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第六十九話_ラバさん、酷い目にあう
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「ちぇっ、なんか効いてない」
ガーベラは不満そうに銃を下ろして言う。逃げようとした男に命中したはずなのに、さっきの女のように恐怖で発狂することがなかったのが気に入らなかった。
「ねぇ、クララ。 もうちょっとさ、ちゃんと攻撃したって感じが欲しいんだけど」
ガーベラが闇の精霊クララに文句を言うとクララは、う~んと悩むような雰囲気を出し、少しすると閃いたとガーベラに伝えた。
「おっ! いける? じゃ、やろうか」
銃を構えたガーベラは「ふふっ」と笑ってから呪文を唱える。狙いはラバである。フロバンは走り去りつつあり射程範囲から外れてしまっていた。
「次弾装填ヨシ、目標確認、照準ヨシ。 ……ご安全に」
「顔怖いよ、ガーちん」
ガーベラが凶悪な表情で引き金を引くと、ぽすっという発砲音を出して針が射出される。彼女が見据える獲物に真っすぐ飛んだ針は、ラバの右ひじに命中した。
逃げ出そうと走り始めていたラバは、チクッとした痛みを右ひじに感じた後、すぐにその痛みが激痛へと変わったことで全身にブワッと汗をかく。見れば、彼女の右ひじが人の拳大ほどの黒い、漆黒というべき球体に覆われていた。
その漆黒の球体は、吸い込むというよりも巻き込むといった感じで球体の中心に向かって収束するように強力な力が掛かる。ミチミチミチっと嫌な音をさせながら周囲の肉と骨を巻き込んで球体は中心に向かった小さく縮んでいく。
「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
激痛で涙目となったラバは声にならない悲鳴をあげる。どんどん小さくなる球体が最後には消えたとき、ひじがあった部分より先がブチィッと引きちぎられるようにラバの体から離れて、ぼとりと地に落ちて転がった。
「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
血が噴き出す、肘があった場所を左手で押さえてラバは叫びながら転げまわる。楽になるためなら気を失ってしまいたいのに気絶することが許されないほどの痛みに耐えながら、彼女は涙で濡れる眼で、走り去ろうとする男の背中を見る。
「待って…… フロバンさん…… 置いてかないで……」
涙声の、か細い声での訴えはその背中には届かない。彼女は振り向く。そこには雇った傭兵たちを血祭りにあげた三匹の地獄蟻が、新たな獲物に狙いを定めてこちらに近づいて来るのが見えた。
「ひぃっ!」
あまりの恐怖で一瞬痛みを忘れるほどであったラバは顔を引きつらせ、逃げるために慌てて立ち上がろうとする。しかし足がもつれて再び倒れ、顔から落ちた彼女は砂を噛む。それでも必死に立ち上がり数歩進む。
「い、嫌だ…… 死にたくない…… た、食べられたくないよぉ……」
死にたくない。でも、もしそれが叶わず死が確実だとしても、せめて尊厳ある死を迎えたい。友人知人に惜しまれて送られ、きちんと埋葬してほしい。バラバラになるまでぐちゃぐちゃに食べ散らかされて、残された骨はそのまま砂漠で風化するまで放置される、そんな最期は嫌だ。
「嫌だ…… 嫌だ…… 嫌――」
喘ぐように必死に足を動かして逃げようとするラバを、恐怖と苦痛から解放したのは一発の銃声だった。バァンという砂漠に響き渡った轟音の直後、彼女のこめかみに弾丸が命中し、彼女は砂地にバサッと倒れて動かなくなった。
「ん? 俺、撃ってねぇぞ」
マーゴロックは銃声を聞いて不思議に思って言った。イクシアに渡した三丁の小さな銃ではあのような音はしない。するとしたら自分が持っている一丁しかないはずなのだ。
「よっ! 旦那、久しぶり。 女王陛下もお久しぶり」
声をかけて近づいて来る気配に振り向いたマーゴロックは「コーネリアスか」と、その男の名を呼んだ。リス族の傭兵コーネリアスが火縄銃を担ぎ、親し気に片手を軽く挙げて歩いて来た。
「どうした? なんでお前がここに居るんだ?」
居るはずのない男を不審に思って問えば、「はははっ」と笑ったあとに答えが返ってくる。
「アレをけしかけたのは俺たちさ」
目を丸くし、次いで銃口をコーネリアスに向けたマーゴロックは「何だと?!」と低い声で聞く。
「まぁまぁ、落ち着いてくれよ旦那。 別にあんたらに危害を加えようってことじゃないんだ。どっちかっていうと、あんたらのためにやったんだよ」
「は? どういうこった?」
マーゴロックの驚く顔に満足するように片眉を上げてニッと笑ったコーネリアスは答える。
「前にウサギ族の男に襲われたろ? アレの後始末だよ。 傭兵ってのはメンツにこだわるモンが多いんだ、後ろ暗いことに関わってる奴は特にね。仕事の信用や、場合によっては命に関わる」
「まぁ、だろうな」
「で、前に襲って来た奴の親玉だ。そいつは腕っぷしはイマイチだが小狡くてプライドが高い小心者。そのうえ金に汚いって救いようのない小物でねぇ。 フロバンって名の、ほら、必死こいて逃げてるアレだよ」
お道化た調子でそう言い、砂に足を取られながらも必死に逃げるフロバンを指さすコーネリアス。「ははっ、随分と酷ぇ言いようだな」と、コーネリアスを警戒しつつもマーゴロックはそれを見て笑う。
「もし襲ってきた奴が行方不明になってたら、八方手を尽くしてフロバンは必死に探しただろう。関わった奴に報復しようとしてね。 するとどうだい? あっという間にここの存在が広まると思わないかい? 旦那」
先ほどまでのお道化た表情から真剣な顔となったコーネリアスに「……なるほど」とマーゴロックは頷く。
「だからわざと、襲って来た奴の首をヒントを残したまま送ってやったのさ。 金儲けには異常に嗅覚の鋭いフロバンは絶対ヒントに気が付くと思ってね。 そんでもって、奴はこの儲けのタネを誰にも明かさず、自分でノコノコやって来るはず。 あんたらが自力でフロバン達を殺せればそれで良し。無理そうなら俺と兄貴が出るって予定だったわけ」
「……随分と、俺達に親切じゃねぇか? 何が目的だコーネリアス」
「怖い顔すんなよ、旦那ぁ。 ただの仕事だ。計画を立てたのは兄貴だが、依頼と金はちゃんとマロニのお嬢から出てるよ」
「嬢ちゃんから?」
「あぁ、折角の投資先を潰されたくないってことだ。 フロバンを雇って商路を探ってたのはお嬢の商売敵さ。いい加減、妨害やら何やらと鬱陶しいからそろそろ黙らせたかったみたい、ってのもあってね」
コーネリアスの説明を聞いてマーゴロックは「そうか」と言って、ようやく肩の力を抜いた。
「なぁなぁ、マーゴロック。 難しい話は終わったか?」
「あぁ陛下。終わった終わった。コーネリアスは助けに来てくれたそうだ。 この戦闘も、アレを始末して終わりになりそうだ」
必死に逃げるフロバンの小さな影を見ながらマーゴロックは言った。
ガーベラは不満そうに銃を下ろして言う。逃げようとした男に命中したはずなのに、さっきの女のように恐怖で発狂することがなかったのが気に入らなかった。
「ねぇ、クララ。 もうちょっとさ、ちゃんと攻撃したって感じが欲しいんだけど」
ガーベラが闇の精霊クララに文句を言うとクララは、う~んと悩むような雰囲気を出し、少しすると閃いたとガーベラに伝えた。
「おっ! いける? じゃ、やろうか」
銃を構えたガーベラは「ふふっ」と笑ってから呪文を唱える。狙いはラバである。フロバンは走り去りつつあり射程範囲から外れてしまっていた。
「次弾装填ヨシ、目標確認、照準ヨシ。 ……ご安全に」
「顔怖いよ、ガーちん」
ガーベラが凶悪な表情で引き金を引くと、ぽすっという発砲音を出して針が射出される。彼女が見据える獲物に真っすぐ飛んだ針は、ラバの右ひじに命中した。
逃げ出そうと走り始めていたラバは、チクッとした痛みを右ひじに感じた後、すぐにその痛みが激痛へと変わったことで全身にブワッと汗をかく。見れば、彼女の右ひじが人の拳大ほどの黒い、漆黒というべき球体に覆われていた。
その漆黒の球体は、吸い込むというよりも巻き込むといった感じで球体の中心に向かって収束するように強力な力が掛かる。ミチミチミチっと嫌な音をさせながら周囲の肉と骨を巻き込んで球体は中心に向かった小さく縮んでいく。
「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
激痛で涙目となったラバは声にならない悲鳴をあげる。どんどん小さくなる球体が最後には消えたとき、ひじがあった部分より先がブチィッと引きちぎられるようにラバの体から離れて、ぼとりと地に落ちて転がった。
「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
血が噴き出す、肘があった場所を左手で押さえてラバは叫びながら転げまわる。楽になるためなら気を失ってしまいたいのに気絶することが許されないほどの痛みに耐えながら、彼女は涙で濡れる眼で、走り去ろうとする男の背中を見る。
「待って…… フロバンさん…… 置いてかないで……」
涙声の、か細い声での訴えはその背中には届かない。彼女は振り向く。そこには雇った傭兵たちを血祭りにあげた三匹の地獄蟻が、新たな獲物に狙いを定めてこちらに近づいて来るのが見えた。
「ひぃっ!」
あまりの恐怖で一瞬痛みを忘れるほどであったラバは顔を引きつらせ、逃げるために慌てて立ち上がろうとする。しかし足がもつれて再び倒れ、顔から落ちた彼女は砂を噛む。それでも必死に立ち上がり数歩進む。
「い、嫌だ…… 死にたくない…… た、食べられたくないよぉ……」
死にたくない。でも、もしそれが叶わず死が確実だとしても、せめて尊厳ある死を迎えたい。友人知人に惜しまれて送られ、きちんと埋葬してほしい。バラバラになるまでぐちゃぐちゃに食べ散らかされて、残された骨はそのまま砂漠で風化するまで放置される、そんな最期は嫌だ。
「嫌だ…… 嫌だ…… 嫌――」
喘ぐように必死に足を動かして逃げようとするラバを、恐怖と苦痛から解放したのは一発の銃声だった。バァンという砂漠に響き渡った轟音の直後、彼女のこめかみに弾丸が命中し、彼女は砂地にバサッと倒れて動かなくなった。
「ん? 俺、撃ってねぇぞ」
マーゴロックは銃声を聞いて不思議に思って言った。イクシアに渡した三丁の小さな銃ではあのような音はしない。するとしたら自分が持っている一丁しかないはずなのだ。
「よっ! 旦那、久しぶり。 女王陛下もお久しぶり」
声をかけて近づいて来る気配に振り向いたマーゴロックは「コーネリアスか」と、その男の名を呼んだ。リス族の傭兵コーネリアスが火縄銃を担ぎ、親し気に片手を軽く挙げて歩いて来た。
「どうした? なんでお前がここに居るんだ?」
居るはずのない男を不審に思って問えば、「はははっ」と笑ったあとに答えが返ってくる。
「アレをけしかけたのは俺たちさ」
目を丸くし、次いで銃口をコーネリアスに向けたマーゴロックは「何だと?!」と低い声で聞く。
「まぁまぁ、落ち着いてくれよ旦那。 別にあんたらに危害を加えようってことじゃないんだ。どっちかっていうと、あんたらのためにやったんだよ」
「は? どういうこった?」
マーゴロックの驚く顔に満足するように片眉を上げてニッと笑ったコーネリアスは答える。
「前にウサギ族の男に襲われたろ? アレの後始末だよ。 傭兵ってのはメンツにこだわるモンが多いんだ、後ろ暗いことに関わってる奴は特にね。仕事の信用や、場合によっては命に関わる」
「まぁ、だろうな」
「で、前に襲って来た奴の親玉だ。そいつは腕っぷしはイマイチだが小狡くてプライドが高い小心者。そのうえ金に汚いって救いようのない小物でねぇ。 フロバンって名の、ほら、必死こいて逃げてるアレだよ」
お道化た調子でそう言い、砂に足を取られながらも必死に逃げるフロバンを指さすコーネリアス。「ははっ、随分と酷ぇ言いようだな」と、コーネリアスを警戒しつつもマーゴロックはそれを見て笑う。
「もし襲ってきた奴が行方不明になってたら、八方手を尽くしてフロバンは必死に探しただろう。関わった奴に報復しようとしてね。 するとどうだい? あっという間にここの存在が広まると思わないかい? 旦那」
先ほどまでのお道化た表情から真剣な顔となったコーネリアスに「……なるほど」とマーゴロックは頷く。
「だからわざと、襲って来た奴の首をヒントを残したまま送ってやったのさ。 金儲けには異常に嗅覚の鋭いフロバンは絶対ヒントに気が付くと思ってね。 そんでもって、奴はこの儲けのタネを誰にも明かさず、自分でノコノコやって来るはず。 あんたらが自力でフロバン達を殺せればそれで良し。無理そうなら俺と兄貴が出るって予定だったわけ」
「……随分と、俺達に親切じゃねぇか? 何が目的だコーネリアス」
「怖い顔すんなよ、旦那ぁ。 ただの仕事だ。計画を立てたのは兄貴だが、依頼と金はちゃんとマロニのお嬢から出てるよ」
「嬢ちゃんから?」
「あぁ、折角の投資先を潰されたくないってことだ。 フロバンを雇って商路を探ってたのはお嬢の商売敵さ。いい加減、妨害やら何やらと鬱陶しいからそろそろ黙らせたかったみたい、ってのもあってね」
コーネリアスの説明を聞いてマーゴロックは「そうか」と言って、ようやく肩の力を抜いた。
「なぁなぁ、マーゴロック。 難しい話は終わったか?」
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