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006話 にゃ、ですか?勇者さま。

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「・・・勇者様、、勇者様、、、、」

 誰か呼んでいる声が聞こえる、、ような気がする。

『・・・もう朝?、、、あれっ?何してたんだっけ?』

目を閉じたまま考えてみるが、なぜか頭がぼーっとしている。

「・・・勇者様・・」

『勇者、、様・・・って呼ぶって事はシズかな?』

返事をしようと閉じた目を開けベッドから起き上がる。

「う、うーん、、って、、あれっ?」

見慣れた天井が・・・ない??

見えるのは、、、家の天井よりも遥か高くに枝と葉っぱ、、、?

そして、すぐ脇にシズではなく栗色の髪、栗色の瞳をした女の子。

「勇者様?」

なぜこの女の子は俺の事「勇者様」って呼ぶんだろう?

 「君は、、、誰?」

 「なに寝ぼけているんですか?、、ミヤですよ、勇者様」

 『ミヤ?、、、あー、またあの耳とシッポをモフモフしないと・・・』

・・・・って!?

 『あれっ!? 何だか凄く重要な事が有った様な気が・・・』

・・・・

・・・

!!!、、、爺ちゃん!!!


そうだ。重要どころでは無い事が有ったのだ。

「爺ちゃんは?」

 辺りを見渡すが、、、居ない。

モンスターは、、、居ない。

 周りを見渡せば、ここはガルンへの道中で休んだ大木の下だ。

 『夢?・・・では・・・ない??』

・・・と、いう事は、この子は『ミヤ』という事になる。


 「ミヤ、なの?」

 「そうですよ。勇者様」

 「爺ちゃんとクロネは?」

 「分かれてしまって今は分かりません」

ミヤが申し訳なさそうに言う。

そうだ。爺ちゃんに言われてクロネが転移させたのだ。


 「早くガルンに戻らなきゃ!」

 「駄目です。勇者様!」

 「ジン様に言われた事を良く思い出して下さい!!」



 『お前は今日、ここには居なかった』

 『誰に聞かれても話してはならん』

そして、

 『今日からお前が『勇者』じゃ』

・・・って何だよ「勇者」って!


 「俺なんかが勇者? ありえない。」

 「冒険し経験値を貯めて強くなり、皆みんなから認められてこその勇者だろっっ!」

 「それをポンポンと肩を叩いて『今日からお前、勇者な。』なんて継承方法なんて絶対におかしいだろっっ!」


 一通り本音を吐き出したが、それを納得させてくれる説明を

 してくれる人も居なければ、代わってくれる人も居ない。

それが出来るのは『爺ちゃん』だけだ。

・・・素直に怒ったら少し元気も出てきた。


 「帰ろう、ミヤ。きっと爺ちゃん達も帰って来るよ。」

 「はい。勇者様」

きっと元通りの生活に戻れるよね?、、、そう思いたかった。



フェン達は家に向かって帰路を行く。

急ぐ用事も無いのだが急ぎたい気持ちもある。

家に着くと何時も通りに爺ちゃんが『おかえり』と迎えてくれる想像をする…

その一方、誰も居ない家に呆然と立ち尽くす自分が居る…悪い予感は止まらない。

『帰るのが遅れてるだけだよね』

と、まだ居ないと決まった訳でもないのに居なかった時の言い訳まで頭を過る。

帰ったら『居て欲しい』という気持ちが帰路の行程を知らず知らずに遅らせていた。

遅ければ遅いほど爺ちゃんが先に帰って居てくれる可能性が高いだろう。

「急ぎましょう、勇者様」

ミヤは正しい判断をしている。

『ガルンに居た事は誰にも知られてはならん。』

それを成すには、なるべく『速やかに帰宅する』のが正しい行動である。

・・・だけど心はそうは言っててくれなかった。



今もミヤは僕の事を『勇者様』と呼び続けている。

「ねぇミヤ。勇者様って呼ぶの止めない?」

「どうしてですか?勇者様」

「どうしてって…」


自分では『まだ勇者じゃない』と思っている。

それに『勇者とは自分じゃなく他人から認められて初めて勇者』だとも思う。

・・・が、明確な理由は、無い。

それは『勇者だ』と、爺ちゃんとミヤは少なくとも認め、呼んでくれているのだろうから。

内心、認めてしまうと『勇者である爺ちゃんが本当に帰って来ない』ような予感がしていたので認めたくなかったのだ。

「まだ自分が勇者だって納得出来てないから『勇者』って呼んで欲しくないんだ」

どうにか理由を考えて伝える。

「いいですよ。じゃ、何て呼べば良いですか?」

・・・えっ?、、いいの?軽っっ。

ミヤの中では『呼び方』なんて大した問題では無かったようだ。

勝手に一人相撲をして難しく考え込んでいた自分が恥ずかしい…。

ミヤから提案が出る。

「勇者様、、、じゃなくて、、ご主人様、はどうですか?」

…ご主人様って言うのは何か冷たい気がする。ミヤは家族同然なんだし。

「じゃあ、何て呼べば良いですか?」素直に聞いてくるミヤ。

「・・・フェン君は?」

知り合いには大体こう呼ばれている。

「…『君』は駄目ですよ。私は勇者様にお仕えする、勇者様の持ち物なのですから。」

持ち物?、、『物』だなんて思ってないのに・・・何か寂しい気持ちがした。

納得してくれないミヤに納得してもらえる名前、、、

じゃあ「フェン様」は?

結局、良い案も無く、どちらともなく出した案で折り合いをつける事になった。

「フェン様」、ですね?

と、ミヤが試しに呼んでみる、、、

呼ばれると何か『硬い』感じがする。どうすれば…?

「じゃあ・・・フェン『さま』って呼んでみて。」

漢字の『様』と付けて呼ぶのと、ひらがなで「さま」と付けて呼ぶと考えて呼ぶのとでは、

不思議と同じ言葉でも明らかな違いが感じられるのは誰にも分からない謎であるが本当の事だ。

それと、、、さっき自分の事を『物』とか言って寂しい気持ちにさせられた件を思い出す。

軽くお返しというか、冗談を思い付く。

「それとミヤは猫人族なんだから語尾には『にゃ』を付けてね♪」

、、、と、おどけて言ってみる。

怒るかな?と思ったけど、なぜか、、

「分かった、、、にゃ。」

あれっ?、、恥ずかしそうだけど案外乗り気?


ここに、呼び方の『フェンさま』と『語尾に「にゃ」を付けるという二人だけの盟約が結ばれたのであった。




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