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「レイ……!?」
「しっ、見張りは大丈夫ですか?」
「今は大丈夫よ」

 黒の瞳と髪を持つ侯爵家の使用人レイだ。システィーナは声を顰めて返答した。

「簡潔にお伝え致します。今日から丁度二週間後、お嬢様の処刑が決定してしまいました」
「そんな……」
「ですがそうなる前に、明後日の夜に俺が必ず助けに参りますから、それまでの間もう暫くお待ち下さい」

 システィーナは期待と不安の入り混じった感情で、頷いた。

「分かったわ」
「では明後日、必ず……」

 跳ね上げ戸が静かに閉じられていく。
 縋りたい気持ちをぐっと堪え、今は静かに見送った。

 迎えに来ると約束してくれたレイ。
 本当に来てくれるだろうか?
 システィーナには、レイを信じるしか道は残されていない。レイが本当に来てくれるか、それともこのまま助けが来ず、断頭台へと上がるのか──。



 ◇

 ──二日後の夜

 再び暖炉横の跳ね上げ戸が開いた。
 レイが迎えに来たのだ。

 促されるまま、システィーナは戸の内部へと降りていった。
 どうしてこの様な隠し通路を、彼が知っているのだろうか。
 様々な疑問が頭に浮かぶが、今はそのような悠長な時間はない。

 見つかれば再び牢に閉じ込められ、殺される。
 レイが声を出しても良いというまで、決して声を出さずにその背中の後を追う。

 レイが下げる一燈を頼りにカビた、嫌な匂いが鼻につく地下通路を歩き続け、ようやく地下から地上へと出ることができた。

 既に王城の敷地の外だった。そこは古びた礼拝堂の中。一息つく間も無く、レイが瞳に真摯な色を宿して言葉を紡ぐ。

「朝になれば、お嬢様がいなくなったと気付かれる筈です。出来るだけ王城から離れつつ、港に向かいます。このまま国外へと脱出しましょう」
「国外……」
「お嬢様の疑いが晴れるまで、この国を出ます」

 いくら濡れ衣といえど、自分はこの国では犯罪者であり、脱獄犯──改めて突き付けられる現実に、心が締め付けられそうだった。

「大丈夫、俺が必ずお嬢様をお守り致します。旦那様や奥様とも、そう約束致しました」
「お父様、お母様……」

 自分は親に見捨てられた訳ではなかったのだ。今はそれだけで、僅かに安堵した。
 すぐにでも屋敷に帰って、両親に会いたい。
 しかし両親と無事に再会するために、まずは生き残らなければならない。

 気持ちを一新し、システィーナは国を出る決心をすると、レイに連れられて港へと向かった。


 ◇

 空が白み始める頃、システィーナとレイの姿は船乗り場にあった。そして二人は朝一で出航する船へと乗り込み──船旅を経て辿り着いたのは、ヴェルザスの港町。

 いずれ外交などで訪れる機会があるとシスティーナは思っていたが、まさかこの様な形でヴェルザスへ足を踏み入れるとは、露程も思っていなかった。
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