【完結】婚約破棄したのに「愛してる」なんて囁かないで

遠野エン

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終幕の結婚式

6

「わたしは長年スフレ家に仕えながら、恩を仇で返すような真似を……。お嬢様がアラン様にきっぱりと断りを入れたのを、部屋の前を偶然通りかかった際に、確かにこの耳で聞きました。それなのに、金に目が眩みルネアの甘い言葉に乗り、あのような酷い嘘を……。申し訳ございません! リリーナお嬢様、本当に、本当に申し訳ございません……!」

エドモンは嗚咽を漏らしながら、その場に泣き崩れた。彼の後悔と自責の念が場の空気を一層重くするも、その言葉の裏にかろうじて残された良心が感じられた。彼もまたルネアの巧みな罠に嵌められた被害者の一人だったのかもしれない。胸には複雑な感情がこみ上げる。

ルネアはエドモンの告白を聞き、手で顔を覆った。指の隙間から覗く目は怨みの色に染まっている。

「こ……この裏切り者め! でたらめを言うな! あんたが勝手に言い出したことじゃないの!」

「往生際が悪い、ルネア!」

シュロトがエドモンの告白を受け、会場に向けはっきりと断言する。ルネアは今にも倒れそうな様子だったが、必死にその場で踏ん張っている。

「ルネア、あなたのご家族や親戚の方々も今この会場にいらしている。彼らについても念入りに調査を進めてきました。そして、その結果……彼らもまた反貴族主義の組織に深く関与していることが明るみに出たのです」

「う、嘘……っ! わたしのお父様やお母様を巻き込まないで! あの人たちはこの国に忠誠を誓っているわ!」

「ええ、表向きはね。でも裏では別の顔を使い分けていた。事実、あなた方フォード家が近年、幾つもの貴族家と結婚や縁談話を進めるたびに、呪われたかのようにその家の財産が激減し、あるいは取り返しのつかないほどのスキャンダルに巻き込まれている――あなたの策略と親族の協力でどれだけの貴族の家が破滅へと追いやられたことか……」

「……!」

「わたしが今回、あなたとの縁談を表面上受け入れ、派手にまわりにアピールし、式の開催を急いだのは――あなたとあなた方の一味を一網打尽にするためです。ヴァロア侯爵家主催の結婚式には大勢の貴族や関係者が集う。あなた方が“収穫”を狙って飛びつくに違いない……そう確信していました」

シュロトの言葉が響くたび、ルネアは少しずつ顔を逸らし、逃げ場を探すように視線をさまよわせている。まさかこれほど周到に水面下で調べられていたとは想定外なのだろう。

「皆さんのお手を煩わせて申し訳ありませんが、容疑を認めようと認めまいと、わたしの手元にはすでに十分な証拠があります。この場にはすでに詰めの捜査を行う衛兵も待機しています。ルネアの家族、親戚の皆さんも悪あがきはせずどうか観念してください」

シュロトが一度手を打つと、合図を待っていたかのように大勢の衛兵が入り口からなだれ込んできた。彼らは一斉にフォード家の関係者と思しき人々を取り囲む。悲鳴にも似た音が大聖堂の中にこだまする。

「やめろ、離せ! 俺は何も……っ!」

ルネアの父親らしき男が怒号を上げるのが聞こえる。衛兵たちは一切取り合うことなく、抵抗する者たちを粛々と拘束していく。白いドレス姿のルネアも衛兵に腕を掴まれ、必死に抵抗を試みながら叫んだ。

「離しなさい、この無礼者! わたしたちは何も間違ってはいない! 腐りきった貴族社会を、そして特権にあぐらをかいて民から搾取するだけのあなたたちを正そうとしただけよ! あなたたち貴族こそ、この国を蝕む寄生虫じゃないの!」

ルネアは憎悪に満ちた目でシュロトを睨みつける。

「シュロト、あなたもその一人よ! その権力も富もどれだけの民の犠牲の上に成り立っていると思っているの! わたしたちはこの歪んだ世界に正義の鉄槌を下そうとしただけ! それが何の罪になるというの!」

ルネアの激しい言葉にもシュロトは眉一つ動かさず、冷静な声で応じた。

「ルネア。あなたの言う『貴族の腐敗』と、あなたたちが行ってきた策略による破滅行為は全く次元が異なる。君たちの行いは正義でもなければ革命でもない。ただの身勝手な破壊と私怨に満ちた犯罪だ」

シュロトは一歩前に進み、ルネアを真っ直ぐに見据える。

「確かに貴族の中にも責務を忘れ、私利私欲に走る者がいないとは言わない。それでも、国と民のために粉骨砕身働く貴族もいることを忘れないでほしい。真の腐敗があるならば、それは法と秩序によって正されるべきだ」

シュロトの声は静かだが、大聖堂の隅々まで響き渡った。

「あなたたちが本当に民を思うなら、その手段は明らかに間違っている。他者を貶め、その財産を奪い、不幸のどん底に突き落とすことがどうして『世直し』になる? 他者の犠牲の上に成り立つ正義など偽善以外の何物でもない。あなたたちはただ、自らの欲望のために『反貴族』という都合の良い大義名分を掲げたに過ぎない」

シュロトの言葉はルネアの最後の抵抗を打ち砕くには十分だった。彼女は顔を歪め、何かを言い返そうとするも、言葉にならない呻きだけが漏れた。ティアラが床を転がり、宝石が散弾のように跳ねる。ルネアはもはやなすすべもなく、その場に崩れ落ちそうになるのを衛兵に支えられた。

参列者たちはただただ茫然と状況を見守るしかなかった。いくら噂に聞いていたとはいえ、まさか結婚式の場でこれほど壮絶な事態が起こるなど、誰も想像していなかったのだろう。わたしにとってもあまりに衝撃的な展開。いくつなる悲鳴と喚き声が堂内にこだまし、衛兵の怒号と重なって地獄絵のようだった。
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