CHAIN

むひ

文字の大きさ
1 / 4

家出

しおりを挟む

家出した。
小学校高学年にもなれば、僕の家が異常だってことくらいわかるさ。
普通の子なら毎日痣なんか作らない。ご飯だってお腹いっぱい食べられる。
逃げられなかった。いや、逃げるなんて感覚もなかった。僕がいい子でいればいい。いい子でいればお母さんは怒らない。隣の家の犬と一緒。

 春の風が頬をかすめた。その学校の帰り、自然と足が橋の下へ向かったんだ。柵をまたぎ斜面を転びそうになりながら降り、橋脚のたもとに座り込んだ。そこから足が動かなかった。動けなかった。

 どれくらい時間が経ったかな。
日が暮れて、朝になって、また日が暮れる。
水鳥が泳ぐのを、魚が跳ねるのをぼーっと眺めていた。
お腹が空いたけど、家にいるよりは楽だ。頭が痺れる。
水筒のお茶を飲んだ。
どうせ誰も来やしないんだ。
このまま、楽になれないかな。

「坊主、何してんだ?」
薄らと目を開けるとヒゲもじゃの、顔も垢で汚れたオジサンが横に座り込んでいた。ひどい臭いがする。
「おめえ、昨日もいたろ」
ほっとけよ。声も出なかった。
オジサンはドカッと隣に座る。
「食えよ」と、目の前にアンパンが出てきた。僕は楽になりたいんだ。ほっといてくれよ。
想いとは裏腹にアンパンをお腹に流し込んでいた。
「なんだ、動けるんじゃねえか。かっかっかっか!」
乾いた笑い声が橋の下にこだました。歯が欠けてるのが妙におかしかった。
「付いてこいよ、まぁどっちでもいいけどよ」
オジサンは立ち上がりひょっこひょっこと歩き出した。

オジサンに付いて行った。普通では絶対危ないと思う。でも何故か興味が湧いた。
裏路地を廻り連れてこられたのは公園の隅にあるダンボールハウスだった。まるでゴミ箱だ。それにしてもひどい臭い。この世の汚い部分を全て集めて詰め込んだ感じがした。
「突っ立ってねえで入れよ」
オジサンが喋る度、抜けた歯から空気がひゅうひゅう抜けて面白い。
「家出したんか?………喋らねえならそれでいいけどよ。人にゃあ話したくない事の一つぐれえあるさ」
お腹が鳴った。
「かっかっか!あれだけじゃ足りねえってか」
オジサンは腰を上げて奥でゴソゴソしていた。
ほら食え、っと出された物は。バッタ。食べ物じゃないよ。バッタってこんな赤かったっけ。
「食えよ、意外とうめえんだぞ。イナゴだって食えるんだ、一緒じゃねえか。考えても見ろよ、エビだってよく見りゃ昆虫と一緒じゃねえか。要は慣れの問題よ。かっかっか!」
でも、虫は飼う物で食べる物じゃない。オジサンは一つ摘むとバリバリと食べだした。吐き気がする。
「そうやって腹空かしてろ。この世の中はな、食ったモン勝ちだ」
俺は寝ると言い残し、オジサンはイビキをたてた。僕もひどい臭の中、何故か眠れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

私は愛する人と結婚できなくなったのに、あなたが結婚できると思うの?

あんど もあ
ファンタジー
妹の画策で、第一王子との婚約を解消することになったレイア。 理由は姉への嫌がらせだとしても、妹は王子の結婚を妨害したのだ。 レイアは妹への処罰を伝える。 「あなたも婚約解消しなさい」

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

真実の愛ならこれくらいできますわよね?

かぜかおる
ファンタジー
フレデリクなら最後は正しい判断をすると信じていたの でもそれは裏切られてしまったわ・・・ 夜会でフレデリク第一王子は男爵令嬢サラとの真実の愛を見つけたとそう言ってわたくしとの婚約解消を宣言したの。 ねえ、真実の愛で結ばれたお二人、覚悟があるというのなら、これくらいできますわよね?

処理中です...