黄金の王 〜俺は自由人になりたい!〜

海賊王

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プロローグ

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 なぜ、俺はこんな状態になったのだ。

 ボロアパートの一室は真っ暗で何もない。

 俺はその真ん中で布団を敷いて寝たきりになっていた。
  
 ずっと咳き込んでいて胸が苦しい。

 体に力が入らないせいで手で口元を抑えることすらできない。

 食欲もないため、ここ何日も靴に食べ物を入れていない。

 俺は末期の癌だ。

「くそ・・・・」
 
 咳をすると喉の奥から血の味がした。

 吐血だ。

 もう体の限界だった。

 ふと、いろんなことを思い出してしまう。

「・・・」

 これが走馬灯というやつだろうか。

 俺は、別に悪いことをして生きてきたわけではない。

 学生の頃はボランティア活動は率先してやっていたし、人に頼まれたことを断ったことはほとんどない。

 社会人になってからというもの、仕事を真面目にして生きてきた。

 特にお金に困るような稼ぎではなかった。

 俺が間違えたとするなら、人間関係だろうか。

 会社ではなぜか上司の反感を買った。

 上からは都合のいい男として仕事を押し付けられた。

 特にひどかったのは1時間後に会議があるから資料を作っておいてくれと言われた時だ。

 あの時は本当に大変だった。

 資料作成は間に合ったのに、社長の前で怒られた。

 何より酷かったのは嫁だろうか。
 
 俺は幼馴染と結婚した。

 昔から仲が良く、小さい頃は一緒に遊ぶ仲だった。

 中学、高校になっても仲が良くて同じ部活にも入った。

 大学受験も同じところを受けて一緒に合格した時は共に喜びあった。

 そして、お互いに生活が安定した時に結婚した。

 初めは本当にいい結婚生活だった。

 お互いにお互いの長所と短所をわかっていたから、鼻から理想的な結婚生活じゃなくて現実的な結婚生活をしていた。

 人よりも安定した生活そしてーー子供が生まれて、家を買った。
 
 それが、いつの間にか多額な借金とパートの日々。

 俺は浮気とか犯罪とか借金とか何もやっていなかった。

 なのに、なぜかそうなった。

 初めは弁護士とか雇って反抗したが、なぜか負けた。

 おかげで会社はクビになり、家も無くした。

 嫁とは離婚し、子供には会わせてもらえなかった。

 嫁は新しい男ができたとかで、完全に離縁した。

 それでも、俺は子供のために養育費を払い続けた。

 少ない給料で何とか払い、残ったお金は全て借金の返済に費やした。

 食事は毎日近くの林の雑草。

 一応、食べられるのが生えていたのでそれを食べて飢えを凌いでいた。

 それでも限界は来るもので、日々、借金返済の取り立てなどが続いて、肉体的にも精神的にも限界がきていた。
 
 そして、俺は倒れた。

 気がついたら病院のベットの上で、医者からは末期の癌だと受けた。

 抗がん剤の投与をしないと生きていけないと言われたが、そんなお金があるはずもない。

 そもそも、俺の精神が生きることに耐えられなかった。

 そして、今の状態に至った。

 まだ30代半にも関わらずおじいちゃんみたいな皺くちゃな手になっていた。

「どうして、俺がこんな目に遭わないといけないんだ」
 
 目から涙がこぼれた。

「あら、あなた。とんでもない不幸の持ち主ね~」

 俺は目だけ声の方に向けた。

 そこには羽が生えていて、純白のドレスを身につけた美しい女性が立っていた。

「・・・誰だ・・・」

「そうですね~私は【女神】と名乗っておきましょうか」

 その【女神】は俺の横に立ったまま俺を見下ろしていた。

「あなた大変不幸で、とてもかわいそうですね~」

「・・・なんだ、俺を迎えにでも来たのか」

【女神】はくすくすと笑う。

「まあ~迎えに来たといえばそうともいえますし~違うともいえます~」

 すると女神は手を前に出して円を描く。

 円の中にはここと違う風景が映し出された。

 美味しそうな料理の数々。

 俺はこんな豪華な料理をずっと食べていない。

 そこには無視できない相手とその男がいた。

『お前もひどい女だ。元旦那に借金まで背負わせて、浮気に仕立て上げた挙句、養育費まで請求するんだもんな』

『あら、こんな女にしたのはあなたじゃない。それに、法律上、養育費を請求できるのは私の権利だもの』

 そういって2人は乾杯していた。

 何だこれ。

『元旦那との子供はどうしたんだ?』

 男はグラスに口をつける。

『そんなの実家に置いてきたわよ。養育費の半分は置いてきたし』

『もう半分は』

『もう半分は私の財布。あの男、多めに養育費を送ってきてくれたおかげで私まで潤ったわ』

 こいつ何言ってるんだ。

 ーー胸が苦しくなる。

「あらあら、こんな感じになっているわね~」

 俺はむせ返しそうな感じを抑えた。

「・・・これは本当か?」

【女神】は俺の方に笑顔で答えた。

「ええ。本当ですよ~私の名にかけてもいいですよ~こう見えて【女神】ですから~。それに~何となく覚えがあるでしょう?」
 
 俺は、確かに以前違和感を覚えていた。

 でも、子供もいるから見ないようにしていたのだ。

 見ないようにした結果がこれだ。

 俺は絶望した。
 
 俺は一体何のために生きてきたのか。

 離婚してからは子供のために生きてきた。

 それが、渡していたお金が嫁の道楽に使われていたのだ。

 以前の嫁なら素朴な格好をしていただろう。
 
 しかし、今では派手派手しい格好をしている。

 多分、俺の金で買ったものだろう。

 沸々と、自責の念から怒りへと変わっていった。

 そして、俺は八つ当たりするように【女神】を見る。

「私を睨まないでくださいよ~。私は、あなたにいいお知らせをしに来たというのに~」

【女神】は手で顔を覆ってなく真似をする。

 俺はその行動にイラっとする。

「ーー復讐させろ」

「あら~それは無理な相談ですよ~。あなた~自分の体なのですから自分でわかるでしょう?無理なことくらい」

【女神】は俺の頭を撫でる。

 それにまたイライラしてしまう。

「ーーや、やだ。やらせろ・・・」
 
 喉が擦れで声が出ていない。
 
 こうなれば、道ずれだ。

 何が何でもーーあいつらを不幸のどん底に落としてやりたい。

「ふ~ん。なら。これならどうですか?私が代わりにあの人達を不幸にしてあげましょう」

【女神】はニヤリと口元を三日月のようにして言った。

「・・・証拠・・・」

「わかった~わかった~。私ならできないことはないけど~、その代わり~異世界に転生して欲しいんですよね~」
 
 何だ、あいつを不幸にしてくれるのかーーそれなら、何でもいいや。

「・・・わかった・・・」

「あら嬉しい~。じゃあ、どんな世界がいい?」

 くだらない。
 
 そんなことより、早くあいつの絶望が見たい。

 俺は【女神】睨みつける。

「・・・早く・・・」

「わかったわかった。じゃあ~この世界なんてどうかしら~。人間の寿命が大体10倍まで増えてるファンタジー世界なんていいわね~」

【女神】は嬉しそうに俺の行先を決める。

 俺はそんなこと、どうでもいい。
 
「・・・早く・・・」

【女神】はめを細めて楽しいそうにしていた。
 
 何がそんなに楽しいのか。

 怒りの感情しか湧かない。

「も~しょうがないですね~。では、よ~く見ておいてくださいね~」

【女神】そう言うと指をパチンと鳴らす。

 すると、映像の中の嫁とその男の間に変な空気が漂い始めた。

『さて。それではそろそろお暇しようか』

『そうですね』

 映像の中の2人はそのまま普通に別れた。

 映像は動画の早送りのように流れて、ある時間で止まる。

『え?何を言っているの?』

『だから、そろそろ俺たち別れよう』

 2人の別れ話が始まった。

『もう。お前には興味ないんだ。じゃあな』

『ま、待って!ねえ、冗談よね!?私たち結婚するんだよね!?』

『はあ?何言ってるんだ。お前みたいな浮気症の女と誰が結婚するんだよ。鏡見をよーく見てみろ。お前の見にくくて汚い顔が映ってるだろ』

『ふざけんじゃないわよ!じゃあ、なに、子供はどうすんのよ!もう、あの男も死んじゃってお金がないのよ!』

 元嫁は無様に新しい男にしがみ付く。

『そんなの俺が知るわけないだろ。じゃあな』

 男は元嫁を蹴り飛ばして家を後にした。

 元嫁はその場で泣き崩れていた。

「・・・おい、どうなってるんだ・・・」

 俺は【女神】の方を睨んだ。

 どう考えても未来の映像を見せられているようにしか見えない。

 俺が、未来の映像を見られるわけがない。

「これは、今あなたが考えている通り未来の映像よ~。この未来は確定したわ。私がそうしたの。でも~信じるも、信じないもあなたの勝手ですけどね~」

【女神】は一仕事終えたような雰囲気を出している。

 その一つ一つの仕草が腹立たしい。

「・・・なら、もう・・・いい・・・」

 俺は、力なく答えた。

 自分ではもうどうすることもできないのはわかってる。
 
 この映像を見れただけでもよしとしていいだろう。

 ぶっちゃけ、もう疲れた。

 ああ、次の人生があるのなら、絶対に自由に生きてやる。

 誰にも邪魔されず、自分の意志で、自分だけの人生を歩むんだ。

 もう、誰も信じない。

 誰にも関わらない。

 そう。
 
「・・・次は・・・自由に・・・」

 俺は眉間に皺を作ったまま瞼を閉じた。





「あ~あ、やっと死んでくれましたか」

 目の前の男のなんとも醜い顔を見た。

「はあ~面倒な男だったわね~。私の仕事を一つ増やしやがって。でも、面白いものがこの後続きそうだからよしとしますか~」

【女神】は大きく背伸びをして手を前にかざす。

 目の前に大きな門が出現する。

 その門は純白で白いモヤが出ている。
 
【女神】は門の出現を確認すると、次は指を鳴らした。

 すると目の前に円のモニターが出現する。

 モニターの半分には先ほどの女、もう半分には男が出ていた。

『もう、許して。ごめんなさい、ごめんなさい!』

 女は老人の家の前で泣き喚いていた。

『お前をもう娘だとは思わん。さっさとここからされ!子供は俺が預かる。2度と顔を見せるな!』

 多分、この女の両親だろう。

 ちょうど、子供を奪われて実家を追い出されたところだった。

 ああ、本当に面白い女だわ。

 元旦那を殺しておいて、最後には元旦那のことを考えてる。

 そして、頼りにしていた両親には離縁され、挙げ句の果てには家無しの一文なしの借金持ちのアラサーだ。

 この女の行方がとっても楽しみね。

 次に男の方を見た。

 男はちょうど交通事故にあったみたいだった。

 男は目覚めると病院のベットの上だったようだ。

『何を言っているんですか先生。もう体が動かない?』

『ええ、誠に残念ですが、首からしたは今後一生動きません。私どもも手をつくしたのですが・・・もうどうすることもできません』

 なんと全身付随となってしまっていた。

 これまたとんでもない不幸だ。

【女神】は身悶えるように喜んだ。

「も~たまりませんね!どうしたらこれほどまでの不幸に見回れるのか。でも、自業自得ですよね~飲酒運転なんて。ほんと、バカばっかりで楽しいわ~」

【女神】は指を鳴らす。

 映像は消えて扉がゆっくりと開かれる。

「さ~て、あの男をどんな感じで料理してあげましょうか~。大貴族にでもしてあげてから全てを無くさせてもいいわね~。それとも、初めから底辺にしてあげましょうか~。それも面白いわね~」

【女神】は自分を抱きしめるようにして体を揺らす。

 その姿は【女神】というには程遠い存在になっていた。

「今度の世界では、せいぜい長生きして、しっかりと苦しみを味わいなさい!私はそれがとてもとても楽しみなの!」
 
 扉がしまって、その場所はもとの雰囲気を取り戻していた。

 部屋に残ったのは、男の遺体だけだった。
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