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1.偽りの断罪と追放宣告
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ヴェリタス王宮の夜会は目も眩むほどの輝きで満ちていた。天井から吊るされた巨大なシャンデリアが放つ無数の光は、着飾った貴族たちの宝石に反射してきらめき、優雅なワルツの調べが人々の楽しげな喧騒に溶け込んでいる。
それがふと静寂に変わった。人々の視線が一斉にホールの中央へと注がれる。そこに立っていたのは私、伯爵令嬢ルティア・ヴェルフェンの婚約者である王太子ヴォルフ殿下。そして、その腕に守られるように寄り添う聖女として名高い侯爵令嬢エリーゼの姿。
「皆、静粛に!ルティア! お前との婚約を今この時をもって破棄する!」
突然の宣告。周囲の貴族たちの息を飲む気配が肌を刺す。あたりは静まり返り、誰もが私の反応を待っていた。悲しみにくれるのか、それとも怒りに身を震わせるのかと。
「謹んでお受けいたします。では」
間髪入れずにそう告げると、すっと背を伸ばしその場から立ち去ろうした。
「ま、待て!」
背後から響いたのはヴォルフの焦りを隠せない声。彼の筋書きでは泣き叫び、弁解を始めるはずだったのだろう。私のあっさりした態度に彼のほうが面食らったようだった。
私はゆっくりと振り返り、小さく首を傾げる。
「……何かまだ御用でございますか、殿下。婚約はすでに破棄されたものと認識しておりますが」
「ぐっ……まだ話は終わっていない!」
冷静な態度に苛立ったのかヴォルフは声を荒らげた。
「なぜ自分が断罪されるのか、その理由を聞こうともしないのか!」
まるでか弱い雛鳥を守るようにエリーゼを背後にかばい、彼は用意していたのであろう糾弾の言葉を叩きつけた。
「お前はその邪悪な嫉妬心から、聖女であるエリーゼに数々の嫌がらせを行った! 夜ごと悪夢にうなされるよう呪いをかけ、彼女のドレスを汚し、命さえ狙おうとした! その罪、万死に値する!」
隣でエリーゼが小さく身を震わせ、濡れた瞳で私を見つめる。身に覚えのない罪状の数々に内心ため息をついた。
「証拠は? 私がそのようなことをしたという、客観的な事実を示すものを拝見したいのですが」
「証拠だと? エリーゼの涙こそが証拠だ!」
論理が通じない相手だと改めて確信する。彼らの頭の中ではもう物語が完成しているのだ。私が悪役令嬢でエリーゼが悲劇のヒロインという陳腐な筋書きの。
ヴォルフは国王の名が刻まれた紙を広げ、宣告を続けた。
「よって、ルティアに追放を命じる! 行き先はトライオン領・旧商業都市アトランシア。お前は市長としてあの廃墟の街を統治せよ! なお、王都への帰還、および連絡は一切禁ずる!」
アトランシア。その名に周囲から憐れむような囁きが漏れた。かつては大陸の物流を担い栄華を極めたが、今ではすっかり寂れ、廃墟と化した忘れられた街。あまりの荒廃ぶりに市長の座は長年空席のままで、犯罪者の巣窟と噂される事実上の流刑地。
それでも胸に宿ったのは絶望ではなかった。――――むしろ好奇心。かつての経営コンサルタントとしての血が騒ぎだす。私はゆっくりと顔を上げ、ヴォルフとその隣で勝利の笑みを隠すエリーゼを真っ直ぐに見据えた。
「すべて承知いたしました。それでしたら今度こそ失礼いたします」
凛とした声でそう告げると、私は誰に頭を下げるでもなく、毅然として背筋を伸ばし、たった一人きらびやかな夜会を後にした。
偽りの断罪と理不尽な追放。構わない。
私、ルティア・ヴェルフェンはこんなことで終わりはしない。廃墟の街だろうと、流刑地だろうと、自分自身で活路を切り開いてみせる。
ここからが始まりなのだから。
それがふと静寂に変わった。人々の視線が一斉にホールの中央へと注がれる。そこに立っていたのは私、伯爵令嬢ルティア・ヴェルフェンの婚約者である王太子ヴォルフ殿下。そして、その腕に守られるように寄り添う聖女として名高い侯爵令嬢エリーゼの姿。
「皆、静粛に!ルティア! お前との婚約を今この時をもって破棄する!」
突然の宣告。周囲の貴族たちの息を飲む気配が肌を刺す。あたりは静まり返り、誰もが私の反応を待っていた。悲しみにくれるのか、それとも怒りに身を震わせるのかと。
「謹んでお受けいたします。では」
間髪入れずにそう告げると、すっと背を伸ばしその場から立ち去ろうした。
「ま、待て!」
背後から響いたのはヴォルフの焦りを隠せない声。彼の筋書きでは泣き叫び、弁解を始めるはずだったのだろう。私のあっさりした態度に彼のほうが面食らったようだった。
私はゆっくりと振り返り、小さく首を傾げる。
「……何かまだ御用でございますか、殿下。婚約はすでに破棄されたものと認識しておりますが」
「ぐっ……まだ話は終わっていない!」
冷静な態度に苛立ったのかヴォルフは声を荒らげた。
「なぜ自分が断罪されるのか、その理由を聞こうともしないのか!」
まるでか弱い雛鳥を守るようにエリーゼを背後にかばい、彼は用意していたのであろう糾弾の言葉を叩きつけた。
「お前はその邪悪な嫉妬心から、聖女であるエリーゼに数々の嫌がらせを行った! 夜ごと悪夢にうなされるよう呪いをかけ、彼女のドレスを汚し、命さえ狙おうとした! その罪、万死に値する!」
隣でエリーゼが小さく身を震わせ、濡れた瞳で私を見つめる。身に覚えのない罪状の数々に内心ため息をついた。
「証拠は? 私がそのようなことをしたという、客観的な事実を示すものを拝見したいのですが」
「証拠だと? エリーゼの涙こそが証拠だ!」
論理が通じない相手だと改めて確信する。彼らの頭の中ではもう物語が完成しているのだ。私が悪役令嬢でエリーゼが悲劇のヒロインという陳腐な筋書きの。
ヴォルフは国王の名が刻まれた紙を広げ、宣告を続けた。
「よって、ルティアに追放を命じる! 行き先はトライオン領・旧商業都市アトランシア。お前は市長としてあの廃墟の街を統治せよ! なお、王都への帰還、および連絡は一切禁ずる!」
アトランシア。その名に周囲から憐れむような囁きが漏れた。かつては大陸の物流を担い栄華を極めたが、今ではすっかり寂れ、廃墟と化した忘れられた街。あまりの荒廃ぶりに市長の座は長年空席のままで、犯罪者の巣窟と噂される事実上の流刑地。
それでも胸に宿ったのは絶望ではなかった。――――むしろ好奇心。かつての経営コンサルタントとしての血が騒ぎだす。私はゆっくりと顔を上げ、ヴォルフとその隣で勝利の笑みを隠すエリーゼを真っ直ぐに見据えた。
「すべて承知いたしました。それでしたら今度こそ失礼いたします」
凛とした声でそう告げると、私は誰に頭を下げるでもなく、毅然として背筋を伸ばし、たった一人きらびやかな夜会を後にした。
偽りの断罪と理不尽な追放。構わない。
私、ルティア・ヴェルフェンはこんなことで終わりはしない。廃墟の街だろうと、流刑地だろうと、自分自身で活路を切り開いてみせる。
ここからが始まりなのだから。
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