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48 説教
しおりを挟む泣きそうな声の女の子とクラスニーを見比べる。
クラスニーの表情が、説教モードだ。
勉強したくないって駄々をこねたときに、この表情でこんこんと何時間も勉強をしなくてはいけない理由を語られたっけ。
説教されるより、まだ勉強のがマシだよって思ったもん。
何も事情が分からないのに口を挟めない。
でも、女の子が泣いているところを見ていたくない。
どうしよう。
困っていると、女の子の後ろにいるもう一人と目があった。
浅くフードを被っていて、しっかりと顔が見えている。
「……ネコ?」
「うにゃあ♪」
ずるずると引きずりそうな服を着た、人の男性に見えるのに、顔がネコみたいな人。
人の顔だけど、すごくネコっぽい。
キリッとしたかっこいいネコ。
この人も魔導師さん?
笑顔だと分かるように口の両端を吊りあげての、猫撫で声を聞いた。
「ネプレクさん」
「コイツァしっつれい、初めましてお嬢さん、雷轟ネプレクという魔導師でございますぅ」
クラスニーがいつもよりも低い声で一言つぶやくと、男性が一瞬だけ真顔になり、すぐにへらっとした笑顔になった。
「……ミステル」
あからさまに無視をされた女の子の囁くような、すがるような弱々しい声が聞こえる。
「風の子ニク、僕が謝罪を受け取っているからこそ、この場を設けたのです。
謝罪すべき相手が違います」
クラスニーの口調がいつもと違う。
硬くて重くて、こんな話し方されたら、わたしも泣きそう。
びく、と肩を震わせ、床にひざをついたままの女の子がうつむく。
みんなが無言のままの沈黙が重たい。
「風の子ニク、貴方は何が悪かったのか理解していないのですね。
これまでに問題を起こすたびに何度も教えたはずです、人の世で生きるのであれば、人の在り方を知り、自らの意思で歩み寄りなさいと」
厳しい口調のクラスニーの言葉に、わたしの背筋が伸びてしまう。
抱っこされまま体を動かしても、落とされそうにない安心感はなぜなのかな。
「の、のろわれたやつって言ってごめんなさい」
完全に泣き声。
かわいそうになってきた。
いじめてるみたい。
思わずクラスニーの顔を見るけれど、その表情は説教モードのまま。
「それは誰から誰に対しての言葉なのです。
魔導師が〝呪われた者〟とののしることが、どれだけの侮辱か理解していないのですか。
ましてやネラは、望んで呪いを負っていたわけではないのですよ」
クラスニーが怒ってる。
でも、何をそんなに怒る必要があるのか、分からない。
呪いはいけないもの、って教えてくれたけれど、相手に呪われてるって言うだけでもいけないことなのかな。
不安になって顔を上げると、渋いものを食べたような顔をしているライゴウネプレクさんと目があって、小さく首を振られた。
黙っていたほうが良いってことだよね。
魔導師さん達にとって、呪いってすごく難しいことなのかもしれない。
わたしはまだ、なにも知らない。
やっぱり、なにも知らないままクラスニーの側にいるわけにはいかない。
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