女王蜂の建国記 ~追放された妖精、作業服を着て砂漠を緑地化する~

はとポッポ豆太

文字の大きさ
69 / 88

第六十九話_ラバさん、酷い目にあう

しおりを挟む
「ちぇっ、なんか効いてない」

 ガーベラは不満そうに銃を下ろして言う。逃げようとした男に命中したはずなのに、さっきの女のように恐怖で発狂することがなかったのが気に入らなかった。

「ねぇ、クララ。 もうちょっとさ、ちゃんと攻撃したって感じが欲しいんだけど」

 ガーベラが闇の精霊クララに文句を言うとクララは、う~んと悩むような雰囲気を出し、少しすると閃いたとガーベラに伝えた。

「おっ! いける? じゃ、やろうか」

 銃を構えたガーベラは「ふふっ」と笑ってから呪文を唱える。狙いはラバである。フロバンは走り去りつつあり射程範囲から外れてしまっていた。

「次弾装填ヨシ、目標確認、照準ヨシ。 ……ご安全に」
「顔怖いよ、ガーちん」

 ガーベラが凶悪な表情で引き金を引くと、ぽすっという発砲音を出して針が射出される。彼女が見据える獲物に真っすぐ飛んだ針は、ラバの右ひじに命中した。

 逃げ出そうと走り始めていたラバは、チクッとした痛みを右ひじに感じた後、すぐにその痛みが激痛へと変わったことで全身にブワッと汗をかく。見れば、彼女の右ひじが人の拳大ほどの黒い、漆黒というべき球体に覆われていた。

 その漆黒の球体は、吸い込むというよりも巻き込むといった感じで球体の中心に向かって収束するように強力な力が掛かる。ミチミチミチっと嫌な音をさせながら周囲の肉と骨を巻き込んで球体は中心に向かった小さく縮んでいく。

「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

 激痛で涙目となったラバは声にならない悲鳴をあげる。どんどん小さくなる球体が最後には消えたとき、ひじがあった部分より先がブチィッと引きちぎられるようにラバの体から離れて、ぼとりと地に落ちて転がった。

「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 血が噴き出す、肘があった場所を左手で押さえてラバは叫びながら転げまわる。楽になるためなら気を失ってしまいたいのに気絶することが許されないほどの痛みに耐えながら、彼女は涙で濡れる眼で、走り去ろうとする男の背中を見る。

「待って…… フロバンさん…… 置いてかないで……」

 涙声の、か細い声での訴えはその背中には届かない。彼女は振り向く。そこには雇った傭兵たちを血祭りにあげた三匹の地獄蟻が、新たな獲物に狙いを定めてこちらに近づいて来るのが見えた。

「ひぃっ!」

 あまりの恐怖で一瞬痛みを忘れるほどであったラバは顔を引きつらせ、逃げるために慌てて立ち上がろうとする。しかし足がもつれて再び倒れ、顔から落ちた彼女は砂を噛む。それでも必死に立ち上がり数歩進む。

「い、嫌だ…… 死にたくない…… た、食べられたくないよぉ……」

 死にたくない。でも、もしそれが叶わず死が確実だとしても、せめて尊厳ある死を迎えたい。友人知人に惜しまれて送られ、きちんと埋葬してほしい。バラバラになるまでぐちゃぐちゃに食べ散らかされて、残された骨はそのまま砂漠で風化するまで放置される、そんな最期は嫌だ。

「嫌だ…… 嫌だ…… 嫌――」

 喘ぐように必死に足を動かして逃げようとするラバを、恐怖と苦痛から解放したのは一発の銃声だった。バァンという砂漠に響き渡った轟音の直後、彼女のこめかみに弾丸が命中し、彼女は砂地にバサッと倒れて動かなくなった。



「ん? 俺、撃ってねぇぞ」

 マーゴロックは銃声を聞いて不思議に思って言った。イクシアに渡した三丁の小さな銃ではあのような音はしない。するとしたら自分が持っている一丁しかないはずなのだ。

「よっ! 旦那、久しぶり。 女王陛下もお久しぶり」

 声をかけて近づいて来る気配に振り向いたマーゴロックは「コーネリアスか」と、その男の名を呼んだ。リス族の傭兵コーネリアスが火縄銃を担ぎ、親し気に片手を軽く挙げて歩いて来た。

「どうした? なんでお前がここに居るんだ?」

 居るはずのない男を不審に思って問えば、「はははっ」と笑ったあとに答えが返ってくる。

「アレをけしかけたのは俺たちさ」

 目を丸くし、次いで銃口をコーネリアスに向けたマーゴロックは「何だと?!」と低い声で聞く。

「まぁまぁ、落ち着いてくれよ旦那。 別にあんたらに危害を加えようってことじゃないんだ。どっちかっていうと、あんたらのためにやったんだよ」

「は? どういうこった?」

 マーゴロックの驚く顔に満足するように片眉を上げてニッと笑ったコーネリアスは答える。

「前にウサギ族の男に襲われたろ? アレの後始末だよ。 傭兵ってのはメンツにこだわるモンが多いんだ、後ろ暗いことに関わってる奴は特にね。仕事の信用や、場合によっては命に関わる」

「まぁ、だろうな」

「で、前に襲って来た奴の親玉だ。そいつは腕っぷしはイマイチだが小狡くてプライドが高い小心者。そのうえ金に汚いって救いようのない小物でねぇ。 フロバンって名の、ほら、必死こいて逃げてるアレだよ」

 お道化た調子でそう言い、砂に足を取られながらも必死に逃げるフロバンを指さすコーネリアス。「ははっ、随分と酷ぇ言いようだな」と、コーネリアスを警戒しつつもマーゴロックはそれを見て笑う。

「もし襲ってきた奴が行方不明になってたら、八方手を尽くしてフロバンは必死に探しただろう。関わった奴に報復しようとしてね。 するとどうだい? あっという間にここの存在が広まると思わないかい? 旦那」

 先ほどまでのお道化た表情から真剣な顔となったコーネリアスに「……なるほど」とマーゴロックは頷く。

「だからわざと、襲って来た奴の首をヒントを残したまま送ってやったのさ。 金儲けには異常に嗅覚の鋭いフロバンは絶対ヒントに気が付くと思ってね。 そんでもって、奴はこの儲けのタネを誰にも明かさず、自分でノコノコやって来るはず。 あんたらが自力でフロバン達を殺せればそれで良し。無理そうなら俺と兄貴が出るって予定だったわけ」

「……随分と、俺達に親切じゃねぇか? 何が目的だコーネリアス」

「怖い顔すんなよ、旦那ぁ。 ただの仕事だ。計画を立てたのは兄貴だが、依頼と金はちゃんとマロニのお嬢から出てるよ」

「嬢ちゃんから?」

「あぁ、折角の投資先を潰されたくないってことだ。 フロバンを雇って商路を探ってたのはお嬢の商売敵さ。いい加減、妨害やら何やらと鬱陶しいからそろそろ黙らせたかったみたい、ってのもあってね」

 コーネリアスの説明を聞いてマーゴロックは「そうか」と言って、ようやく肩の力を抜いた。

「なぁなぁ、マーゴロック。 難しい話は終わったか?」

「あぁ陛下。終わった終わった。コーネリアスは助けに来てくれたそうだ。 この戦闘も、アレを始末して終わりになりそうだ」

 必死に逃げるフロバンの小さな影を見ながらマーゴロックは言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

配信者ルミ、バズる~超難関ダンジョンだと知らず、初級ダンジョンだと思ってクリアしてしまいました~

てるゆーぬ(旧名:てるゆ)
ファンタジー
女主人公です(主人公は恋愛しません)。18歳。ダンジョンのある現代社会で、探索者としてデビューしたルミは、ダンジョン配信を始めることにした。近くの町に初級ダンジョンがあると聞いてやってきたが、ルミが発見したのは超難関ダンジョンだった。しかしそうとは知らずに、ルミはダンジョン攻略を開始し、ハイランクの魔物たちを相手に無双する。その様子は全て生配信でネットに流され、SNSでバズりまくり、同接とチャンネル登録数は青天井に伸び続けるのだった。

貧乏育ちの私が転生したらお姫様になっていましたが、貧乏王国だったのでスローライフをしながらお金を稼ぐべく姫が自らキリキリ働きます!

Levi
ファンタジー
前世は日本で超絶貧乏家庭に育った美樹は、ひょんなことから異世界で覚醒。そして姫として生まれ変わっているのを知ったけど、その国は超絶貧乏王国。 美樹は貧乏生活でのノウハウで王国を救おうと心に決めた! ※エブリスタさん版をベースに、一部少し文字を足したり引いたり直したりしています

追放された荷物持ち、【分解】と【再構築】で万物創造師になる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーから「足手まとい」と捨てられた荷物持ちのベルク。しかし、彼が持つ外れスキル【分解】と【再構築】は、万物を意のままに創り変える「神の御業」だった! 覚醒した彼は、虐げられていた聖女ルナを救い、辺境で悠々自適なスローライフを開始する。壊れた伝説の剣を直し、ゴミから最強装備を量産し、やがて彼は世界を救う英雄へ。 一方、彼を捨てた勇者たちは没落の一途を辿り……。 最強の職人が送る、痛快な大逆転&ざまぁファンタジー!

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。 対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。 剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。 よろしくお願いします! (7/15追記  一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!  (9/9追記  三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン (11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。 追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝
ファンタジー
毒舌を売りにして芸能界で活躍できる様になった。 元々はアイドルとしてデビューしたが、ヒラヒラの衣装や可愛い仕草も得意じゃ無かった。 バラエティーの仕事を貰って、毒舌でキャラを作ったらこれがハマり役で世間からのウケも良くとんとん拍子で有名人になれた。 だが、自宅に帰ると玄関に見知らぬ男性が立っていて私に近づくと静かにナイフで私を刺した。 アイドル時代のファンかも知れない。 突然の事で、怖くて動けない私は何度も刺されて意識を失った。 主人公の時田香澄は殺されてしまう。 気がつくとダンジョンの最下層にポイズンキラーとい魔物に転生する。 自分の現象を知りショックを受けるが、その部屋の主であるリトラの助言により地上を目指す。 ダンジョンの中で進化を繰り返して強くなり、人間の冒険者達が襲われている所に出くわす。 魔物でありながら、擬態を使って人間としても生きる姿や魔王種への進化を試みたり、数え切れないほどの激動の魔物人生が始まる。

処理中です...