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第31話 狂気
しおりを挟むエウルチグには転移魔法ですぐに着く。
アディッサの仲間がパタパタと飛んで先行して子供を集めている商人の拠点を案内してくれる。
エウルチグの中心地ドミフの街外れに半ば廃屋となった没落貴族の館がある。
元が高位貴族の館らしくかなり大きい。
ペトロニウスは到着してすぐに濃厚な血と苦痛と絶望の臭いそして歪んだ欲望の臭いに気がつく。
ここは商人の取引場所でもあり在庫の保管場所兼加工場だ。
ペトロニウスは不快な表情で館に踏み込んで行く。
触れるのを嫌がって扉を片っ端から魔法で吹き飛ばして歩いて行く。
途中で見かける商人達も有無を言わせず吹き飛ばしてしまう。
ペトロニウスは別に捜査官でも司法の関係者でもない。
証言も証拠も関係ない。
使い魔がペトロニウスに報告した段階でペトロニウスだけの判断で断罪する。
善悪も言い訳も何もない。
入り口付近には既に解体され納品を待つばかりの子供達。
原型がかろうじてわかる程度に刻まれガラス瓶に入れられている。
館の奥に行くにつれて痛みや恐怖に呻く声が聞こえてくる。
全ての扉が開け放たれ救うことが出来る子供達をペトロニウスが創り出したゴーレムが抱き上げエリミリアの教会へと転移して行く。
商人が雇った冒険者や関係する騎士が剣を向けるがペトロニウスはまるでだれもいないかのように踏み込んで行く。
彼らはペトロニウスに剣を触れさせるどころか声も上げられずに倒れて行く。
議会や貴族達が私欲と変質的な嗜好の為に守るべき自国の子供を殺した。
善悪ではなくただ嫌悪感だけが膨れ上がる。
ペトロニウスは既に動かなくなって地に倒れている議員や貴族を見ると嘔吐を始めた。
ペトロニウスの様子がおかしい。
発作を起こした様に暴走を始めている。
血と嫌悪感に過剰反応を起こしている。
膨大で破滅的な魔力が渦巻いている。
だけど私達使い魔にとってはそれすら美しく見える。
苦しみに悶えるペトロニウスを私達はうっとりと見上げる。
ついにペトロニウスは何か言葉にならない声を上げて魔法を発現させた。
ネズミやコウモリ達そしてゴーレムを残して周辺には何にもなくなった。
近くとは言えない場所にあった議事堂も商館も街もごっそりと消えてしまった。
おそらくこの件とは関係がなかった人々や建造物も巻き込んで。
規模から考えるとどっちが悪者かわからないぐらいの大災害になってしまった。
その日エウルチグは滅んだ。
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