コード・ナイン

OSARAGI

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仁章

動き出す影

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研究施設から一人脱出に成功した被験者5号、ハヤカワ。
脱出後、とにかく人目から逃れようとひたすらに走り続けていた。
はあ。はあ。
とある路地裏で壁に手をつき息切れしている。
そっと被っていたヘルメットを外す。と同時に、かいていた汗もわっと飛び散る。
ヘルメットを投げ捨て、近くにあった蛇口に手をかける。
ガチャッ。
蛇口を回そうとしたその時、蛇口のハンドルが捻じ切れる。
「蛇口を回すことすら俺は。」
サイボーグメンテナンスによる筋力の強化。
それにより握力が常人の何倍にも高まっていたのだ。
ハヤカワはヘルメットを拾い上げ、再び歩み始めた。
その顔は、二度と普通の人間として生きていくことのできない絶望。そして自分をこのようなバケモノにした防衛隊、過去の自分を強く憎むような表情であった。

東京都、新宿区市谷市内。
国家安全保障庁庁舎内会議室。
「今回皆に集まってもらったのは他でもない。今我々防衛隊の急務となっている被験者第5号についてだ。」
そう話を切り出すのは国家安全保障庁防衛部長官のトウドウ。
会議室に召集されたのは、
事件当日即応部隊の司令官を担当したセリザワ。
同じく事件当日通信士を担当したオザワ。
同じく事件当日即応部隊として戦闘を行い生き残った隊員4名。
そして本計画技術担当者であったナヤ。
「それではナヤ君。あとは。」
「承知しました。」
そうしてトウドウからナヤへとバトンが移る。
「今回被験者第5号の事案について一任させてもらう、ナヤだ。よろしく頼む。」
会議室は静まり返り、皆の視線はナヤに集まる。
「まず当計画において例外なく対象の事は コード・ファイブ と呼称することとする。」
「このようなときに呼称など。」
そうつぶやくのはセリザワであった。
「まあまあ。こういうときにも名前というものは大事です。」
そう場の空気を少しでも和らげようと即応部隊長が言う。
そんなことも気にせず、ナヤは説明を続ける。
「続いてはこのコード・ファイブの討伐の仕方であるが。」
再び会議室が静まり返り、緊張も走る。
「今現在我らの保護下にある被験者二体。そして特別編成部隊の銃火気使用による討伐を目指す。」
招集された面々に驚きの表情がうかがえる。
それを見てナヤは少しニコリとした。
「つまり、被験者同士殺し合いさせるってことですか。」
そう声を張り上げたのは通信士のオザワであった。
「それ以外にどう捉える。」
何を疑問に思っているのかわからない口調でナヤが言う。
「信じられない。断固反対です。」
とオザワ。
「いや、待て。当初計画では5体のはず。4号が保護されたのは確認しているが、もう一体は。」
とセリザワがナヤに問う。
「もちろん、新たな被験者を増やすのだ。今回は一般の中から対象者の策定を行った。もうじき連れてくる頃だろう。」
さも当たり前のようにナヤが答える。
招集された面々の表情は不気味を感じるものへと変わった。
「いっ…ぱん」
その時、庁舎内のアナウンスが流れる。
会議室の全員がスピーカーや天井を見上げる。
「緊急。緊急。世田谷区にて巡回中の防衛隊員数名が被験者5号と思われるスーツにヘルメット姿の男と交戦中との一報あり。一般人の少年も巻き込まれている模様。繰り返す。世田谷区にて…」
室内の全員の視線がナヤに再び集まる。
「。。。」
オザワは黙って下を向く。
手を強く握り、震えていた。
「オザワ、とにかくここは司令部に戻ろう。」
オザワはスっと立ち上がる。
ナヤの顔をじっと睨みつけた後、セリザワの後を追うように会議室を後にする。
それに続き、即応部隊の4人も走って会議室を出る。
会議室にはナヤと長官だけとなる。
「やはり、コード・ファイブの邪魔が入ったな。」
長官が静かに話し始める。
「大方想定内といったところです。これでコード・ファイブも少年を見捨てられず抱えるしかない。」
「荷物を抱えさせるわけか。ところで、コード・ファイブを討伐したとして、少年はどうするのだ。」
「もちろん、防衛隊に誘拐されそうになったことを世間に言われたら困りましょう。ここで邪魔が入っても入らなくても少年の運命は変わりませんよ。」
「ふふ。実に卑劣で巧妙な作戦だな。ナヤ君。」
長官が視線を下に向けると卓上には冊子があった。その冊子の表紙には
【極秘・デストロン計画】
と大きく印刷されていた。
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