俺と彼女の物語

海賊王

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俺と彼女

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 本日は晴天なり。
 
 雲一つ無い空の下、俺【飯田琢磨】は初詣を終えて自分のアパートに帰宅しようとしていた。
 
 今年は就職して1年が経った年である。
 
 何かと大変だった去年に比べてとても心に余裕が生まれている。
 
 つまるところ、大変上機嫌だったわけだ。
 
 俺は、とても気分がいいから今年の抱負を神社の神様に報告した。

『神様、いつもありがとうございます。今年は一日一膳を豊富に頑張っていきます。』

 そんなことを、神に報告したためか、早速、何か困っている人を見つけた。

「あの、何かお困りですか。手伝いますよ」

 俺は、四つん這いになって何かを探している女性に声をかけた。
 
「あ、ご親切にありがとううございます。申し訳ないのですが、1mほどの白い杖がこの辺りに落ちていませんでしたか。」
 
「わかりました。俺が探しますので、その場でじっとしていてください。」
 
 俺は、この女性が盲目であることがすぐにわかった。
 
 その場に女性にじっとしてもらうことを言うと、すぐに周りを見渡した。
 
 目的のものはすぐに見つかった。
 
 しかし、その杖は二つに折れていた。

「あの、すみません。見つかったのですが、折れてしまっていました。」

「、、、そうですか。」

 女性はとても困った表情をした。

 俺はこのとき初めて彼女の顔を見た。

 顔立ちはとても良くて、セミロングまで伸ばした髪をお嬢様のようにセットしてある。
 
 その綺麗な髪と顔はさながらお姫様のようだった。

 俺は、ふと心の中にこの女性と一緒にいたいと思った。
 
 これはただの下心だ。

 あまり誉められたものでは無いが、それでも男の端くれ。
 
 こんなに綺麗な人を見たら誰だってそんな心を持ってしまうだろう。
 
 俺は、すぐに決めた。

「あの、よろしければ俺が家まで送っていきますよ。」
 
 俺がそういうと、またも彼女は困った顔をした。

「いえ、そういうわけには、、、ご迷惑になっていしまいます。」

「でも、目が見えないのでしょう。こういう時は、親切を受け取っておいた方がいいですよ」
 
 俺はそういうと、女性の手を握って立たせた。
 
 彼女は、俺の胸元に顔を向けながら言った。

「それでは、よろしくお願いします。場所は、ツツジ駅の近くの家です」

「わかりました。では、ゆっくりのんびりいきましょうか」

 俺と彼女はゆっくり駅に向かって歩き出した。

 彼女は、とても華奢で、守ってあげたくなる。

 俺は、とてもウキウキした気持ちになっていた。
 
「そういえば、まだ名前を言っていませんでしたね。俺は飯田琢磨と言います。お名前を聞かせてもらってもいいですか。」

「寺内亜衣と言います。」

「寺内さんですか。ツツジ駅の近くに住んでいるんですよね。俺も今はそこの駅の近くのアパートに住んでいるんですよ。」

「そうなんですか。」

「はい、こっちに引っ越してもう1年ぐらいが経ったとこですかね」

 俺は、なんとか彼女の気を引こうとした。
 
 でも、彼女はただ顔を前に向けたまま、機械的に返事をしてくるだけだった。

 そりゃろうだろう。
  
 見ず知らずの男に手を引かれては、どこに連れていかれるかわかったものじゃない。

 俺が彼女なら絶対にこの手を取らない自信がある。

 そんなこんなで、ツツジ駅まで来たわけで、俺と彼女の間には何一つ進展はなかった。

「さて、着きましたよ。ツツジ駅」

 俺はそう言って、その場に立ち止まった。

「あの、ありがとう御座います。もう、ここで大丈夫ですから」

 彼女はそう言うと、にっこりと微笑んだ。

「でも、家まで帰れますか。よければ家まで送りますよ。」

「、、、、多分、大丈夫です」

「多分じゃ、危ないですよ。送りますから、住所か、何か家の特徴とか教えてください。」

「では、お言葉に甘えて。小暮アパートの隣の家です。わかりますか。」

 小暮アパート。
 
 それ、俺が今借りているアパートの名前じゃん。

 そういいえば、大家さん名前って寺内って人だったな。

 いつも、銀行のATMからの送金で家賃を払ってたから、大家さんがどんな人なのか知らなかった。

 というか興味なかった。

「あの、もしかしてですが、、、小暮アパートの大家さんですか。」

「それは、私の母です。」

「ま、マジか、、、あの、俺、その小暮アパートに住んでいいるんですよ。」

「え!本当ですか。なら、ちょうどよかったです」

 初めて話が盛り上がった。

 でも、こんなことがあるんだな。

 世間は狭いとはよく言ったものだ。

「あの、いつもお世話になっております」

 彼女は、ふふっと笑った。 
 
「いきなりどうしたのですか。こちらこそ、家まで送ってくださりありがとうございました。」

 彼女は、初めて俺の方に顔を向けた。

「正直、疑っていました。この人は、私を誘拐しようとしているのではないのかと。」

「そんなこと、俺、しませんよ。」

「では、どうして、こんな目の見えない私を助けてくれたのですか」

「そうですね。今年の抱負が一日一善だからっていうのと。」

 俺はふと思い出した。

「おばあちゃんが言っていたんだ。人を助けろって。だから、あなたを助けました。それだけです。」

 彼女は、呆然と俺の方に顔を向けていた。
 
 そして、歩いている方向に顔を向けた。

「それは、とてもかっこいいですね。」
 
 俺は、なんか嬉しくなった。

 そんなこんなで小暮アパートに着いた。
 
 小暮アパートの横には家が一軒あった。

「もう着きましたよ。」

「送ってくださりありがとうございます。」

 そう言って、彼女は家に行く。

 俺は、自然と彼女に声をかけた。

「あ、あの!」

 彼女は振り返る。

「明日、昼食一緒にどうですか。」

 俺の足は、少し震えていた。

「明日は無理です。ごめんなさい」

 彼女はそう答えた。

 彼女がどういった表情をしているかわからない。

 俺は、彼女の顔を見れなかった。

「そうですか。すみません。ご迷惑をかけました。」

「明後日なら空いてますよ」

 俺は、彼女を見た。
  
 彼女は、少し頬を染めていた。

「わかりました!ありがとうございます!」

「では、明後日。楽しみにしてます。」

 そう言って家の中に入って行った。

 俺は数秒間だけその場に立ち尽くしていた。

 そして、

「よっし!」

 その場で拳を握った。



************



 それからの日々はとても鮮やかに輝いていた。

 彼女と初めて食事に行った日。
 
 二人きりだと思っていたら、なんと大家さんである亜衣さんのお母さんまで一緒に食事を取ることに。

 なんか緊張して、何を話していたか覚え得ていない。

 でも、彼女も彼女のお母さんも笑っていたことは覚えている。

 彼女は目が見えないから、一緒にいて楽しめるものを探した。

 結果として音楽とかお喋りをして楽しんでいた。

 彼女が音楽が大好きであると知って、一生懸命にお金を貯めた。

 ロックフェスに連れて行くためだ。

 連れていった時の彼女は泣いていた。

「琢磨。ありがとう!、、、こんなに嬉しい日はないよ!」

 そう言ってもらえた日は、俺も一緒になって泣いてしまった。

 その日、俺は彼女に告白した。

 まあ、俺からじゃなくて、彼女からだったわけだが、そこは、まあ、男として俺からと言わせてもらおう。

「ふふっ。こんな目の見えない女でいいの?とても大変だよ?それでもいいの?」

 彼女は何回も俺に聴いてきた。

 もうしつこいくらいだったから、その口を俺の口で閉じてやった。

「もう、キザっぽい。こんなことできる人だったんだね。」

 彼女は嬉しそうに言った。

 俺が、29歳の時に結婚した。

 今更だが、彼女は一個下の歳だった。

 まあ、歳なんて俺には関係ないからどうでもいいと思っていた。

 だって、俺は歳なんてどうでもいいくらい彼女にゾッコンだからだ。

「これから、よろしくね。、、、、大好き」

 俺と彼女の生活が始まった。

 2人きりの生活だと思っていたけど、初めはなんだかんだで大変で、やはり俺の力は小さくて、大家さんの家で三人で暮らすことになった。
 
 俺は、毎月しっかりとお金を大家さんの家に払うようにして、家事と仕事を両立した。

 彼女も自分の家だけあって、家事はなんでもできるし、外にも普通うに出歩くことはできる。

 でも、やっぱり一人だと何かと不便だから、俺が仕事でいない時はお母さんの手を借りている。

 そんなこんなで、子供もできた。

 二人もできた。

 俺は大いに仕事に励んだ。

 喧嘩もした。

 喧嘩した時は、絶対にエビピラフを一緒に食べた。

 なぜだか、エビピラフを食べるのが恒例になった。

 そうやって年月が経った。

 俺と亜衣は同時にこの世から経った。
 
 生きる時も一緒、死ぬ時も一緒。

 とても中睦まじく、幸せな二人だった。
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