桜木恵子の殺人美学

三隈 令

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桜木恵子の殺人美学

桜木恵子は考える その2

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 教室に着くと他人の机を大股で掻き分けながら自分の席へと向かった。

「……雪崩れてる」

 突っ立ったまま視線を落とし、床に散乱した教科書や化粧道具を眺める。

 ぐちゃぐちゃに散らかったそれらの天辺にはサバイバルナイフ──これは自然災害だな。

 はぁと溜息を漏らすと、朝、美咲が言っていた事をふと思い出した。

『溜息つくと幸せが逃げちゃうんだよ?』

 彼女の言った事はあながち間違っていないかも知れない。今日の私は、溜息の分だけ凶を呼び寄せている、そんな気がする。

「幸せ、ねぇ」

 私にとっての幸せは、今と変わらない日常。毎朝ぎりぎりに登校して、欠伸が出そうな授業を真面目に受けて、休み時間に友達と駄弁って、放課後にショッピングとかカラオケに何人かで遊びに行く事。

 それから、雨が降る夜に首を切る。鮮やかに弾け飛ぶ血飛沫を見る。剥き出しになった骨を見る。肉と肉の繊維を見る。ぐにゃりと歪んだアシンメトリーな断面を見る。ぶじゅっと噴き出す様を見る。見る。みる。み、る。み……


 がたん


 ふらふらと揺れながら呆けていると、脚が後ろの机に当たった。意識がトリップしていた私は、我に返ると床に落ちてる物をいそいそと片付け始めた。

「玲奈ちゃん待たせてるんだった。急がなきゃ──」


 がたん


 屈んだ勢いで今度は臀部でんぶが机に当たった。

「もう、邪魔だなぁ」

 そう言いながら振り返ると、何かがキラリと反射して光って見えた。


 ?


 近付いて見てみると、そこにはカッターシャツのボタンが落ちていた。指で摘んで持ち上げると、それをまじまじと観察する。どことなく縁が赤い。

「誰のだろ」

 爪で赤くなった部分を掻くと、ペリペリと剥がれた。

「…………」

 しきりに辺りをきょろきょろと見渡すと、今度はすくっと立ち上がって同じ動作をしてみた。

 しばらく首を振っていた私の目が、高峰志穂の机の上で止まる。ずいっと触れそうな程に顔を寄せると鼻をひくつかせた。


 くん、くん べろん れろ、れろ


 うん。間違いない。これは──血の味だ。

 先刻、教室に着く手前の渡り廊下で、バタバタと階段を駆け下りる音がどことなく響いていたのを思い出す。もしやと思っていたけれど──

 じゅるりと口元から垂れた唾液を腕で拭う。

 …………

 私は裾の部分を握り、机に接触させるとそのまま腕を思い切り前後に動かした。

 …………

 なんとなく、分かった。

 おもむろに鞄を手に取ると、ゆっくりとしゃがみ込み、サバイバルナイフを無造作に鞄の中へと突っ込んだ。教科書や化粧道具も同様にすると、鞄のチャックを最後まで閉じ、スッと立ち上がった。

 私は拾ったカッターシャツのボタンを左ポケットに突っ込むと、教室の鍵を閉めてその場を後にした。

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