女王蜂の建国記 ~追放された妖精、作業服を着て砂漠を緑地化する~

はとポッポ豆太

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第三十二話_ビオラ、後悔する

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 イクシアはペリウィンクルに花粉団子を与えると振り返ってビオラの様子を確認する。ビオラはまだ眠っているようだった。そして自分の背中に意識を向ける。

 パジャマは焼けて背に大きく穴が開いていた。自分の背中は火傷を負ったはずだと思うイクシアはハッキリとその痛みも覚えていた。そしてその後の母の悲痛な叫びと母の魔力、暖かい感覚と徐々に引いていく痛み。それらを思い出したイクシアはグッと拳を握って焼け残った巣を見上げる。

「わたしが頑張らないと! わたしはお母さまの最初の子。これから産まれてくる、みんなのお姉ちゃんなんだから!」

 イクシアが決意を胸に巣に向かって飛び上がろうとした時だった。

「「イクシアちゃーん!」」

 砂煙をあげて駆けてきたゼフィとサリスが、イクシアの前に着くなり「大丈夫?!」「何があったの?!」と騒がしくイクシアの回りを走り回る。するとイクシアの背中に気が付いたゼフィが顔を真っ青になって聞く。

「イクシアちゃん、背中! 背中どうしたの?! 服に大きな穴が開いてるよ! 羽も曲がってる!」

「大丈夫です、ちょっと火傷しただけ。それもお母さまに治してもらったから。 火事があったの。片付けと巣の修理があるから遊びませんよ。 だから今日はもう帰ってくれる?」

「やだっ! お片付け手伝う!」
「わたしも!」

 ゼフィとサリスが怒ったように声を張り上げて言った。困ったような顔をしたイクシアは言う。

「あなたたち、いつも遊んでばかりじゃないですか。 お手伝いなんて出来ないでしょ?!」

「そんなことないもん! いつも母ちゃんのお手伝いしてるもんっ!」
「穴掘ってるもん! 石運んでるもん! ホントだよ!」

 イクシアは疑わし気な目で二人を見つつ「ホントですか? あなたたちがお手伝い?」と聞く。するとムキになった二人は地団太を踏みながら「「ホントだって!」」と訴える。

「嘘だと思うなら今度見に来てよ!」

「わかった、わかりました。 じゃあ、お仕事お願いしていいですか?」

 イクシアが興奮する二人に折れると「「おぉっ!」」とゼフィとサリスが喜んで飛び跳ねた。

「それなら、焼けちゃった花畑を掘り返してくれますか? 燃えちゃった植物を土に混ぜ込むように耕して欲しいの。後でまたお花の種植えるから綺麗に耕してください。 掘るのは得意なんでしょ?」

「「おっけ!」」

「あと、あっちの木箱の燃え残り。 あれを解体してくれますか?」

「壊せばいいの? わたしやるっ! 壊すの好き!」

 大きく手をあげたサリスを見て「よろしくね、二人とも」と言ってイクシアはふわっと浮かび上がる。

「イクシアちゃんは?」

「わたしは巣の修理です」

 そう言ってゆっくりと巣に向かって飛んでいく、いつもと違ったバランスの悪い危なっかしい飛び方をするイクシアを見てゼフィとサリスの二人が心配して騒ぎ出す。

「イクシアちゃん、危ない危ない!」
「降りて来て、イクシアちゃん!」

「大丈夫だから。 はい、二人ともお仕事はじめて!」

 空中でクルっと振り返ったイクシアは手をパンパンッと叩いて二人に仕事を促す。素直なのか条件反射的なのか、「「はーい!」」と言って手を上げた二人は作業を開始した。

 イクシアはまず倉庫に入って周囲を見渡し被害を確認する。次に「食糧庫は?」と言いながら食糧庫に入っていく。

 食糧庫も半壊という状況であった。蜂蜜とロイヤルゼリーは瓶に入っていたため幾らかは残っていたが、花粉団子は木の箱に入れていたために燃えてしまったか、燃え残ったものも雨に濡れて溶けて流れてしまっていた。

「よかった。蜂蜜はある」

 ホッとした声で言ったイクシアは瓶を開けて蜂蜜をゴキュゴキュと飲む。飲み干すとすぐに飛び上がってビオラの寝室へとイクシアは向かった。

「卵が…… ごめんね。助けてあげられなくて……」

 イクシアは溶け落ちて無くなってしまっている部屋の一画を見つめて悲しい声であやまると、「お姉ちゃん、頑張るからね」と決意の籠った眼で言い、両腕を天に向かって広げ祈る。

「世界に恵みをもたらす数多の精霊たちよ、わたしにご加護をお与えください」

 魔力の輝きがイクシアを包む。

「破損個所の確認、ヨシ! ご安全に!」

 そして、淡い光に包まれバフのかかったイクシアは、右手の人差し指と中指を立てて勢いよく口の中に突っ込む。

「オロロロロロロロロロロロロロッ!!」

 クリームを分泌したイクシアは口元を拭うとすぐに巣の修復に取り掛かった。



 その頃、目を覚ましたビオラは寝転がったままボーっと一点を見つめていた。魔力を使いすぎて体が上手く動かない。なんとか這って移動することは出来そうだが動く気力が湧かない。そして何より。

 ―― 怖い…… 見るのが怖い。

 ビオラは、巣や花畑の状況をハッキリと目で見るのが怖かった。

 ―― わたしのせいだ…… 全部、わたしがだらしないから……

 木箱を片づけていたら。巣の下で薬草を干すなんてことしてなければ。ちゃんと物干し竿などを作って別の場所で干していれば。

 全部、自分のせいだとビオラは思う。

「卵も……」

 産んだばかりで、まだ生物としての姿形を成していなくても、それでも自分の子どもだった。

 後悔に押し潰されそうになり、ポロポロと涙を流すビオラは「もう、いいかな……」と諦めの言葉を口にする。

 ―― 結局、わたしは巣を追い出されるような半端モノだったんだ…… ちょっとだけど、自分の国を夢見ちゃったよ。 けど、もう諦めよう……

 ゆっくりと閉じていくビオラの眼からポロリと涙が流れ落ちる。

「おい!」

 静かに横たわっていたビオラの上から声がかかる。ビオラは目を開けて視線だけで声の主を見上げる。視線の先には、腰に手を当ててムスッとした顔で見下ろすES-077の姿があった。

「おい。 起きろ、ビオラ」
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