世界は平和ですか?Ⅱ

ふえん

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010話 お姉様ですか?勇者さま。

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「、、で?、お姉様、、それで、どうしたのですか?」

屈託の無い笑顔でルチアは聞いて来る。

・・・何だよ!、、こんな笑顔に、、何て答えれば、、、


フェンはニーナがルチアに真実を告白する事まで予想していたのだろう。

そして見事にニーナは『その通り』に行動、、告白してしまったのだ。

それはフェンが一度しか聞いていない言葉を、、、

王都へ向かう途中でニーナがフェン達を襲った時の事。

その、たった一度の言葉を信じてくれていたのだ。


『私は殺しと非道だけはしない主義なんだ!』


私の言った言葉、、ちゃんと覚えててくれたんだ・・・

『何よ…弟のくせに…生意気なのよ…余計な事して…』

次々とフェン、、出来過ぎた弟への文句が頭に浮かぶ。

だが、口にはしない。

内心、ニーナは嬉しくて仕方がなかったのだ。

・・・だが、、だ。

幾らフェンが気を遣ってくれたとしても私が『盗賊』なのには変わりないのだ。

全ての人がルチアの様に素直な人間ばかりではない。

きっと素性が知れれば、ルチアにも『盗賊の妹だ』とのレッテルが貼られてしまうだろう。

幾らルチアが理解してくれ、皆に『違う』と説明し、庇ってくれても盗賊という事実は変わらないのだから。

それどころか、関係のない神官としてのルチアの責任を問う者も出て来るだろう。

それだけは・・・絶対に、、駄目だ。

自分を慕ってくれている妹に迷惑は掛けられない。

「ルチア、いい?…私は盗賊なのよ。ルチアの言う義賊だとしても盗賊には変わりないんだよ。」

「ルチア言ったよね?『盗賊なんて居なくなればいい』って。」

「そ、そんな事、、」

姉に、、ニーナに酷い事を言ってしまったかも、と気付いたルチアの表情が曇る。

ルチアが私の事を指して言ったのではないのは言うまでもない。

「ルチアを責めてるんじゃないよ…ただ、それが一般的な考え方、、普通の考え方なのよ。」

「ルチアは何も間違ってなんかないよ、、、」

「何、、何を言ってるんですか?、、お姉様…」

「ルチアは私と違って立派な神官様なんだから、、」

話の流れからルチアも薄々、ニーナが何を言いたいのか気付いてくる。

「お姉様、、一体、何が言いたいの…ですか?」

「だからルチア、私はお姉ちゃんにはんだよ。」

って?・・・もうお姉様は私の!」

「いいや。私はルチアの。」

「何で?・・・何で、そんな事言うの、、お姉様、、、」

「あーっ、もう解らない娘だね!!」

「私は悪い盗賊なんだよ!お宝を狙って、フェンやルチアに近付いたのさ!」

「なのに…フェンは勇者のくせにろくなお宝も持ってない役立たずだし、、」

「ルチアも神官様なら、と期待したのに質素過しっそすぎてお話にならないんだよ!」

「だからね、しても意味が無いって気付いたのさ。」

「だからもう、、ルチア、お前はなんだよ!」

「姉妹ごっこ?・・・用済み?・・・っ・・・そんな・・・酷い、、」

ルチアの目から『 ぽろぽろ 』と涙が流れる。

ルチアの涙に心が痛む。

酷い事を言っているのは解っている、、解っていて言っているのだから。

だが、理解しているのだ。

…私はルチアの傍に居てもマイナスにはなっても決してプラスになる人間ではない事を。

そして、今のルチアは孤独の身ではないのだ。

仮にルチアが頼る者も居る所も無く、天涯孤独の身ならば妹として、ずっと一緒に居てもいい。

だが、ルチアには今は教団の神官の立場も有り、フェンという兄も居るのだ。

私の様に裏の世界に生きなくとも、明るい表の世界に居場所があるのだ。

『 最年少神官様 』で『 勇者の妹 』…それこそルチアに相応しい肩書きだ。

間違っても 『 盗賊の妹 』 になんてさせちゃいけないんだ!

「解ったら行きな!今日の所は 『 妹だった 』 仲に免じて見逃してやるよ!」

「・・・嫌・・・」

「何?・・・痛い目に遭わなきゃ納得出来ないのかい!」

「嫌っ・・・お姉ちゃん・・・」

ニーナを見るルチアの目は神官ではなく、ただの一人の年相応の少女の物だった。

・・・あっ、、ルチアが、、やっと私の事、って、、、

嬉しい・・・けど、気持ちと裏腹に、認める訳にはいかない。

「見逃してやろうと思ったけど、言う事を聞けないんじゃ仕方がない。」

「痛い目に遭わなきゃ解らないなら思い知らせてやるまでだよ!」

ニーナは 『 スラリ 』 と短剣を抜き、ルチアを鋭く睨む。

「ルチア、、覚悟は出来てるんだろうね?」

ごめんね、、ルチア、、早く逃げなさい・・・


だが、予想に反してルチアは怯まない。

「はい!!」、、ハッキリと返事をする。

泣いていた筈のルチアが・・・まだ泣き顔だが、がニーナの前に立ちはだかる。

「私、、痛くてもいいの・・・」

「・・・なに、、を?!」

「・・・痛くてもいいの、、だから、、優しいお姉ちゃんに戻って!」

「まだそんな甘い事を言ってるのかい!お前を人前に出れない様な体にだって出来るんだよ!」

「ビクッ」、、ルチアの身体が震える。

先程の盗賊の一部の男達が自分に向けた欲望の目を思い出したのだろう。

だが、その瞳はニーナを真っ直ぐ見つめ、逸らしたりしなかった。

私はルチアに酷い事を言ってる、、分かっている、、私は非道い人間だ。

・・・なのに、、

…何で逃げないの?…自分が危ないんだよ?…そんなにお姉ちゃんが、、私が大事なの?


「止めておけ、、ルチア様の勝ちだ、、、観念したらどうだ?」

横やりが入る。へたり込んでいた男、キッドだった。

「どうせ傷付けられないんだから降参したらどうだ?」

「そもそもで刃物まで持ち出すのはどうかと思うぞ。」

『 何を適当な事を! 』 ニーナは思う。

この男はニーナとルチアの関係を知らないから簡単に言えるのだ。

・・・このまま私と一緒に居たらルチアが・・・


「・・・ねぇ、ファリス様もそう思いますよね?」

・・・ファリス様?何を言ってるんだ?・・・ニーナは思う。

頭がおかしい男なのか?…ファリスとは、ファリス教団の開祖の女性の名だ。

当然、既にこの世には亡く、神格化した人物のはず。

だが、居ない筈の人物から返事が返る。

「何よー、キッド。姉妹喧嘩に大人が口を出すなんて野暮もいい所よ!」

「しかしファリス様・・・」

キッドの視線の先、、誰も居なかった筈の場所に女らしき姿が在る…いつの間に?

「まあ、確かに刃物沙汰はちょっとやり過ぎだとは思うけど。」

「おっ!・・・お前は?」

ニーナが驚くのも無理が無い。

今のファリスの姿は半透明で明らかに人間ではない存在にしか見えないのだから。

咄嗟にルチアに向けていた短剣をファリスに向けるニーナ。

「『お前は?』って?、、、会ったわよね?、王都で。」

「私はお前なんか・・・」

王都?…何を言ってるんだこの、、女と言って良いのか、、薄く向こう側が透けた様な女は…

王都でなど会った、、いや、見た事など無い・・・こんな幽霊などには。

「あれ?もしかして・・・王都の時は私の姿が見えなかったの?」

「・・・お婆様・・・」 ルチアが声を洩らす。

「失礼だろう!ファリス様に向かって剣を向けるなど!」 キッドも言う。

ファリス、、?、、 男からも同じ名前が出る。

そういえば、王都でフェンが謁見した時に…ルチアがお婆様って、誰も居ない所で独り言を、、


・・・まさか、私だけ見えてなかったの?

『バタンッ』…馬車の中から男が飛び出して来る。

この男は・・・確か、ファリス教団の大司教?

「ファリス様!最近姿もお見せにならず何を!!」

「・・・だから出て来たくなくなるのよ…。」

「お婆様・・・」

また『 ぽろぽろ 』とルチアの涙が溢れる。

「貴女!!・・・なにルチアちゃんを泣かせてるのよ!」

ニーナに向かってファリスは告げる。

聞きたくは無いが、頭の中へ直接聞こえて来る様な声・・・

内容はルチアを泣かせた事に対する批難の言葉だが、なぜか温かい気持ちになる。

「私はファリス。貴女達が言う所の神様よ。そして、ルチアちゃんのお婆ちゃんよ!」

神秘的な話しなのか、現世的な話しなのか良く分からない自己紹介だ。

「私はニーナ、盗賊さ! 立派なルチア様とは住む世界が違うのさ!」

「お姉ちゃん・・・」

「そんな下らない理由でルチアちゃんを泣かせたの?」

「必要な事よ! ルチアは私となんか関係が有っていい人間じゃないんだから!」

「必要?…ルチアに必要なのは貴女よ?…貴女がお姉ちゃんで居続ける事。」

「違う!ルチアに必要なのは、、ちゃんとした兄弟姉妹…家族よ。」

「ちゃんとした?…ちゃんとした家族って何?、誰?」

「それは、、そうよ!、フェンが居るじゃない、ルチアにはフェンが居るわ!」

「ルチアはフェンの妹、、、勇者の妹がお似合いなのよ!」

「お似合い?」

「貴女の言う家族って、『 お似合い 』だからなる物なの?」

「他人が『 お似合いだ 』って言うから家族になるの?」

「そんな事、、、」

「ルチアには、、本人には選ぶ権利が無いとでも?」

『そんな、、ルチアの為には・・・』 ニーナはルチアを見る。

ルチアは真っ直ぐニーナを見つめている。

その目を見れば、どう思っているかなど、一目瞭然だ。

・・・だからこそ・・・駄目だ。

「私が一緒に居る事がルチアにとってマイナスになる事くらい祖母だと言うなら分かる筈よ!」

「そんな事、考えてるの?」

ファリスの呆れ気味の言葉は続く。

「貴女の考える家族はプラスとマイナスでしか判断出来ないの?」

「それは・・・とても悲しい事だわ。」

「貴女の話しだと家族は与えてくれる存在…プラスになる存在じゃなきゃ駄目なのよね?」

「じゃあ、聞くわよ?…貴女にプラスになってくれる家族、、貴女に何かを与えてくれる家族が居たとしましょう…」

「貴女が家族と思える人から見て、、与えられない貴女は家族に見えるのかしら…?」

「人なんだからプラスの面も有れば、マイナスの面が有って当然なのよ。」

「それをお互い、与えて、与えられて…支え合えるからこその家族じゃない?」

「それとも貴女は『 何でも与えてくれる聖人君主 』の家族しか認めないの?」


「私だって・・・」

・・・そんな事は無い!

私だって、、別に特別な家族が欲しい訳じゃない。

・・・信頼出来、支え合える様な家族が欲しいだけなのだ。

「だって私は、、ルチアを、、ルチアの…」

「・・・盗賊の私はルチアの障害にしかならないのよ!!」

とうとう本心を口にしてしまう。

「迷惑にしかならないって?・・・何言ってるの?」

「そんな貴女を大好きで、支えたいと思っている可愛い妹が居て…何が問題?」

「しかも貴女が盗賊だと知った上でルチアは言ってるのよ?」

「それでもまだ、ルチアを認められないの?」

「ルチアも弱い子よ。誰かが守ってあげなきゃなのよ?」

「貴女はさっき、もうルチアを助けたじゃない、、」

「…それとも何? 自分は支えても、ルチアに支えられるのは嫌なの?」

「そんな事、、、」

言われるまでもない。

このままルチアが妹のままで居てくれたら、、、

だが、それはあくまでもルチアに迷惑が掛からなければ、の話しだ。

迷惑を掛けてまで、というのでは、、ただの身勝手でしかない。

そんな者はだろう。


「私は・・・」

結論など出る訳がない。

『望み』と『現実』が矛盾しているのだ…。

「もう!!、、切りが無いわね。」

痺れを切らしたファリスが言う。

「ルチアちゃん!、ニーナお姉ちゃんの事、好き?」

「うん。」 即断するルチア。

「このまま、お姉ちゃんで居て欲しいのよね?」

「うん。」

「だってさ、ほら。可愛い妹が、こう言ってるけど?…お姉ちゃんはどう答えるの?」


ニーナはルチアを見る。

ニーナの話を聞いてもルチアの瞳には一切の戸惑いや迷いは無い。

ニーナは理解する・・・

ニーナが理屈を並べた所で、ルチアのニーナに対する思い、、

お姉ちゃんに対する信頼には何の影響も与えられないのだ。


「私も、、、ルチア、私がお姉ちゃんで本当にいいの?」

「うん。」

「分かったよ。うん、うん。ずっとお姉ちゃんだよ、ルチア。」

「うん。お姉ちゃん。」





ニーナと別れた馬車は街道を進む。

お互いの目的などを話しつつ。

そして、途中で驚く情報が飛び出した。

「そ、それは本当ですか?」

肩書きだけの勇者ではなく、本物の勇者が?!

キッドは驚きの声を上げる。

ルチアから聞いたのだ。

獣王との交渉と同時に、勇者を継承したフェンと獣人の女が獣王の町に身を寄せているとの情報があるので、その真偽の確認して欲しいとの依頼だと言うのだ。

・・・獣王の町になぜ勇者が?

と、言うか、なぜ勇者が国から追われる身になんて・・・

悪い予感がする…その獣王の討伐隊として向かったキャスティが勇者フェンと相対したら?

そもそも何で勇者は獣王の町などに行ったのか?

分からない事だらけだが、もし戦いになってしまったら・・・

身を寄せている、と言うのだから勇者が獣王の側に味方して戦う可能性も有る。

なぜ、キャスティは勇者パーティに入るという目標から逆に逆にと行動してしまっているのか…?

まさか、、実は勇者パーティに入るのが嫌で、ワザと悪い方へと行動しているとしか思えない程だ。

当たり前の様にキャスティには幼少の頃から『将来は勇者パーティに』と教えて来たが…本心は?

キャスティは鍛練は嫌いでは無い、、と思う。

技の修得の為には自分から進んで鍛練していた位なのだから。

そして会得し、使いこなせる様になった時の喜んだ様子、、嘘ではない。

だが、『勇者パーティに』という話しに関しては自信が無い。

なにせ、キャスティに聞いたのは小さい頃の話しなのだ。

『 大きくなったら勇者パーティに入るんだ♪ 』

小さなキャスティは目を輝かせながら言っていた。


だが・・・大きくなってからは?

色々な知識や自分の考えを持った今は?

もしかして『他者の命を奪うのは嫌』とか、『勇者パーティはちょっと…』と思っているかも…

小さい頃の答えは親を喜ばせたくて、の子供ながらの気遣いだったのかもしれないのだから。

キャスティには、もう一度、よく確認する必要が有る…か。

「ファリス教大司教様並びにルチア様。…お願いが御座います!」

大司教は言われ慣れているのか余裕の表情で頷いているが、、ルチアは落ち着かない。

「や、止めて下さい。ルチア様なんて…」

「いいえ。ルチア様はファリス様の御孫様との事…やはりルチア様、と。」

「止めて下さい。私に『様』だなんて…ファリス様の本当の孫はお兄様だけです。」

「本当の孫、、とは?・・・ルチア様のお兄様とは?」

「ファリスお婆様の本当の孫はフェンお兄様、ただ一人です。」

「・・・えっ、、今なんと!!」

「勇者フェンが・・・ファリス様の本当の御孫様?」

「・・・と、いう事は・・・勇者ジン様の実の御孫様という事に、、」

「そうですよ?」

ルチアにすれば『何を当たり前の事で驚いているの?』という程度の話しなのだが、、

・・・馬鹿な、、前魔王討伐以降、勇者の継承は最近まで全く無かったはず。

しかも、継承した勇者も王国が勝手に任命しただけの肩書きだけの勇者だったと聞いたが…

勇者フェン…前勇者、ジン様から正統な継承を…血筋も、鍛練や技の継承までも?

事実なら本物の勇者と呼べるだけの実力を持っている事だろう。

いくら我が娘と言え、まさか、面と向かって本当の勇者に挑んだりしてないだろうな?

手合わせを求める、位なら許されるだろうが、討伐隊として敵対している姿が頭に浮かぶ…

キャスティは素直に育ってくれた。

正直、男の子ならもっと…と思ったりもしたが、素質も自分以上に有る。

そのせいか、男勝りな性格に育ってしまったのは少し反省しているのだが…

「大司教様、ルチア様、自分も獣王の治める地へ向かう所だったのです。」

「迷惑はお掛けしません。自分もお二方と同行させて欲しいのです。」

「あら、丁度いいじゃない!・・・護衛も必要だし、馬車の御者も必要なのよね?」

ファリスお婆様は賛成の様だけど、、、

「はい。御者は、このキッドにお任せ下さい!」

勝手にファリスとキッドだけで話が決まりそうな流れだ。

「でも、お婆様・・・私・・・」

ルチアはニーナを『チラリ』と見る。

その目は『お姉ちゃんも一緒に来て!!』と訴えている。

とは言え、ニーナにも都合が有るのだ。

確かに一人で仕事をする時も有る。

…が、それは、ちゃんと下準備をして、の話しなのだ。

当然、仲間全員で揃ってぞろぞろとファリス教団の馬車に着いては行けない。

そんな光景は、周りからは間違いなく『盗賊団に拉致されたファリス教団の馬車』にしか見えないのだから。

まあ、暗に言えば、野放しにした仲間達が何かしでかさないか心配なのが大部分なのだ。

その為、いつもはニーナが一人で出掛けている間のスケジュールを目一杯用意する。

そして、、『怠けたら承知しないよ!!』と厳命して出掛けるのだ。

「ルチア、、悪いけど、お姉ちゃんは一緒に行けないよ。」

途端に寂しく、ガッカリした表情になるルチア。

「ルチア!、ルチアは私の妹なんだよ?・・・なんだい、その時化しけつらは?」

「私の妹なら、一人で御使おつかいくらい出来て当たり前だよ!」

言われても寂しそうなルチア。

「分かった。出来ないんだね?・・・じゃあルチアは私の妹失格だね、、」

『ビクッ』と身体を震わせながらルチアは言う。

「で、、出来るもん!」

「ん。じゃあ神官のお仕事、頑張って来れるんだね?」

「、、、うん。」

寂しそうだが『妹失格』とまで言われてはルチアも嫌とは言えない。

「あら、あら。ニーナちゃんは、もうすっかり『お姉ちゃん』ね♪」

「ファリス!、、様。、、茶化さないで下さい。」

「えーっ!いいじゃない。ルチアの『お姉ちゃん』になったのなら…」

「・・・なったのなら、って?」

「貴女も今日から私の孫になったって事よ♪」

「そんな・・・私、、盗賊ですよ?」

「いいのよ。但し、今後ルチアちゃんの事を悲しませる様な事が有れば、、、」

「・・・様な事が有れば?」

「フフフ・・・」

「な、何ですか?何をするつもりなんですか!」

「ナイショよ♪、、そうね、、、とでも言っておきましょうか。」

「あーっ!今、さらーっと怖い事言いましたよね?、、言ったよね?」

「これぞ 『 神のみぞ知る 』 、よ♪」

「上手く言ったつもりなの?!ねぇ、そうなの?全然笑えないんだけど!」

「お婆様とお姉ちゃん・・・仲良くて嬉しい♪」

『 どこがよっ!!! 』

口には出さずにニーナはルチアに突っ込みを入れる。

だが、ルチアの笑顔にファリスもニーナも、ついつい苦笑いになる。

だが嫌な気はしない・・・。

世の中には全く嫌な気がしない苦笑いも在るのだな、とニーナはこの時、初めて知ったのだった。


そんな微笑ましい光景だが、、一人、気が気ではない目で見つめる者が居た。

「えーっと、、あの・・・宜しいでしょうか?急いで欲しいのですが・・・」

堪らず、キッドが言う。

キッドも娘の命が危ないかもしれない状況なのだ。

何時までも話に取り残されている訳には行かない。

「もう!・・・昔も今も空気が読めないわね、キッド。」

「読めなくてもいいので急いで欲しいのです!」

「はい、はーい。解ってるわよ。出発するわよ!…ルチア、馬車に乗って。」

「うん。じゃ、行って来るね♪お姉ちゃん!」

「行って来な。ルチア。」



事実、キッドの予想は正しかったのだ。

今、正にソラとキャスティ率いる冒険者集団が獣王の町へ進軍中で、いよいよ本拠地への侵攻か、という所まで来ていたのだった。








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