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家出
しおりを挟む家出した。
小学校高学年にもなれば、僕の家が異常だってことくらいわかるさ。
普通の子なら毎日痣なんか作らない。ご飯だってお腹いっぱい食べられる。
逃げられなかった。いや、逃げるなんて感覚もなかった。僕がいい子でいればいい。いい子でいればお母さんは怒らない。隣の家の犬と一緒。
春の風が頬をかすめた。その学校の帰り、自然と足が橋の下へ向かったんだ。柵をまたぎ斜面を転びそうになりながら降り、橋脚のたもとに座り込んだ。そこから足が動かなかった。動けなかった。
どれくらい時間が経ったかな。
日が暮れて、朝になって、また日が暮れる。
水鳥が泳ぐのを、魚が跳ねるのをぼーっと眺めていた。
お腹が空いたけど、家にいるよりは楽だ。頭が痺れる。
水筒のお茶を飲んだ。
どうせ誰も来やしないんだ。
このまま、楽になれないかな。
「坊主、何してんだ?」
薄らと目を開けるとヒゲもじゃの、顔も垢で汚れたオジサンが横に座り込んでいた。ひどい臭いがする。
「おめえ、昨日もいたろ」
ほっとけよ。声も出なかった。
オジサンはドカッと隣に座る。
「食えよ」と、目の前にアンパンが出てきた。僕は楽になりたいんだ。ほっといてくれよ。
想いとは裏腹にアンパンをお腹に流し込んでいた。
「なんだ、動けるんじゃねえか。かっかっかっか!」
乾いた笑い声が橋の下にこだました。歯が欠けてるのが妙におかしかった。
「付いてこいよ、まぁどっちでもいいけどよ」
オジサンは立ち上がりひょっこひょっこと歩き出した。
オジサンに付いて行った。普通では絶対危ないと思う。でも何故か興味が湧いた。
裏路地を廻り連れてこられたのは公園の隅にあるダンボールハウスだった。まるでゴミ箱だ。それにしてもひどい臭い。この世の汚い部分を全て集めて詰め込んだ感じがした。
「突っ立ってねえで入れよ」
オジサンが喋る度、抜けた歯から空気がひゅうひゅう抜けて面白い。
「家出したんか?………喋らねえならそれでいいけどよ。人にゃあ話したくない事の一つぐれえあるさ」
お腹が鳴った。
「かっかっか!あれだけじゃ足りねえってか」
オジサンは腰を上げて奥でゴソゴソしていた。
ほら食え、っと出された物は。バッタ。食べ物じゃないよ。バッタってこんな赤かったっけ。
「食えよ、意外とうめえんだぞ。イナゴだって食えるんだ、一緒じゃねえか。考えても見ろよ、エビだってよく見りゃ昆虫と一緒じゃねえか。要は慣れの問題よ。かっかっか!」
でも、虫は飼う物で食べる物じゃない。オジサンは一つ摘むとバリバリと食べだした。吐き気がする。
「そうやって腹空かしてろ。この世の中はな、食ったモン勝ちだ」
俺は寝ると言い残し、オジサンはイビキをたてた。僕もひどい臭の中、何故か眠れた。
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