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お呼ばれ
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休日で尚且つ妃教育もないこの日、わたしはダンドリュー伯爵家へとお呼ばれしていた。
伯爵家について馬車を降りるとすぐ、ダンドリュー伯爵夫人とエリカさんが出迎えて下さった。
伯爵夫人の案内により、サロンへと通される。
ダンドリュー邸のサロンは、優しい色味のカーテンや壁紙、カーペットが特徴で華美過ぎない上品な印象だった。
大きな窓からは、光をふんだんに取り入れる事が出来、明るく温かな空間を作り出している。
サロンで三人、少し話した後にエリカさんは料理を作るために厨房に行ってくると、張り切って部屋を後にした。
料理が出来上がるまで、サロンではしばらく女主人である伯爵夫人が、わたしの話し相手となって下さった。
ダンドリュー伯爵夫人は三十代後半の上品な女性であり、楽しく会話をして過ごしていた。彼女の話し方や雰囲気はとても癒される。
しばらくして自らワゴンを押して入って来たエリカさんが「出来ました」と笑顔で言った。ワゴンの上の料理には、銀製のクローシュが被せられている。
ダンドリュー夫人が退室すると、サロンにはエリカさんとわたしの二人となった。
「開けます!」
エリカさんは、三つのクローシュを順にカパッと開けていった。
「美味しそう……!」
綺麗な黄色の卵焼きが、三つのお皿にそれぞれ一つずつ乗せられており、内一つは緑のが混ざっている。
「塩で味付けしたシンプルな卵焼き、チーズを入れた物、そして挽肉とほうれん草を入れた物。三種類ご用意させて頂きました」
「この緑はほうれん草だったのね、美味しそうだわ」
「はい。それともう一品」
大皿に被せてあったクローシュが開けられる。
「!」
皿の上に盛り付けられ、黄金色の衣に包まれた揚げたてのそれは──
「天ぷらだーー!!」と脳内で大絶叫しつつ、その名前を口にする寸前で、必死に飲み込んだ。
「これは天ぷらという料理です」
「へ、へぇ……テン、プラ」
「キノコや、南瓜、野菜のかき揚げなど、野菜中心の物にしました。海老や魚などの魚介類も主流で、そちらもとても美味しいんですよ」
──存じておりますし、大好きな食べ物です。
天麩羅の説明をしてから、切り分けられた卵焼きを、エリカさんは一切れずつ。お皿に盛っていく。そしてわたしの目の席へと、その盛り付けられたお皿を運んでくれた。
テーブルには卵焼きが乗ったお皿と、左右にはカトラリー。
わたしはナイフとフォークを手に持ち、先ずは一番シンプルな、塩で味付けられた卵焼きを切った。前世のわたしがこの映像を見たら爆笑するに違いない。「日本人なのに、卵焼きをお端じゃなくてフォークとナイフで食べるなんて!オムレツかよ!」と、自分にツッコミを入れる事だろう。
そしてもし、友達が卵焼きをナイフとフォークで食していたら即刻ラジオで話題に出すくらい、わたしのツボに入ったこと間違いなしだ。
脳内は変なテンションなのに、顔には微塵も出さずに優雅な所作で、卵焼きを口に運んだ。
「とっても美味しい……!」
「本当ですか!?」
懐かしすぎて、涙が出そうな味だった。卵焼きをこの身体は知らないはずなのに、確実にわたしの中の記憶として存在している。
卵焼きといえば、お弁当における常連メンバーであり、幼稚園から学生時代まで数え切れない程の卵焼きを胃袋に収めてきた。
「初めて日本料理をお口にされたセレスティア様に、そのような意見を頂けてとても嬉しいです」
「……」
内心苦笑いしつつ、慣れ親しんだ懐かしき味に感激し、焦る気持ちはすぐにふっとんだ。
お皿に盛られた卵焼きを三種類全て食べ終わると、次はエリカさんによって、天麩羅がお皿に盛りつけられていく。
伯爵家について馬車を降りるとすぐ、ダンドリュー伯爵夫人とエリカさんが出迎えて下さった。
伯爵夫人の案内により、サロンへと通される。
ダンドリュー邸のサロンは、優しい色味のカーテンや壁紙、カーペットが特徴で華美過ぎない上品な印象だった。
大きな窓からは、光をふんだんに取り入れる事が出来、明るく温かな空間を作り出している。
サロンで三人、少し話した後にエリカさんは料理を作るために厨房に行ってくると、張り切って部屋を後にした。
料理が出来上がるまで、サロンではしばらく女主人である伯爵夫人が、わたしの話し相手となって下さった。
ダンドリュー伯爵夫人は三十代後半の上品な女性であり、楽しく会話をして過ごしていた。彼女の話し方や雰囲気はとても癒される。
しばらくして自らワゴンを押して入って来たエリカさんが「出来ました」と笑顔で言った。ワゴンの上の料理には、銀製のクローシュが被せられている。
ダンドリュー夫人が退室すると、サロンにはエリカさんとわたしの二人となった。
「開けます!」
エリカさんは、三つのクローシュを順にカパッと開けていった。
「美味しそう……!」
綺麗な黄色の卵焼きが、三つのお皿にそれぞれ一つずつ乗せられており、内一つは緑のが混ざっている。
「塩で味付けしたシンプルな卵焼き、チーズを入れた物、そして挽肉とほうれん草を入れた物。三種類ご用意させて頂きました」
「この緑はほうれん草だったのね、美味しそうだわ」
「はい。それともう一品」
大皿に被せてあったクローシュが開けられる。
「!」
皿の上に盛り付けられ、黄金色の衣に包まれた揚げたてのそれは──
「天ぷらだーー!!」と脳内で大絶叫しつつ、その名前を口にする寸前で、必死に飲み込んだ。
「これは天ぷらという料理です」
「へ、へぇ……テン、プラ」
「キノコや、南瓜、野菜のかき揚げなど、野菜中心の物にしました。海老や魚などの魚介類も主流で、そちらもとても美味しいんですよ」
──存じておりますし、大好きな食べ物です。
天麩羅の説明をしてから、切り分けられた卵焼きを、エリカさんは一切れずつ。お皿に盛っていく。そしてわたしの目の席へと、その盛り付けられたお皿を運んでくれた。
テーブルには卵焼きが乗ったお皿と、左右にはカトラリー。
わたしはナイフとフォークを手に持ち、先ずは一番シンプルな、塩で味付けられた卵焼きを切った。前世のわたしがこの映像を見たら爆笑するに違いない。「日本人なのに、卵焼きをお端じゃなくてフォークとナイフで食べるなんて!オムレツかよ!」と、自分にツッコミを入れる事だろう。
そしてもし、友達が卵焼きをナイフとフォークで食していたら即刻ラジオで話題に出すくらい、わたしのツボに入ったこと間違いなしだ。
脳内は変なテンションなのに、顔には微塵も出さずに優雅な所作で、卵焼きを口に運んだ。
「とっても美味しい……!」
「本当ですか!?」
懐かしすぎて、涙が出そうな味だった。卵焼きをこの身体は知らないはずなのに、確実にわたしの中の記憶として存在している。
卵焼きといえば、お弁当における常連メンバーであり、幼稚園から学生時代まで数え切れない程の卵焼きを胃袋に収めてきた。
「初めて日本料理をお口にされたセレスティア様に、そのような意見を頂けてとても嬉しいです」
「……」
内心苦笑いしつつ、慣れ親しんだ懐かしき味に感激し、焦る気持ちはすぐにふっとんだ。
お皿に盛られた卵焼きを三種類全て食べ終わると、次はエリカさんによって、天麩羅がお皿に盛りつけられていく。
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