星空切符

YDK

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星空切符

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ーーガタン、ゴトン

 規則的な音が徐々に大きくなり、ケトルが沸騰したような警笛が鳴り響く

 席に着き、車窓の下の固定式テーブルに肘をたて、頰杖をついて外を眺めた体制でハッとした。

「俺……いつの間に“電車?”に乗ったんだ」

 確か深夜、家に居たくなくて家族が寝静まった後、明けの明星を見に、外に出かけた筈だ。
 丘に行けば静かだし、良く見えるかと思い、ふらふらと一人で出掛けた。
 もちろん、駅になど向かっていない、今、何処を走っているのだ?
 外を確認するため窓を縁に手を掛け様とした。

「お客様、窓を開けてはなりません!お止めください」

 後ろに切羽詰まった声が聞こえ、振り返ると子供ぐらいの背丈で、車掌の格好した男が、いつの間にか立っていた。

「この度、当列車“銀河鉄道”をご利用頂き、誠にありがとうございます。今現在、大気圏を出て、宇宙内を走っております、窓の開閉はとても危険ですのでお止めください。」
「銀河鉄道?宇宙内?」

 何を言っているんだ?窓の外を覗くとそこには巨大な月が横に通りすぎ、下を覗くと線路があるが地面が無かった。

「嘘だろ」
「いやはや、眠っていらっしゃったのですね、降りる際にはお気をつけ下さい、それでは切符を拝見をいたします。」
「き、切符?」

 車掌さんが右手を差したし切符を要求され、思わず慌てる
 何故か列車に乗っていたのだ、切符なんて持っていない。
 どうしよう、正直に言ってしまおうか、だが無銭乗車で捕まってしまう、捕まると、どうなってしまうのだ。

「お客様」

 車掌さんは自分の左胸のポケットへと指を指した。
 つられるように自分の胸のポケットをみたら小さな長方形の紙を見つけ、取り出す。

「拝見いたしました、それでは良い旅を」
 車掌さんは、帽子を外し、頭をさげ、また被り、次の車両へと向かっていく。

「待ってください、この列車は、何処に……」

 言い終わる前に、既に出てしまった。
 窓にへばりつき、ある星を探す

「あった、もうあんな遠くに」

 地球が既にビー玉サイズまで縮んでいき、もう帰れないと悟った。

 ※※※

 もう、何十分、何時間乗っていたのだろうか?
 規則的な音と共に揺られ、列車はまだ走り続けていた。
 最初は慌てたが、きっと夢だ、そうち違いない。
 あんな家には帰りたく無かったし、遠くにみた星空がこんな至近距離で眺めれるなんて、間近で見る星空も幻想的でキレイだ。
 段々、心に余裕が出来、スマホを取り出し、写真を撮る

「目が覚めたら、無かった事になるのかな」

 それは、それで、とても淋しく感じた。
 前の車両にドアが開き、誰かが入ってくる。
 高校生位のお兄さんが此方へと歩き、近付いてきて、自然と向かい側の、緑色の革が張った腰掛けへと座ると
 思わず顔をしかめた。

「お兄さん、何でここに座るの?他にも席があるのに」
「お兄さん? おいおい失礼だな、僕は、そんなに老けていないよ、それに君と同い年じゃないのか? そんなに離れているようには見えないんだけど?」
「え?」

 闇色の外に、中の天井にぶら下がるランプの淡い光に反射し、窓ガラスに映った自分の姿を確認して驚いた、高校生位の姿になっている。

 夢って何でもアリなんだな

「で、君ってカムパネルラ?」
「は?それだと、俺、川に落ちて死んでるんだけど、ならお前は機械の体でも手に入れる旅でもしてるわけ?」
「金髪美女がいるなら僕に紹介して欲しい」
「はいはい、そうですか」

 何のやり取りだよ、ため息を着き窓を見る、ん?なんで会話が成立しているんだ?

「お前、地球から来たの?」
「まあ、気付いたら此処に、君も?」
「ああ、……夢だよね?」
「そっか、夢かぁ、考えつかなかったなぁ」

 自分のおかれた状況に関心もなく他人事の様に話すので少しムッとした。

「呑気だね、まぁ俺は、家に帰りたくないから別に良いけど」
「事情があるようだね、何かの縁だ、良かったら聞いてやるよ」

 なんだコイツ、偉そうに、二度目のため息をつく

「ため息をばかりついていると幸せが逃げてしまうよ、話したら?ほらほら、スッキリするよ」
「…………。」
「家出でも、したのかい?優しいお兄さんが相談に乗るよ」

 無視を決め込むと、まだ、めげずに話しかけてくる、見知らぬ他人に世話なんかかけて、なんてお節介な奴なんだ。

「お前、同い年なんだろ?」
「意地っ張りな君に根気よく話しかけてるんだ、精神年齢は、きっと僕の方がお兄さんかもな」

 意地を、張っても仕方ないか、誰かに聞いて欲しいのは、ある。

「……生まれたばかりの妹が黄昏泣きでうるさいんだ、父さんや母さんも妹の事で険悪なるし、家に居ると居心地悪いんだ」
「それで逃げ出したって事?」
「逃げてない!わかってる!本当は、俺が妹を護らないといけないんだ!我慢してるんだ!俺も、俺だって……!」

 俺だって、妹と一緒泣きたい、意味もなく、ワガママを言って、あの両親を困らせてやりたい
 
「偉いな君は」
「え?」
「そうか、君はまだ幼い子供なんだね」

 お兄さんは手を伸ばし俺の頭を撫でる、馴れ馴れしいと振り払ってやりたかったが、振り払えなかった。
 目尻に涙が溜まり頰に伝っていく

「我慢する必要がない、泣いたって良いんだ、親に甘えたって良い、言いたいこと言って困らせてやれ」
「なんだよ、それ……」

 久しぶりに頭を撫でられた、恥ずかしかったけど悪い気がしなかった。

「ほんの少しの縁だったけど、楽しかったよ“春樹”」

 警笛が鳴り出し、顔をあげる向かいの席に座っていた筈のお兄さんがいなくなっていた。
 窓を見たら、いつの間にか、もう一台の列車が並走して走っていて、その列車に乗り込んでいた。
 向こう側の窓から此方をみて、寂しそうに笑って手を振っている。

 不思議な現象にただ呆然としていたら此方の列車が速いのだろう、少しずつ後退していく

「お、おい!なんで!」

 我に返り、席を立ち、左側の窓を見ながら次の車両へ移り走り出す

「なんで……アイツ!」

 見失わない様に走り、乗っている乗客を掻き分け次の車両へ移る

「俺の名前、知ってるんだよ!」

 次の車両は、無人で追いかけやすかった、だが段々、列車から離れていくのが、解かる

「誰だよ!お前!」

 最後の車両まで着き、息を整えながら歩き、後ろの扉の窓を覗くと列車は、反対方向へと走っていた。
 一際、輝く電車は遠く、星と同じ大きさになっていき、俺は、窓から一歩離れ、オレンジ色に染まった車内は、辺りを照らし視界を霞めた。
 胸が締め付けられ顔を伏せ、足元を見ると床ではなく、大地を踏みしめ立っていた事に気付く
 いつの間にか列車に降りていて、夕日に背を向け、山道の中を立っていのだ。
 
「おーい!見つかったぞ!」

 ヘルメットを被ったおじさんが、此方をみて大声をあげると、木々の間から大人達がワラワラと表れて集まってきた。
 大人達は、俺を見て安心した顔をする

「いや~、見つかって良かったよ、この山、小さいのに良く行方不明者を出すもんだから、焦ったよ」
「この前も、子供が山にいって行方不明になったもんなぁ」
「ねぇ、おじさんそれって……」
「春樹!」

 名前を呼ばれ視線を向けると大人達の間をすり抜け、夕日に照らされた顔は酷い泣きっ面で、俺の方へ駆け寄ると膝をつき抱き締めた。
 背が縮み子供に戻っていた事に今さら、気付く

「母さん?」
「ごめん、ごめんね!」

 母さんは俺に何度も謝り、泣き続けていた
 勝手に家を出ていったのは俺なのに、悪いのは俺の筈なのに、母さんは幼い妹と同じように泣き続けていた。

 そうか、大人だって意味もなく黄昏に泣くのだろう

「良かった……これ以上春樹まで……」

 母さんの涙声で最後の言葉は聞き取れなかった。
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