女王蜂の建国記 ~追放された妖精、作業服を着て砂漠を緑地化する~

はとポッポ豆太

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第三十五話_ビオラ、ご招待される

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 イクシア先生の授業は続く。

 体格的には教師であるイクシアが一番小さく、GPシスターズは戦闘種族でもあるために働き蟻の子供でもイクシアよりは大きい。はたから見れば、幼稚園児が小学校二年生くらいを相手に学校ごっこをしているような微笑ましいものにしか見えない。しかし、内容は子供向けではなかった。

 イクシアの「一日中働くべき」との主張にGPシスターズは「むり~!」「ぜったいムリ~!」と反論していた。それに対してイクシアは静かに「いいえ」と首を振って言う。

「わたしの愛読書だった『みんな大好き! 世界の珍獣』という図鑑にはこう記されていました。 かつて、人間族の一種族であったショーワノリーマン族、そして初期型ヘイセイリーマン族は常に『ニジュウヨジカンタタカエマスカ』という魔法を唱えて自らに強力なバフを掛け続け、一日中全力で働き続けた。と」

 ―― あの本にそんなん載ってたんかい…… 初めて聞いたよショーワノリーマン族、初期型ヘイセイリーマン族…… 初期型??

 と、思うビオラの視線の先でGPシスターズは「こわい~」「恐ろしい響きの魔法~」と言いながら三人抱き合いカタカタと恐怖で震えていた。

「ニジュウヨジカンタタカエマスカ、確かに聞くだけで恐ろしい響きの魔法です。この冒頭の文言で強力なバフを掛け、彼等は一種の狂乱状態に入り仕事に邁進したと伝えられます。 しかしこのバフはあまりにも強力過ぎて肉体の崩壊を招くため、魔法の二番以降で希望を与える文言を並べ、その威力を中和しバランスをとっていたようです」

 ―― 魔法の二番って何っ??!

「たいへん有用な魔法ではないかと、わたしも図鑑に載っていた魔法全文の解読を試みたのですが、その途中で先日の火事に遭い、研究ノートも含めて図鑑は焼失してしまいました。 クッ…… 解読途中だったのにっ! ユウキュウキュウカとは、いったい何だったのでしょう?!」

 ―― よかった…… 図鑑、燃えてくれて。

 拳を握り、口惜しさで唇を噛むイクシアには悪いが、ビオラは図鑑が焼けてよかったとホッとする。不幸中の幸いとはこのことであろう。

「魔法が完成したら、真っ先にゼフィたちに掛けて試したのに……」

 ボソッと恐ろしいことを口にしたイクシアの言葉にGPシスターズは更に強く抱き合い涙目でガタガタと震えた。そんな様子を眺めるビオラに背後から「お~い、ビオラ」と声がかかる。

「ん? あれ? ナナちゃん。おはよう」

「お、おはよう……」

 ビオラが振り返ると、何故だかモジモジと恥ずかしそうにしているES-077が居た。

「あ、あの、そろそろあの約束ぅ……」

「ん? 約束?」

 ―― なんか約束してたっけ??

 心当たりのないビオラは首を傾げて思い出そうとする。一向に思い浮かばないビオラの様子を見たES-077は意を決したように言った。

「わ、妾の、お、お家に遊びに来るぅ――」

「あぁ! 壮大な地下都市の見学!」
「そうそうソレっ!!」

 ポンっと手を叩き思い出したビオラにES-077はズイッと体を乗り出すようにして言った。

「ほ、ほら、お前も色々あって大変だったが、そろそろ落ち着き始めたと思ってな。 それにだ、アレだ、妾の壮大な地下都市を見学することで巣の再建にもより一層のやる気と元気が――」

 ペラペラと捲し立てるようにしてビオラを家に招待する理由を並べるES-077を見ビオラはクスっと笑う。

「ありがとう、ナナちゃん」

 自分を励まそうとしてくれている友人に素直に礼を言ったビオラは「じゃあ、今から行っていい?」と聞く。

「もちろん! ちゃんとしっかり掃除もしておいたぞ!」

 ―― そういえばゼフィたちが掃除してたって言ってたっけ? じゃあ……

「イクシアも連れて行っていいかな?」

「もちろんだ。 ペリウィンクルも来るといいぞ」

「だって、ペリウィンクル」

「だぁっ!」

 腕の中の娘に声をかけると、まるで「行く!」と言っているように拳を突き上げて返事をするのを見てビオラはニコリと笑う。そして顔を上げるとビオラはイクシアたちの方に向かって呼びかける。

「イクシアー!」
「おーい! おまえらー!」

「「はーい!」」

 呼ばれて走ってくる娘たちを連れて、ビオラたちはES-077の巣へと向かった。




「入り口は、相変わらずだけど……」

 岩場に開いた小さな穴は、ビオラが初めてここに来たときから変わりない。そして入り口近くに積まれた砂岩の山は、以前に来たときより更に増えて高く積まれていた。

「ふふんっ、まぁ、中に入って驚くがよい」

 自信満々に腰に手を当てて胸を張るES-077を先頭に、ビオラの身長で天井ギリギリの大きさの入り口を入る。細い通路が奥の方へと続いている。その道の足元を照らすように青い光が淡く輝いている。

「ねぇ、ナナちゃん。 この光って?」

「これか? これは苔だな。 奥の方を掘って行ったら大きな空洞をみつけてな。そこに沢山生えてたのだ。植え替えてみてもちゃんと生きてるみたいだったから通路を照らすように植えてみたのだ」

「へ~」

 ビオラが感心していると、「ほれ、ここから下に降りるのだ」とES-077が前方を指さす。

 そこは大きな空間となっており螺旋状の階段が下に向かってあった。しかしその階段はビオラたちからすると巨大で段差も大きい。そして大きい段差の横に、一段を更に細かくしたようにビオラやES-077のサイズに丁度いい段差の階段もある。

「ねぇ、なんで二種類の階段があるの??」

「ふふっ、気が付いたかビオラよ。 こっちの大きいのはアラディールが遊びに来たとき用の階段だ」

 得意げに言うES-077だったがビオラは致命的なことに気が付いた。

「……アラディール、どうやってここまで来るの? 入り口、わたしたちの大きさでギリギリよ」

「あっ……!」

 足を止めて、しばらくダラダラと冷や汗を流したES-077はクルリと振り返ってGPシスターズに宣告する。

「明日から突貫工事だ」
「「えーっ!!」」

 娘たちの悲鳴に似た不満げな声を無視して案内を続けるES-077に従ってビオラは階段を降り進む。階段を降りきって少し通路を進むと大きく広い空間に出た。

「おぉぉっ!!」
「わぁっ!」
「きゃうぅっ!」

 ビオラに続いてイクシアまで感動して声を出した。ついでにイクシアに抱かれたペリウィンクルも釣られて声を出す。

 彼女たちの前に広がっていたのは、天井と地上からの青い光に照らされ暗闇の中に浮かび上がる、ES-077が言う通りに、噓偽りのない壮大な地下都市であった。
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