【完結】ヤンデレに恋愛フラグを仕込まれた俺の末路

かおり

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第11話 壊れた自分を止めてほしかった

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 足音だけが、世界のすべてだった。

 手を引かれ、何も考えられずに走っていた。
 視界がにじんで、息がうまくできなくて、心臓はまだバクバクと音を立てていた。

 ようやく足が止まったのは、小さな公園の端。
 ブランコもベンチも誰もいない、午後の残り香がただよう静けさ。

 桐生先輩は何も言わず、俺の手を離して隣に腰を下ろした。

「…………」

 俺は何も言えなかった。いや、言葉にできなかった。
 喉の奥が痛い。胃の奥が気持ち悪い。だけど──

 心が、なにより、気持ち悪かった。

 ……なんだったんだ、俺
 どういうことだよ……体が、勝手に……
 さっきのことが、スローモーションで頭の中に再生される。

 黒川の顔。泣きそうな目。
 なのに俺は、その顔にキスをした。何度も。
 耳、首、胸、腰。
 どこまで触れたのか、もうわからない。

 俺……黒川に……襲いかかってた……?
 嫌がってた。明らかに嫌だった。でも止まれなかった
 怖いくらい、興奮してた。俺の意思じゃないのに──

「……違う、違うんだって……!」

 無意識に声が漏れた。
 誰だよ……あのノート、盗んだやつ……
 あれ、絶対、使われたんだ……
 俺が書いてないのに、俺が……
 ふざけんなよ……俺の体で、勝手に──

「黒川も……辛そうだったのに……俺、俺……なにしてんだよ……」

 ──ボロッ、と、何かがこぼれた。

 涙だった。

 止まらなかった。気づけば、もう顔はぐしゃぐしゃで、
 喉が震えて、言葉が崩れていく。

「やめてよ……俺、やだよ……こんなの……」

「こんなの、俺じゃねぇよ……っ」

 しゃくり上げるような声が漏れ、膝を抱えこむようにして丸くなる。

 もう、壊れそうだった。
 
「……君、本当は、助けてほしかったのか?」

 桐生先輩の声が、落ち葉が舞うように静かに響いた。

 その優しさが、刺さった。
 余計に涙が止まらなくなった。

「うぅ……っ、あああっ……っ」

 嗚咽に変わって、息も絶え絶えで、
 気づけば肩が震えていた。

 桐生先輩は何も言わなかった。
 ただ隣にいて、見守ってくれていた。

 それだけだったのに──あったかかった。

 どれくらい泣いただろう。
 空が少し暗くなって、風が冷たく感じるころ。

 ようやく、桐生先輩がぽつりと呟く。

「……なにがあった?話してみろ」
「説明してくれれば……なんとかしてやれるかもしれない」

 声が、優しかった。
 でも、芯のある、頼れる声だった。

 俺は……泣きながら、顔を上げて。

「桐生先輩……」

 そのまま、すがるように先輩の肩に額をあずけた。

「……どうしよう……俺……」

 ──こんなふうに泣いたの、いつぶりだろう。

 助けてほしいなんて、思ったこともなかったのに。
 でも、今は──ただ、誰かに止めてほしかった。

 壊れてしまいそうな、自分自身を。
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