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夫が私を抱こうとしないので

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私には夫がいる。
顔よし、頭よし、身体よしと三拍子揃った夫が。

まぁ、身体の方はベッドの中では役立たずですけどねっ!毎晩毎晩、一緒のベッドで寝るくせに、そもそも触れてこようともしないんですの!
バカにしてると思いません!?
初夜、隣からこちらを伺う気配を感じていたにも関わらず、結局朝陽が昇ったときには呆然としましたわ…。

お互い寝不足で、侍女たちには「遅くまでお励みだったのですね」みたいな態度をとられたけど、ぶっちゃけキスひとつされませんでしたわよ!
言えやしませんでしたけどねっ!


翌日、新婚早々忙しい公務の合間をぬって何が悪かったのか色々考えてみたのだけれどわからなくて。
悶々としながら、とりあえず昨日とは違う系統のナイトドレスで挑んでみたのだけれど結果は同じでしたわ!

3日目は、初日に清楚、2日目に可愛い系でダメだったので、セクシー系をチョイスしてみたのだけれどやっぱりダメでしたわ!っていうか流石に三徹には耐えられずに眠ってしまいましたわ!けれど朝起きても服には乱れたところもなく…


屈辱です。

これでも私、皇女ですの。
歴代、美人と評判の妻を娶り続けた美男の皇帝たちの子孫ですの。
見た目はかなり良い方だと、自負しておりますの。体型にだって気を使っておりますの。っていうか、健康(体型)維持担当の女史が鬼………コホン。

なのに手付かず!
結婚して一週間経っても手付かず!!!

「子どもはいつ頃かしら?」

って。やることやらなきゃ、できようがありませんわお母様!!!


その後も、夕食に男性の性機能を高める食材をリクエストしてみたり、寝室でその気になる香を焚いたりと、色々試してみたのだけれど結果は惨敗でしたわ…。
挙句にひと月くらい、夫だけの長期出張の公務があったりもして…。

誰ですの!?新婚夫婦にそんなスケジュールねじ込みやがった阿呆は!

そんなこんなで、初夜から半年、レスですの。
一度も、ただの一度も無しですの。
笑っちゃいますわ。
半年しても新品の花嫁なんて。


ふふっ…ふふふふっ…ふふふふふふふっ…………


笑えませんわー!!!!!!!

もう我慢の限界です。
話し合いが必要ですわ!

私の国では、男女関係なく長子が跡を継ぎます。つまり私が次の皇妃です。そして夫は次の皇帝。
私たちに子ができなかった場合、弟たちの子の誰かに跡を継がせれば一応血統は保たれるけれど、そうなると誰の子にするかでとっても揉めそうですの。
それにできれば自分の子に跡を継がせたいですわ!っていうか子ども産んでみたいですわ!


ということで、今日も今日とて眠る気満々で寝台にやってきた夫に切り出しました。

「お話があります」

「明日じゃダメかい?」

夫は気弱そうな笑みを浮かべました。
実は私、普段は毅然としているくせに、私に対しては弱腰になるこの感じが決して嫌いでは…って今はそんなこと、どうでもいいですわね。

「ダメですわ」

ピシャリと言うと、夫はあきらめたようにため息を吐いてベッドに腰かけました。

「何かな?」

夫の顔をじっと見つめます。
少し線の細い、けれど整ったいい顔です。燭台の灯りではよくわかりませんけど、凪いだ湖面のような色の瞳も、色の薄い金色の髪も、素敵だと思っています。

能力だって、決して横柄ではないのに老獪なベテラン貴族に一歩も譲らないところや、官吏の意見をよく聞きながらも流されないところなど、よいと思っています。

性格だって、場の調和を大事にする気づかいや、私を見つめる目が優しいところも、好ましく思っています。

つまり、相手にとって不足はないのです。
私は!

「どうして抱かないのですか?」

なのでこの際、スパッと聞きました。
これ以上、まだるっこしいのは御免です。
夫は目に見えて狼狽しました。

「え…いや、その…」

口元を押さえて頬を染めて。
乙女か!

「私、魅力がありませんか?抱く気になりませんか?」

一度でも抱かれていたなら、何か気に入らないことがあったのだろうと思えましたが、試しもしないで気に入らないは、あんまりです。

「そんなことは…君はとても魅力的だと…思う…」

いまや夫の顔は真っ赤です。
そんな顔も可愛いと思います。
じゃなくて。

どう見ても、女嫌いでも私に嫌悪を抱いてる訳でもありませんわよね、これ。
寝台の上で少しにじり寄ってみました。夫が少しだけ下がります。夫が立ち上がりそうになったので、寝台についていたその手に、すかさずそっと手を重ねて逃亡を防ぎました。
夫の身体がびくんと震えます。

見つめると目を逸らされました。

「その…そんなふうにされると、抑えが効かなくなるから…」

効かなくなるようにしてるんですの!
っていうか、何を此の期に及んで我慢しようとしていやがりますの!?

「お嫌…ですか…?」

首を、籠絡演技担当の教育係から教わったあざと可愛い角度に傾げます。瞳を潤ませながら。
夫が目を見開いて息を飲みました。


効果はバツグンだ!
イケる!


もう少し、身体を近づけます。
体温と体臭は武器だって、閨担当が言ってました。

すると何ということでしょう!夫は立ち上がってしまいました!

「っ…そのっ…今夜は別々に寝ようか!」

あっちも立ち上がってるくせに、目を開けたままの寝言が酷いです。

「待ってください!」

夫は律儀に動きを止めました。
こういうところも…って、今はどうでもいいんですの。

「一緒に…いて欲しいです…」

縋るように見つめながら訴えます。
夫は言い淀んでから口を開きました。

「…自分を抑えきれる自信がないんだ」

この状況のどこに抑える必要がありますの!

「抑えなくていいです…」

ここぞとばかりに教育係から教わった技を使います。さりげなく谷間が見えるように姿勢を変えて。

「君を傷つけてしまう…」

夫が一歩下がりながら何か言ってます。私の谷間を見ながら。
半年も手付かずなせいで、もうとっくに私の自尊心はボロボロですわよ!?

「そんなこと、ありませんわ」

「だって僕ではダメだろう?」

夫以外の誰に抱かれろって言うんですの!この唐変木!

「どうしてですか?」



夫は悄然として答えやがりました。

「君には、他に想う相手がいるのだろう…?」


乙女かぁあああああああああっ!!!!!

っていうか居ませんわ!そんな相手!
どこから吹き込まれたデマですの!?
文官だろうが戦闘力皆無の貴族だろうが、そいつは隣国との戦争真っ最中の最前線に、死ぬまで送り込んでやりますわ!

そもそも跡継ぎ残す義務どこいったんですの!第一皇女の閨教育舐めるんじゃないですわっ!机上オンリーとはいえ、その道の達人たちからものっっっっ凄いこと習ってるんですのよ!!?


ってめちゃくちゃ腹が立ったので、頭からペロリと飲み込んで骨までバリバリと噛み砕いてやりましたわ!

え?もちろん比喩ですわよ?
流石に人間を丸飲みするのは物理的に不可能ですわ。
要するに教わったことの中でも凄くヤバいやつを、あらかた実践してやりましたの!
あの男、最後は泣きながら快楽によがり狂っていやがりましたわ!

ざまあみろですわーーー!!!!



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翌朝、我に返って恥ずか死ぬ皇女様。
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