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第四十一話_マロニ、職人を勧誘する
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顔中が髭で埋まったような男が、手にしている石を唸りながら眺め「良い石だ」と野太い声で静かに言いながらコトリと机に置いた。
「マロニの嬢ちゃん、この鉄鉱石の産地はどこだ?」
「スーパーアルティメット・ナナチャン大帝国という国ですよ」
「スーパーアルティメッ……? 聞かねぇ名前の国だな。 まぁいい、石はあるだけ買わせてもらう」
様々な種類の武具が並ぶ部屋の隅、小さなテーブルでリス族の商人マロニは工房主のドワーフと向かい合っていた。
「まいど~」
ホクホク顔でカバンから契約書を出したマロニは「数量と金額はこちらです。 よろしければサインを」とドワーフに差し出す。契約書を軽く一瞥したドワーフは迷うことなくサインをしてマロニに返した。
「聞かない名前なのも無理はありません。砂漠のど真ん中に最近できた新興の国ですよ。といっても住人は四人です。お隣の国と合わせても六人しか住んでいません」
マロニの説明を聞き「何言ってんだ? そりゃ国とは言えねぇだろ」と呆れ顔のドワーフ。しかしマロニはニコッと笑って「本当ですよ」と答える。
「まぁいい。 この石は今後も手に入るのか? それが重要だ」
「それについてですが、一旦話が少し逸れますよ。 どうです、マーゴロックさん。魔力の籠った魔法の武具の制作をしてみたくはありませんか?」
「魔法の武具だと……?」
マロニに問われてマーゴロックは腕を組み、「そりゃぁな……」と言う。
「鍛冶師、というかドワーフの夢だよ。嘘か真か、作ったのは伝説の鍛冶師と云われたドワーフただ一人」
「無理ですか?」
「一体どれだけのドワーフが挑戦したと思ってるんだ? 馬鹿な質問をするんじゃねぇよ」
マーゴロックは少し不機嫌そうに横を向く。そんな彼の前にマロニは小さな小さな玩具のような剣を置いた。
「これは何でしょう?」
小さな剣を親指と人差し指で摘まみあげたマーゴロックは眺めながら「地獄蟻の作った剣だな。 魔力が籠ってる……」と苦笑しながら言った。
「あるじゃないですか」
「知ってるよ。地獄蟻の武器には魔力が籠ってることくらいな。子どもの頃、よく坑道で拾ったもんだ。今思えば、いつ地獄蟻が出てくるか分からん中でとんでもなく危ない遊びしてたもんだと恐ろしくなるがな。 まぁそれはさておき、これは奴等が小さな体格を補うために長い年月をかけて進化して得た能力だろう。他の奴等が真似できるようなもんじゃねぇよ」
「そうなんですか? もしかしたら技術的なものかもしれませんよ。一緒に住んだら何かヒントになるかも??」
とぼけ顔でそう言うマロニに若干イラっとしたマーゴロックは、摘まんでいた小さな剣をポイっと彼女に投げ返しながら言う。
「ふざけんじゃねぇよ。 坑道ではロックワームか地獄蟻を見かけたら荷物を放り投げてでも逃げろとガキの頃から口酸っぱく言われてんだ。俺の爺様も採掘中に地獄蟻に襲われて食われちまったそうだ。 一緒に住むなど…… おい、まさか――」
驚愕の眼を向けるマーゴロックにマロニはふふっと笑う。
「そのまさか、ですよ。スーパーアルティメット・ナナチャン大帝国ははぐれ地獄蟻の女王が作った国ですよ。 ちなみに隣の国はビオランド王国という名の妖精蜂の国です」
「おいおい…… まさかお前、地獄蟻と取引してきたのか? どんな肝っ玉してやがる」
言いながらマーゴロックはマロニが持ってきた鉄鉱石を手に取って再び見た。
「へへ~んっ! どうです? 勇敢でしょう?! っていうのは、まぁ冗談で。妖精蜂のお友達の伝手ですよ」
マーゴロックが真剣な表情で鉄鉱石を眺める前でマロニはお道化て言った。
「あぁ、確か商売仲間に妖精蜂がいるって言ってたな。それはそれで凄いことなんだがな。 妖精蜂って警戒心が強いだろ?」
「ですね~。 でも何にでも例外ってあるんですよ。妖精蜂の商人も、ビオランド王国の女王陛下も、そしてスーパーアルティメット・ナナチャン大帝国の女王蟻様も」
マロニの言葉を聞いて、しばらく無言で考え込むマーゴロック。しかし次に口を開いた時には心の中でほとんど決断を済ませていた。
「一緒に暮らす、と言ったが、その国は移住を募ってるのか?」
「いいえ、それは聞きませんでしたが、隣のビオランド王国の女王陛下が多様な種族の移住を望んでいるとか。 今はまだ砂漠の中にポツンとある小さな国ですが、いずれは緑豊かで様々な生物が暮らす地を目指されているようで。 そちらであれば問題ないでしょう。隣の国といっても歩いてすぐの距離ですし」
マロニの言葉を聞いてマーゴロックは立ち上がった。
彼もまた多くのドワーフと同じく、子どもの頃は夢見たものだった。伝説の鍛冶師のようになりたいと。しかも、その鍛冶師セッキーノ・カーネモートは自分の先祖の一人でもある。
先祖の偉業に触れられる可能性が、そして自分の夢がもしかしたら、と思えば、壮年の彼の心を少年に還した。
「サヤに伝えて来る。 引っ越すぞ、と」
「いいんですか? 名工として名高いマーゴロックさんなら町での生活に不自由はないのにぃ~」
「ふんっ、わざとらしい。 だったらこんな話を持って来るんじゃ…… って、おいっ待て! 俺を移住させようってんならさっきの鉄鉱石、買わなくても産地で取れるじゃねぇか?!」
ニタァと笑いながらマロニはピラピラと契約書を振る。
「チッ…… ちゃっかりしてやがる」
「情報料ってことで。でも良質の鉄鉱石の値段としても適正ですよ? それより、奥様は怒りませんか? 急に引っ越しって」
椅子に座ったまま心配そうに見上げるマロニに、マーゴロックはフッと笑う。
「サヤのやつには若い頃から苦労をかけてきたし、これからもかけちまうだろうよ。悪いとは思ってるぜ。 だがな、職人の妻ってもんはな、黙って男に付いて来るもんなんだよ。 俺たち夫婦はそうやって今までやって連れ添ってきたんだ。俺には過ぎた、良い妻さ」
ニヤッと笑いながら言うマーゴロックに、「惚気ですか~?」とマロニも笑って言う。
「茶でも飲んでろ。 すぐ戻る」
「は~い」
奥の部屋に消えていくマーゴロックの背を見送ったマロニはテーブルの上の急須を手に取り、コポコポと湯呑にお茶を注ぐ。湯呑を手に取ったとき、奥からマーゴロックの妻サヤの大きな声が聞こえた。
「はぁっ?! 砂漠の真ん中に引っ越し??! 何考えてんの、あんたぁっ!!!」
「お、おおおお落ち着け、落ち着いてくれ、サヤ! な、なっ? まずは、まずは話を聞いて――」
マロニは湯呑を口に運び、ズズズッ……とお茶を啜った。
「マロニの嬢ちゃん、この鉄鉱石の産地はどこだ?」
「スーパーアルティメット・ナナチャン大帝国という国ですよ」
「スーパーアルティメッ……? 聞かねぇ名前の国だな。 まぁいい、石はあるだけ買わせてもらう」
様々な種類の武具が並ぶ部屋の隅、小さなテーブルでリス族の商人マロニは工房主のドワーフと向かい合っていた。
「まいど~」
ホクホク顔でカバンから契約書を出したマロニは「数量と金額はこちらです。 よろしければサインを」とドワーフに差し出す。契約書を軽く一瞥したドワーフは迷うことなくサインをしてマロニに返した。
「聞かない名前なのも無理はありません。砂漠のど真ん中に最近できた新興の国ですよ。といっても住人は四人です。お隣の国と合わせても六人しか住んでいません」
マロニの説明を聞き「何言ってんだ? そりゃ国とは言えねぇだろ」と呆れ顔のドワーフ。しかしマロニはニコッと笑って「本当ですよ」と答える。
「まぁいい。 この石は今後も手に入るのか? それが重要だ」
「それについてですが、一旦話が少し逸れますよ。 どうです、マーゴロックさん。魔力の籠った魔法の武具の制作をしてみたくはありませんか?」
「魔法の武具だと……?」
マロニに問われてマーゴロックは腕を組み、「そりゃぁな……」と言う。
「鍛冶師、というかドワーフの夢だよ。嘘か真か、作ったのは伝説の鍛冶師と云われたドワーフただ一人」
「無理ですか?」
「一体どれだけのドワーフが挑戦したと思ってるんだ? 馬鹿な質問をするんじゃねぇよ」
マーゴロックは少し不機嫌そうに横を向く。そんな彼の前にマロニは小さな小さな玩具のような剣を置いた。
「これは何でしょう?」
小さな剣を親指と人差し指で摘まみあげたマーゴロックは眺めながら「地獄蟻の作った剣だな。 魔力が籠ってる……」と苦笑しながら言った。
「あるじゃないですか」
「知ってるよ。地獄蟻の武器には魔力が籠ってることくらいな。子どもの頃、よく坑道で拾ったもんだ。今思えば、いつ地獄蟻が出てくるか分からん中でとんでもなく危ない遊びしてたもんだと恐ろしくなるがな。 まぁそれはさておき、これは奴等が小さな体格を補うために長い年月をかけて進化して得た能力だろう。他の奴等が真似できるようなもんじゃねぇよ」
「そうなんですか? もしかしたら技術的なものかもしれませんよ。一緒に住んだら何かヒントになるかも??」
とぼけ顔でそう言うマロニに若干イラっとしたマーゴロックは、摘まんでいた小さな剣をポイっと彼女に投げ返しながら言う。
「ふざけんじゃねぇよ。 坑道ではロックワームか地獄蟻を見かけたら荷物を放り投げてでも逃げろとガキの頃から口酸っぱく言われてんだ。俺の爺様も採掘中に地獄蟻に襲われて食われちまったそうだ。 一緒に住むなど…… おい、まさか――」
驚愕の眼を向けるマーゴロックにマロニはふふっと笑う。
「そのまさか、ですよ。スーパーアルティメット・ナナチャン大帝国ははぐれ地獄蟻の女王が作った国ですよ。 ちなみに隣の国はビオランド王国という名の妖精蜂の国です」
「おいおい…… まさかお前、地獄蟻と取引してきたのか? どんな肝っ玉してやがる」
言いながらマーゴロックはマロニが持ってきた鉄鉱石を手に取って再び見た。
「へへ~んっ! どうです? 勇敢でしょう?! っていうのは、まぁ冗談で。妖精蜂のお友達の伝手ですよ」
マーゴロックが真剣な表情で鉄鉱石を眺める前でマロニはお道化て言った。
「あぁ、確か商売仲間に妖精蜂がいるって言ってたな。それはそれで凄いことなんだがな。 妖精蜂って警戒心が強いだろ?」
「ですね~。 でも何にでも例外ってあるんですよ。妖精蜂の商人も、ビオランド王国の女王陛下も、そしてスーパーアルティメット・ナナチャン大帝国の女王蟻様も」
マロニの言葉を聞いて、しばらく無言で考え込むマーゴロック。しかし次に口を開いた時には心の中でほとんど決断を済ませていた。
「一緒に暮らす、と言ったが、その国は移住を募ってるのか?」
「いいえ、それは聞きませんでしたが、隣のビオランド王国の女王陛下が多様な種族の移住を望んでいるとか。 今はまだ砂漠の中にポツンとある小さな国ですが、いずれは緑豊かで様々な生物が暮らす地を目指されているようで。 そちらであれば問題ないでしょう。隣の国といっても歩いてすぐの距離ですし」
マロニの言葉を聞いてマーゴロックは立ち上がった。
彼もまた多くのドワーフと同じく、子どもの頃は夢見たものだった。伝説の鍛冶師のようになりたいと。しかも、その鍛冶師セッキーノ・カーネモートは自分の先祖の一人でもある。
先祖の偉業に触れられる可能性が、そして自分の夢がもしかしたら、と思えば、壮年の彼の心を少年に還した。
「サヤに伝えて来る。 引っ越すぞ、と」
「いいんですか? 名工として名高いマーゴロックさんなら町での生活に不自由はないのにぃ~」
「ふんっ、わざとらしい。 だったらこんな話を持って来るんじゃ…… って、おいっ待て! 俺を移住させようってんならさっきの鉄鉱石、買わなくても産地で取れるじゃねぇか?!」
ニタァと笑いながらマロニはピラピラと契約書を振る。
「チッ…… ちゃっかりしてやがる」
「情報料ってことで。でも良質の鉄鉱石の値段としても適正ですよ? それより、奥様は怒りませんか? 急に引っ越しって」
椅子に座ったまま心配そうに見上げるマロニに、マーゴロックはフッと笑う。
「サヤのやつには若い頃から苦労をかけてきたし、これからもかけちまうだろうよ。悪いとは思ってるぜ。 だがな、職人の妻ってもんはな、黙って男に付いて来るもんなんだよ。 俺たち夫婦はそうやって今までやって連れ添ってきたんだ。俺には過ぎた、良い妻さ」
ニヤッと笑いながら言うマーゴロックに、「惚気ですか~?」とマロニも笑って言う。
「茶でも飲んでろ。 すぐ戻る」
「は~い」
奥の部屋に消えていくマーゴロックの背を見送ったマロニはテーブルの上の急須を手に取り、コポコポと湯呑にお茶を注ぐ。湯呑を手に取ったとき、奥からマーゴロックの妻サヤの大きな声が聞こえた。
「はぁっ?! 砂漠の真ん中に引っ越し??! 何考えてんの、あんたぁっ!!!」
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