二人。
 陣地を取り合うように机をせめぎ合う二人を見て、一限で回収されるから早く写してくれないかなと俺は思った。

 そんな風に窓際の彼らに目を配っていた俺だから、二人やクラスの大半に先んじてそれを見つけた。

「なんだあれ、光?」

 二人の奥の窓越しに異様な光景を見て、俺は思わずつぶやいた。
 木下も俺の声につられてこちらに視線を向ける。

 俺の視線が外に向けられているのに気づき、木下も同じように窓の外を見た。

 その結果、木下も俺と同じく身体が固まった。

 それはそうだろう。なんたってあんなものが空に向かって伸びていくんだから。

 それは光の柱だった。

 青色に妖しく輝く光が空に伸び、天に届いたと思えば大きく空に広がっていく。

 いや、空に伸びてるんじゃない。

 あれはドームだ。ある一定の範囲を囲む様に光が地面に降りてくる。

 それはこの校舎を超えて街全体を覆うように広がっていた。

「なにあれ、やばくない?!」

「わ、すご」

「え、花火??」

 喧騒はクラス中に広がり、みんなが空にスマホを向ける。

 宿題を写していた二人もぽかんと口を開け、外を見ていた。
 木下が疑問を口にする。

「ねえ、あれ何だとお」

「……え?」

 だが木下の声が途中で止まった。

 聞き逃したのかと俺はとっさに木下に視線を向ける。

 そこで疑問の声を俺は漏らした。

「え、木下?」

 ドサリと委員長が持っていた鞄が地面に落ちる。

 鞄が床に転がった。だけど、それなら鞄を持っていた木下はどこに行った?

 視線の先には木下はいなかった。

 まるで先程話していたのは幻だとでも言うように、木下の痕跡はどこにも見当たらなかった。
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