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89 魔導師のずるずる事情
しおりを挟むまん丸になった淡黄の瞳が、宝石みたいにきれい。
日焼けをしないのかもと思うくらい真っ白の肌が、ゆっくりと上気していく。
「怒ってなイ?」
「うん、もうツョヴィェクに叱られたでしょ、反省して、もうしないなら良いの」
「あらあら、まぁ、良かったではないの風の子」
うるわしいクラァサさんが、ころころと鈴を転がすように軽やかに笑う。
笑い方まできれいなんてうらやましい。
「ツョヴィェクさまには牽制されてしまいましたけれど、もしも礼儀作法や権力者、特に男性のあしらい方を学びたい時は、ご一報下さいませ。
このままですと、屋敷の奥に後生大事に仕舞い込まれかねませんわよ?」
なるほど。
さっきクラスニーがクラァサさんと話していたのは、この事か。
クラァサさんが、結婚するなら奥様業に必要なマナーを教えるよ、と言って、自分も外に出る気がないクラスニーが断ったって予想であってるのかな。
クラスニーに勉強の大変さと面白さを教わった。
わたしの気持ちとしては、教わりたい。
知らないことを一から学ぶのは、とても大変ですごく楽しい。
「師匠に相談してみます」
「……なるほど、ただ甘やかしておられる訳でもないのねぇ」
まったくもう、とつぶやいたクラァサさんは、少しだけ泣きそうに見えた。
それから、クラァサさんと風の子ニクあらため、ニク先輩の三人で、なぜだか魔導師ファッションの話になった。
みんなずるずるした服を着ていることには、意味があるらしい。
クラァサさんのそでが透けているずるずる服は、贈られたものだという。
風の子ニクさんのずるずる服は、師匠であるクラスニーからの独り立ちのお祝いの品だから、補修しながら大切に着ているって。
製作者は同じ人。
布に魔法を織り込んで服を作れる魔導師さんがいて、その人に頼むと、絶対にずるずる服になるのだという。
一人ずつでまったく違う、素質を邪魔しない魔法を織り込む腕はすごいらしい。
でも、採寸はなし。
人嫌いで、対面なしのオーダーしかできない仕立て屋ってこと。
なにそれ。
身長体重、素質に湧出魔力量の情報だけで、着れる大きさの服を作れるのはすごいと思うけれど、魔導師って人嫌いばかりなのかな。
人の魔導師さんたちは、それを見て真似ているだけだとか。
……それなら、クラスニーはどうしてずるずる服を着ないのだろう。
わたしの疑問に気がついたのか、クラァサさんが優しく微笑んだ。
「ツョヴィェクさまには、必要ないのではないかしら。 着ている所を見たことがないもの」
ずるずる服を着ているクラスニーが見てみたかったかも。
必要ないってことは持ってないのか、残念。
しょんぼりしていたら、ぽふん、と頭に手が置かれるのを感じた。
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