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第9章 覇王の追憶

第70話 邪龍

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 マナとエミールを連れて龍の都へ旅立つ日の朝、いつもの様に出された食事を食べる、個人的には肉を食べたいが野菜中心の食事しか出てこない。
 エルフの里を旅立ったらまず肉を食べよう、そんな決意は日に日に増していった。

 野菜ばかりを食べていたせいなのか俺はイライラしていた、今も昔も。

 野菜をむしゃむしゃと食べた後旅の支度をしていると昨日と同じ様にチェルディスが目で訴えかけてくる。
 敢えて見て見ぬふりをする、すると俺の意図が伝わってしまったのか肩を落とす。

 支度を終えエルフ達の送迎を受けながら俺たちは里の入り口まで足を運んだ、チェルディスもちゃっかりとついてきているし、それに何人かのエルフも一緒だ。

「どこまでついて来るつもりだ?」
「私共はこれで....」

 エルフの長老らしき老人が深々とお辞儀をするとそれに続き付き人のエルフ達も頭を下げる。

「私共に出来るのは只御無事を祈る事ですので...ですよね、お嬢様」

 昔の俺はここで初めてお嬢様だと知った。

 老人に圧を掛けられ不満気に俺に視線を送る。


「やっぱり駄目かしら...もういい!!あなた達が何と言おうと私は勝手について行くわ!!」
「まぁそうしたいならそうすればいい」

 そして俺は徐にエミールを抱きしめる様に背中に手を回す。

「ちょっと!?グレース何してるの!?せめて私の居ないところで...」

 マナが何を勘違いしているかは知らないが俺はエミールの鎧の背中部分を掴み持ち上げる。
 子猫が親猫に首根っこを掴まれた時と同様、あるいわそれ以下...あまりにも無様にぶら下がる。

「あなた...何をする気なの!?」
「手っ取り早く龍の都へ行く何個か障壁を張っておくことだ、でないと―――死ぬぞ」

 エミールがぶつぶつと呟いたのを確認すると俺は大きく振り被りエミールを投擲した。

 そして俺はシリアスな声で囁く。

「さぁ共に行こうか」

 俺の差し出した手を恐る恐る取ろうとするチェルディスを付き人のエルフ達が必死に止める、最早悲鳴に近い。

「それじゃあ俺らも行くぞ」

 俺は改めてマナに手を差し出すとマナの反応も悪い、若干顔を引き攣らせ苦笑いをする。

「俺たちは普通に飛んでくぞ?」
「そ、そう....」

 俺は普通に【飛行フライ】のスキルを使用しマナと手を繋ぎ飛行する、マナは俺の右手をしっかりと握っている。
 まぁ、それじゃないと制御を失って墜落しどこかの地面に大激突する羽目になるだろうが...。

 エミールを飛ばした速度よりも速く飛んでいるので、やがて追いつく。
 左手でそっとエミールの手を握る。


「これ大丈夫なの?ほんとに昔もこんな事してたの?」
「いや昔は【飛行フライ】のスキルを持っていなかったから...今の様に安定している訳ではないぞ?ただジャンプしただけだからな」
「そんな無茶な...この後はどうなるのよ...エミールなんて喋れてもないし」

 エミールが喋れると思うか?あの時は今よりも早かったしそもそも人間がこの速度で飛んで無事な訳が無いだろう。
 徒歩で5年は掛かるとされている龍の都、それを数分で移動しようとしているのだ、その速度は計り知れない。
 本当は俺の本来の速度で移動したい所だが...そんな事をしたらエミールとマナの身体は分子レベルで崩壊してしまう。
 だからこそこれ以上の無茶はできない。

「え?じゃあこの後綺麗に着地できないって....こと?」
「そこは安心してくれ、受け止めてくれる奴が居るからな」

 やがて進む先に黒い影が見えてくる、だが俺たちは止まらない只々進み続けるのみだ
 焦ったのかマナが顔を引き攣らせる。

「ちょっとグレース...前になんか見えるんですけど...」
「あれこそが俺たちを支えてくれる者だ」
「え?者?」

 そしてもれなくその黒い何かに衝突する。けたたましい音を立て衝撃を受け止め切れなかった黒い何かは俺たちに押されるように地面に衝突した。

「グワァ!!誰だ邪龍たる我に不意打ちをした愚か者はァァァァ!!!!」
「あぁ俺だ、潰れずに済んだ、礼を言う」

 流石に失礼だったのか邪龍から魔力が溢れ出す。

「礼だと?礼よりも先に謝罪だろう?!!お前程度の愚者我が屠ってくれるわ!!」

 ここで世界に5体しかいないとされている邪龍たる黒龍との戦闘が始まる。
 第二の関門だ普通の奴ならばここで詰む、難度25は普通の敵ならばマナは渡りあうことができる。
 だが龍種は別格だ、マナのステータスを遥かに超えている、魔法を連発できるとはいえダメージが入らないのならばいくら魔法をはなったって意味が無いのだ。

「無理ね」
「やる前に諦めるのか?」
「やる前からわかるもの...これは別次元の強さだわシルビアやゼルセラなら勝てるかもだけど....」
「まぁまずはエミールが戦うかられを見ていると良い」

 俺が言ったのと同時位にエミールが剣を鞘から取り出す。

断罪之聖剣エクセキューション

 刀身は光を放つ。それを正面に構えエミールは邪龍に突撃していく。

「無茶よ...あれに勝てるわけないわ」
「いや、そうでもないぞ、今の状態のジュバンにならエミールでも勝てるぞ」
「ジュバン?」
「あの邪龍の名前だ、いずれ分かる」

 突撃したエミールがお気に入りの技を使う。

「【審判の剣ジャッジメント】!!!」

 振り下ろされた聖剣は邪龍の翼をいとも簡単に切り裂いていた、その現実に邪龍でさえ驚きに目を見開いている。

「ほう!!人間の分際で中々やりおるではないか!!その強さに敬意を表し我も本気で戦ってやろう」

 邪龍からより一層魔力が溢れだしその身を黒炎で覆う。

 するとステータスは数倍にも増している。

「さぁ始めよう!!怖気づくでないぞ久しく見た人間の強者よ!!」

 さぁ選手交代だ。
 邪龍の圧に押されエミールが一歩後ずさる、そうこの状態の邪龍はエミールの手に余る、だからこその俺なのだ!!

 俺はゆっくりと歩きエミールの前に立ちはだかる。

「むぅ?我が認めたのはそこの女騎士だ、部外者は大人しくしておれ、我は戦闘を楽しみたいのだ」
「確かにそうだな、俺が相手だとお前は楽しめないからな?」

 邪龍が怒りに顔を歪ませる、余程不快だったのかさらに魔力が増長する。

「人間如きがこの我を侮り負ったか?楽には死なせんぞ人間!!」
「久しぶりにもう一人の相棒と遊んでやるとしよう」

 俺は誰にも聞こえないように呟いた。久しい相棒とも

 邪龍は尻尾を振り回し俺に衝撃波を飛ばしてくる、それを手で弾くと今度は尻尾本体が俺に迫ってくる。なので俺は尻尾を片手で受け止め掴む。
 掴んだ尻尾を不敵に笑った後上空へと投げ捨てる。

 成されるがまま邪龍は上空へ投げ飛ばされようやく状況を理解できたのか俺を睨む。

「なんだその力は!!!ほんとに人間か!?」

 驚く邪龍をさらに煽る。

「お前こそほんとに龍種か?その程度で本気とは龍とはこの程度なのか?」
「舐めるな!!【隕石落下メテオフォール】!!」


 邪龍の背後に巨大な隕石が出現する。

「どうだ、貴様には止められまい」
「ほんとにそう思うか」

 俺は邪龍の背後に立ちシリアスな声で囁いた。

「ばっ馬鹿な!!それは人間が成せる技ではない!!まさか貴様は...」

 隕石を片手で掴みそれを邪龍に投げつける。

「どうだ、貴様には止められまい」

 言われたことをそのまま返す。

「舐めるなぁぁぁあ!!!」

 当然だが、邪龍に隕石は止められない、何故なら普通の【隕石落下メテオフォール】に加え俺が投げて速度がさらに加わっているのだから。

 隕石によって地上に叩き落された邪龍は既に致命傷を負っている。
 地を這う邪龍の眼前に立つと必死の抵抗を見せる。

 最後の足搔きとして黒炎のブレスをゼロ距離で放ったのだ。
 その炎を掻き分け上あごを下に押さえつけ口を閉じさせる。

「俺の勝ちでいいな?」
「ぐぬぬ...認めるしかないか....」

 そんなこんなで俺は黒龍ヘリド・ジュバンを撃破したのだった
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