闇の向こうのその先へ 〜家出少女がたどり着いた先は、魔法使いの学校生活!?〜

苺愛

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第一章

プロローグ 教会にて

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「北にある二つ目の角を左に曲がって、そのままずぅーっと、朝までまっすぐ。そこにはネバーランドがある。」

確か、ピーターパンの一節です。

えぇ、そうです。私は家出をしました。

その日は、サウィンの夜でした。
この国では毎年夏の終わりにサウィンのお祭りをするのは陛下もご存知でしょう。秋の収穫を祝うと共に悪霊を追い払う日。

収穫物を先祖に供える日、この世とあの世の境界がなくなり、冥府が人間に見える日、とも言いますね。

そんな魔法のような日なら、もしかしたら、ほんとにほんとにもしかしたら。
その道を辿れば、子供の楽園、ネバーランドに行けるかもしれない。

そんな気がしたんです。

もういい年なのにそんな魔法を信じてるなんておかしいとでも言いたげな顔ですね。
まだ16歳、子どもですよ。ネバーランドに暮らす権利くらいならあるはずです。
それに、私はどうしても現実から逃げられる場所、理想の場所に辿り着きたかったもんですから。

ああ、話が脱線しましたね、すみません。

いえ、決してふざけてはいないのです。この教会は神聖な場所…
ましてや陛下からの質問で嘘をつくなんてもってのほかです。違います?

この話は偽りではございません。十字架と神に誓って。

とにかく私は「ネバーランド」を求めて国の北に向かいました。そう、リチクィの谷方面へ進む道です。

すると、あったんですよ。曲がり角が。
そこは崖になってるはずだ?そんなこと知ってますよ。
でもあったんです。信じてください。道が十字になってたんです。右にも左にも角があって、十字の交点が街灯に照らされていました。
ほんとなんですって。

……すみません。話を続けますね。

ところが、私はその曲がり角を右に曲がりました。左にも道はあったのに。
「左に曲がって、そのままずぅーっと、朝までまっすぐ。」を試すことはできずじまいでした。

バカだと思いますよね、何言ってるかわかんないだろうし右と左も間違えるんですから。
…無視は気まずいのでやめていただけませんか?
あ、はいすみません。無駄なおしゃべりはしない方がいいですか。わかりましたから、その腰の剣にかけた手をおろしてほしいです。護衛の方。

私は話すことが好きなだけです。

なんの話でしたっけ。ああ、右に曲がったところまででしたね。

そこまでの道はずいぶん明るかったんですよ。
そこかしこがお祭りで賑わって、大きな篝火もパチパチいってましたし。
でも角を曲がった途端、何も見えなくなりました。

あ、目がおかしくなったわけじゃないです。今も陛下のことはちゃんと見えております。
つまり、何も見えないほどの暗闇でした。

だんだんと目が慣れてくると、遠くに街の明かりが見えました。目を凝らすとこの道は長い長い一本道のようでした。

きっと、そこで引き返せばよかったんです。でも私には、もう後がなかった。切羽詰まっていたという表現が正しいのかはわかりませんけど、もうこの国に戻ってくる気はなかったんです。ほんとうは。

意を決して、一歩ずつ前に進んでゆきます。先に進めば進むほど、もともと遠くに見えた街の明かりがさらに遠のいて、自分は暗闇の中に飲み込まれていって、しまいには消滅するんじゃないかとも思いました。

驚くことにその道はきちんと舗装されていたのですが、自分は裸足で駆けていたものですから、どんどん足は痛くなりました。

でも、走っているから痛いというより、裸足の足の裏の方が痛かったです。皮がめくれて出血して、引きずりながら進みました。なぜか治りの遅いこの傷は今も足の裏に、ついさっき怪我したかのように赤くなっています。
妙に冷たく、赤黒いまんま。

まあ、足元の怪我の様子も見えない暗闇だったので、怪我した直後の様子は確認できませんでしたけど。

暗く、暗く、暗く。もう目の前の道すら見えない私には、前に進む以外の選択肢はないも同然。もう引き返せないとその時はっきりわかって、急に恐ろしくなりました。
走って、走って、走り続けて…

黒く、どこまでも広がる水平線を持つ海が現れました。
いっそ泳いでやろうか、と水に足をぽちゃん。
真冬のようにひどく冷たくて、震えてしまい、我慢できず足を上げました。

ばしゃりと水しぶきが上がって、水の王冠が波紋となって広がりました。
その音が合図かのように、まるでさっきの波紋が広がったように海に大きな橋がかかりました。
橋を渡って、まだまだ走ります。
 
二つ目の海が現れました。
今度は、真っ暗なので気づかずに足を突っ込んでしまいました。
先ほどの海とは打って変わって、あたたかい南国の海のようでした。まあ、私は南国なんて行ったこともないですけど。


近くを何かの魚が泳いでいくのを、水の流れで感じました。魚たちが群れになって泳いだ後が、橋になりました。

また橋を渡って、まだまだ走り続けます。

3回、そう3回、夜を越えました。
日が昇っても沈んでも、なぜか道は暗いままでした。



ああ、そんな疑うような目を向けないでください。……続きを話しても良いですか?


私は暗闇を突き進みました。すると、突然目の前が霧に包まれました。


今までとは一転、真っ白な視界の中でも、前に進むことしかできなくって。
かき分けてもかき分けても視界は真っ白。白紙の世界。

まっさらな紙に、自分だけが絵の具で描かれてしまったような。

霧で他の世界と完全に隔離されてしまったような。

そんな不思議な孤立感、不安感に包まれて、私は誰かを探して、より一層がむしゃらに前に突き進みました。
そしてその霧の奥に、うっすらと小さな建物が浮かび上がってきました…
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