【完結】幽霊令嬢は追放先で聖地を創り、隣国の皇太子に愛される〜私を捨てた祖国はもう手遅れです〜

遠野エン

文字の大きさ
10 / 34

10.天才魔術師の片鱗

しおりを挟む
――――グランフェルドに来てから一週間。
私はロイエルの畑仕事の手伝いをしていた。

ロイエルは素っ気ない口調とは裏腹に乏しい食料を分けてくれたり、夜の寒さを凌ぐための分厚い毛布を用意してくれたりと、日中の畑仕事で疲れているはずなのに献身的に私の世話をしてくれた。

小屋で一休みしていると、彼が窓の外を見て照れくさそうに口を開いた。

「……改めて見てもすごいな。フィーナが来てからこの畑だけはまるで別の世界だ」
「ふふ、そうね。でもすごいのはあなたよ、ロイエル」
「? 俺は何も……」
「いいえ」

私は力強く首を横に振った。

「あなたが諦めずにあの子たちを守ろうとしていたから。その想いが通じたの。それできっと私の力にも応えてくれたんだわ」

私の言葉にロイエルはバツが悪そうにそっぽを向いて、自分の首筋をガリガリと掻いた。

「……君は素直だな」
「ねえ、ロイエル」
「なんだ?」
「ロイエルはどうしてこの瘴気が立ち込める土地で平気でいられるの?」

私の問いに彼は遠くの空を見つめ少しだけ懐かしむような、それでいて苦々しいような複雑な表情を浮かべた。

「……亡くなった親父がな、瘴気の研究をしてたんだ」
「お父様が?」
「ああ。異端扱いされてた変わり者の魔学者でな。このグランフェルドの瘴気の正体を突き止めて、浄化する方法を見つけるんだって、たった一人でこの土地に籠ってた」

淡々とした声とは裏腹に、瞳の奥には影が落ちているようだった。

「俺は物心ついた頃からその研究に付き合わされてた。瘴気への耐性を上げるための薬草だの魔道具だのを、来る日も来る日も試されてな。おかげで俺はこの土地で息をするのが当たり前になった。まあ、一種の実験台みたいなもんだったのさ」
「そうだったのね……。この土地を豊かな緑で満たすことはあなたのお父様の夢でもあったのね」

ロイエルは立ち上がり小屋の隅に積まれた木箱から、埃をかぶった数冊の古い本を取り出した。

「これを読んでみないか」
「これは……?」
「親父の遺品だ。瘴気とか古代魔法とかについての考察が書かれてる。俺は魔法には疎くてチンプンカンプンだったが……君なら何か分かるかもしれねえ」

渡された書物は革の表紙がひび割れ、ページは黄ばんで脆くなっていたものの、そこに記された古代語で書かれた複雑な図形や数式を見た瞬間、私の胸は高鳴った。

『古代魔法における魔力循環と土地浄化論』
『瘴気の根源と属性魔法による中和の可能性』

「ありがとう、ロイエル! すごいわ、こんな貴重なものが……!」
「君の力を見てたら、もしかしたらって希望が湧いちまったんだよ」


◇◇◇


その日から私の世界は再び書物の中にあった。
かつてのように現実から逃避するための読書ではない。
未来を切り拓くための希望に満ちた探求。

ロイエルが畑仕事に出ている間、むさぼるようにページをめくった。
夜はランプの灯りを頼りに、インクの掠れた古代文字を一つ一つ指でなぞった。

ロイエルはそんな彼女に呆れつつもそばで見守った。
「おい、また何も食ってねえのか。倒れても知らねえぞ」
ぶっきらぼうに言いながらも、彼が作った温かいスープの入った木の器をそっと机に置くのが常になった。

ある晩、ロイエルが小屋に入るとフィーナは山積みの資料に囲まれたまま、机に突っ伏して眠っていた。穏やかな寝息を立てる彼女の頬にはインクの染みが小さくついていた。

「……ったく、無茶しやがって」

ロイエルは小さくため息をつくと彼女を起こさないよう、足音を忍ばせてそばに寄った。散らばった資料をそっと避け、自分の毛布を彼女の肩に優しくかける。

その時だった。
「……ロイエル……無理しないでね……」

夢を見ているのかフィーナが幸せそうに微笑み、小さな寝言を漏らした。

「……ばか。こっちのセリフだ」

小さな声でそう呟き、寝床の馬車の荷台に戻った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。

桜城恋詠
ファンタジー
 聖女見習いのロルティ(6)は、五月雨瑠衣としての前世の記憶を思い出す。  異世界から召喚された聖女が、自身を虐げてきた前世の姉だと気づいたからだ。  彼女は神官に聖女は2人もいらないと教会から追放。  迷いの森に捨てられるが――そこで重傷のアンゴラウサギと生き別れた実父に出会う。 「絶対、誰にも渡さない」 「君を深く愛している」 「あなたは私の、最愛の娘よ」  公爵家の娘になった幼子は腹違いの兄と血の繋がった父と母、2匹のもふもふにたくさんの愛を注がれて暮らす。  そんな中、養父や前世の姉から命を奪われそうになって……?  命乞いをしたって、もう遅い。  あなたたちは絶対に、許さないんだから! ☆ ☆ ☆ ★ベリーズカフェ(別タイトル)・小説家になろう(同タイトル)掲載した作品を加筆修正したものになります。 こちらはトゥルーエンドとなり、内容が異なります。 ※9/28 誤字修正

崖からポイ捨てされた不運令嬢ですが、銀髪イケメン竜王に『最愛の伴侶』としてスカウトされました!

有賀冬馬
恋愛
不作も天災も、全部わたしのせい!? 「不運な女」と虐げられ、生贄として崖から捨てられたわたし、ミラ。 でも、落ちた先で待っていたのは、まぶしいほど綺麗な銀髪の竜王・アルベルト様でした! 「君がいたから、この国は守られていたんだよ」 えっ、わたしって実はすごい聖女だったの!? 竜宮城で贅沢三昧&溺愛生活スタート! そんな中、わたしを捨てて大ピンチになった元婚約者が「ミラ、戻ってきて!」と泣きついてきて……。

今度生まれ変わることがあれば・・・全て忘れて幸せになりたい。・・・なんて思うか!!

れもんぴーる
ファンタジー
冤罪をかけられ、家族にも婚約者にも裏切られたリュカ。 父に送り込まれた刺客に殺されてしまうが、なんと自分を陥れた兄と裏切った婚約者の一人息子として生まれ変わってしまう。5歳になり、前世の記憶を取り戻し自暴自棄になるノエルだったが、一人一人に復讐していくことを決めた。 メイドしてはまだまだなメイドちゃんがそんな悲しみを背負ったノエルの心を支えてくれます。 復讐物を書きたかったのですが、生ぬるかったかもしれません。色々突っ込みどころはありますが、おおらかな気持ちで読んでくださると嬉しいです(*´▽`*) *なろうにも投稿しています

地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。

黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!

追放即死と思ったら転生して最強薬師、元家族に天罰を

タマ マコト
ファンタジー
名門薬師一族に生まれたエリシアは、才能なしと蔑まれ、家名を守るために追放される。 だがそれは建前で、彼女の異質な才能を恐れた家族による処刑だった。 雨の夜、毒を盛られ十七歳で命を落とした彼女は、同じ世界の片隅で赤子として転生する。 血の繋がらない治療師たちに拾われ、前世の記憶と復讐心を胸に抱いたまま、 “最強薬師”としての二度目の人生が静かに始まる。

処理中です...