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13 強制らしい仕事
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しおりを挟むスレクツは布の下で顔をしかめた。
返事を聞いたウェルケン副団長の表情を見てしまったのだ。
顔を向けていないことで油断していたのか、千里眼の魔術師という二つ名を理解していないのか、スレクツの言葉を聞くなり、劇的に顔を変えた。
たとえ穴あきのチーズと同じであっても、ぐしゃりと歪む所を見てしまえば、それが喜びではないくらいは分かる。
遠回しに断られた、と思ったのかもしれない。
始めから断られることを、考えていなかったのか。
それとも断るなんて有り得ない、と感じられてしまったのか。
断らないことが前提なのに、断られたと感じたことに対しての怒りかもしれない。
ウェルケン副団長の反応からは、貴族らしい傲慢さを感じた。
やっぱり貴族には関わりたくない。
人の顔をほとんど見分けられないスレクツはそう思って。
でも、きっと。
オンフェルシュロッケン団長ならどんな時でも素敵だろうなぁ、と戦場で雄々しく猛々しく吠える姿を思い出して、布の下でほっこりする。
思い出すだけでささくれた気持ちが癒されるなんて、やっぱり団長は素晴らしい人だな、と嬉しくなる。
重苦しく無音になってしまった室内で、アレス団長が再び口を開いた。
「イイン副団長ご苦労だったね、下がってよろしい」
「業務に戻ります」
貴族や政治関係に巻き込まれたら、平民の魔術師で兵士のスレクツには逃げ場がない。
アレス団長は育て親だけれど、同時に貴族の一員である女男爵だ。
国と決別する道を選んで、人生を棒に振ってまで、スレクツを助けてくれる後ろ盾ではない。
注目されないように、利用価値を高めないために、アレス団長はスレクツを弟子にしても、養子としては迎えなかった。
助けられた時のスレクツは一歳を過ぎたばかりの孤児で、魔術への適性があることは分かっていても、天才的な適性を持っていることも知られていなかった。
魔力量が多すぎる赤ん坊。
魔力暴走を起こしたら、周囲を巻き込んで自滅する。
そんな理由で、若くして魔術兵士団団長になったばかりのアレスの元へ連れてこられたのは、本当に幸運だった。
きっと、アレス団長がなんとかしてくれるだろう。
他力本願ばかりで、申し訳ないけれど。
万力で締めつけられるように痛み出した頭を抱えながら、よろめくように廊下を歩いていたスレクツだが、自室に戻って鍵を閉め、寝台に倒れこんだところで、気を失った。
泥沼に沈むような底の見えない眠気が、スレクツをどこまでも深く引きずりこんでいった。
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