まじょかつ!

如月ゆっけ

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3話

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「よーし、準備できたよ」
「それじゃ出発だ!」
 私は箒にまたがり、ルルモンは肩に乗る。地面を思いっきり蹴って空を飛ぶ。箒はふわりと浮かび上がり、たちまち高く上っていく。
「いえーい!慣れるとなかなか楽しいものだね」
「萌香、分かっているかい?これも魔法の訓練なんだよ?」
「分かってるけど、具体的に何すればいいの?」
「光の泉というものをだね――」
「あ、あんなところに子供がいる!」
 小学生くらいの男の子がいた。泣いている。
「どうしたの?」
「僕、迷子になって帰り道が分からないんだ……」
「よしよし、もう泣かなくていいからね」
 杖をひとふり。道がキラキラ光る不思議なレンガの道に変わっていった。
「すごい……!」
「お姉ちゃんと一緒に帰ろうか」
「うん!」
 こうして男の子を無事家まで送り届けたのだった。
「萌香」
「なぁに?」
「君は魔女活動を人助けだと勘違いしてないか?」
「え?違うの?」
「当たり前だよ。本来は光の泉を破壊することさ」
「光の……泉?」
「あぁ。世界中には光の泉というものが散らばっている。それは魔力を抑えつける封印なんだ。魔力の増幅を防ぐ役割もある。だからそれを見つけて破壊するんだ」
「破壊したら……どうなるの?」
「抑えつけられていた魔力があふれ出して、破壊した者の魔力を増幅させてくれる。だからこれは大魔女になるには
必須のことなんだ。ほら、あれだよ」
 ルルモンが指差した先で、地面がキラキラと光っていた。
「これを破壊するんだね」
「そうそう。魔法でバーンと思いっきりやっちゃってくれ」
 杖に力をこめると、杖の先が光り始めた。
「えいっ!!」
 すると、パリンとガラスの割れる音がして、地面の輝きがなくなり、中から黒いドロドロしたものがふわふわと空へと浮かんでいった。
「これで魔族の力がまた戻った……」
「ん、何か言った?」
「いや、なんでもないよ」
 それから私は、箒に乗って片っ端から光の泉を壊していった。キラキラ光る地面を探して、魔法を撃って破壊するだけ。簡単な作業だ。こんな簡単に大魔女になれるものなのか?と少し不思議にも思った。
 そんなときだった。一人の少女に声をかけられた。
「あの……そこの方」
「え?私ですか?」
「ええ。あなた……魔女ですね?」
 立っていたのは三つ編みをした可憐な少女だった。私より年下に見える。
「ま、魔女だなんてそんな――」
「使い魔もいるんですね。黒猫の使い魔、とっても可愛らしいですね」
 なんだ、この子は……?魔女集会では見かけなかったが、この辺にも魔女がいたなんて。
「私はほら、白いカラスなんです。うふふ、珍しいですよね」
「すごい……綺麗ですね」
「もし良ければ、一緒に光の泉を探しませんか?私も光の泉探しに没頭してたところですので」
「え、あぁ、いいですよ」
 こうして二人で光の泉を探すことになった。少女の名は白咲のえる。いつも休日になるとこうして光の泉探しに来ているらしい。彼女も大魔女になるのが夢だそうだ。
「今日は良いですよね~ぽかぽかしてて。絶好の泉探し日和ですよ~」
「そうですね~」
 それからひとしきり光の泉を破壊した頃だった。
「あ、あの!よかったら一緒にこれからカフェに行きませんか?」
「カフェ?」
「私の行きつけの場所があるんです。そこでお話しませんか?」
「うん、行こう」
 こうして私達はのえるのオススメの店に行くことになった。和やかな雰囲気のおしゃれなカフェだった。
「ロイヤルミルクティーとシフォンケーキで」
「私もそれで」
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「はい」
 のえるは嬉しそうに足をぶらぶらさせている。
「今日はかなり壊せましたね!」
「そうだね~なんかちょっと疲れちゃったよ」
「そういえば……萌香さんは何の願い事をして魔女になったんですか?」
「最初はね、無かったんだけどね……今はちょっと違うんだ。今は……私、お母さんと仲直りしたいって思ってる」
「お母さんと喧嘩しちゃったんですか?」
「ううん。私の小さい頃にね、両親が離婚して、それからお母さんはお仕事とか遊びで家にいないことが多くなったの。家事もしてくれなくなった。私を叩いたり蹴ったりタバコの火を押しつける日もあった」
「え……」
「きっと、私が良い子じゃないから。お母さんの思い通りの子にならなかったから。でも、魔法さえあれば、昔の優しいお母さんに戻ってくれる。それに――」
 私は運ばれてきたロイヤルミルクティーに口をつけた。
「私みたいな思いをする子が減ればいいなって思うの」
「萌香さん……!」
 ルルモンが口を挟む。
「知らなかったよ。願いが変わってたなんてね。まぁ僕としては強く願ってくれれば、その分魔力も増幅するから願ったり叶ったりなんだけど」
「でも、今は楽しいよ。こうして魔法が使えて、仲間も増えて、居場所もできて。」
「よかったです……」
 そんな時だった。スマホが突然鳴った。百合香先輩だった。
「あ、ごめんね、ちょっと席外すね」
「どうぞどうぞ」
 私はソファから立ち上がった。
「もしもし?百合香先輩?」
「良かった~出てくれて。今日、緊急の魔女集会があるらしいの。」
「そうなんですね。一緒に行きません?」
「もちろんいいよ!一緒に行こ!」
「あと、今日知りあった魔女の子がいるんですけど、その子も一緒でいいですか?」
「大歓迎だよ!じゃ、夕方にね」
「はーい」
 スマホを切って、席に戻った。
「のえるちゃん、今日緊急魔女集会あるって」
「そうなんですか!緊急って、一体何があったんでしょう……?」
「のえるちゃんも一緒に行こう?」
「はい!」
 
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