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03 謎の黒い布塊
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しおりを挟むそれから毎朝、赤銅兵士団の兵士食堂に黒い布が日参するようになった。
初めの頃は構えて緊張していた兵士たちだったが、黒い布はその異様な存在感と周囲への威圧を、三日目以降はやめてくれたため、誰もが次第に慣れていった。
団長の独り言も相変わらずだというのに。
ちなみに、謎の魔術兵も黒い布塊も兵士なので、食堂の利用に問題はない、と判断されている。
「そうか、それは自分も好きだ」
「 」
「なるほど」
団長の独り言にも、兵士たちは慣れてしまったのだ。
見慣れてくれば、黒い布はうなずいたり、左右に首を振る動きをしているようにも見える。
震えているだけかもしれないが。
ただ、震えているのだとしても。
生きているのかもしれない。
生きているらしい。
そう感じられることは、安心をもたらした。
その頃にはほとんどの赤銅兵士団の兵士たちが、真っ黒い布=なんかすげー天才って言われてる魔術兵、と認知していた。
布の奥に呼吸も鼓動も匂いも感じられないので、中になにがいるのか、生き物なのかすら分からないが。
「戦場で食べる保存用の燻製肉も悪くない」
「 」
「ほう、楽しみにしている」
「 」
「肉ならなんでも食う」
「 」
兵士たちが団長の独り言に意識を向けた時には、何事か約束がされた後らしかった。
団長の険しい顔は通常営業であっても、その口調がとても楽しげに聞こえたのは、気のせいではないのだろう。
翌朝。
普段通りの食堂の風景の中で、黒革に包まれた震える黒く細い手が、布の襞の下から両手で余る大きさの革袋を取りだし、それを団長が受け取った。
「 」
「ありがとう、スル」
「っ!」
突然、布の下にいるなにかが動揺を外に見せて、ゆらりと布の塊が揺れる。
まるで嬉しくて、感動して、震えたように。
「次は戦場で会えると良いが」
「 」
「なるほど、それではこれは楽しみにとっておくことにしよう」
「 」
「いつも見ていてくれてるのは知ってる、部下たちを守ってくれることに感謝こそすれ、許可を求める必要はない」
「 」
ゆら、と揺れた黒布がその場で消えた後、珍しく団長がため息をつき、そして目元を大きな手で覆った。
話し相手がいない状態で声に出すことはなくても、ひどく動揺していた。
毛深い顔は赤面しても見えず、顔を隠す必要はないとしても。
思わず顔を隠さずにはいられなかった。
(普段は気弱そうなたどたどしい口調のくせに、こんな時だけ「絶対に団長閣下を守ってみせます」って、いっくらなんでも男前すぎるだろうがよぉ)と。
こうして、不器用な二人は、少しずつ歩み寄っていた。
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