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2章 ヴィランズLOVE!?

30話

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「はぁあああああ! ふざけんじゃないわよ!」   

鬼のように怒るレイラ。
本当に角が生えているように見える。
 
 「いやふざけてないよレイラ」

「本当に馬鹿じゃないのあんたの家! 王族のくせに何でそんなに破天荒なのよ!」

「あのーレイラさんお二人とお知り合いで?」

暴れるレイラを大人しくさせようと話しかける。
とりあえず話題を変えれば落ち着くだろうと思って聞いてみた。

「ええそうよ! この馬鹿王族とは昔からの知り合いよ! 何故か知らないけど小さな頃に我儘で人を小馬鹿にするのが好きな妹とそれを苦笑いで見つめるヘタレ兄の兄妹と小さな頃に知り合ってしまったのよ!」

……あっ、やばい更に怒った。

火に油を注いでしまった私はすっと空気と一体化する。

「凄いですわねアカネさん。まさか王族に婚約を迫られるなんて……」

「しかも次期王女! このまま結婚すればアカネさんは国の象徴として一国の繁栄を任されるのですわ!」

……なんかとんでもないことが聞こえたよ!?
考えたくないこと言わないでよ!
……頑張れ私、上手く断る方法を考えるんだ。
そうだ! ちゃっちゃと彼氏作ればいいのか……って無理だ生きてた時代でも私恋愛経験ゼロだった……告白されたことも告白したこともない暗黒人種だよ……ははっもうこれ絶望的では?

「なんでちゃんと断らないのよアカネ! あんたそうなったら絶対後悔するわよ!」

ううっレイラの説得力のある言葉が心に刺さるよ。

「そんなに怒らないでよレイラ。あくまでも候補さ。彼女が僕の妹に心を奪われなきゃいい話」

「……そうね……全く頭が痛くなる話ね」

レイラはため息をついて自分の席へと戻っていった。

そしてお昼休み。
不機嫌そうなレイラといつもの三人と一緒に食堂へ向かう。

「もー! 頭にくるわ!」

フォークを肉にさしながらレイラは怒りを見せる。

「……彼本当に掴めない男ですわね。何考えてるか分かりませんわ」

「でもとてもいい男ですわ! 惚れ惚れしそうですわ!」

「メアリーあんな人がいいのです? 確かにかっこいいですけど……競争率高そうですわよ?」

チラリと目線を向ける方向には彼が女子達に囲まれる姿が見えていた。

「エリオット様! 私達とランチを……」

「ありがとう、でも僕約束してる人がいるんだ」

彼はニコッと笑って彼女達から離れてこっちに向かってきた。

「一緒に食事いいかなアカネ」

その発言に食堂から聞こえる悲鳴。
いつもの平和な食堂は一瞬で凶暴な動物がいる動物園みたいに。

「あっえっと……」

怖い顔をする彼女達とレイラをチラチラ見ながら少し固まる。

「僕人見知りなんだ……だから頼むよ」

「そうなんだじゃあ一緒に食べよ。人見知りは知り合いと話せるようになったら克服できるって言うしね!」

困った悲しそう顔をして言われたので思わずそう答えてしまった。

「なんでエリオットがアカネの隣に座るのよ……」

「何か言った? レイラ」

ブツブツと怖い顔で呟くレイラに何気なく聞くエリオット。

「別に! なんでもないわよ!」

はっはは。
彼女達なんだか仲悪いな。
困った顔で笑いながら彼女達を見ていたらその奥で目を疑う光景が見えた。

「よぉ~レオン様ァ何食ってんの?」

「無視すんなよなぁ~レオン君よぉ平民になったんだから俺らと遊ぼうぜ~」

うわっ怖っ。

この前まで慕われていたレオンが男子生徒からいじめを受けていたのだ。

「……レオン様大変なことになってますわね」

「あれだけ酷い目にあったのにまた酷い目に遭うとかついてないですわね。まぁ自業自得ですわよ」

「……そうね」

チラリと彼女達も見て色々呟く。
以外にもレイラが暴言を吐かずに一言だけで済ましたことに驚いた。

「おーい! 新鮮な卵手に入れたぜ!」

「おっ! いいじゃんいいじゃん! ヘイパース!」

卵を持った生徒は思い切り遠くから卵を投げる。

あぶなっ!? そんな事したら大変なことになるでしょうが! 人に当たったらどうすんのよ!

その投げられた卵はいじめっ子の手に吸い込まれるようにヒュルヒュルと落ちていく。

よーしあいつにぶつかるなら大丈夫。
馬鹿なことするなぁ男子って。

ベチャッ

そう思った瞬間その男子は身を避け卵の軌道から外れた。
だから卵は割れずその後ろにいた彼の頭に当たって割れてしまった。

「あー! ごめん! アルベルト君!」

「……だっ大丈夫です」

……ひっ酷い!!
絵に書いたいじめだ!
怖いよ! 何この学校!
やばいよレオン泣きそうだよ!
わっ私も彼にいっぱい酷いこと言ったからこんなこと言う資格ないと思うけど流石にこれは酷すぎるよ!

そう思ってつい席を立ち上がる私。

「待ってどこ行くの。君がいった所で君にヘイトが集まるだけだ」

「……エリオット」

立ち上がる私の手を掴み真剣な目をする彼。

「どっどこにも行かないよ! ただちょっとお尻が痛くなっただけ……」

作り笑いをして座り直す私。

「……アカネ。あいつの事は気にしなくていいわよ。アカネは正しい事をした。あいつは報いを受けただけ」
 
私に気にしないように言うレイラ。
でもその顔は少し悲しそうだった。

「そうですわ! 罪悪感なんて感じることありません! アカネさんは正しい事をしたんです!もっと胸を張りなさいな!」

「そっそうだね」   

……正しいことをしたはずなのに、彼が酷い目にあっているのを見ると心がきゅうっと苦しくなった。
卵をかぶりながらもご飯を食べる彼の背中を見て私は目を逸らした。


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