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032話 告白ですか?勇者さま。

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なんで?、、なんでこんなに足元が覚束ないのかな、、、?

自分の足が自分の物ではないようにフワフワしている気がする。

ご主人様の部屋へ着いた訳でもないのに、この調子でフェン様を前にしたら『自分の気持ち』をちゃんと伝えられるのだろうか?


『迷い』は無い。

・・・が、今まで体験した事のない種類の緊張がミオンを襲う。

「大丈夫だよ、大丈夫。」

ご主人様が何度となく掛けてくれた言葉を、場所や場面を思い浮かべ、自分で口ずさんでみる。

本人から直接言って貰うのとは比べるべくもないが、不思議と不安が和らぐ気がするのだ。

いつの間にか、特に意識しなくても、自然にご主人様、フェン様が居てくれる事で安心を得る様になってしまっている自分が居るのだ。


・・・私、、なっちゃったのかな?

今まではが大事だったのに、、

今はに思え、この幸せを守りたいと思っている。

以前はシオンと自分の命を守る事だけ考えれば良く、など考える余裕も必要性も無かった。


今、ミオンの考える『 幸せ 』を守るには一体どれ程の物を守れば良いのだろうか?

贅沢だ、とは思うが一度知ってしまった幸福感 『 幸せ 』 を手離したくない。

その為にはご主人様が必要、、、?

いや、ミオンの考えるその『幸せ』のピースの中に『フェン』も欠かせなくなっていたのだ。

ミオンはシオンだけでなく『 幸せ 』の為のピースを全て守る…守りたいと思う様になっていた。


「フェン様、、一緒に、、」


考えながら、少し遅くなったが、ようやくフェンの部屋へ到着した。

・・・この中にフェン様が、、、。

これからフェン様にする話は、ミオンの今後の生活を大きく左右する話だ。

緊張して上手く話せないかもだけど、ご主人様なら笑って許してくれるだろう。


、、、そして応えてくれる、、はずだ。



扉の前で幾度となく深呼吸をする。

『 いくよ!! 』

、、まずはノックだよね・・・。

コン、コン、、、、

・・・だけど返事が無い。


・・・まだ寝てるのかな?


じゃあ起こしてあげようかな?

一緒に暮らせば毎日起こしてあげる事になるかもだしね♪

既に将来の楽しく幸せな生活の想像が次から次に浮かんでくる。



「フェン様、入りますよ。」

扉を開ける。

・・・。


・・・「・・!!」


「、、フェン、、様?」


、、、居ない??

、、、何で?居ないの?

目の前の現実が信じられずに頭の中が真っ白になる。

部屋の中に荷物は何も無く、誰かが居た事さえ最初から無かったかの様だった。

「・・・出て・・・行った・・・の?」

・・・部屋を間違った、訳がない、、間違いなく昨日出て来たフェン様の部屋だ。

ガクガクと身体が震える。

「フェン様、、、どこ?、、どこですか?フェン様、、、」

、、当然、答える声はない。

「い、嫌、嫌、、フェン様、嫌ーー!!!」

目の前からミオンの考える『幸せ』には欠かせないピースが何の前触れもなく消えてしまった…。

ミオンは混乱する。

「何で? 何で、何で 何で 何で、、、」

・・・そして自分を責める。

「私…私が自分の気持ちに迷って部屋に来るのが少し遅かったから…」

「私が幸せになるなんて…欲張ったせいでフェン様は居なくなったんだ…」

「・・・全部、、、私のせいなんだ、、、。」


「、、嫌、、嫌よ、、何で?、、嫌、、嫌、、、」


涙が溢れる。


「やっぱり私は、、幸せになんか、、なれないんだ、、」

昨日は確かに、、、ここにフェン様は居た。そのベッドに倒れ込む…。

だが、幾らベッドを涙で濡らしてもフェン様は出て来てはくれない。


泣くうちに思い当たる。

今までのご主人様の行動を思い起こせば、、、

もしかして、、

「私、、、の事を思って、、なの?」

フェン様は『母やシオンと一緒に居る様に』と、繰り返し言っていた。

、、だから?、、だから私を母の元へ帰して、黙って出て行ってしまったの?


『非道い!!』


・・・フェン様は、、非道い。

ミオンには散々『ミオンの気持ちは?』と言ったのに…。

私が一緒に居たいと言ったら『嬉しい』って言ってくれたのに…。

そのミオンを置いて一人で居なくなって…そんなの…そんなの非道いです…。


ミオンの事より、フェン様自身の気持ちは…。

「こんなの…こんなの、全然、、嬉しくないです…フェン様…。」

一通り思いを吐き出したが涙は止まらない。

「・・・もうフェン様には会えないのかな・・・。」

そう考えるだけで涙は次々に溢れ、枯れる事はなかった。

ミオンは泣き疲れてフェンのベッドの残り香を頼りにいつの間にか眠ってしまった。


「・・・フェン、、様、、、。」






「・・・ただいまーっ!、、て、誰も居ないんだよね・・・。」

フェンが部屋に戻って、もう一眠りしようか?と思ってベッドに向かうと誰か居る。


『…誰だろう…?』・・・見ればミオンだった。

フェンが獣王に呼び出された後で訪ねて来たのだろうか?

・・・それで待ちくたびれて眠っちゃったのかな?

ミオンの頬には泣いた跡がある。・・・怖い夢でも見たのだろうか?


ベッドの縁に座るとミオンの頭を撫でてあげる。

「もう大丈夫だよ、大丈夫。」

眠っているミオンには聞こえないだろうけど優しく語り掛けながら頭を撫でる。

サラサラした柔らかく綺麗な髪…撫でているフェンも気持ち良く、いつまでも撫でていたくなる…。

「…大丈夫だよ、ミオン。」


しばらくすると『フッ』とミオンが目を覚ました。

自分の頭を撫でてくれているご主人様、フェンを見て驚く。

「フェン様・・・どう、、して?」

「ただいま、ミオン。 待たせちゃったね。」


・・・夢?・・・どっちが、夢?

・・・『夢』でも構わない・・・もう離すもんかっっ!


『バッ』と起き上がるミオン。

そのままフェンに抱き付いた。

「ミオン? どうしたの?怖い夢でも見たの?」

「・・・はい。凄く、、、凄く怖い夢、、でした。」

思い出しただけで、また涙が出てくる・・・。

ミオンにとっては『悪夢』としか言いようが無い内容だった。

・・・でも今『良い夢』に変わった・・・いや、自分で変えるんだ!


「・・・フェン様!」

ミオンは抱き付いたまま、背伸びをしてフェンに唇を重ねる。

強く抱き締めて、、キスする。

・・・本当は逆の立場でフェン様からして欲しかったけど、、、


僅かに唇を離すと囁く。

「フェン様、、凄く怖かったです、、凄く悲しかったです、、」

、、話すミオンの身体の震えが大きくなる。

「…ミオン?」

状況が解らない・・・思い出すだけで震えるなんて、、一体、ミオンはどんな夢を見たと言うのだろうか?

驚くフェンをよそに『もう離さない』とばかりに、もう一度唇を重ね、キスを続ける。

カタカタと震えながらも懸命にキスするミオンが愛しく、健気で、、、

…それを引き離す事など出来る訳もなく、落ち着くまで好きにさせる事にする。

背伸びをして無理して唇を押し付けているせいで辛そうだったのでフェンもミオンを抱き締めて、キスを手伝う。。。

フェンが受け入れてくれた事で安心したのか、楽な姿勢が気持ち良かったのか、ミオンのキスも頑張ったキスから次第に甘く、優しいキスに変わって行く。


ミオンは落ち着いて初めて分かる。

・・・これがフェン様の味、、なんだ、、、。


しばらくして、またミオンが囁く。

「・・・私は、ミオンはご主人様と一緒に居たいです・・・。」

「私はフェン様と離れるなんて耐えられません…。」

「好き・・・です。フェン様。」


・・・言っちゃった・・・。

傍に居させて貰える様に『お願いするだけ』のはずだったのに…。

『失う恐怖』と『愛しい気持ち』…ミオンの中の感情が爆発したのだ。

ファーストキスは好きな人から『してもらう』物だと思っていたのに…

まさか、自分からしちゃうなんて・・・。


今ならはっきり分かる。

私はフェン様が好きなのだ。

それがミオンの『素直な気持ち』だ。

フェン様は『素直な気持ちを聞かせて』と言った。

そしてミオンは伝えた。

ボールを投げたのだ…後はフェン様がどう返してくれるかだ。


フェン様はキスを終えた後も抱き締めたまま離さないで頭を撫でてくれている。

・・・もう、これが答えでいいのかな?

嫌ならキスした時点で突き放しただろう。

もし私の事を気遣っての事なら、私が落ち着いた今、抱き締めている必要も無いだろう。


・・・フェン様、私を傍に居させて下さい、、、

、、、違う、、、。

そうじゃないんだ。

今までフェン様が私に話してくれた事を思い出せば解るはずだ、、。

ずっとフェン様がミオンに求めて来た事、言葉は・・・

「・・・私は、、この幸せを守りたい、、です。」

「フェン様、私の傍に居て下さい、、、。」

それを聞いたフェン様は、一際大きく頭を撫でてくれた。

気持ち良くてミオンも自分から頭を擦り寄せる。

そして少し身体を離すと、優しい笑顔で返事をくれた。

「いいよ、ミオン。」

「ミオンが居たいって思うなら傍に居ていいし、僕も傍に居てあげるよ。」


、、、嬉しい、、凄く嬉しい、、、。


フェン様はずっと待っていてくれていたのだ・・・

ミオンが『自分の気持ち』をではなくしてくれる事を。


「フェン様、私・・・今、幸せです・・・。」




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